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第0036話

綿が振り向いた時、輝明が地面に倒れていた。

その手は胃を押さえ、顔色が急に真っ青になっていた。

綿の心臓がドキッとし、すぐに彼のもとに駆け寄りしゃがみ込んだ。

「輝明!」と心配そうに呼びかけたが、彼との関係を思い出し、伸ばしかけた手を引っ込めた。

森下がいるから、何とかしてくれるだろうと思った。

綿は心配を抑え、立ち上がってその場を離れようとした。すると、森下が急いで声をかけた。「奥様!」

綿は冷静に答えた。「森下、その人、たぶん飲みすぎて胃が痛くなっただけよ。病院に連れて行って、陸川に連絡しなさいい」

森下は驚いた。いつもなら輝明が何かあったとき、真っ先に駆けつけるのは彼女だったからだ。

綿が去ろうとしたその時、指が冷たい手に絡まれた。「綿ちゃん……」

振り返ると、輝明は苦しそうに眉をひそめていた。

その瞬間、心は再び揺れ動いた。

口を開こうとしたが、森下が急いで言った。「奥様、一緒に病院に行ってください」

輝明が胸の服を握り締めているのを見て、綿は頷き、森下と一緒に車に乗せた。

綿はその肩を支え、彼はこっちに寄りかかっていた。頭が重く、意識が朦朧としてようだった。

「接待に行ってたの?」綿が尋ねた。

「え?ああ、そうです」と森下は答えた。

「その取引先が酒豪で、ずっと社長に飲ませていたんです」

輝明を見つめ、指先で彼の頬を軽く撫でた。

こういう時だけは、堂々とこの人に触れることができた。

彼が意識のある時は、触れられるのを嫌がったからだ。

その度に、目には嫌悪の色が浮かび、綿の心を痛ませた。

「次に接待に行く時は、事前に何か食べさせて。それから、相手が酒豪なら、できるだけ代わりに飲んであげて」と綿は淡々と指示した。

森下はバックミラー越しに顔を見つめたが、綿は冷静な表情で続けた。「夏だから、冷たい物は控えるようにして、胃を大事にしなさい」

綿が指示を出している間、隣の人の震える肩に気づかなかった。

「奥様、俺は男だから、そんな細かい気配りはできません。それはやっぱり奥様にお願いしたいです」と森下は苦笑した。

彼女は微笑んだ。「私はもう無理よ。後で陸川に伝えて」

「奥様……」森下は困惑したように言った。

微笑みながら、「早くして、痛がっているでしょう」と言った。

森下はアクセルを踏み込み、車を急いだ。

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