第16話

渡辺玲奈の嘲笑に、紗希はまったく無関心になった。この数年間、玲奈は彼女を見下し、死にかけの拓海と結婚したのはお金目当てだと言い続けてきた。

以前彼女は我慢していたが、今は拓海と離婚したのだから、もう我慢する必要はない。

玲奈は高慢な態度で紗希を見て言った。「何をぼんやりしているの？早く台所に行って料理しなさい。私の好きな仏跳牆を忘れないで」

紗希は視線を戻し、平然と反撃した。「祖母は私を食事に招待したのであって、料理をさせに来たメイドじゃないわ」

「紗希、何を言っているの？随分と大胆になったわね。料理さえ作ろうとしないなんて、絶対に叔母に言いつけてやる！」

紗希は傍らの玲奈を無視し、大広間に入ると、ソファに二人の人物が座っているのを見た。

一人は元義母の渡辺夫人、もう一人は元夫の初恋相手の詩織だった。

まさか今日の食事会で詩織に会うとは思っていなかった。

玲奈は突進してきて紗希の肩にぶつかり、大声で告げ口を始めた。「叔母さん、紗希に台所で料理をするように言ったのに、彼女は拒否したんです！祖母に招待された客だと言って、使用人ではないって！」

言葉が終わるや否や、義母の渡辺夫人は冷たい表情を浮かべた。「紗希、嫁として料理さえ作らないなら、何の役に立つというの？あなたとあなたの家族は、私たち渡辺家のお金を使うこと以外に何ができるの？料理をさせるだけでも大目に見ているのよ」

詩織は笑いながら口を開いた。「渡辺おばさん、怒らないで、体に良くありませんよ」

「詩織、私は彼女を見るだけで腹が立つのよ。彼女のような孤児院出身の女が、あなたのようなお嬢様と比べられるわけがない。あなたは家柄も良く、留学から帰ってきて、美しくて有能で、私の理想の嫁なのよ」

詩織は目に得意げな色が浮かんだ。「おばさん、彼女は孤児だから、私にも理解できます」

「ふん、理解する必要がないわ。孤児なら分を弁えて、枝に飛び乗る美しい夢なんか見るべきじゃないの。私の息子はとても優秀で、将来上に行く人なのに、どうして貧乏な女に足を引っ張られることがあるの。門地が釣り合わなくて、最初からこの結婚に反対だったのに、残念ながらおばあさまが強情だったのよ」

紗希はこれらの言葉を聞いて、この3年間で何度も聞いたことを思い出した。

しかし、今や彼女は孤児ではなくて、6人の兄がいて、皆仕事の分野で優秀なのだ。

彼女は少し目を上げて言った。「へえ、あなたの話によると、拓海は女性の縁故を頼りに出世する男性だったね？」

「誰が女性の縁故を頼りに出世すると言うの？私の息子は幼い頃から優秀で、どうして女性に頼る必要があるの？」

「今、あなたが言ったんじゃない？息子さんは出世するためにしかるべき家柄の女性を見つけたいと？」

渡辺夫人は怒りで言葉が出なくなった。この生意気な女がどうして急に口が達者になったのか？

紗希は冷静に傍らの女中に向かって言った。「祖母はどこ？」

メイドはようやく我に返り、恭しく答えた。「大奥様は部屋で寝ていらっしゃいます。まだ起きていらっしゃらないかもしれません」

紗希は眉をひそめた。「祖母の体調が最近良くないの？」

彼女は渡辺おばあさんの健康状態を心配していた。

玲奈は意図的に言った。「紗希、見てよ。詩織姉さんはたくさんの物を買ってきたのよ。百年人参に高価な漢方薬、それにブレスレットまでこれらはすべて高価なもの。あなたを見てみなさい。手ぶらで来たんでしょう。客人としての基本的なマナーも知らないなんて、本当に礼儀知らずね！」

詩織は淡々とテーブルの上の高価な贈り物を見て、わざと言った。「玲奈、これらは本当に何でもない、ごく普通の贈り物よ」

「詩織姉さん、確かに私たちのような裕福な人にとってはごく普通かもしれないけど、お金のない家の人にとっては、一生かかってもこれほどのお金は稼げないでしょう。だからこそ、ある人は何がなんでも嫁いで来たのよ」

渡辺夫人は冷ややかに鼻を鳴らして、玲奈の言葉にまったく同感だった。彼女は格の低い嫁を迎えたせいで、貴婦人たちにどれほど嘲笑されたか。

それなのに息子は無関心で、3年も待って離婚した。

紗希は嘲笑うように笑い、瞳に嘲りを浮かべて言った。「渡辺おばあさんは何も見たことがなく、何も食べたことがないというの？おばあさんが気にかけているのは、こういった虚しい外面的なものではないし、このような財物、目にも入らないわ」

そう言って、彼女はメイドに向かって言った。「おばあさんの好きなスープを準備するわ」

「それは素晴らしいです。最近、大奥様はあまり食欲がなくて、あなたの作る料理がお好きなんです」

紗希は直接台所に向かい、居間の3人の女性とは関わりたくなかった。

渡辺家で、渡辺おばあさんは彼女に親切にしてくれる唯一の年長者のため、騒ぎを起こしておばあさんを困らせたくなかった。

彼女は一人で小さな炉で薬膳スープを煮込んでいた。

そして、どのように渡辺おばあさんに自分が拓海と離婚したことを伝えるべきか考えていた。