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第288話

里香が洗面を終えてリビングに出ると、雅之がソファに腰掛けていて、桜井が何かを報告していた。その間、雅之は時々咳をしていた。

里香はマイペースに食事をし、終わると口を開いた。「私、安江町を出ようと思うの」

その一言で、雅之はすぐに彼女に目を向けた。「こんなに色々あったのに、それでも出て行く気か?」

「ここにいる方が危ないわ。離れた方が安全よ」

雅之はじっと彼女を見つめ、「僕が許さなかったらどうする?」と低く問いかけた。

里香は軽く肩をすくめながら、「じゃあ、出て行かない」とあっさり返した。

一瞬、雅之は言葉に詰まった。まさかそんなにあっさり答えるとは思わなかったのだ。

里香は雅之の斜め向かいに腰を下ろし、冗談めかして言った。「でもさ、私をずっと側に置いてどうするの?もし私が怒りすぎて死んじゃったら、法的責任問われることになるよ?」

雅之は冷たい目で彼女を見つめたが、突然激しく咳き込み始めた。その咳が青白い顔に赤みを帯びさせ、その美しさがどこか妖艶にさえ見えた。

すかさず桜井が言った。「社長、そんなに怒らないでください」

そして里香に向き直り、「社長も小松さんの安全を心配してるんですよ。ここの問題ももうすぐ片付きますし、出て行くなら社長と一緒に行った方がいいんじゃないですか」と提案した。

「桜井」雅之が低く呼び止めた。

桜井はすぐに黙り、頭を下げた。

社長......口があるならちゃんと使ってくださいよ。言わなきゃ、小松さんに気持ちは伝わりませんから!秘書の私の気苦労が絶えないんですよ......

里香は瞬きしながら、「つまり、あなたと一緒に行けば安全ってこと?」

雅之は冷たく、「死にはしない」とだけ返した。

里香:「......」

桜井:「......」

その口、もういらないんじゃないか......?

里香は立ち上がり、「ちょっと考えてみるわ」と言った。

その瞬間、「バン!」と雅之が持っていた書類をテーブルに叩きつけた。その美しい顔には冷たい怒りが浮かんでいた。

「何でも考えなきゃならないのか?飯食う時もトイレ行く時も考えてからにするのか?」と、雅之は容赦なく皮肉を込めて言った。

里香の顔色も冷たくなり、彼をじっと見つめた。「じゃあ何?私があんたの言う通りに何でも従わなきゃならないってこと?私を何だと思ってるの?」

部屋の
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