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第294話

「月宮さん、水どうぞ」かおるは水を差し出しながら、目を合わせようとしなかった。

月宮は水を受け取り、軽く一口飲むと、「今、俺のこと殺したいって思ってるだろ?」と尋ねた。

かおるは皮肉っぽく笑って、「冗談はやめてくださいよ、月宮さん。殺人は犯罪ですよ?」と言った。

「じゃあ、犯罪じゃなかったら俺を殺すってことか?」月宮はクスッと笑った。

かおるはにっこりと彼を見つめ、月宮はその視線に少しゾッとした気分になった。

月宮が立ち上がり、林の中へ歩き始めたが、二歩進んだところでかおるがまだ立ち尽くしているのに気付き、「何してんだ?」と声をかけた。

「え、トイレに行くのに私もついて行くんですか?」かおるは不思議そうに尋ねた。

月宮はイラついた様子で、「ついて来い!」と短く命じた。

「やだ」かおるは変態を見るような目で月宮を見つめ、さらに一歩後ろに下がった。

その反応に、月宮は思わず笑ってしまった。「トイレに行くんじゃねぇよ」

「じゃあ、何でわざわざ林の中に?」かおるは疑わしげに問い返した。

月宮はしばらく黙った。なぜか、こいつが言うとどんなセリフにも妙なニュアンスが混じる......

「ついて来るか?」月宮は冷ややかに再度尋ねた。

かおるは何を考えているのか分からなかったが、ついて行かなければこの先さらに地獄を見ることは確実だと悟った。夜中にラーメン作らされて、しかも彼が食べずに自分に全部押し付ける…なんてことも、あり得る話だ。

普通の人間ならそんなことしないよね?

かおるは諦めて月宮の後ろをついて行きながら、「で、結局どこに行くんですか?」と唇を噛みしめて聞いた。

「気分が悪いから、穴でも掘ろうと思ってな」月宮が答えた。

「自分を埋めるつもり?そんなに悟りを開いたんですか?ついに自分がこの世の酸素を無駄にしてるって気付いたんですか?」かおるは毒舌を炸裂させた。

月宮はこめかみを押さえた。

その仕草に、かおるは反射的に数歩後ろへ下がり、「何する気?」と警戒心を強めた。

月宮はただじっとかおるを見つめるだけだった。

かおるは目をパチパチさせ、「殴られるかと思った」とつぶやいた。

「女を殴る趣味はない」月宮は冷たく言い放った。

「それなら安心」とかおるはホッとした様子で、再び月宮の隣へ戻り、前方の空き地を指さした。

月宮は不思議そうに
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