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第3話

私は何も見ずに葬儀場へ直行し、身分証を提示した後、ようやく母の遺体と対面することができた。冷蔵庫から引き出された母の体は、全身が硬直していた。

私はその場に崩れ落ち、震える手で白布をそっとめくった。

見慣れたその顔を見た瞬間、体が凍りついたかのように動けなくなり、喉からは乾いた声しか出なかった。涙すら流れず、痛みで心が裂けそうだった。

母の冷たく硬くなった手をしっかりと握りしめたが、その感触は温かかった記憶の中の手とは全く違っていた。

結婚式の前、母が私を抱きしめて優しく言った言葉が蘇る。「私の霜にも愛してくれる人ができたね。これからはお母さんがいなくても、きっと大事にしてもらえるよ」

あの時は、遼が美咲を選ぶなんて、誰も予想していなかった。

すべては私のせいだ。自分がそばにいることで、数年の尽力で彼の心を得られると思い込んでいた。私は自分の力を過信し、美咲が彼にとってどれほど大切な存在かを軽んじていた。

どれくらい時間が経っただろうか。葬儀場のスタッフが「大谷さん、よろしいですか?時間です」と声をかけてきた。

私は一歩下がり、喉の奥で声を押し殺して頷き、母が火葬炉に入れられ、出てきた時にはただの小さな骨壷になっていた。

骨壷を抱きしめ、私は眉をひそめた。

母は生前、あの小さな町から出ることなく一生を終えた。

母の一番の願いは、私が良い人と出会い、幸せな人生を送ることだった。

だが今の私は、立派な墓地を買うことさえできない。

手元に十分なお金もなく、なんとか資金をかき集め、ようやく三十万円を用意できたその時、スタッフが慌てて駆け寄ってきた。

「大谷さん、どなたかが大金を払って高級な墓所に変えてくださいました。あちらの北向きで、風水も良い場所ですよ!」

私は驚いて固まった。「なんですって?誰が?」

「まだお帰りになっていませんが、名字は大谷様です」

その言葉を聞いて、私はすぐに前の事務所に向かい、遼の姿を見つけた瞬間、拳を握り締めた。「遼、一体何が目的なの?」

遼は私を見つめ、「霜、これは私の心ばかりの気持ちだ。君が受け取ってくれれば、少しは気が楽になる」

「必要ない。私たちのような貧乏な家族が、あなたの大きな恩に報いる力なんてない」

遼の表情が急に険しくなり、鋭い口調で言った。「霜、いつまで意地を張るつもりだ?」

「たかが結婚式一つのことで、君のお母さんが亡くなったことを私も悲しんでいる。しかし、彼女は元々病気だったんだ。そこまで意固地にならないでくれないか?」

彼の口から出たその言葉は、冷酷さが際立っていた。私は深く息を吸い込み、「言ったはずよ、私たちの間には人の命が隔たっている。私は許さない」

「その偽善を引っ込めて」

私の母が生きている間、遼は一度も見舞いに来なかった。母が最期を迎える間際になって、ようやく一度会うだけだった。

結婚式のことも、すべて遼が勝手に決めていた。母が望んだ結婚式の細かなことなど一切気にせず、ただ人脈を広げるための場としてしか見ていなかった。

だから、私たちの生死なんて、誰も気にも留めなかったのだ。

その言葉を聞いた遼は怒りに燃え、「霜、いい加減にしろ!彼女は俺の義母でもあるんだ。安らかに送るのが筋だろう。君は、このままみすぼらしい形で埋葬されるのを見届けたいのか?」

そう言うと、遼は私の手から骨壷を奪い取り、スタッフに渡して「直ちに埋葬しろ!」と命じた。

さらに秘書に「大谷氏グループの役員全員に参列するように。そして、メディアに知らせろ!」と言い放った。

私は拳を握り、「遼、あなたはまた何を考えているの?母の葬儀を会社の宣伝道具にする気?」

「誰にも任せない」

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