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第0029話

やっぱり入ってなかった。

「落ち着いて、焦らないで」司礼が言った

綿はうなずいて、笑顔を向けた。その笑顔を見て、輝明の心が何かに引っかかるように感じた。

しかし、すぐに平静を取り戻した。いつからだろう、綿を気にするようになったのは……この瞬間、気にかけるべきは嬌のはずだった。

嬌は素早くボールを打ち込み、その一連の動作は実に見事だった。長年ゴルフを続けていることが一目でわかった

輝明は無理やり思考を嬌に戻し、応援した。「嬌ちゃん、すごいね」

彼女はそっちに向かって投げキスをし、「大好きよ、輝明お兄ちゃん!」と甘ったるい声で言った。

綿は集中していたが、その言葉が耳に入ってしまった。

聞いているだけで吐き気がした。

試合が終わるまで、綿はたった2つのボールしかホールに入れられなかった。

嬌はボールを一方に投げ捨て、水を飲みながら小さな女王のように傲慢に言った。「あんたの負けね」

「賭けに負けたら、約束は守らないとね」綿は手のひらを拭きながら、平静な声で言った。

輝明は綿が外に出て行くのを見ていた。彼女は本当に言う通りに、他の男にキスをするのか、と。

嬌は彼の手を引っ張り、「琛くん、見に行こうよ」と笑顔で言った。

笑うことができず、心の中はますます不安になった。

綿が顔を上げた瞬間、ちょうどお茶を持って入ってきた若い男のウェイターが目に入った。

若い男で良かった。

キスするくらいなら、別に損はしないと思った。

司礼が前に出て言った。「約束を守らなくてもいい時もあるんだよ」

「ただのゲームよ。陸川お嬢様がやりたがっているんだから、私も付き合わないとね」綿は彼に笑いかけ、輝明を見た。「高杉さんはフィアンセを大事にしているから、私が約束を破るのは許さないでしょう」

嬌は顎を上げ、勝ち誇ったような表情を浮かべていた。この勝利の感覚を楽しんでいるようだった。

輝明は冷たい顔で綿を見つめていた。周りの空気も一気に重くなった。

「高杉さんは紳士だし、君たちには三年の夫婦生活があるんだから、こんなことで揉めるのは止めよう」司礼が二人の間を取り持とうとした。

綿は輝明を睨み、その眼差しは冷静で挑戦的だった。それを見て彼の心は一瞬凍りついた。

もし綿がここで折れれば、彼も譲歩するつもりだったのに。

彼女はそのままウェイターの前に立ちふさがっ
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