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第412話

その男は元々、里香と雅之の関係がどうにも曖昧だと思っていたが、今、夏実の言葉を聞いてさらに強く里香を掴んだ。

「二宮雅之、どうしても俺を追い詰めるって言うなら、お前の嫁も奪ってやる!どうせ俺には何もない、巻き添えがいても関係ないだろう!」

男の目は充血し、まるで追い詰められた獣のようだった。

里香は横目で夏実を睨んだ。こいつ、わざとだな?自分と雅之の関係を暴露して、傷つけようとしてるんだ!

首の傷がじくじく痛み始め、里香は眉をひそめて言った。「昨日のことはもう追及しないわ。雅之もこれ以上、あんたたちを潰そうなんて思ってない。それで満足?」

「お前の言うことなんか、信用できるか!」と男は叫び、ナイフで里香の首に浅い傷をつけた。

雅之は険しい顔で「彼女を解放したら、何でも望むものを叶えてやる」と低く言った。

男は雅之を凝視し、「本当にか?」と問い返した。

雅之は一歩も引かずに、「これだけの人間の前で、嘘をつくわけがないだろう」と冷静に答えた。

男は興奮しながら言った。「俺が欲しいのは......」

その場面を見ていた夏実は、拳を強く握りしめた。こんな風に解決されたら、自分はどうなるんだ?

今、自分のために賭けるしかない!

そう決意し、夏実は歯を食いしばり、突然男に向かって走り出した。「彼女に手を出したら、雅之は絶対に許さない。今のうちに放したら、楽な死に方を約束することができるかもよ!」

夏実が突進してきたため、男は一瞬動揺したが、すぐにその腕を掴み、里香を助けようとした。

「お前、俺を殺す気か!俺を殺す気なんだな!」と男は叫び、突然夏実を振り払うと、ナイフを里香に向かって突き出した。

「やめろ!」

夏実は壁に叩きつけられながらも、その場面を見てすぐに駆け寄り、里香を一気に押しのけた。ナイフは深々と夏実の背中に突き刺さった。

「ぎゃあ!」と夏実は叫び、顔がみるみる青ざめた。

鮮血が流れ出し、男は呆然と手を放し、その場から後退した。

雅之と桜井が駆け寄り、雅之は里香を抱きしめて彼女の傷を確認した。「大丈夫か?」

里香は首を振り、「平気よ」と答えたが、その視線は複雑に夏実を見つめていた。

夏実は苦痛で地面に伏したまま、背中から血が流れ続けていた。

桜井はすぐに119番通報し、場は一時的な混乱状態となった。男は制圧され、警察もすぐに
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