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第5話

意識が途切れる瞬間、遼が慌てて私の方へ駆け寄るのが見えた。

再び目を覚ましたとき、周囲には消毒液の匂いが漂っていて、遼が私のそばに座っていた。私が目を開けると、彼は私の手をしっかりと握りしめった。

「霜、少しは楽になったか?」

私はその手を強く振り払い、何も言わなかった。今さら言葉を尽くしても何も変わらないことはわかっていたからだ。

無言のまま天井を見つめる私を見て、遼は焦りを隠せない様子で、「霜、何か話してくれ、頼むからこんなふうに沈黙しないでくれ」と懇願した。

私はただ天井を見つめながら、遼との初めての出会いを思い返していた。

あの時、私は大谷グループに研修として入ったばかりで、昼休み中、ひとりで階段の踊り場へ行った。すると、美咲が遼に背伸びして告白している場面に遭遇してしまったのだ。

だが、遼は彼女の告白を断った。

それがなぜなのか、いまだによく分からない。彼らの関係が親密だったにも関わらず、遼は美咲を拒んだのだ。

そして私がその場に居合わせ、すべてを聞いてしまったため、美咲はそれ以来敵意を抱くようになった。

研修期間中もたびたび嫌がらせをしてきて、さらには公然と、私がこの会社に居続けることはないだろうとまで言い放った。

その後、彼女が突然難病を患い、骨髄移植が必要になった。遼の指示で、社内でドナーのマッチングが行われた。

私が最も適した候補者と判明した。

それをきっかけに、私は平社員から一気に社長秘書に昇格し、遼は私を親身に気遣ってくれるようになった。恋愛経験がなかった私にとって、彼の優しさに深く惹かれ、簡単に心を奪われてしまった。

私は美咲に骨髄を提供することに同意したが、それを機に彼らのそばを離れることはできなくなった。

遼の言葉では、私は美咲の命の恩人であり、彼女の「生命の保証」だからそばにいる必要がある、と。

その見返りとして、彼は私に最高の生活を提供し、母を小さな町から連れて来ることも約束してくれた。

当時の私は遼の外見に惑わされ、彼を信じてしまった。そして美咲が意図的に介入することで、私と遼の関係は奇妙なものになっていった。

母の言葉では、私は一途で真っ直ぐな性格だから、一度好きになった人には全力で尽くす。

私は実際、そうしてきた。

5年もの間、私は遼のそばにいて、同じく5年間、美咲との関わりも続いた。

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