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第187話

里香は考えすぎないようにして、110番に電話をかけた。しかし、その瞬間、誰かにスマホを奪われてしまった。

「もうバレたか?」

運転手の冷たい声が車内に響いた。

里香は目の前がぼやけていくのを感じ、無意識にドアを開けようとしたが、すでにロックされていた。

「あなたは誰なの?」

里香はかろうじて声を絞り出し、自分の太ももを強くつねりながら意識を保とうとした。

運転手は冷たい目で彼女を見つめ、「俺のこと、忘れたのか?ふふ、お前のせいで、ずっと牢屋にいたんだけどな」

里香の頭に閃光が走った。

そうだ、彼は斉藤健だ。雅之が調査していたあの男… でも、私は彼と直接関わりがなかったはず。どうしてこんなに敵意を持たれているの?

里香は慌てず、冷静を装って言った。「きっと何か誤解があるんじゃない?何が欲しいの?お金?車?それとも不動産?あなたが欲しいものは何でもあげるわ。私の夫は冬木の二宮家の雅之なの。彼はとてもお金持ちよ」

「お前の命が欲しいんだよ!」

そう言うと、斎藤はアクセルを一気に踏み込んだ。車が急発進し、里香は勢いで前の座席に頭をぶつけ、めまいがした。何か言おうとしたが、香りに含まれていた薬が効いてきて、すぐに意識を失った。

一方、病院では夏実が病床のそばに立ち、雅之を見つめていた。彼を見ていると、不安だった心がようやく落ち着いた。

雅之はまだ自分を気にかけてくれていた。今、彼は里香の電話にも出ていない。

「雅之、彼女とはいつ離婚するの?」

夏実は弱々しく尋ねた。

雅之は書類を見つめたまま、里香からの電話にも何の反応も示さず、冷たく「すぐにでも」とだけ言った。

夏実の目に一瞬喜びの光が浮かび、「雅之、私は本当にあなたを愛している。私がそばにいる限り、きっと幸せになれるわ」と続けた。

雅之は何も言わず、ただ書類をめくり続けた。長く美しい指先がページを滑る様子を、夏実は満足げに見つめた。もうすぐ二宮家の奥様になれる…その考えだけで、さらに喜びが増していった。

その時、再び電話が鳴り響いた。雅之のまつげが微かに震え、スマホを手に取り、普通に一瞥した。

桜井からの電話だった。

夏実も一瞬緊張して雅之の様子を窺ったが、桜井からの電話だと分かり、ほっと息をついた。

「もしもし?」

「社長、海外で緊急のビデオ会議があります。すぐに来ていただき
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