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第302話

里香は、できるだけ目立たないようにしていたが、突然二宮のおばあさんに話しかけられて、少し驚いた。

「おばあちゃん、この照り焼きチキン、召し上がってみませんか?」里香は取り分け用の箸で料理をおばあさんに取って差し出した。

「そうね、いただくわ」おばあさんはすぐにその料理に目を向けた。

雅之の視線がじっと里香に向けられていたが、彼女はおばあさんにしか目を向けず、雅之には一度も視線を向けなかった。

由紀子が口を開いた。「久しぶりなんだから、今日は泊まっていきなさいよ。おばあちゃんもずっと気にかけてたんだから」

二宮のおばあさんも頷きながら、「そうそう、今日はぜひ泊まっていきなさい」と重ねて言った。

里香は少し困惑し、雅之の方をチラッと見た。今の二人の関係で、一緒に泊まるのはちょっと......と思い、彼が断るだろうと期待していた。

しかし、雅之は淡々と「分かった」と頷くだけ。

里香は眉をしかめた。何考えてるの?私のサイン、まったく気づいてないの?

おばあさんは里香の手を握り、にこにこしながら言った。「里香ちゃん、雅之ともっと頑張って、早くひ孫を見せてちょうだいね。あなたたちのために体に良いスープを作らせたから、寝る前にちゃんと飲んでね」

里香は作り笑いを浮かべ、「分かりました、おばあちゃん」と頷いた。

おばあさんは雅之にも言った。「雅之、あんたもちゃんと飲みなさいよ。一滴も残さないでね」

「分かった」雅之も同じく頷いた。

正光は少し苦い顔をしていたが、由紀子は一瞬目を輝かせて夏実に話しかけた。「夏実、今夜は一緒に過ごさない?久しぶりにゆっくり話しましょうよ」

夏実は微笑みながら、「おばさん、それってちょっとご迷惑じゃないですか?」と控えめに言った。

「何が迷惑よ!前もここに泊まってたじゃない。前の部屋を使えばいいわよ。ちゃんと掃除してあるし」

夏実は無意識に雅之をチラッと見たが、彼は視線を落とし、無表情で、彼女たちの会話にはまったく興味がない様子だった。

「じゃあ、決まりね。まずはご飯にしましょう」と由紀子は楽しそうに言った。

夏実は少し緊張しながらも、了承した。

テーブルの雰囲気はどこか妙な感じだった。里香の目には、かすかな冷笑が浮かんでいた。

この場で一番純粋なのは、二宮のおばあさんだけね。

おばあさんは真剣な表情で食事をし、
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