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第005話

 田中舞は一瞬戸惑ったが、すぐに平然と答えた。

 「私と木村先生が使ってるの。湊君、今手術室が足りないの?」

 私は手術台の上に横たわり、叫びたかった。

 しかし、口を開けようとすると顔の筋肉が引きつり、顔に刻まれた傷の痛みで動けなかった。

 湊は、「大丈夫、ただの確認だ」と答えた。

 田中舞は、湊に対しては私に向けた横暴さとはまるで違い、愛らしい声で説明し、最後にこう言った。

 「今夜、私が仕事が終わったら、一緒に買い物に行ってくれる?」

 「いいよ、ちょうどウルトラマンのプレゼントを買いに行くつもりだった」

 湊の表情は見えなくても、私は彼が微笑んでいるのがわかった。

 数日前、末っ子が湊の腕にしがみついて甘え、「もうすぐ7歳になるから、大きい子のプレゼントが欲しい」と言っていた。

 湊は頷いて、彼の額を軽くつつき、「何が欲しいんだ?」と尋ねた。

 末っ子は誇らしげに、「ウルトラマンティガが欲しい!」と言った。

 私はその時、涙が一筋こぼれた。

 たった数日で、末っ子は私たちから遠く離れてしまった。

 普段、兄弟の仲がこんなに良かっただけに、湊が弟の死を知ったら、どれほど悲しむか想像もつかない。

 悲しみに沈んでいた私は、湊が「ウルトラマンを買う」と言ったとき、田中舞の顔に浮かんだ冷酷な表情を見逃していた。

 湊は去った。

 彼は、すぐ隣の部屋で母親が彼の恋人に非人道的な虐待を受けていることに気づいていなかったのだ。

 田中舞は鋭い目つきで私を見下ろし、こう言った。

 「このクソ女、私が思ってたよりずっと手が込んでるわね。

 湊君が私の前で堂々と、隠し子にプレゼントを買うなんて言うなんて。

 まあ、あの忌々しいガキはもう死んだからいいけど。

 もしあのガキが生きていたら、私たちの間に立ちはだかって、どれほど辛かったか想像もつかないわ」

 歯を食いしばって言った彼女は、突然何かを思いついた。

 私の下半身を死んだように見つめながら。

 「後顧の憂いを断たなきゃ」とつぶやいた。

 「一人の隠し子を殺しただけじゃダメよ。私の不注意につけこんで、もう一人産んだらどうするの?」

 彼女は自分の世界に入り込んだかのよう
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