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第4話

「霜、ただ補償がしたいんだ」

遼は低い声で言った。「結婚式のことは私が悪かった。君を放っておいたこと、それは確かに間違いだ。美咲が言っていたように、どうであれ君は公に発表された大谷家の奥さんなんだ。俺としても責任を取らなければならない」

「そうでなければ、君のこれからの道が厳しいものになるだろう」

「つまり、これも美咲の考えってわけ?」

私は彼を見上げ、遼は頷いた。「美咲は君のことを考えているんだ、分かってほしい」

「もうたくさん!」

私は彼の言葉を遮った。「大谷社長ともあろう人間が、そこまで小娘に振り回されるとはね」

「遼、本当にすまないと思っているなら、近づかないでくれる?」

遼は眉をひそめ、「なぜ彼女に偏見を持つ?あの日の結婚式のことを知ってるなら」

「結婚式の話なんてしないで!結婚式の日に私の母が亡くなった。それは一生忘れられない痛みで、決して許せない!お願いだから距離を置いて、穏やかに別れてもらえる?」

「私のことも放っておいて。婚約を解消しよう、まだ婚姻届を出していなかったのは不幸中の幸いね。でなければ離婚が必要だった!」

あの時に結婚届を出さなかったのは、美咲が強く反対したからだった。

彼女の考えは分かっている。私が本当の大谷家の奥さんになれば事が収まらないと恐れ、遼に先延ばしさせたのだ。

今となってはそのおかげで救われた気がする。遼は明らかに不満そうだったが、私は彼の表情などお構いなしで骨壷を奪おうと手を伸ばした。しかし、遼はそれを抑え込んだ。

「そうしよう。葬儀の後、君を自由にする」

私はもはや彼と争うこともできず、その場にひざまずいた。遼は私の姿に驚いた顔をした。

「大谷社長、どうかお願いです、私を自由にしてください」

「私の母はあなたに利用されることを望んでいないし、あなたの指示で豪華な葬儀が行われることも望んでいない。母は私の母だけです!」

「彼女は私だけの母親なんです!」

「大谷さん、どうかお願いです!」

「この数年間で私が二度も骨髄を提供したことを考慮してくれませんか?」

頭がぼんやりとしていて、骨髄提供後の休養も取らずにここに来たため、体力も限界だった。

遼は私の姿を見て少し心を動かされたようだったが、その時、彼のスマホが鳴った。

ちらっと画面を見たら「清水美咲」の名前が浮かんでおり、私は嫌な予感を覚えた。

電話を終えた遼は再び毅然とした態度に戻り、「そう決めた。もう何も言わないでくれ」

「霜、君はゆっくり休んでくれ。後のことは私が処理する」

彼は骨壷をそばの人に渡し、私を乱暴に車の中に押し込んだ。

私の反対も聞かず、彼は私を別荘まで連れ帰った。

車を降りた途端、美咲が駆け寄ってきて、「霜、ようやく帰ってきてくれたのね。遼と話して、お母様への補償のために葬儀を私が直接担当することにしたの。いいかしら?」と言った。

彼女の言葉に頭がくらくらし、体に冷や汗がにじみ出た。

「遼、どうして私をこんなに侮辱するの?」

「私があなたに何をしたというの?どうしてこんなことをするの?」

私は腕を抱え込み、体を震わせながら地面にしゃがみこんだ。美咲は涙ぐみ、「私のせいにするの?」と訴えた。

「私だって、こんなことは望んでいないのよ!」

遼は不機嫌な顔で、「霜、もういい加減にしろ。美咲は体調が悪い中でも、君に償いをしようとしているんだ。それなのに、君はまだわがままを言うのか?」

その瞬間、私はもう死んだ方がいい気持ちになった。

「私が死ねば、あなたたちは満足するのか?そうだよね、遼?」

私は彼を見上げ、ぼんやりとした目で問いかけた。

遼は一瞬驚きの表情を浮かべ、次いでその目に驚きと焦りの色が混じっていった。

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