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第8話

「今、私は病院にいるのに、どうしてまだ来ないの?」

病室を回っていると、頭を包んだ女性がドアの枠に寄りかかり、焦って電話をかけているのが見えた。

僕の足音に振り返ると、すぐにオフィスに引きずり込んだ。

「佐藤徹也、早く私の体を見て!ここ数日、かゆくてたまらないの」

そう言って、彼女はきっちり包んでいたスカーフと帽子を外した。その瞬間、目の前の人をはっきりと見た。

元々首にあった赤い発疹が顔にまで広がり、一部は水ぶくれができている。どうやら本当にかゆかったようで、いくつかは掻き破られ、傷口からは膿が出ていた。

彼女はここまで来るのにどれだけ時間がかかったのか。

僕は肩をすくめた。

「ここは脳外科だよ」

「何科だろうが関係ない!治せないなら治せる人を呼んで!お金はたっぷりあるから!」

知恵は言いながら、手に持っていたバッグをデスクに叩きつけ、すぐに携帯を取り出して僕に見せようとした。

僕は慎重に避け、彼女の手が触れないようにしながら、マスクの端を強く押さえ、彼女の唾液が飛び散らないようにした。

「じゃあ、座って待ってて。人を呼ぶから」

今はちょうど退勤時間で、皮膚科の鈴木真が電話を受けてすぐに来た。

「どうした?また美味しいものでも見つけたのか?」と彼はオフィスに入るなり元気に僕に声をかけた。

隣に座っている知恵を見て、彼は少し困惑した表情で「これは?」と口を尖らせた。

「一人の患者で、体に赤い発疹があるから、見てやってくれ」

鈴木真はその言葉を聞くと急にやる気を失い、不満そうに知恵の前に歩み寄った。

「もう退勤時間なのに......」言葉を続ける前に、彼は止まり、知恵をじっと見つめてから急に後ずさった。

僕は彼を強く叩いて、「何だ?」と彼が僕を疑問の目で見た。

彼と目が合った後、少し考え込み、慎重に口を開いた。

「大丈夫だ、虫に刺されたんだと思う。一時間後に薬を出すから、それを塗れば良くなるよ」

僕は頷いた。

「運動を増やして、栄養を補って、免疫力を高めよう」

僕は「栄養を補う」という言葉を強調したが、鈴木真は反応しなかった。けれど、知恵は僕の意図を理解した。

結局、彼女は手術以降ずっと「良いもの」を食べていたから。

「じゃあ、さっさと薬を出して!ぐずぐずしてないで、昔みたいにダメダメじゃない!」

「無駄なことだ」
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