第6話

彼は一瞬呆然とし、ゆっくりと口を開けた。「出て行くのか？」

私は頷き、「今はお互いに冷静になるべきだと思う」と言った。

「君が帰ってきたから、鍵を返すよ。この家は君が買ったものだから、当然君のものだ」

そう言って、荷物を引きずって出ようとすると、太一が突然立ち上がり、私の前に立ち塞がった。

「行かないでくれ」

酒臭い彼が口を開け、その声には微かな悲しみさえ感じられた。

私は首を振り、それが単なる思い過ごしだと思った。

「太一、あなたは他の誰かを愛している。だから私を解放して」

太一は強引に私を抱きしめ、何かを呟いていたが、私には聞き取れなかったし、聞きたくもなかった。

私は激しくもがいたが、逃げ出せず、彼が目を閉じ、ゆっくりと顔を近づけてくるのが見えた。

彼は私にキスしようとしている！

私は必死に彼を引き離し、思わず彼に平手打ちをした。

その平手打ちで彼の顔は横を向き、しばらくしてから彼は頭を戻し、澄んだ目で私を見つめた。彼は何も言わなかった。

私は荷物を引きずりながら彼を押しのけ、振り返らずにその場を去った。

太一は追ってこなかった。彼はもう追いかけてくることはないだろう。

11

小区の門にたどり着いたとき、賑やかな商店街が目に入り、夜でも昼のように明るいが、自分のために灯された明かりは一つもなかった。

しばらく躊躇した後、タクシーを拾い、母を訪ねることにした。

父は早くに亡くなり、母は弟と一緒に住んでいる。弟は既に結婚していて、弟嫁は最近赤ちゃんを産んだばかりだ。

私が家に着いたとき、ドア越しにテレビの賑やかな音が聞こえ、母が孫をあやしている声も聞こえた。

私は少し躊躇し、手を上げてドアをノックした。

中は一瞬静かになり、しばらくして母がドアを開けてくれた。

ドアが開くと、私だと気づいた母は一瞬驚き、私の隣にある荷物を見て困惑した表情を見せた。

私は気まずそうに母に微笑みかけ、母の後をついて家に入った。

入るやいなや、赤ちゃんをあやしていた弟嫁が私を見て、口角が下がった。

母は私に水を注いでくれた。

「どうしたの？こんな夜中に」

私は答えたくなかったが、喉が渇いたように言葉が出てきた。

「お母さん、ここに一晩だけ泊まらせて。明日には出ていくから」

母は何も言わなかったが、弟を見つめた。小さい頃、私は弟が大