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第2話

案件の検討会で、母の解剖結果を聞き終えた警察官全員の顔は、硬直していた。

私の遺体はあまりにも無残で、顔の確認ができない状態だったからだ。

さらに、遺棄現場の廃墟は第一の犯行現場ではなく、捜査の難易度が格段に上がっていた。

父は部下の警察官に、遺棄現場周辺で不審者の痕跡を調査するよう指示し、「もう一度詳しく解剖して、何か新しい発見があるか確認してくれ。採取したDNAはすぐに鑑識に回せ」と母に告げると、急いで仲間と共に現場へ向かった。

両親は遺体には興味を示すが、私自身に対しては何の感情もないようだった。

母はかつて、静香の髪を優しく撫でながら「法医学者は死者の声を代弁する尊い職業なのよ」と誇らしげに話していた。

静香はそれに頷いていたが、母が背を向けた瞬間に嫌そうに髪を手で拭ったのを私は見逃さなかった。

その光景に我慢できず、静香に平手打ちをした私だったが、父に怒られ、罰として髪を全部剃られたことがあった。

今、母は少し悲しそうに、私の遺体の髪にそっと触れ、「こんなにひどい死に方をして、家族はどれだけ悲しいだろう」と静かに呟いた。

私は皮肉な笑みを浮かべた。家族が悲しむどころか、むしろ私の死を喜ぶかもしれないと思った。唯一、兄だけは少しは悲しんでくれるだろう。

母は手袋の手で私の背中を撫でた。

そこには、誘拐された際に負った大きな火傷の痕が残っていた。

帰宅した際、着替えを手伝っていた母がその痕を見て、「何て気持ち悪い…これじゃ静香が怖がっちゃうわ」と驚きと嫌悪の入り混じった声で呟いたのを思い出す。

もしかしたら、この傷跡で母が私だと気づいたのだろうか?

私は緊張して唇を噛みしめ、額に汗が滲んだ。

しかし次の瞬間、母は無関心そうに「これは今回の傷じゃないわね」とだけ言った。

アシスタントが小声で驚きながら報告した。「伊藤さん、被害者の胃の中から紙が出てきました!」

母は目を見開いてそれを受け取り、「胃酸で腐食してるわね。後で鑑識に回して、何かわかるか確認しましょう」とため息をついた。

突然、携帯の着信音が鳴り響く。それは静香が好きな曲だった。

母は手袋を外し、慌てて廊下へ出ると、柔らかい声で応じた。「静香ちゃん、どうしたの?ママは今お仕事中よ」

「明日?もちろん、ママとパパが応援に行くわ。お兄ちゃんは出張中だから来られないけどね」

静香の明るい声が耳に届く。「ママ、ありがとう!大好き!でも本当は、桜子お姉ちゃんにも来てほしいの。お姉ちゃんが応援してくれたら、絶対に勝てる気がするの!」

「お姉ちゃんが来たくなくても仕方ないよ。私のことを嫌いなのは当然だもん。だって、私はずっとママとパパの愛を独り占めしてきたんだから」

静香は裏ではいつも私を陥れるのに、両親の前では仲の良い姉妹を装っていた。私の経験上、この後きっと母は私を叱るだろう。

案の定、母の声は突然鋭くなった。「あんたは私たちの宝物なんだから、桜子なんてどうでもいいのよ!家のお金を盗んで、静香をいじめるなんて、あんな子は私の娘じゃない!」

続けて、「たとえ彼女の足を折ったって、車椅子で静香の試合に行かせるわ!」と怒りを露わにした。

静香はくすっと笑い、「パパも今日、私に気をつけるよう電話してくれたんだよ。ママも暇があればお姉ちゃんに言ってあげてね」と甘い声で返した。

母は、「あんたは気をつけなさいよ。桜子がどこでどうなろうと、私の知ったことじゃない」と不満げに呟いた。

母は私のことを話す時、いつも特に嫌そうな顔をする。きっと、戻ってきた娘がまともな教育を受けておらず、人前に出せるような存在じゃないからだろう。

私が戻ってきた時、両親は名字すら変えてくれなかった。

両親にとって娘は静香ただ一人で、私の安否を気遣うことは一度もなかった。

私の死の真相を知った時、彼らは一体どんな反応をするのだろう。

だが、私の死には静香が深く関わっていること、そして両親自身にも責任があることを、彼らは知る由もない。

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