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第2話

半月前、犯人は突然、私の彼氏を訪ねてきた。

さらに、彼の初恋である友音を誘拐した。

「斉藤先生、これが誰かわかるか?」

友音の顔は青白く、まるで救いを求める藁にもすがる思いで泣き叫んでいた。

「助けて!怖いの……!」

「帰らせて……!」

伶は混乱し、私は彼がこれほど動揺した姿を見るのは初めてだった。

彼の目には止まらない不安が浮かんでいた。

だが彼を知る者なら、伶が感情を顔に出すのを嫌う性格だと知っている。

彼が以前、感情を露わにしたのは、私が彼に内緒で誕生日を祝ったあの日だった。

その日は風の強い屋上で、警察の仕事に追われ、自分の誕生日を忘れていた彼を待っていた。

夜遅くまで待ち続け、彼が帰ってきたとき、私は彼にケーキ作ってあげた。

それを見た彼は目を潤ませて感動していた。

しかし、今回は友音のことで動揺している。

彼女がどれだけ大きな存在か、初めて痛感した。

私は自嘲気味に微笑んだ。

彼は拳を握りしめ、拳には血管が浮き出ていた。

そして犯人に問い詰めた。

「目的はなんだ!」

犯人は2枚の写真を彼に差し出しながら言った。

「この写真を元に似顔絵を描いてくれたら、大事なお姫様を返してやるよ」

伶は疑わしそうに眉をひそめて反問した。

「……それだけか?」

「そう、それだけだ」

だが彼はまだ知らなかった。

犯人が描かせた少女の似顔絵、それが幼い頃の私であることを。

そして犯人たちが追い求めていたのも、実は私だった。

私の両親は麻薬取締警察だった。

私が生まれてから、彼らの身元情報は公開されることはなかった。

しかし、私の両親が犯罪組織のボスを壊滅させたとき、彼らはその任務で命を落とした。

身元が露呈してしまい、警察も私が報復されるのを恐れ、私と両親の関係を隠したのだ。

そのおかげで私は二十年間、普通の人間として平穏に暮らしてこれた。

だが、犯人が天才肖像画家である伶を見つけたことで、すべてが変わってしまった。

捜査一課の頭脳であり、数多くの事件を解決してきた男。

彼が手を動かせば、どんな顔も再現される。

その日、彼は遠くで警笛が響くまで長い時間、絵を描き続けた。

犯人は友音を解放し、最後に去って行った。

その場面をカメラがとらえたとき、私は友音が伶の胸に飛び込み、

彼が彼女を強く抱きしめ、まるでその魂を骨にまで刻み込もうとするかのように見えた。

震える声で彼は言った。

「無事で良かった……」

だが彼は知らなかった。その似顔絵を犯人に手渡した瞬間、

私の命は終わりを迎えようとしていたことを。

あの日、彼に病院から追い出され、独りで帰宅途中の私は、

何かがおかしいと感じ、反射的に重要な連絡先に電話をかけた。

「誰かにつけられているみたい。戻ってきてくれない?」

「ここでタクシーが捕まらなくて、本当に怖いの……」

だが彼は私が彼を呼び戻すために嘘をついていると思い込んでいた。

電話の向こうで彼は怒りのままに叫んだ。

「また何を企んでるんだ?そんなことで俺が戻るとでも思ってるのか」

「言っとくが、たどえお前が死んでも、俺には何の関係もない。もう俺に連絡すんな」

あの夜、路地裏は真っ暗で、空には小雨が降り注いでいた。

通りにはほとんど人影もなかった。

電話が切れる音を絶望的に聞きながら、110に連絡しようとした瞬間、

犯人は私の背後から不意に現れ、私を気絶させた。

次に目を覚ますと、見知らぬ廃工場にいた。

彼らは鬱憤を晴らすかのように、私を痛めつけ、

スコップで顔面を打ち付け、骨が砕けてしまうほどだったが、

その間も私はまだ生きていた。

彼らはまだ飽き足らず、最期の瞬間まで私を痛めつけた。

そして死体を隠滅するため、彼らは私の腹を刃物で切り開き、

タイマー付きの爆弾を埋め込んだ。

爆発音が響き渡った瞬間、私は空を仰いで笑った。

ようやく……解放される。

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