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第209話

さくらも気づいた。玄武は食べるたびに咳き込み、頬が真っ赤になっていた。明らかに辛いものが苦手なのに、なぜこの料亭を選んだのだろう。

彼女は辛くない料理を玄武の前に寄せながら言った。「辛いものがお好きなようですが、今日は喉の調子が悪いみたいですね。まずは控えめにして、薄味の料理を多めに食べましょう」

「確かに喉の調子がよくないな」玄武は咳払いをし、口の中に残る辛みに顔をしかめた。

「羊乳を一杯持ってきてもらいましょう」さくらは立ち上がり、個室のドアを開けて給仕に羊乳を注文した。

「乳製品は辛さを和らげるんです」さくらは子供をあやすように笑って言った。「さあ、飲んでください」

玄武は羊乳を手に取った。少し獣臭さはあったが、冷たくて何とか飲めそうだった。何より、彼女の思いやりが嬉しかった。

彼女は気づいていても指摘しない。強がりや取り繕いを暴露しないでいてくれる。梅月山にいた頃と比べて、本当に変わったな。

しかし、彼は少し切なくなった。羊乳を飲ませるこの光景は、きっと彼女が北條老夫人に薬を飲ませていた時と同じなのだろう。

彼女は本当に将軍家の人々を家族だと思っていたのだ。北條守と一生を共にしたいと心から願っていたのだ。

あんな薄情な連中が、彼女の真心に値するだろうか。

玄武の目に怒りの色が浮かんだ。スーランジーの葉月琴音への報復は甘かった。琴音を辱めれば、平安京の太子のように自害すると思ったのだろう。

しかし、彼女はまだ生きている。

「何を考えているの?」さくらは彼の表情が急に厳しくなったのを見て尋ねた。

玄武は冷たい表情を浮かべ、首を振った。「なんでもない。後で話そう」

尾張拓磨はこの時、空気を読んでお珠と明子を連れ出した。「隣の個室で食事をしよう」

お珠は二人に話があるのだろうと察し、給仕に頼んで料理を隣の部屋に移してもらった。

個室には二人だけが残された。

さくらは尋ねた。「親王様、何か気になることがあるんですか?」

玄武は彼女を見つめながら言った。「さっき君が羊乳を飲ませてくれた様子を見て、北條家であの老婆に薬を飲ませていた時も、同じように忍耐強かったんだろうなと思った。君は将軍家を家族だと思っていたのに、彼らは皆君を裏切った。それに腹が立つんだ。それに葉月琴音のこともだ。彼女への処罰が軽すぎる気がする。軍律の杖打ちさえ、北條守
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