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第303話

「たった一晩だけだぞ。何をそんなに怖がってるんだ?」雅之は、まるで里香の心を見透かしたかのように言った。

「怖がってるんじゃないの。ただ、今の私たちの関係で、一緒に泊まるのはちょっとよくないじゃない?」里香は答えた。

その瞬間、雅之の表情が一気に暗くなり、「僕たち、今どんな関係だって?」と問い詰めた。

「もちろん、もうすぐ離婚する関係よ」里香はためらわずにそう答えた。

里香が言い終わると同時に、雅之は一歩里香に近づいた。その鋭い瞳には冷たい光が宿り、彼の中に広がる深い闇が見え隠れしていた。

「何するつもり?」里香は警戒し、一歩身を引いた。

雅之は彼女の前で足を止め、冷たく言い放った。「じゃあ、君が『考える』って言ってたのは、こういう結論だったわけだ?」

こんなに時間をかけて考えた結果、まだ離婚したいって言うのか?

里香は目を伏せ、長いまつ毛が微かに震えた。静かに口を開き、「雅之、私は真剣に考えたの。私たちはもう元には戻れない。結婚って、安心感とか、心の安らぎを与えてくれるものだと思う。でも、私たちの結婚生活では、そんな風に感じたこと、一度もない。たぶん、あなたも同じでしょ?だから、別れた方がいいんじゃないかって思うの」と言った。

真摯な表情で雅之を見つめる里香の瞳は、透明で澄み切っていた。

雅之は一瞬黙り込み、じっと彼女を見据えたあと、「君は間違ってるよ。僕はちゃんとリラックスしてる」と淡々と答えた。

「いつ?」里香は眉をひそめて尋ねた。

「君とベッドにいる時だ。快感もリラックスもちゃんと感じてる」と雅之は冷静に言った。

その瞬間、里香の顔色がさっと変わった。この男、何を言ってるの? こんなに真剣に話をしてるのに!

里香の怒りに満ちた表情を見て、雅之は鼻で軽く笑い、「君が自分の感情を話すように、僕も感じたことを言っただけだよ。君はベッドで、気持ちよくないのか?」と挑発的に言った。

「黙って!」里香はもう彼の言葉を聞きたくなくて、顔を曇らせた。

雅之は軽く笑いながら、「僕が自分の感情を言っただけで、そんなに怒るなんて、君、ちょっと独裁的じゃない?」と続けた。

独裁的?何言ってるの、バカバカしい!里香は怒りで唇を噛み締め、言葉が出なかった。この無恥な男!

里香の頬が怒りで赤く膨らんでいるのを見て、雅之の瞳には薄ら笑いが浮かんだ。「ま、
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