共有

第413話

里香は雅之を見つめた。彼の表情は冷たく、まるで正光の言葉なんて耳に入っていないかのようだ。

彼は二宮家のただ一人の息子なのに、どうしてこんな扱いを受けなきゃならないんだろう?

救急室のランプが消えて、医者が出てきた。すかさず由紀子が前に出て尋ねた。

「中の患者さんの容体はどうですか?」

医者は答えた。「病院に到着するのが早かったおかげで、ナイフは無事に取り出せました。内臓にも損傷はありません」

由紀子は安堵の表情を見せ、正光に向かって言った。「もう心配しないで、夏実さんは無事ですから」

正光はうなずいてから、すぐに雅之を見て言った。「お前、ちょっとこっちに来い」

雅之は冷たい表情のまま動かず、里香を見て小声で訊ねた。「疲れてないか?」

その場の空気がピリついた。冷たさを感じながら、里香は正光の陰鬱な顔と、何事もなかったかのような雅之の表情を見比べ、不安が湧き上がった。

ここは「はい」と答えるべきだろうか?

雅之は正光を一瞥し、「里香も、さすがに疲れただろう。だから、彼女を先に休ませる」と言って、里香の荷物を持って外へ歩き出した。

「おい、待て!」正光の怒りを含んだ声が後ろから響いた。

由紀子は穏やかに言った。「雅之、夏実さんはやっと命が助かったばかりよ。彼女の顔を見てから帰りなさい。彼女は里香さんを助けようとして怪我をしたのよ」

雅之は冷たい表情で答えた。「彼女にはあなたたちがいる。それで十分だろ」

「お前、本当に二宮家に入りたくないようだな。頼んでおいたことも進展がないし、夏実が怪我をしてるってのに見向きもしない。お前は本当に薄情な奴だな」

正光は怒りで我を忘れたように、雅之に厳しい言葉を浴びせた。みなみがまだ生きている可能性を知ってから、正光の雅之への態度はますます厳しくなっていた。

そもそも、雅之は正光の理想とする後継者ではなかったのだから。

「そうですね、誰の遺伝子がこんなに冷たくなるのか、僕も興味がありますね」

正光は怒りで顔色が青ざめ、指先がわずかに震えた。

由紀子は急いで正光の胸をさすりながら、「怒らないで。親子なのにそんな風に言わなくてもいいでしょ。それにここは病院よ。みんなに笑われるわ」と諭した。

正光は鼻で笑い、「雅之、お前は夏実に借りを作りすぎた。この女とは離婚して、夏実と結婚しろ。我々二宮家は、不義理な
ロックされたチャプター
この本をアプリで読み続ける

関連チャプター

最新チャプター

DMCA.com Protection Status