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(改訂版)夜勤族の妄想物語
(改訂版)夜勤族の妄想物語
Author: 佐行 院

1. 「私の秘密」

Author: 佐行 院
last update Last Updated: 2025-01-21 11:28:41

 独身、童貞、実家暮らし、そして包茎。男としてのダメ要素が4つも揃ってしまっている俺。

 元いじめられっ子の会社員として昼夜逆転生活をしているが故に生まれてしまった「退屈」という感情をなんとかしようと始めたのが「妄想」だ。

 これなら誰にも邪魔されず、文句も言われることも無い。そして、迷惑を掛ける事も無い。正直言って何よりも自由な世界だと思った。

 そんな俺の妄想は、湖とくねくねとした峠道のある山の近くの風光明媚な街を舞台に始まる。

 さて、そろそろ俺が自由に思い浮かべた妄想の世界に皆さんを誘おう。

夜勤族の妄想物語 1.「私の秘密-赤鬼-」

佐行 院

 仕事に追われ1日1日が過ぎてゆき、一般では「花金」と呼ばれる週末。明日からの土日という楽しい2日間をどう過ごそうか、それとも今夜どう楽しもうかを沢山の人たちが考えているこの時間帯、開いている店と言えば飲み屋やコンビニ、そして最近増えてきた24時間営業のスーパーぐらい。他には夜勤で働く人たちがいる工場などがちらほらとあり建物から明かりが漏れている場所がほとんどなく電灯の明かりが優しく照らされる夜の街で独身の冴えない眼鏡女子の会社員、赤江 渚(あかえ なぎさ)は家路を急いでいた。

毎日朝の9時から出社しての8時間勤務、1時間休憩を含め18時が定時での退勤なのだがそういう訳にも行かない、金曜日は特になのだが帰り際に上司の取口(とりぐち)部長から必ずと言って良いほど呼び止められて書類を押し付けられ毎日の様に残業が加算されすぎており毎月60時間以上の計算となりため息の日々。正直三六協定はどこへやら・・・。

ある週の金曜日、毎度の様に帰り際の渚を取口が呼び止めた。

取口「渚ちゃーん、今週も頼むよ、うちのチーム書類が立て込んでいるから進めておかないとね。」

渚「はーい・・・。」

 正直言ってしまうと原因は取口による書類の記入ミスや漏れによるものなのだが、本人は早々と定時に上がり気の合う仲間と逃げる様に近くの繁華街へ呑みに行ってしまう。今週に至っては残業はタイムカードを切ってから行うようにとも言いだした。何て卑怯な奴なんだと、やはりブラック企業の従業員の扱いは酷いなと身をもって学んだ今日この頃。

 そんな中、最近巷で噂になっている事があった。特に地元の暴走族や走り屋を中心になのだが『赤いエボⅢに見つかると警察に捕まる』との事だ。通称『赤鬼』。毎週金曜日の夜に県内の暴走族や走り屋のスポットとなっている山に4WD車1台で行っては暴走行為、走り屋行為をしている奴らを一掃しているらしい。正体は未だ不明で年齢や性別など諸々全てが分かっていない。一部の人間には『赤鬼は警察の人間だ』とも言われている。

 会社でもその噂で持ちきりだった。丁度よく今日は金曜日。

取口「皆聞いたか、先週の金曜日にまた『赤鬼』が出たらしいぞ。今夜も出るかもな。」

女性「怖い、今夜は私も早く家に帰ろう。」

渚「何言ってんの、今日も残業でしょ・・・。」

女性「噂なんだけどさ、『赤鬼』って本当はとっても綺麗な女子なんだって。あんたとはかけ離れているね。」

渚「何馬鹿なこと言ってんの、早く仕事終わらせようよ、帰ってドラマ見たいもん。」

その頃警察署長の宇治(うじ)に連絡が入った。M山に暴走族と走り屋の集団が今夜集まろうとしているらしい。走り屋の集団には住民に迷惑を掛ける人間達のチームと掛けない人間達のチームに分かれていて今夜集まるのは迷惑を掛けない方のチームらしい。このチームのリーダーはかなり真面目で休日はボランティア活動に勤しみ警察にも協力的だ。

しかし問題は暴走族の方だ、近所での暴走行為、騒音によるトラブル、暴力沙汰と迷惑のオンパレードだ。対策を練る必要があると思い宇治は走り屋チームのリーダーである阿久津(あくつ)に連絡を入れ救済を求めた。

阿久津「そうですか、僕たちに出来る事なら何でも仰ってください。」

宇治「助かりますよ、あなたがいてくれてよかった。さてと・・・。」

阿久津「どうしたんですか?」

宇治「いや、何でもないです。では、ご協力をお願いします。」

押し付けられた書類を21時頃に済ませ渚は自宅に着いてすぐに衣服を着替えメイクを直し愛車に乗り込み隣町の山へと向かう。自分には似合わないなと思いながら学生の頃から憧れていたこの車に今自分が乗っていると思うとぞくぞくする。エンジンを付けようとした時に電話が鳴った。

渚「・・・分かりました。お任せください。」

 愛車は赤いエボⅢ、そう、実は渚が通称『赤鬼』なのだ。先程の電話は宇治からの物で協力を求めてきた。阿久津のチームと協力して暴走族を止めておいて欲しい、山の反対側の出口でパトカーを集めて防衛線を張っておくからとの事だった。

 山頂で阿久津のチームを見つけ車を止めると阿久津が近づいて来た。出来るだけ顔を見られたくないので窓を少しだけ開けて目だけを出した。度入りのカラコンを使用しているのでよくある事なのだが・・・。

阿久津「初めまして、地元で走り屋のチームをしてます阿久津と言います・・・、外人さん?!英語喋れるかな・・・。Nice to mee…」

渚「日本語で大丈夫、初めまして、『ナギ』と呼んでください。」

 『ナギ』って・・・、自分でもセンスのないネーミングだと思いながらため息をついた。普段とは違いクールなキャラを保っていた。

阿久津「今夜の作戦は聞いてますか?」

渚「山の向こう側の出入口にパトカーで防衛線を張ってるから私たちで暴走族を追い込む・・・、ですよね?」

阿久津「その通り、そして後ろからも数台警察の人たちが俺たちに紛れて追いかけて来るから挟み撃ちにしていく作戦だ。宇治署長に言って一応障害物として廃車になっている車を数台置かせて貰っているからうまく避けて欲しい。」

渚「私たち避けれるかしら。」

阿久津「ナギさんはそこまで下手じゃないでしょ。」

渚「それはお互い様でしょ。」

阿久津「ははは、この無線機を付けておいて欲しい、話せると助かる。それと暴走族が来るまでは目立たないように車にこの黒いカバーをしておいて。」

 渚は言われた通りにカバーをして車の陰で息をひそめていた。しばらくしてけたたましい排気音(エキゾースト)を轟かせ暴走族のバイク集団が現れた。車線なんてお構いなしだと言わんばかりに横一線に広がっている。彼らは阿久津や渚の車に気付くことなく向こう側の出入口に向かって山道を降りていった。

 走り屋たちはカバーを取り静かに車を走らせた、排気音を少しでも出すと作戦がバレてしまう。

 数か所のコーナーというコーナーをドリフトでクリアしていく。ガードレールに取り付けられたライトで道路が明るく照らされていたため本当はいけないのだがヘッドライトを切ってでも走れる状態だったので暴走族のバイクには簡単に近づけた。

暴走族「んだぁ、こいつらぁ!!」

暴走族「ざけんじゃねぇ、撒くぞごるぁ!!」

 暴走族がスピードを上げる。山の中腹に差し掛かる。無線機から阿久津の声がした。

阿久津「ナギ、そろそろ障害物の廃車が見えてくるから上手く避けてくれ。」

渚「了解・・・。」

 そこから数キロ走ったところにある廃車に数台のバイクが引っかかっていた。後ろから追いかけてきた警官が暴走族を逮捕していき、バイクをトラックの荷台に乗せていく。

 そして最終コーナーを回り阿久津と渚の前にはバイクが2台・・・、多分総長クラスだろう。出入口に差し掛かりパトカーや交通機動隊の白バイで張られた防衛線で2台を止めようとしたので暴走族は引き返して逃げようとした。そこを阿久津と渚が息をピッタリと合わせ車を横に向け通せんぼうをする、諦めてバイクを乗り捨てた暴走族は横から逃げようとしたが駐車場付近の茂みに落ちて警察の用意した深めのマットに落ち込んで逮捕された。

暴走族「こん畜生!!!」

暴走族「覚えてろ!!!」

 パトカーに押し込まれる暴走族を横目に宇治が渚と阿久津に近づいてお礼を言おうとしたが車は2台とも消えていた。電話を掛けたが2人共繋がらなかった上に走り屋たちの無線機にも反応がない。

宇治「まぁ、いいか。」

新人警官「よろしいのですか?」

宇治「ああ、君もいずれは分かるだろうさ。撤収だ、帰って呑むぞ!!!」

月曜の朝まで2人を見た者はいなかったという・・・。

月夜が照らす海を背景にただスキール音が響き渡っていた・・・。

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    -120 神の加護- 珠洲田は顔見せを終えるとすぐに渚の車を見回し始めた。ただ初めて見るにしてはやけに詳しそうに軍手をした両手で所々をいじりながら、そして何処か懐かしそうに見ている。珠洲田「このエボⅢって確か・・・。ここが・・・、うん。やっぱりか。」光「この車をご存知なんですか?」珠洲田「いや実はね、あっちの世界にいた時なんですが三菱の修理工場やチューンアップパーツの店で働いてた事がありましてね。その時色々いじったエボⅢに似ているんですよ。」 光が珠洲田の様子をしばらくの間見ていたら、お茶を飲みに行き戻って来た渚が思い出したかのように話しかけた。渚「あれ?もしかして、あんたスーさんかい?三菱にいていつもこのエボⅢのチューニングを頼んでいた、ほらあたしだよ。渚。」珠洲田「な・・・ぎ・・・、あんたなっちょか。やっぱり見覚えのあるエボⅢだと思ったんだよ。」渚「いや、全然変わらないね、スーさん。あんただったら何でも頼める気がするよ。」 どうやら2人は小学生時代からの幼馴染らしく、ずっと登下校は一緒だったという。高校はお互い別々だったのだが、渚がエボⅢを購入し「赤鬼」として散々乗り回した結果、ガソリンタンクに小さくだが穴が開いたりトランスミッションとギアボックスが故障した事をきっかけに修理工場で再会して今に至ったという。因みに渚は珠洲田の初恋の人だったそうだ、エボⅢに乗る姿に惚れていたらしい。珠洲田「事故で亡くなったって聞いたよ、でも元気そうで何よりだ。」渚「実は事故る寸前にこの世界のダンラルタっていう王国の峠にこの車ごと転生してきたらしいのさ、峠から峠だったもんだから最初は全然気づかなかったんだけどいつの間にかね。後からクォーツって神様に向こうの世界での事を聞いてやっと実感が湧いたって訳。どうやらその神様がこっちの言語を脳に入れ込んで、そのついでにこの車も運んできてくれたらしいのさ。」珠洲田「あらまぁ・・・、それにしても元気そうで何よりだ。よし、懐かしの車をこっちの物として作り替えるか。久々だな、こいつのキーを回すのは。」 珠洲田は昔懐かしい幼馴染の愛車のエンジンを起動して、自らの店に持っていこうとするとすぐに異変に気付いた。あの頃とは音が全く違って聞こえて来るらしい。珠洲田「あれ・・・?何か音が違うな・・・。」渚「実はね・・・、さっき言った

  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   3. 「異世界ほのぼの日記」119

    -119 渚の新居- その場の雰囲気と場の流れに身を任せ、光は先程答えを聞けなかった質問を渚に再度ぶつけた。まさかこんな奇跡が起こるとは、きっともう一生ないだろう。光「ねぇ、母さん。さっきは上手くスルーされたけどやっぱりウチに住まない?」渚「良いのかい?あんたの家、エボⅢ置けんの?」 流石に愛車をずっと『アイテムボックス』の中に入れておくのはもうウンザリだそうなのだ。学生の頃からずっと憧れていてやっとの思いで買った自慢の愛車、やっぱり太陽の下で眺めていたい。その上別に無制限なので気にしてはいないがかなり容量を使う、そして正直に言うと『アイテムボックス』内で物を探すのに少し邪魔となっている。光「エボⅢの駐車場位余裕で用意するから。それに毎晩銭湯に行ってたらそりゃお金かかるよ、ウチにも露天風呂作っているから背中位流させて。」渚「そうかい・・・?じゃあ、お世話になろうかね。」林田「そうと決まれば皆で引っ越しの手伝いしますよ。」 渚は少し申し訳なさそうな表情をしていた、理由は本人の部屋に入るとすぐに発覚した。光が『瞬間移動』を渚に『付与』すると、渚は使い慣れていたかのようにすぐにその場にいた全員を連れて行った。渚「い・・・、いらっしゃい・・・。」 以前言っていた通り部屋は風呂なし、6畳1ルーム。トイレと洗面台と簡易的なキッチンが設置されていたその部屋には、テレビと小さなテーブルに何故かウォーターベッド置かれている、ベッドはピンク色で真ん中に大きく「我愛你(I Love You)」と書かれている見た側が確実に恥ずかしくなる物で光は正直家に持ち込みたくなかったが渚のお気に入りなので許すことにした。渚「だから手伝って貰う程じゃないって言ったの。」 頭を掻きながら渚は顔を赤らめ恥ずかしそうにしていた、そして林田とナルリスに聞こえない位の小声で少し笑いながら何かを耳打ちした。 それを聞いた瞬間に光は先程の渚以上に顔を赤らめ3つ隣の部屋に響く位の大声で叫んだ。光「お母さん!!これ、持ち込み禁止!!!!」林田「渚さん・・・、娘さんによっぽどな事を言ったんですね。」ナルリス「敢えて聞かないでおきます。」 光は涙を流しながら答えた。光「絶対聞かないで下さい・・・。」 さて、光一行は気を取り直して挨拶を兼ねて大家の所に許可を得に行った。引っ越す事が出来る

  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   3. 「異世界ほのぼの日記」118

    -118 違和感と事情- 今思えば的な話なのだが、光や渚は転生してからあまり年を取った実感が湧いていない事に気づいた。何となくだが自分達だけ時間が止まっている様な、今会ったばかりの林田警部も久々に会うのに何の変化も感じない。林田「私もこの世界に転生してからしばらくして知ったのですが、どうやら転生者は年を取らなくなっているみたいです。本来なら今頃私も白髪の爺さんですから。」 言われてみれば確かに林田は光とこの世界で初めて出会った時と変わらず黒髪の立派な50代の紳士の姿をずっとキープしている。渚「確かにそうだね、今頃私ゃ腰の曲がった婆さんになっていてもおかしくないもんね。」林田「渚さん・・・、それは言い過ぎでしょ。」渚「ジョークジョーク。」 渚のお陰でその場が和んだ所で光は気になっていた事が2つあったので渚に聞いてみることにした、1つは個人的な事だがもう1つは重要な事できっと林田も気になっているはずだからだ。光「そういえば母さん、普段使っていた眼鏡どうしたの?」渚「ああ、言ってなかったかい?あれ伊達メガネだったんだよ、自分が「赤鬼」だってバレたくなかったからね。この世界では隠す必要がなくなったからずっとこのままでいるのさ。」 そう、久々に会った母親は「赤鬼」としてエボⅢに乗っていた時と変わらない姿でずっといるのだ。会社員と走り屋の2つの顔の両立は意外に難しかったらしい。 そしてもう1つ、林田も気になっていたであろう質問をぶつけた。光「ねぇ・・・、父さんはこの世界に来ているの?」渚「残念だけどこっちの世界に来てから見かけてないねぇ、私も八百屋の仕事が休みの時に探してはいるんだがね。」林田「渚さん・・・、ご主人はやはり阿久津さんだったのでしょうか。」渚「うん、確かにこの子の父親は当時走り屋のリーダーをしていた阿久津だよ。でも事情があってこの子にはずっと「吉村」って名乗らせていたんだ。」光「母さん・・・、どうして私は「赤江」でも「阿久津」でもなく「吉村」なの?」 渚は頬に手を当てながら近くのベンチに座ろうと提案した後、重い口を開いた。渚「知っていたと思うけど私のお母さん、つまりあんたのおばあちゃんの旧姓が「吉村」だったんだよ。実は当時「阿久津」も「赤江」も代々広域暴力団の家系で世間では余り良いイメージでは無かったんだ、あたしも父さんも実家

  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   3. 「異世界ほのぼの日記」117

    -117 不自然な事象- ナルリスは渚がアイテムボックスから出した愛車・エボⅢを見て驚きを隠せずにいた。この世界では大抵の者が珠洲田製の軽自動車に乗っていて、乗用車を持っているのは都市圏に住む金持ちや貴族が殆どだ。ナルリス「光・・・、貴族様だったの?」 こう聞きたくなるのも無理は無い、しかし光はごく普通の一般市民だ。ただ神様の力により全財産の金額がとんでもなくなっているが。その事が冒険者ギルドで発覚してから光は決して言わないでおこうと誓っていた、ただ普段地下倉庫にしまっているカフェラッテを含めて愛車が2台ある時点で怪しまれても仕方ない。 一先ず話題を変えようと渚に質問をぶつけた。光「母さんは今どこに住んでいるの?」 かなり久々に、しかもこの異世界で亡くなったはずの母親との再会は本当に感動的で願わくば一緒に住めないかと思っていた。渚「今ね・・・、ネフェテルサ王国って所の団地かなぁ。」ナルリス「団地に住んでる方がお持ちのお車には思えないのですが。」渚「やっぱりそういう理由なのかな。何処も止める所がなくてね、いつも『アイテムボックス』に入れてんのよ。つい最近の事だけど今住んでる所に引っ越す時に大家さんに言って駐車場を確保してもらおうとしたら何故か入居自体を拒否されかけちゃったけど、そういう訳だったのね。」 違う、そういう訳では無い。後で分かった事なのだが大家にとったら皆軽しか乗らないのでその分の駐車場しか用意出来てなかった為に渚のエボⅢが大きすぎて困惑してしまったのだ、きっと駐車しようとしたら白線からかなりはみ出てしまう。別に入居を拒否した訳では無いらしく、ただの言い間違いだった。光「団地なんてあったっけ?」ナルリス「確か・・・、お風呂山の手前だった様な。」渚「そうそう、だから今みたいな風呂なしアパートでも問題なし。」 光は決して聞き逃さなかった、自分の母親が風呂なしアパートに住んでるって?自分は神様に貰った財産で一軒家を購入、それに対して親は風呂なしアパート暮らし・・・。何となく気になる事を聞いてみた。光「母さん・・・、家賃いくらの所なの?」渚「月3万8千円だったかな、八百屋の給料って安くてね。あんたはどこで働いている訳?」光「パン屋さん・・・、かな。」 真実を伝えその場を治めた。実はこの世界では冒険者ギルドに登録しているかどうかで

  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   3. 「異世界ほのぼの日記」116

    -116 桜とそよ風が連れてきた故人- 光はビール片手に幼少の思い出に浸っていた、桜は若くして亡くなってしまった母・渚との数少ない思い出の花だ。 今いる遊歩道と同様に家のすぐ近くに桜の花が綺麗に見えるスポットのあった場所に住んでいた頃の光の小さな手を引いてゆっくりと歩く渚の姿は美しく優しい印象で光の目に焼き付いていた、とても巷で「赤鬼」と呼ばれていた走り屋に思えない。 桜の花を眺める度に光は母の穏やかだった顔や温かかった手を思い出して涙を流した。ナルリス「優しい・・・、お母さんだったんだな。」光「うん、桜を見る度いつも思うの。一度でも良いから母に会って一緒にお酒を呑めたらなって。何かね、桜の花の1つ1つが母の温かみを思い出させてくれてこの時だけ何となく子供の頃の気持ちに戻れる気がするんだ。」 ナルリスは知らぬ間に光が右手に持つ酒が缶ビールから紙コップに入った日本酒に変わっている事に気づいた。表情が先程以上に赤くなっている事も、そして涙もろくなっている事も納得がいく。光「多分母は今の私の姿を見ても私に気付く事は無いだろうけど会えたら声を掛けたい、産んでくれてありがとうって感謝の言葉を言いながら日本酒を注ぎたいな。」 その時、ふんわりとした風により散った桜の花びらが1枚光の日本酒の表面に乗った。風に身を任せゆらゆらと揺れながら浮かんでいる。光「会えたらな・・・、会いたいな・・・。後で仏壇にこの日本酒をお供えしよう。」 いつの間に、そしてどこから仕入れたのか分からないが左手に一升瓶を持っている。酔ったせいか幻聴らしき女性の声がし始めた。女性「光、大きくなったね。」光「えっ・・・?」 光は涙ながらに声の方に振り向いた、しかしこちらを向く女性の姿は全くない。その代わりに桜の花びらがそよ風に乗り頬をかすめた。 ナルリスが目を丸くして光の方を見ている。ナルリス「何かあった?」光「いや・・・、何でも無い。ごめん。」 どうやら今の声はナルリスに聞こえてなかったらしい、やはり今の声はただの幻聴だったのだろうか。女性「光・・・、こっち。注いでくれる?」 振り向くと光に紙コップを差し出す女性が1人、どうやらほろ酔いらしく表情が赤くなっている。光「気のせいかな・・・、悪酔いしたかも。隣にお母さんに似た人がいるんだけど。」 光の隣でナルリスがガタガタ

  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   3. 「異世界ほのぼの日記」115

    -115 陽気に誘われて- 過ごしやすいぽかぽかと暖かな陽気、いい意味で眠気を誘うこの気候が光は大好きだった。日本で言うと3月~4月のこの優しさの溢れる気候、桜の花びらが開き沢山の人々を優しく迎える花見の時期。四季を全く実感しないネフェテルサでもこの気候に出逢えて嬉しく思っていた。 光は日本にいた頃からこの時期必ず行っていた事があった、唐揚げの油で口を光らせながら思い出に浸るためにスマホのフォトアプリを起動して写真を出しナルリスに見せることにした。ナルリス「こんな花道を歩きながら美味しくビールが呑みたいって?」 日本にいた頃、光の自宅から歩いて5分もしない距離に遊歩道沿いに咲き誇る桜がとても綺麗な公園があった。光は毎年の開花予測と休日をチェックして時には有休を取得してでもその公園に出かけ、ビール片手に歩きながら桜を愛でていた。 幾度表情を変える桜の花や木々の姿を残そうと毎年必ず写真を撮り、フォトアプリに残している。その膨大と言える量の桜の写真をナルリスに見せていた。光「この世界で出来る場所無いかな?」 キラキラと目を輝かせる光の期待に応えようとナルリスは思いつく限りのスポットを雑誌を見せながら提示した、どれも日本での写真に劣る事の無い綺麗さを誇っている。どうやらこの国でもきれいな桜が楽しめる様だ。 テレビのニュースなどでネフェテルサでの開花予測を調べてみると1番早くて2日後、光のパン屋の仕事も丁度休みで嬉しさの余り飛び上がっている。その表情を見てナルリスは安心した、当日は雑誌にも載っていた近所の遊歩道を歩く事にしてその日は眠る事にした。 翌日、その日は1日パン屋の仕事があったので表情に出ない様に必死になっていたが明らかに思考が駄々洩れになってしまっていたらしく、キェルダに何かしらを汲み取られていた。キェルダ「あんた・・・、ニヤついてるけど何かあった?」光「いやぁー、別にー。いつも通りですよ。」 明日が楽しみすぎて仕事中ずっと顔が赤い、しかし仕事はしっかりしているから文句は言えないので店長のラリーは開店中の間そっとしておく事にした。そして売れ残りのパンを回収し、閉店準備をし始めた時に聞いてみる事に。ラリー「どうした光ちゃん、明日の休みにナルリスとデートでもするのかい?」光「デートだなんて店長ったらもぉー!!」 嬉しさの余り店長の肩を軽く

  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   3. 「異世界ほのぼの日記」114

    -114 恋人の幸せ-店主「唐揚げ・・・、ですか?」 光の口から放たれた言葉が意外過ぎて開いた口が塞がらない主人は同行していたナルリスの方を向いた。ナルリス「すみません・・・、本人はどうしても唐揚げを肴にビールが呑みたかったらしくそこの空になりかけたガラスケースを見て愕然としているみたいでして。」店主「そうですか・・・、それは大変申し訳ございません。今すぐ作りますのでお待ち頂けますか?」 店主が急ぎ足で店の奥の調理場へ行くと、奥から油で沢山の肉を揚げる音がし始めた。音の大きさからかなりの量だと見受けできる。光の感情を汲み取った店主が小皿と箸、そして缶ビールを持って奥から出てきた。店主「先程のお詫びと言っては何ですがこちらをお召し上がり頂きながらもう少々お待ち頂けますでしょうか、こちらの缶ビールは私からの先日のお礼です。」 缶ビールを受け取ると小皿に乗った熱々の唐揚げを一口齧り勢いよく流し込んだ、少し落ち着きを見せたらしく涙ながらに唐揚げを楽しんでいる。勢いよく口に流れ込む肉汁が光の舌を喜ばせた。店主「お待たせいたしました!!」 その声の後、ガラスケースに大量の唐揚げが流れ込み始めた。その光景を見た瞬間、光が立ちあがる。光「それ、全部下さい!!」店主「吉村様・・・、今何と?」光「だからそれ・・・、全部下さい!!」 店主は手を止め、持っていた出来立ての唐揚げを全て紙袋に入れ始めた。ただ横でナルリスがずっと焦っている。ナルリス「おいおい・・・、足らなかったら俺が揚げるって。」光「ここのを全部買った上で帰ってからナルリスに追加を揚げて欲しいの!!」 どうやら久方ぶりに光の「大食い」が発揮されようとしていた。家の冷蔵庫には缶ビールが大量にある、それを大好きなナルリスと存分に呑みたいと思っている光の感情を汲んだヴァンパイアは店にあった鶏もも肉を大量に買い込んだ。そして漬けダレの材料も併せて購入し、何とか恋人を納得させた。店主「ははは・・・、また凄い量ですけど大丈夫ですか?」ナルリス「本人・・・、大食いですから。」 一先ず会計へと移る、店主のレジを打つ指がずっと震えていた。店主「お待たせいたしました、合計86万4677円でございます。」 店主は驚きを隠せない、何故なら唐揚げ含め鶏肉だけでこんな金額になったのは人生で初めてだったからだ。

  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   3. 「異世界ほのぼの日記」113

    -113 唐揚げへの欲望- 光は唐揚げセットを完食して店を出る事にした、グラスに入ったお冷を飲み干し会計へと移った。代金を支払い自動ドアを抜け街へと出る、新鮮な外の空気を胸いっぱいに吸い込んだ光に夫婦が声をかけた。2人「ありがとうございます、またお越しくださいませ。」 別に用事がある訳では無いのだが家路を急ぎ家の敷地へと入ると、家に入らず裏庭に行き地下へと降りて大型冷蔵庫までダッシュした。勢いそのままに冷蔵庫を開けると缶ビールに手を伸ばし一気に煽った、先程の唐揚げの味を思い出すだけでビールが進んでいく。まるでダクトの下で白飯だけを食うホームレスの様だった事に気づくと、一応光本人しか入る事がない地下だったのだが思わず周囲に人がいないかを確認してしまった。 その後、余韻に浸りながら一言呟く。光「唐揚げ・・・、食べたい。美味しくビール・・・、呑みたい・・・。」 目の前の冷蔵庫には缶ビールはたっぷりあるのだが、唐揚げの材料は全く入っていない。深呼吸して冷静さを取り戻し、家の中の冷蔵庫を確認する。昨日の残りのカレールーが入ったタッパーは目の前に映ったが、こちらの冷蔵庫にも唐揚げに出来る様な肉類は全く入っていない。光「少しの我慢・・・、少しだけだから。」 家から『瞬間移動』して先日お世話になったお肉屋さんへと向かい、店に入ろうとしたがまさかの行列に捕まってしまった。 店先に「本日全商品3割引き」ののぼりが出ている。どうやら月に1回だけ開催される特売日らしく、これはチャンスだと皆がこぞってやって来ていた。 その行列の中に見覚えのある男性の人影を見かけた、料理上手の人影。ただ唐揚げとビールの事で頭がいっぱいになっていたせいか、誰か思い出せない。男性「光?こんな所で何やってんの?というか何かぼぉー・・・っとしてない?」光「ビール・・・、ビール・・・、今すぐビールが吞みたい・・・。」 すると店内から良い匂いがし始めた、光の鼻を刺激する匂い。今何よりも欲しい物の匂い、目を閉じると光にとって神々しくあるその姿が浮かぶ。光「唐揚げ・・・。」 匂いにつられ涎が出てきたので恥ずかしくなり顔を赤らめた男性は慌ててポケットティッシュを取り出した、それを見て行列に並ぶ皆がくすくすと笑っている。男性「とにかく光、目を覚ませ!!俺の事分かるか?!」光「男の人の声・・・、

  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   3. 「異世界ほのぼの日記」112

    -112 唐揚げと嫁の威力- マスター拘りのゆったりとした雰囲気にぴったりのBGMに耳を傾けながら冷めない内にと思いつつゆっくりとコーヒーを楽しむ光、今日はいつもと違った気分にもなり始めていた。 またいつもの様に光の表情を読み取った奥さんがメニューを手渡し、空になりかけていたグラスに水を追加する。冷え冷えの水で口をリセットしながら熟考した光が口を開いた瞬間マスターが一言。マスター「唐揚げですか?」光「な・・・、何で分かったんですか?」 怖くなってくる程ではないがマスターはいつも光が言おうとしている事が分かってしまうのでいつも驚かされる、試しに他のお客さんでもいつもこうなのかと奥さんに聞いてみた。奥さん「いや、光さんだけですね。」 自分では気づいてないだけで実は表情から気持ちが駄々洩れしているのではないかと光は少し顔を赤らめた。 そして恥ずかしがりながら注文をする。光「唐揚げ・・・、お願いします。」 光のこの言葉を待っていたかのように注文した瞬間奥の調理場から油で唐揚げを揚げる音が聞こえてきた、よく見てみると白飯とサラダがもう既にセットされている。 私が他の物を注文したらどうするつもりだったのだろうと疑問に思いつつ、良い香りにつられ空腹になって来た光は内心ワクワクしながら唐揚げを待った。 数分後、カラッと揚がった唐揚げが乗ったセットが光のもとに運ばれた。奥さん「お待たせしました、唐揚げです。」 その後耳打ちで笑顔の奥さんにおまけしておきましたからと言われた光の表情は少しニヤついていた。 幼少の頃から野菜から食べる様にと母・渚に教育されて来たので最初の1口としてサラダに箸を延ばした。酸味のあるドレッシングとサクサクのクルトンが食欲を湧かせ、シャキシャキのレタスが一層美味く感じた。 そして意気込みながらメインの唐揚げに移る、息で冷ます事無く敢えて熱々のまま口に入れると溢れる肉汁が光を感動させた。 勿論白米がどんどん進んでいく、さっぱりと楽しめる様にどうやらポン酢ベースのソースがかかっているらしく、それが光にとって何よりも嬉しかった。 ビールがあったら絶対頼んでいるわと思わせるその味の虜になっていたので、いつの間にか白飯が無くなっていた。 唐揚げ1個でご飯1杯を平らげたのは人生で初めてだったので少し焦りの表情を見せつつも、恐る恐る聞い

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