第0119話

綿は言葉に詰まった。

天河は普段はあまり大声で話すことはないが、輝明のことになると、いつも取り乱してしまう。

輝明は眉をひそめ、低い声で言った。「私の責任です。お父さん、彼女を責めないでください」

「もちろん、お前の責任だ！こんなに素晴らしい娘を嫁がせたのに、何が不満だ？」天河は輝明を睨みつけ、その目には非難の色が浮かんでいた。

輝明は綿を見つめ、その瞳は混乱の色を帯びていた。

綿は輝明の視線を避け、天河の腕を引っ張りながら、彼をこれ以上責めないように示唆した。

病院の中は人の往来が激しい。輝明は高杉氏グループの総裁であり、横浜では顔の知れた人物だ。天河にこんなに怒鳴られるのは、良くない影響を与える。

天河は怒りに満ちて言った。「こんな時にまだ彼を庇うのか！彼がもたらした痛みを忘れたのか？命まで――」天河が言い終わる前に、綿は彼の言葉を遮った。「もう十分よ、パパ！」

天河の言葉は止まった。

輝明は二人を睨み、その瞳は一瞬縮んだ。天河は何を言おうとしていたのか？なぜ綿は急に感情が揺れたのか？

綿は顔を背け、声を低くした。「もう分かったから、私の傷口に塩を塗り続ける必要はないでしょう？」

彼女は天河が次に言おうとしていることを知っていた。

四年前、輝明が誘拐された時に、彼のために命まで賭けたが、結果はどうだったのかを問い詰めることだろう。

その過去のことを、彼女はもう思い出したくなかった。思い出すたびに、自分が愚か者だと感じるのだ。

自分を愛していない男のために命まで賭けるなんて、愚か者以外の何者でもない。

「言えないことなんてないだろう？彼を少し責めただけで心が痛むのか？」天河は怒りを鎮め、口調が少し和らいだ。

綿は彼の言葉に答えず、輝明に向かって一瞥を送り、淡々と言った。「行きましょう、送るわ」

輝明は天河を見つめ、その瞳に複雑な感情が浮かんでいた。

天河は綿を睨みつけ、厳しい口調で言った。「早く戻ってきなさい、司礼が祖父を見舞いに来るからな！」

綿は答えた。「わかった！」

それを言い終えると、綿は振り返ることなく、速やかに前を歩き出した。

エレベーターのボタンを押し、足を止めた綿の隣に立つ輝明は、険しい眉でエレベーターを見つめていた。

エレベーターの扉に映る二人の姿は、身長も容姿も釣り合っていて、まるで一緒に人生を歩む