中村悦織のところに目を向けて、彼女はまず電話を指して、それから外の方へ少し指した。中村悦織はわかったのようにうなずいた。「気をつけてね、正月は人が多いから」この店は通りの突き当たりにあったため、その先へ進むとほとんど人がいなかった。あまりに遠く行かなかった瀬川秋辞は「さっき何言ったの?」と聞いた。「風水師もう見つかった。明日祖父に新しいお墓を見せるように帰っていく。俺は朝6時に鹿児島へ行く飛行機を予約しといた。あなたも早めに荷物とか何とか準備しといてね」瀬川秋辞「??」彼女は薄野荊州がわざとだと疑っていた。「お正月にお墓を移すなんて、そうする人がいないでしょ」「今度ただ風水師にい
瞬きをするように早くて、全ては一瞬なことだった。瀬川秋辞は他の可能性があるかどうかをまったく考える余裕がなくて、ただ中村逸がそのナイフに突き刺されたことがわかった。周りの野次馬が大勢いたが、相手はナイフを持っていたため、誰も近づけなかった。瀬川秋辞は隣の屋台から棒を引き抜いて、チンピラのところに駆け出して、そいつらの顔面に向かってめちゃくちゃに振り回していた。最後のチンピラを蹴り倒してから、中村逸は瀬川秋辞の腰を抱いて引き寄せた。これ以上罪のない人を傷つけないように、彼は片手で彼女が振り回していた棒をしっかり握りしめた。「もういい、全部君に追い払われたよ」その後、あの連中はすぐにパトロ
願い事を赤い布に書いた後、瀬川秋辞のを見て、中村逸は笑ってきた。本当に「新しい一年が無事になりますように」と書いてあった。橋にはほとんど恋人同士で、中村逸は橋の半ぐらい歩いたら、瀬川秋辞に向かって手を伸ばした。「手を繋いたら?みんなそうやってるし。じゃないと、ラブラブの雰囲気で俺だちが怪しく見えるんだけどなあ 」瀬川秋辞が何か言おうとした時、スマホが鳴り出した。チラッと見たら、辻本佐和子からの電話だった。彼女は眉をひそめて直接に切った。数分もしないうちに、辻本佐和子からボイスメッセージが届いてきた。怒り狂ったせいで声まで変わってしまった。「瀬川秋辞、相談もしてくれないで、黙ったままお祖
しゃがんで確認したら、ご遺骨がすでにお墓に納められてしまった。彼女は振り返って男をにらんだ。「クソ野郎、イカれてるの?だったら、さっさと病院に行け!」薄野荊州はこの言葉に眉をしかめた。「悪口でもいい加減に」よくもこんな下品な言葉を言えるものだ。「直接手を出していないで、ただ悪口だけなのは、もう十分に自制してる」彼女はもう少しで爆発しそうになった。「お墓を開けろ。祖父のご遺骨を連れて行くから」「もうお墓に納めたのに。まさかもう一度お墓を移すつもり?死んでも安らかになれない。それがあなたの親孝行?」薄野荊州は彼女を見る目に皮肉を込めて、声を出した。「まあ、鹿児島にいたときは祖父の墓地は環
テレビでは紅白戦が放送されていて、にぎやかな雰囲気だった。それに対して、家がまるで墓地のように寂しく見えてきた。彼女は少しめまいがして頭を振りながら、ソファーに置いたスマホを持ち上げて、薄野荊州に電話をかけた。しばらくして電話がつながった。男の冷たい声が受話器を通して彼女の耳に入った。松本唯寧は首を傾げてソファーに寄りかかった。「荊州、こっちに来てくれないの?私一人ぼっちで、彼女は私の電話に出ないし、きっと私のことまだ憎んでいるから…」話が少し混乱していたが、薄野荊州はなんとなく彼女の話がわかった。ちょっと黙ってから、また尋ねた。「お酒飲んだ?」「うん」「マネージャーを行かせる…」
相手の動きが速くて、彼女に唇に触れる寸前で、薄野荊州は手で遮った。松本唯寧はこれ以上続けなかった。遮られたことであろうと、彼女の自尊心であろうと、このように恥知らずなことを続けるのが許されなかった。アルコールによる勇気がただ一瞬なもので、目の中の曇りがだんだん消えてしまって、明晰に戻った。彼女はこのまま手を隔てて薄野荊州を見つめて、自嘲的な笑いが浮かんできた。「私じゃなくても、彼女とは絶対にだめだ」薄野荊州は彼女を押しのけて立ち上がってから、台所から氷水を持ってきて、彼女に投げた。寒さに震えた松本唯寧は思わず水を横に投げ捨てた。薄野荊州「目覚めた?」「…」「じゃあ、早く寝よう」
江雅子が急に倒れた理由が彼女はやっと分かった。瀬川秋辞はスマホを握りしめて、怒りが心にわき上がってきた。ちょうどこの頃、庭からエンストの音がしていた。佐々木さんがドアを開けようと台所から出てきたが、瀬川秋辞は「佐々木さん、私が行く」と呼び止めた。そう言ったら返事も待たずに、まっすぐ庭に向かって歩いて行った。帰ってきたのはやはり薄野荊州だった。だが、彼は一人じゃなく、側には松本唯寧も一緒だった。手を繋がなくても、二人は肩を並べて歩いていることからして、どう見ても仲の良く親密な恋人同士だった。彼らに向かって瀬川秋辞は大股で歩いて行った。彼女を見た瞬間、薄野荊州は思わずちょっと眉を顰めた。
「おばさんのためなら、謝りに行く私が、最後彼女に会えるかどうかは、あなたに関係なく、おばさん次第だ。もし荊州のことがまだ好きだったら、私は邪魔しないからすぐ離れるよ」と松本唯寧は言った。彼女の目の中にはかすかな得意がにじみ出ていた。瀬川秋辞は微笑みながら、彼女を見ていた。「この人は、教えてないの?私たち今の関係が...兄妹だよ」この前江雅子は彼女を養女として認めたいことがあるが、離婚の後に元旦那と兄妹になるのはいかにもおかしく感じたため、瀬川秋辞に断られた。薄野荊州は視線を取り戻して、無表情で松本唯寧を見た。「ここで待ってろ」部屋のドアが閉まっていなかったため、薄野荊州がまだ入っていな