第5話

9

「ああ！」　美咲は痛みで叫び、同時に涙があふれてきた。

彼女は飛び退き、顔を押さえながら涙を流し、可哀そうに　太一を見つめた。

　太一は一歩前に出て、私を強く押しのけた。

私は後ろによろめき、壁に寄りかかってようやく体勢を立て直した。

　太一は鋭く叱責して「もういい加減にしろ、　美琴、お前はまるで狂った女みたいだぞ！」と言った。

私は「彼女が私のフィルムを踏んで離さなかったの。　太一、お前の偏り具合が明らか過ぎるでしょ？」と反論した。

　太一は黙り込んだ。。彼はその時ようやく、私が病院に来た理由が病気だと気づいたようだった。

彼は眉をひそめ、目の奥に少し心配の色が浮かんで、「お前、病気なのか？」と尋ねた。

私は地面に落ちたフィルムを拾い上げ、口を動かして何かを言おうとした。

しかし、　美咲が先に、「ただの風邪でしょ？撮影までする必要あった？」と言ってきた。

　太一は急に安心した様子で、「ただの風邪かよ。そんなことで大袈裟に騒ぐなよ。美咲は妊娠しているんだぞ」と言った。

私は彼を皮肉に見つめて、「彼女が妊娠しているのが、私と何の関係があるの？その子、私の子なの？」と返した。

それを言い終えると、彼に説明する気も失せ、振り返って去っていった。

10

医者のオフィスに到着し、やっと手に入れたフィルムを医者に見せた。医者はそれを見て、眉をひそめた。

彼はフィルムを何度も確認し、眼鏡を押し上げながら深刻な顔をしていた。

医者は私に「脳腫瘍の末期です。余命は数か月しかありません。手術の成功率は30％です」と告げました。

医者は、保守的な治療を受けたほうが長く生きられるかもしれないと勧めました。

私はショックを受けましたが、同時に、　美咲が私をただの風邪だと言った理由が分かりました。

　美咲は医学生なので、私のフィルムに異常があることに気づいていたはずです。彼女はわざと　太一に私が病気だと知らせたくなかったのでしょう。　太一が私に罪悪感を抱くのを恐れていたのです。

しかし、それでも構いません。私は　太一の罪悪感など必要としていません。

私は医者に軽く頷き、薬を取りに行きました。

病院を出るまで、私はずっと平静を保っていました。自分がもうすぐ死ぬという事実を冷静に受け入れていました。

この世に、私が惜しむべきものはほとんどないよう