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第370話

それでも、やっぱり違和感を覚えていた。

里香はしばらく沈黙し、山本を見て問いかけた。「もし、いつか啓が無実だと分かったら、今日の決断を後悔しますか?」

山本は何も言わなかった。

部屋の雰囲気は少し重くなっていた。

里香は淡々と深いため息をつき、「おじさん、駅までお送りしましょう......」と言った。

山本は黙って立ち上がり、荷物を持って外に向かって歩き出した。

彼の態度は既に明確だった。もう啓のことに関わるつもりはない。

里香は、自分がどう感じているのか説明できなかった。まさか、自分の子供が過ちを犯したからといって、それは赦されないほどの罪だと言えるのだろうか?

里香には理解できなかった。その瞬間、親子の絆さえも揺れ動いているように感じた。

山本を送り出した後、里香のスマホが鳴り、画面を見ると雅之からの電話だった。

里香は軽く唇を噛んで電話に出た。「もしもし?」

雅之の低くて魅力的な声が愉快な響きを帯びて耳に入った。「里香、夜ご飯を一緒にどうだい。二宮家においで」

彼の口調は自信に満ちていて、里香が断らないだろうと確信しているようだった。

里香も当然、断らなかった。なぜなら、自分は負けたからだ。負けた以上、約束を守らなければならない。

里香はもう離婚のことを口にせず、雅之の妻であり続けることに決めた。

里香は駅の外に立ち、空を見上げた。いつの間にか天気はどんよりとしてきていて、それはまさに里香の今の気持ちを映し出しているようだった。

「うん」

里香は軽く返事をし、すぐに電話を切った。

タクシーを呼ばず、里香はそのまま目的もなく道を歩き続けた。里香は少し目を伏せ、複雑な思いに耽っていた。

全てがこうして終わったのだろうか?啓の件は本当にそれで終わったのだろうか?なぜ雅之は里香が啓に会いに行くことを許さなかったのだろう?

一番里香を困惑させたのは、血だらけの啓の写真が、なぜ山本のスマホに入っていたのかということだった。

啓を許さないつもりなら、二宮家がそんな情報をわざわざ山本に知らせる必要はないはずだ。

こんなに騒ぎ立てたのは何のためだろう?

しかし、山本はこの件を追及するつもりはないようだった。結局、里香はただの外部の人間に過ぎず、山本の決断に対して何も言うことはできなかった。

里香はため息をつき、すぐに車に乗り込んで
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