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第369話

里香はその言葉を聞いて、顔色が一気に曇り、思わず尋ねた。「おじさん、今どこにいるの?」

「もう安江町に帰る準備してるよ。家がずっと放ったらかしでさ、ちょっと様子見に帰らなきゃならないんだ」山本が答えた。

里香は目を閉じて、一言。「私、送ります」

だが、山本は手を振って断った。「いやいや、大丈夫だよ。荷物もそんなにないし、君に迷惑かけたくないんだ」

里香は引かなかった。「おじさん、今まで啓に会えなかったのは私のせいです。帰るなら、せめて送らせてください」

最後には、山本も折れて承諾した。

里香は電話を切ると、個室に戻って聡に向かって言った。「聡さん、ちょっと用事ができたので、先に失礼します」

聡は立ち上がり、「急用?送っていこうか?」

「いえ、大丈夫。すぐそこに車があるので、自分で帰るよ」里香は微笑んで、礼儀正しく断った。

聡は頷き、「そうか、気をつけてね」とだけ言った。

「ありがとう」

火鍋店を出た里香は、すぐにタクシーに乗り込み、借りたばかりの部屋へと向かった。

エレベーターを降りると、山本はすでにドアの前で待っていた。

「おじさん」

里香が近づくと、山本は荷物を全てまとめ、出発の準備が整っていた。

「里香、この数日間本当に世話になったよ。今度安江町に来たら、バーベキューでもご馳走してやるよ」と山本は笑顔で言った。

里香は口を引き結び、静かに尋ねた。「誰かが来て、おじさんに何か言ったんですか?」

山本は一瞬驚き、慌てて手を振った。「いや、そんなことない......ないよ」

その様子を見た里香は、すぐに状況を察した。雅之の条件を、山本は断れなかったのだろう。雅之がどんな提案をしたのかは分からないが、それが山本に息子を見捨てさせるほどのものとは。

里香の心は複雑で、何を言えばいいのか分からなかった。

山本は彼女の沈黙を見て、「里香、特に何もなければ、俺はもう冬木には来ないだろう。バーベキューが恋しくなったら、いつでも安江町に来いよ。俺はずっとそこにいるから」と言った。

里香は問い返した。「おじさん、もし啓が無事に戻ってきたのに、両親に捨てられたと知ったら、どう思いますか?」

山本の体がビクリと震え、目が赤くなった。「あいつが自分で招いたことだ!」

突然、山本は感情を爆発させ、「あいつは主家の物を盗んで、それを売って借金返済
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