第6話

彼は地面に散らばった物を見て、全て普通の服ばかりで、ブランド品や高級品は一つも持ち出そうとしていないことに気づいた。

彼女が自分と結婚したのはこれが目当てだと思っていたのに、何も持っていこうとしないなんて！

拓海の目がその汚いビニール袋に落ち、眉をひそめて言った。「また駆け引きか。今度は誰に可哀想だと思わせたいんだ？祖母はここにいないぞ！」

3年間の結婚生活で、彼は彼女を好きにはならなかったが、経済的には決して冷遇しなかった。

離婚の際も多額の慰謝料を渡し、彼女が衣食住に困らないようにした。

彼女は本当に出て行くつもりなのか、それともただの演技なのか？

紗希は電池切れの携帯電話をきつく握りしめて、伯母から家族が見つかったという知らせをまだ完全に理解できていなかった。昔、家族に見つけられて、もう一人ぼっちではなくなる夢を見たこともあった。

紗希は少し上の空で、拓海の目には彼女が黙認しているように映った。

詩織は足を引きずるようにして追いかけてきた。「拓海兄さん、彼女はさっき荷物をまとめて出て行こうとしていたの。でも、わざわざ台所から汚いビニール袋を持ってきたわ。私が止めても聞かなかったの」

執事も急いで悪意をもって言った。「若様、私は若奥様に、その袋を使わないようにと勧めただけです。でも若奥様は聞き入れず、服を地面に撒き散らしました。ブランドのスーツケースがあるのに使わず、わざと可哀想な振りをしたんです。これが外に漏れたら、渡辺家が彼女を虐待したと思われかねません」

空気が静まり返った。紗希はこの二人の中傷を聞きながら、その場に木のように立っていた。

彼女は目の前の拓海を見つめ、彼が何を言うか知りたかった。

男は目が鋭く、冷たい声で言った。「君には言いたいことはないのか？」

やはり！

紗希の目に嘲笑の色が浮かんだ。「言うべきことは全て彼らが言ってしまったわ。私には何も言うことはない」

どうせ言っても信じてもらえないので、余計な説明をする必要はない。

「紗希、まだ満足できないのか？何が欲しいんだ？」

彼の目には、彼女はただお金のために彼と結婚した女性としか映っていなかった。

紗希は開き直って答えた。「私はただお金を使うだけの若奥様になりたかっただけだよ。他人の若奥様を見て、買い物か、美容院に行ってアフタヌーンティーを楽しんでいる。でも私は結婚してから毎日台所で過ごして、遠くに行ってもせいぜい市場だったわ。3年経って逆に追い出されて、3年の青春を無駄にしまったわ！もう離婚したんだから、今はもう仕えたくないというのはダメなの？」

彼女は長年の不満を一気に吐き出して、気分が少し軽くなった。

やはり品がない人間になると、人生はずっと楽になる。

「言い終わったか？」

拓海は目に疑問の色が浮かべ、彼女に家計用のカードを渡し、毎月2000万円のお小遣いを与えていた。

普段は季節ごとにブランドの服やバッグを執事に送らせていた。

彼女の伯父の医療費も彼が負担していた。

今回の離婚でも多額の財産を与え、彼女が衣食住に困らないようにした。彼はすでに最善を尽くしたと思っていた。

彼女はまだ足りないと思っているのか？

「まだ言い終わってないわ」

「続けろ！」

「聞きたいなら、お金を追加して」

拓海は薄い唇を冷たく結んだ。「紗希、そんなにもお金が好きか。欲深いと、ろくな結果にならないぞ」

やはりこれだけ言っても、まだお金が足りないと思っているのか。

拓海は少し失望し、紗希の強情な目を見つめると、清らかで澄んでいた。虚栄心に満ち、嘘ばかりつく女が、なぜこんなにも澄んだ目をしているのか理解できなかった。