共有

第298話

言葉が途切れると、車内の空気が一気に冷たくなり、重たい雰囲気が漂い始めた。じわじわと冷気が里香を包み込んでいく。彼女の長いまつ毛が微かに震えた。

雅之は何も言わないまま、気づかないうちに車のスピードを上げていた。

里香はシートベルトを掴み、眉をひそめた。「雅之、スピード落として!」

ちょうど帰宅ラッシュの時間だ。こんなに飛ばして…死ぬ気?いや、私はまだ死にたくない!

「黙れ!」

雅之は今、里香の声を一切聞きたくなかった。彼女が何か言うたびに、その場で絞め殺してやりたくなるほどだった。

里香は怒鳴られ、体がビクッと震えた。訳が分からず、雅之をチラリと見た。

「何よ、そんなに怒鳴らなくてもいいでしょ!」

雅之の顔色はさらに悪くなり、車のスピードは一段と速くなった。

里香はもう何も言えなかった。雅之が機嫌を損ねたまま突っ込んで、事故でも起こしたら、本当に死んでしまうかもしれない。

心臓がバクバクしながら、ようやく雅之の車は二宮おばあさんの家の門の前に停まった。

門番が門を開けると、雅之はそのまま車を進めた。

里香は目を閉じ、深呼吸してから言った。「男なら、約束くらい守ってほしいわね」

そう言うと、里香は車から降りようとしたが、ドアはロックされたままで、雅之はすぐには解錠しなかった。

不思議そうに雅之を見つめた。おばあさんに会いに来たんでしょ?もう家の前まで来たのに、なんで降ろしてくれないの?

雅之は鋭い目で里香をじっと見つめ、低くて落ち着いた声で言った。「お前、どうしてそんなに冷たいんだ?」

里香は訳が分からず雅之を見返した。「冷たい?冷たいのはいつもあなたでしょ?」

車内は一瞬、静まり返った。

しばらくして、雅之が口を開いた。「お願いがある。さっき言ったこと、おばあちゃんの前では言わないでくれ。あの人、体が弱くて、そんな話を聞いたら耐えられないだろうから」

里香は軽く頷いた。「分かってるわ」

自分はそこまで馬鹿じゃない。

雅之はようやくドアのロックを解除し、先に車を降りた。

里香は雅之の背中を見つめ、一瞬ぼんやりとしたが、すぐに苦笑して気持ちを切り替え、車を降りた。

二人は距離を保ちながら、別荘のリビングに入った。

二宮おばあさんは車椅子に座っており、付き添いの使用人が側に控えていた。時々、入口の方を気にするように目を向け
ロックされたチャプター
この本をアプリで読み続ける

関連チャプター

最新チャプター

DMCA.com Protection Status