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3. 「異世界ほのぼの日記」①~⑤

Author: 佐行 院
last update Last Updated: 2025-01-21 11:38:42

3.「異世界ほのぼの日記~日本に似て便利な世界でぷらぷら生活~」

佐行 院

-①突然の異世界-

 ここは東京、現在20XX年、去年からより酷く進みだした地球温暖化により7月8月における1日の平均気温が40度を超える様になってしまった今日この頃、営業職の女子社員・吉村 光(よしむら あかり)は営業先への外回りに出ていた。日差しがまぶしい、正午となり昼休み。1日の中でも1番暑い時間帯を迎え涼を求めて多くの人が喫茶店やレストランで食事を取っていた、光もその1人になろうと店を探していた。

光「お腹空いたし暑くて何もする気しないよ、何食べようかな・・・。」

 街は誘惑に溢れているがどこのお店も満席でなかなか食事にありつけない。そんな中、1軒の中華屋さんを見つけた。夏の風物詩となった『冷やし中華はじめました』の看板が出ている。ちょうどそこから男性が2人出てきた。

男性①「いや、美味かったな。」

男性②「そっすね、これで午後からも頑張れますよ。」

光「羨ましいな・・・、あたしも冷やし中華にしよう。」

 ひんやりと冷たい冷やし中華、細切りの胡瓜やハム、そして錦糸卵が乗っておりトマトが彩りを加える。横に添えられた練りからしが味のアクセントとなって美味な1杯を想像し光は店内に入った、涼を得たいという同じ考えの人間たちで賑わっており店の中は常に満席で4~5人ほど待ちが生じていた。このお店は回転率がいいらしく15分ほどで席へ案内されお品書きを見ずにすぐ冷やし中華を注文した、このお店ではポン酢だれか胡麻だれを選べるらしく光は胡麻だれを選んだ。女将さんに渡されたお冷が嬉しくて、光は4杯もお代わりしてしまった。

女将「そんなに慌てて沢山飲むとお腹壊して冷やし中華が食べれなくなるよ。」

光「暑くて仕方無いんだもん。それよりおばちゃーん、お腹空いたよー。」

女将「『お姉さん』だろ、この子にはお仕置きが必要かもね。」

光「勘弁してよー。」

女将「冗談だよ、もう少し待ってな。」

 暫くして注文した胡麻の冷やし中華がやって来た、光は麺に胡麻だれを絡ませ啜った。啜りきったその顔は恍惚に満ち溢れていた。瑞々しくシャキシャキの胡瓜が嬉しい、光は夢中になって食べていた。そこに女将さんがやって来て餃子の乗った小皿を置いた。

女将「サービスだよ、あんたの食べ方が気持ちよくてね。食べていきな。」

光「ありがとう、おば・・・、お姉さん。」

女将「ふふ・・・、分かっているじゃないか。」

 夢中になりながら腹を満たし光は冷房の効いた店内を出て猛暑の中、寄巻(よりまき)部長から連絡を受けたので本社のオフィスへと戻ることにした。部下思いなのは良いのだが心配性すぎるのが玉に瑕(きず)な上司であった。

寄巻(通話)「大丈夫か、水分ちゃんと取りながら帰ってくるんだぞ。」

光「分かってますよ部長、あともうちょっとで社に着くから切りますよ。」

寄巻(通話)「本当か、冷えた麦茶淹れて待ってるからな。」

光「ははは・・・、楽しみにしてま・・・、す・・・バタン!!!」

寄巻(通話)「お、おい!!大丈夫か?!返事をしろ!!おい!!」

 汗で衣服がびしょびしょになり頭がくらくらしてくる程の猛暑のお陰で光は倒れてしまった、意識がどんどんとどんどんと薄れていく・・・。

 しばらくして目が覚めると全体的に木製で6畳ほどの部屋に置かれたシングルベッドの上に寝ていた、開いていた出窓から優しく涼しげな風が入ってきてカーテンを揺らす。光は目を擦り、起き上がろうとした。

光「ここは・・・、どこ?夢?」

 光は試しに頬をつねり痛みを感じた、部屋に姿見があったのでベッドから起きて自分の姿を確認した。少し前に冷やし中華を食べた時と同じ水色のパンツスーツで光そのもの姿だった、本当に異世界に転生してしまったのだろうか。

光「まさか、・・・、気のせい・・・、だよね・・・。もう1回寝たら元の世界に・・・。」

 ベッドに入り寝ようとしていたその時、部屋の隅の扉が開いてヨーロッパの山間部の民族衣装のような衣服に身を包んだ女性が入って来た。青い目をしているのでどうやら日本人では無いらしい、女性は笑顔で光に声をかけてきた。本当に異世界転生したらしい。

-②異世界?日本?どっち?-

 部屋の扉を開けて女性が光に声を掛けてきた、光にとって何となく予想はしていたが最も困った事態が起こった。

女性「・・・・・・・、・・・・・・・(異世界語)。」

 そう、言語が分からない。しかしその問題もすぐに思った以上に呆気なく解決した。

女性「ん?大丈夫かい?あんた昨日の朝川辺で倒れてたから雑貨屋のゲオルさんに担いでもらって来たんだよ。」

光「え?」

女性「どうやら言葉は話せるみたいだね、下で朝ご飯の準備をしているから降りてきな。」

光「あ・・・、はい・・・。」

女性「そう言えば、あんた名前は?」

光「光です・・・、吉村 光。」

女性「光ね、良い名じゃないか。あたしゃネスタ、よろしくね。早く降りてくるんだよ。」

 光は頷いてネスタを見送り、起き上がりベッドから出た。出窓からはヨーロッパの農村の風景が広がっている。私道はアスファルトではなく石畳で主の道路は舗装されていない道が続いていた、子供たちが笑顔で外を駆け回り大人たちは楽し気に談笑していて日本とは真逆で皆ゆったりと過ごしていた。

 光は部屋を出て階段を降り、ダイニングに入った。異世界で最初の食事だ。

ネスタ「あ、降りてきたね、いらっしゃい。」

光「お腹空いちゃって、良い匂いだったのでつい・・・。」

ネスタ「フフフ・・・、早く座りな。」

 光はパンがメインの洋風で温かな美味しいスープが真ん中に置かれたテーブルを想像した。しかしそこにあったのは茶碗の白米に焼き鮭をメインとし、お味噌汁の香りが食欲を誘う和定食の朝ごはんだった。

光「日本・・・、みたい・・・。」

ネスタ「ニ、ニホン?どこだいそこは?そんな名前の国聞いた事無いねえ。」

光「じゃあ・・・、ここは?」

ネスタ「あんたここの人じゃないのかい?ここはネフェテルサ王国、人民に優しい王族が統べる至って平和な国さ。」

光「ネフェテルサ・・・。」

 光は未だ違和感を感じながら出された朝ごはんを食べる、お腹を満たしながらネスタに色々と聞かれた。光は日本の暑さにやられ倒れたらしく、気付いたらベッドで寝ていた事を明かした。

 今思えばどうして急に言語が分かるようになったのだろうか。

食事を終え片づけをするネスタを手伝いダイニングから自分が寝ていたベッドのある部屋に戻ったその時、幻聴のような声が聞こえた。

声「気が付いたか・・・。」

光「え?」

声「私は神だ、何も言わず目を閉じるが良い。」

 光は言われるがままに目を閉じた。夢の中でだが無限に宇宙がひろがり、そこにポツンと仙人の様に長く白い顎鬚をたくわえ、杖をつくご老人が立っていた。ご老人が近づくように手招きしてきている、光は言われるがままに近づいて行った。

光「あなたが神様・・・?」

神様「いかにも、熱中症で倒れていた君をこちらの世界に送ったのが私だ。」

光「じゃあ、突然言葉が分かるようになったのも・・・?」

神様「そうだ、私がやった。その方が便利だと思ってな、あとついでに色々と生活しやすいようにこの世界を作り変えたから安心して過ごすが良い。」

光「色々?」

神様「それは後々分かるさ、楽しみにしながらこの世界で過ごせ。」

光「私をここに送った理由って?私に勇者として何かを倒せとか?」

神様「いや、何もしなくていい。」

光「え?」

神様「だから何もしなくていいの、君日本では熱中症で死んだ事になってんのよ、だからこっちに送ってのほほんと過ごして貰おうと思って。ほら、これを見なさい。」

 神様は映像を出して光に見せた、そこには『故 吉村 光 告別式々場』と書かれた看板が掛けられ喪服を身に纏った多くの人が参列している。号泣している寄巻部長が一際目立っていた、本当に光は熱中症で亡くなったらしい。

-③神様によりできた便利な国-

 元居た世界で本当に自分が亡くなった事を知り光は涙を流した、神様は気まずそうにしている。

神様「うーん・・・、だから見せたくなかったの。無理くりこっちに連れてきたからせめてこの後の生活は出来るだけ何も気にしなくていいようにしたんだよ。」

光「分かった・・・。」

神様「気が向いたら様子を見に来るから元気でいろよ、便利なスキルを特別にあげるから許せ。とりあえず必要な物が手に入るスキルをやろう、出来るだけお前さんの世界に近いように国を作り替えたから他に必要な物はそれで作ると良い。では説明はちゃんとしたからな、しっかりと過ごせよ、じゃあな。」

 急に目の前が明るくなった、またベッドの上だ。どうやら神様に会っていた間ずっと光は倒れていた事になっていたらしくここまではネスタが運んでくれたようだ、どう説明しようか悩んでいたがすぐにどうでもよくなってしまった。光は神様が言ってたスキルを確認すべく異世界転生によくあるステータス画面を出してみた、どうやら両手をぐっと開き前に出して念じると出るらしい。神様のお陰で日本語で書かれているので見やすい、1番下のスキルの場所に『作成』という文字があったので試しに使ってみることにした。使用するには右手を前に出し欲しい物を念じるらしい。光は試しに『バランス栄養食』と念じてみた、すると有名なクッキーの様なブロック型の栄養食が出てきた、食べやすいチョコレート味とある。これは便利だと大切に使おうと思いながら栄養食を食べた。

 ずっとベッドに寝転んでいる訳にはいかないし、ずっとネスタの世話になっている訳にもいかないので光は一先ず外に出てみることにした。玄関を出ようとした光をネスタが呼び止めた。ダイニングに招き入れられお茶を振舞われた。

ネスタ「あんたそう言えば何の仕事してんだい?」

 ここは異世界、勿論今まで光のいた日本とは違う世界だ、企業向けOA商品の営業職と言っても分かってもらえないだろう。

光「団体向けの物売りの仕事を。」

ネスタ「じゃあ、冒険者とか勇者という訳では無いらしいね。」

光「冒険者?じゃあギルドとかもあるんですか?」

ネスタ「勿論さ、この辺りは農民が多いからこの辺の魔獣の駆除も頼んだらしてもらえるから助かっているんだよ。冒険者に登録をするならそこに行けばいいよ。」

光「とりあえず、辺りを散策してきます。」

ネスタ「はいよ、この服に着替えて、上の部屋は空けておくからいつでも帰ってきな。」

光「ありがとうございます、行ってきます。」

 ネスタの家を出た光は辺りを散策してみた、今必要なのは情報収集だ。街は石畳が敷かれレンガで出来た三角屋根の建物で溢れている、武器屋もあるみたいでこれぞ異世界という実感が湧く。それ以外にも屋台が数多く立ち並び地域で採れた農産物や畜産品、海産品が多く売られていた。出来立ての串焼き等の食べ物を売る屋台もあり賑わっていた。

 地域の公民館にある掲示板には日本語で書かれたポスター等が掲示されていた、多分元々異世界語で書かれたものが光の脳内で日本語に翻訳されているのだろうがもうそんな事は気にならなくなった。

 田園風景が広がる農村地帯には田を耕す人たちがちらほらといて米作りに勤しんでいた。米以外にも野菜に果物も作っているらしく、自給自足の生活をしている人たちが多いらしい。色々と疑問が生まれた光は田んぼの端で休憩する男性に聞いてみた。

光「すみません、随分と広い田んぼですがここの米は全部この地域の方々が自分達で食べるものなのですか?」

男性「いや、市場に出荷したりもするよ。」

光「じゃあ、どうやって運んでいるんですか、やっぱり馬車とかで?」

男性「あれがあるのに何で馬車なんか使うのさ。」

光「え?何あれ、えええええーーーーーーーーーーーーーーーーー?!」

 光は男性が指差した方向を見た。

 明らかにこの世界にふさわしくない乗り物が見える、どこからどう見ても軽トラだ。

光「ここ日本なの?!違和感ありすぎなんだけど!!」

男性「ん?ニホンって?それに農村には軽トラだろ。」

光「あ、ごめんなさい・・・。」

 ついついツッコミを入れてしまった、ここではこれが普通らしい、いや神様が普通にしたのだろう。でも辺りを見た感じではガソリンスタンドは見えない。光は男性にお願いして運転席を見せてもらう事にした。軽トラは2台あり、窓から覗くと1台はオートマでもう1台はマニュアル車らしいのが見える。ドアを開ければ至って普通の軽トラだが鍵を刺すはずの場所には青いクリスタルが埋められていた。

-④日本との違い-

 光は動力源が気になったので男性に質問してみた。

光「これはどうやって動かすんですか?」

男性「どうやってって・・・、このクラッチを踏んでここに魔力を流すだけだよ。」

 すると男性は青いクリスタルに指を近づけてクリスタルを光らせ軽トラを起動してみせた、もう1台はオートマなのでクラッチを踏む必要は勿論ない。

光「凄い・・・。」

男性「いや、この辺りじゃ普通だけど。」

光「え?」

男性「皆魔法を使えて当たり前じゃん。」

 光は驚くばかりだった、魔法があるのは流石異世界といえる。光も魔法を使ってみたいと思った。

光「よし・・・。」

 光は右手を前に出して『作成』スキルを使い魔力を作ってみた。全身が綺麗なオーラで纏われる、それをオートマの軽トラのクリスタルに指から流すと軽トラが起動した。

光「やった!」

男性「やるじゃないか、ただあんた、免許は?」

 光は日本にいた頃の免許証を出した、どうやらこっちの世界でも有効らしくすぐに乗れるらしい。日本語も向こうの言語に翻訳されて男性側には表示されているようだ。

男性「吉村 光か・・・、珍しい名前だな。俺はガイだ、よろしく。」

光「ガイさん、よろしくお願いします。これからまた色々と教えて下さい。」

ガイ「任せな、俺でよかったら何でも聞いてくれ。」

 頼もしい仲間が増えて光は嬉しかった。そう言えば1つ忘れていた事があった、雑貨屋に行かなければならない。ゲオルという人にお礼を言っておかなければならなかった、この世界に来た初日、川辺で倒れていた自分を運んできてくれた恩人だ。

光「ガイさん・・・、ここに雑貨屋さんってありますか?」

ガイ「食料の調達かい?街に入ってすぐの緑色の店だよ。」

光「ありがとうございます、行ってきます。」

 光はガイと別れ街へと向かった、街に入ってすぐの建物が緑色できっとそこが雑貨屋なのだと分かった。とりあえず中に入ってゲオルを探すことにした。重くて大きな赤い扉を開け・・・、ようとしたら自動で開いたので光はびっくりした。きっとこれも魔法なんだ、もしくは神様が便利なように作ってくれたんだと解釈した。

 扉から中に入って中の商品を物色しつつゲオルを探すことにした、中には塩や砂糖といった調味料から洗面用具など色々揃っていた。ただ、レトルトカレーやインスタントラーメンといった即席の食品まである、まるで日本のスーパーの中核といった加工食品(グロサリーともいう)コーナーだ。実はここ日本じゃないの?と勘違いしかけている。

 おっと、本題を忘れていた、ゲオルを探さないと。一先ず商品出しの仕事をしている店員さんに声を掛けた。

光「す・・・、すみません。」

店員「はい、いらっしゃいませ。」

光「ゲオルさんという方を探しているのですが。」

店員「ゲオル店長ですね、少々お待ちください。」

 店員はそう言うと奥へと消えていった。

 数秒後、音もなく光の背後に男性が出てきた。転移魔法でも使ったのだろうか。

ゲオル「お待たせいたしました、ああ・・・、あなたはあの時の。」

光「びっくりした・・・、どこから出てきたんですか?」

ゲオル「おっと大変失礼致しました、店内が広いもので移動には極力転移魔法を使うようにしているのです。それよりあなた・・・。」

光「そうでした、先日はありがとうございました。」

ゲオル「やはりそうでしたか、ご無事で何よりです。今はネスタさんの所に?」

光「そうですね・・・。」

 光はネスタにした過去の話をゲオルにもう1度した、そしてこっちの世界で職と住む所を一先ず探そうとしている事も伝えた、流石にこのままではまずいので。

-⑤お金はどうしよう-

 光は一先ず食料を手に入れる術を手に入れようとした。何でもかんでも『作成』スキルに頼ってばかりいたら周囲の人に怪しまれるし、ずっとネスタの家でただ飯を食べる訳にもいかない。

 まず、光は転生する前に自分が元々住んでいたアパートに残っている食料を持ってこれないかと考えた。自分自身が『移動するスキル』を『作成』して日本とネフェテルサを往復して持ってきたら・・・、いや、結構時間がかかる。

 では、『転送』のスキルを『作成』しよう、冷蔵庫ごと転送しちゃえばいいのだ・・・、この世界には電気が無い。そうだ・・・、あれがあるじゃないか、あれを『作成』して設置しよう。

 光は、丁度近くにいたゲオルに尋ねてみた。

光「この辺りって結構晴れていますか?」

ゲオル「そうですね、雨は1か月に2~3回あるかないかではないですかね、でも夏になる直前は鬱陶しい位毎日の様に降りますがね。」

光「それって何月くらいですか?」

ゲオル「だいたい6月くらいですね。」

 どうやらこの世界にも梅雨の時期があるらしい、まさかここまで日本を再現してくるとは神様って本当にすごいなと改めて思った。

 とりあえず光はゲオルの店を出て職業を探すことにした。ゲオルによると仕事を探す為にもこの町の冒険者ギルドに行く必要があるらしい、今年からギルドカードが履歴書の代わりになるのだという。早速光はゲオルに道を聞いて冒険者ギルドに向かう事にした。街の中心部にあるので歩いて行けるらしいので向かおうとしたが、その前に喉が渇いたので飲み物を手に入れることにした。

 市場とかではどんなお店があるかをちらっとしか見ていなかったのでお金のことを全く調べていなかった。ゲオルの店の中にある飲み物コーナーに向かう。

光「えっと・・・、お茶は・・・、128円・・・、円?!噓でしょ?!」

 光は恐る恐るだが懐に入れていた財布から1000円札を出しゲオルに聞くことにした。

光「ゲオルさん・・・、まさかこれ・・・、使えませんよね・・・?」

ゲオル「何を仰っているのですか?当然、使えるに決まっているじゃないですか。ほら、レジの所の看板をご覧下さい。魔法マネー(電子マネー)各種や魔力カード(やクレジットカードは勿論、デビッドカード)もお使い頂けますよ。」

 お・・・、思いっきり日本じゃん・・・、これも神様がしたって事なのと光は流石にドン引きしていた。日本に似すぎて異世界転生した実感が無くなって来た。

光「あ・・・、あの・・・、まさか銀行は無いですよね?」

ゲオル「あそこにATMありますけど。」

 ゲオルが指差した先には本当にATMがあった、本来は自分の魔力を少量流し認証させるものだが、最近カードの差込口が追加されたのだという、多分これも神様がしたのだろう。画面を見てみると日本にある全銀行のキャッシュカード対応とあった、しかも手数料はずっと無料らしい。念の為しておいた貯金が役に立ちそうだ、とりあえず光は1万円を引き出して財布に入れた。日本にいた頃は電子マネー派だったがこの世界で同じように何でもできるとは限らない、このお店以外では。

 光はお茶を1本購入し店を出て、冒険者ギルドへと向かった。街の中心部にあるのですぐに見つかった。光は扉を開けて中に入った。ビールのジョッキを持った店員が声をかける、冒険者やそれ以外の一般人がそこで飲み食いして交流しているらしい。

店員「いらっしゃいませ。お1人様ですね、今日は何にしますか?」

光「えっと・・・、職を探しているので登録したいのですが。」

店員「じゃあ奥の受付へどうぞー。」

光「ど・・・、どうも。」

 光は店員に言われた通りに進んでいった、「受付」と大きく書かれた看板の下に受付嬢のお姉さんが座っている。

受付嬢「こんにちは、私は受付嬢のドーラです、今日はどうされました?」

光「こんにちは、あの・・・、職を探しているので登録したいのですが。」

ドーラ「ではこちらへ。身分証になるものをお持ちでしたらお出しください。」

 光は運転免許証を取り出しドーラの後ろについて行った。

ドーラ「身分証明書のご提示をお願いします。」

光「お願いします。」

ドーラ「ありがとうございます、ちょっと調べます・・・、ね・・・、えっ・・・?!」

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    Last Updated : 2025-01-21
  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   3. 「異世界ほのぼの日記」㉛~㉟

    -㉛ロックフェス当日- 街の南側、銭湯のある山の麓に特設の野外ステージや音響システムなどがゲオルを中心とした街で働く魔法使いの者たちのよって設置され、街が興奮の渦に巻き込まれて行く中、光はいつも通りパン屋の仕事を夕方までこなしていた。街中の人がロックフェスを楽しめる様にエラノダが『フェスの日、街中の店は必ず夕方6時までに閉店する事』という決まりを作っているので野外ステージ以外の照明は消え、全ての店で『準備中』札がかけられていた。ただそれでも気分を盛り上げようと屋台を出している商人がいたりした、これに関してはエラノダも盛り上げ要因として容認していたので皆喜んでいた。 フェスなので競い合いをするものではないのだがバンド達の気合が故の熱気がムンムンとしていて体感温度が気温を大幅に上回っていた。 このフェスには決まりがあり各組オリジナル1曲、そしてカバー1曲の合計2曲を演奏する事になっていた。それを聞いてか焼き肉店の板長には心配事があった。 先日メンバーを組んだばかりの林田親子とヤンチのバンド、組んで間もないのにオリジナルで作詞作曲と練習を行い無事成功できるかが心配だったそうで光に相談を持ち掛けてきた。板長「私は音楽は全くなのですが、俺はヤンチの親みたいなもんなので楽器の経験があるのは勿論知っているのです、ただ作詞作曲の才があるかどうかは無知でして・・・。それに組んで間もないので練習も間に合ってないのでは・・・。」光「ヤンチさんは今まで沢山の苦悩を乗り越えた方ですよ、今回だって何とかなりますよ。」 板長の心配をよそにロックフェスが始まり、最初はパン屋の鳥獣人兄妹とナルのバンドがステージに出てきた。観客たちの興奮が最高潮に高まって来た所で1曲目の演奏が始まる。皆手に汗を握り涙が出てくる、声援が止まらない。そんな中王様3人と将軍達が変装したバンドがステージに立った。その瞬間大隊長と小隊長、そして将兵達が護衛の為フェス会場を囲もうとしていた、これではせっかくの変装の意味が無くなってしまう。そこでゲオルが全員を普段着の姿に変え一般客と何ら変わらないようにした。ステージ裏にいたエラノダは勿論知らなかったが王国軍は色々苦労したようだ、ただ共にバンドを組む3人の将軍達には伝えられたらしい。将軍「皆・・・、気を遣わせてすまない。」 そんな事もつゆ知らず、エラノダは1曲目

    Last Updated : 2025-01-21
  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   3. 「異世界ほのぼの日記」㊱~㊵

    -㊱違和感の世界で・・・、え?- パン屋での仕事を終わらせた光は街中を少し散策して帰ることにした、いつもさり気なく通る道を改めてゆったりと歩いてみると何かしら発見がありそうでワクワクしてくる。 先日、呑み会を行ったパン屋の裏通りを少し歩いてみよう。テラス席が沢山ありカレーハンバーグが人気のコーヒー専門店や東京の浅草にありそうな風格のある老舗っぽいカレーが人気のメイド喫茶、そして元々賄いだった裏メニューのカレー茶漬けが密かな人気になっているインドカレー専門店など日本にあっても違和感ばかりの店が並んでいた。 川に座敷と半分に切った筒を設置して「流しカレールー」をやっている店もある、ただ利用してもなかなか掴めないので客足が遠のくばかりで次の策を考えている様だ。 いつ考えていつ作ったのだろうか、蛇口を捻ればオレンジジュースやカルピス、焼酎、生ビール、そして変わり種としてカレールーが出てくるお店も発見する。ただこのお店、お水が出てくる蛇口は無いらしい。光「か・・・、カレーばっかりじゃん・・・。」 様々なお店の前を通り少し引きながら散策して行った、店員さんがいたら確実に店に引きずり込まれる。しかし、今は何となくカレーの気分ではない。 行き止まりになったので来た道を戻り街の中心部へと戻ることにした、鬱陶しい位に嗅ぎ飽きたカレーの匂いに包まれゆっくりと歩く。 先程通った蛇口のお店で見覚えのある女の子がご飯片手にカレーの蛇口の前にへばりついていた、またカレー茶漬けばかりを沢山頼んで他の料理も食べて欲しい一心の店主を泣かせている見覚えのある男の子もいる。老舗っぽい店で両脇に種類の違うルーを持つメイド2人を従えひたすらカレーをがっつく見覚えのある女性、そしてスプーンの代わりに中華料理で使う蓮華で流れるカレールーをすくおうと必死になる見覚えのある男性。ただとろみがあり中々流れてこない上に流れてきても蓮華では全て取れない。因みに「大き目のおたま」はオプション料金らしい。 しかし今着目すべきはカレールーのとろみ加減やオプション料金のおたまではない、カレーを食べている人たちを先日どこかで見たことがあるという事だ。全員が私服なので違和感が勝り正直誰なのか思い出せない、光はカレールーを必死に取ろうとしている男性に見覚えのある服装を頭の中で着せてみた。光「えっと・・・、まさかね・

    Last Updated : 2025-01-21
  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   3.「異世界ほのぼの日記」㊶~㊺

    -㊶ギルドにて- 3国間で結ばれた『魔獣愛護協定』の影響で冒険者ギルドでは他の冒険者に混じり王国軍の将軍達が毎日警戒をしている、警察も協力してこの協定を全ての冒険者が大切なルールとして守ってくれるようにセキュリティを万全としている。その対策の1つとしてギルドマスターの認可のもと、刑事のドーラが看板娘兼受付嬢を務める様になった。ドーラが働く受付には「『魔獣愛護協定』により魔獣から剥ぎ取った素材や肉、魔獣の死体、そして各種罠で捕獲した魔獣自体の買取はお断りさせて頂いておりますのでご了承ください」と書かれた大きな看板を掲げてもいる。 一応、出入口には「警察官巡回時立寄所」の立札を掲げていて、真実なのだが一部の冒険者が疑ってしまっている。ただ冒険者たちに警戒されないようにドーラや将軍達は粗悪な者たちがうろついていても平然を装う様にしていた。冒険者「お姉ちゃん、嘘ついちゃいけないよ。今日1日いるけど警察官なんて1人も来ないじゃん。」 ドーラは体を微細に震わせながらも笑顔で対応しているドーラ「何を仰っているんですか、私だって警察署の方々がいついらっしゃるか分かりませんし毎日制服を着た方々が来られるとは限りませんから。まあまあ気にせずゆっくりと呑んで行って下さいよ、あなた方のパーティーには隣国のギルドマスターから賞賛のお手紙と特別報酬が出ているので今日は私に1杯奢らせて下さい。」冒険者「嬉しいね、お言葉に甘えさせてもらうよ。」 ドーラはほっと一息つくと通常業務に移った。農民や住民、他国から来ている行商人などから毎日多数の依頼が冒険者ギルドに寄せられているのでそれらを振り分けたり斡旋したりなど大忙しだ。それに光と同じで就職の為だという人が多数なのだがギルドへの登録希望者も後を絶たない、ただこれは平和だという証拠だ。 そんな中、後ろに並んでいたどこからどう見ても『ヒャッハー!』なあの世界からやって来たように見える冒険者達が2人やって来た。どうやら兄貴分と弟分らしい。冒険者兄「お姉ちゃん、ここ冒険者ギルドだよなあ。僕達お願いがあるんだぁ。」ドーラ「何でしょうか、私で宜しければ承りますよ。」 ドーラはあくまで冷静に対応している。冒険者達は各々のアイテムボックスから大量の荷物を取り出して言った。他国での依頼で討伐したのだろうか、全て魔獣の死体だ。そう、この国ではご法

    Last Updated : 2025-01-21

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  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   3. 「異世界ほのぼの日記」96~100 番外編

    -96 ご飯のお供②- 温かな朴葉味噌を熱々の白米に少しずつ乗せご飯を楽しむ一同、そんな中林田が懐で何かをごそごそと探し始めた。林田「次は私がご紹介させて頂いて宜しいでしょうか、ゲオルさんのお店でこれを売ってたので助かりました。」 林田は懐から小瓶を取り出すと嬉しそうに中身を自ら用意した小皿に出した、誰もが食べた事があるであろうメンマの「やわらぎ」だ。林田「そのまま食べても美味しいのですが、これを胡瓜キムチと混ぜても食感が良くてご飯にピッタリなんです。」 小皿とは別に少し大きめの器を用意し、胡瓜キムチとやわらぎを混ぜて振舞った。シャキシャキの胡瓜と柔らかなメンマがバランスよく混ざっている。メンマに和えられた辣油が味のアクセントになってご飯を誘い、それにより光と結愛はずっと箸が止まらなかった。結愛「アクセントの辣油がキムチの味を引き立てていますね、今日ご飯足りますか?」光「一応2升は用意しているんですが追加注文しないとダメかもしれませんね。」 光と結愛、そして羽田や林田のご飯のお供の時点で用意をしていた半分の1升が無くなろうとしていたので実は焦っていた。念の為、今現在もう半分の1升をお釜で炊いている状況だが無くなるのも時間の問題だろうか。林田のやわらぎ入り胡瓜キムチの出現は一同にとって大きかった、光は『瞬間移動』を利用して地下の貯蔵庫から追加の米を持って来る事にした。念の為に2升程追加を用意し、食事に戻った。 すると、家の入口の辺りから聞き覚えのある男性の声がした。男性「林田さん、林田さん?いらっしゃいますか?来ましたよー。」 その声に返事をする林田、ただ口の中には米が残っている。林田「ああ・・・、待って・・・、ましたよ・・・。裏・・・、庭に・・・、どうぞ・・・。」光「あれ?どなたか呼んだんですか?」林田「ごくん・・・、失礼しました。光さんもお会いした方ですよ。」男性「こんにちは、お久しぶりです。」 優しい笑顔で見覚えのある男性が裏庭に入って来た、この異世界で車を購入したお店の店主・珠洲田だ。珠洲田「光さん、お久しぶりですね。林田さんにご招待を頂きまして来させていただきました。私も皆さんと一緒でご飯が大好きなんです。」光「お久しぶりです、レースの映像でお見かけしましたよ。」珠洲田「これはこれはお恥ずかしい、まさか見られていたとは

  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   3. 「異世界ほのぼの日記」91~95

    -91 空からの来客- 宴が続く中、月の輝く星空から大声が響き一同を騒然とさせた。声「この私を差し置いて、皆さんだけでお楽しみとは何事ですか?」光「な・・・、何?!」 全員が飲食をやめ空を見上げた、見覚えのある1頭のコッカトリスが3人のホークマンを連れて地上へとゆっくりと舞い降りた。背には軽装の男性が2人乗っている、林田が逃げる様にして家の中へと駆けこむ。林田「ま・・・、まずい・・・。誘うの忘れていた。」 舞い降りたコッカトリスが背に乗っていた2人を降ろし人の姿へと変わる、ダンラルタ国王であるデカルトだ。横にはホークマンである甥っ子と姪っ子が3人共揃ってお出まししている。姪っ子が背から降りた男性と軽くキスを交わす。甥っ子達はウェアウルフと取り皿を持ち、焼肉を取りに行こうとしていた。デカルト「2人も乗せていたから疲れましたよ、と言うかのっちはどこですか?」ネスタ「のっち・・・?ああ、ウチの旦那ですね。さっき家の方に走って行きましたよ。」デカルト「奥さん、かしこまらないで下さい。我々はもう友達ではないですか。」林田「そう仰って下さると助かります!!」デカルト「またそうやってかしこまる、やめろと言っただろのっちー。」林田「人前だから、それにのっちはダメだって。」 2人のやり取りを数人の女性がヒヤヒヤしながら聞いていた、1国の王に何たる態度を取っているのだと言わんばかりに。その内の1人であるドーラが質問した。ドーラ「お義父さんと国王様、いつの間にそんな関係に?」デカルト「これはこれはいつぞやの受付嬢さんではありませんか?まさかのっちの娘さんだったとはね。」林田「たった今俺の息子と結婚したんだよ、だから義理の娘ね。」 横から聞き覚えのある女性が口の中で黒毛和牛をモグモグさせながら声を挟んだ、その声には光も懐かしさを感じている。女性「じゃあ私達と一緒で新婚さんって訳だ。」 声の正体は先程キスを交わした女性ホークマン・キェルダだ。光「キェルダ!!久しぶりじゃない!!」キェルダ「ついさっき新婚旅行から帰って来たのよ。」光「えらく長めの新婚旅行だったのね。」キェルダ「あんたは暫く仕事を休める位稼いだみたいじゃない。」光「流石、言ってくれるじゃん。」2人「あはは・・・。」 2人が談笑している中、バルタンの兄・ウェインとホークマンの弟

  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   3. 「異世界ほのぼの日記」86~90

    -86 超新鮮で大胆なBBQ- ガイの軽トラで1頭買いした黒毛和牛を林田家の裏庭へと運ぶと、今か今かと待つ人々が歓声を上げていた。その中には光が招待した結愛社長もいる、現場には大きなまな板と綺麗な包丁などが並べられ解体の準備がされていた。 丁度その頃、焼き肉屋の御厨板長と板前をしているウェアタイガーのヤンチが到着した。御厨「今夜はご招待頂きありがとうございます、ただ私達も召し上がって宜しいのでしょうか。」光「勿論です、お2人も楽しんで行って下さいね。」ヤンチ「さてと・・・、早速解体していきますか。」女性達「私達も是非手伝わせて貰おうかね。」 声の方向に振り向くとエプロン姿をしたネスタ林田、そしてまさかの貝塚結愛がいた。ヤンチ「お2人さん・・・、本気ですか?」ネスタ「あら、私はドワーフだよ。舐めて貰っては困るね。」 昔からドワーフの一族は身のために色々な技術を何でも習得するという伝統があった、牛肉の解体技術もその1つだ。ヤンチ「でも何で社長さんまで?」結愛「実は私も見分を広げる為にドワーフの方々から勉強させて頂いているんです、牛肉の解体もその1つです。」ネスタ「では早速やりますかね。」 鮮やかな手つきで3人が解体を進めていく。骨と骨の間に包丁を入れていき、スルッと肉が剥がされていった。結愛「さてと・・・、最初から贅沢に行きましょうか。鞍下、肩ロースです。丸々1本だからとても大きいでしょう。」光「涎が出てきちゃってるよ、早く食べたいな。」御厨「さぁ、焼肉にしていきましょうか。」 結愛から受け取った大きな塊を御厨が丁寧に肉磨きと整形をして焼肉の形へと切っていく。20kgもの塊が沢山の焼肉へと変身した。御厨「では、焼いていきましょう。ヤンチ、すまんが整形を頼む。」ヤンチ「あいよ、プロが2人もいるから解体は大丈夫そうですもん。」 御厨が炭火の網の上に肉を乗せ焼いていった、そこら中にいい香りが広がる。光「この匂いだけでビールが行けちゃいそう。」御厨「さぁ、焼けましたよ。塩と山葵でお召し上がり下さい。購入されたご本人からどうぞ。」光「塩と山葵がお肉の甘みを引き立てて美味しい!!」 光がビールを一気に煽る、何とも幸せそうだ。作業中の結愛やネスタ、そして焼き肉屋の2人にも振舞う。結愛「たまりませんね、ビールが美味しい。」光「今日

  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   3. 「異世界ほのぼの日記」81~85

    -81 集合- 魔学校長のマイヤは林田を許し、早速持ち帰った映像やマイヤの発言が証拠として使えるかを皆で確認しようと提案した。光明「まずはこちらをご覧ください。」 マイヤが義弘と思われる覆面男に催眠術を掛けられた場面だ、催眠術を掛けられマイヤが自らの手で書類を書き換えたあの場面。マイヤ「ノームを含む私達アーク・エルフの一族は催眠術に強い特殊スキルを祖先からの遺伝で持っているのですが、まさかその長たる私が・・・。」ドーラ「じいちゃん・・・、思い出したくないなら無理に思い出さなくていいよ。」マイヤ「いや、良いんだ。捜査に・・・、いやノームの仕事に協力出来るなら喜んでやるよ。」 映像内で書類を書き換えた後、マイヤがぐっすりと眠っているのが何よりの証拠だ。 次に鏡台にあったもう一つのカメラで撮影した映像を再生した。光明「これはマイヤさんが鏡台に仕掛けてあるもう一台の監視カメラの映像です、少し音が小さいので最初の映像から音声を抜粋してありますが勿論同時刻に同じ場所で撮影された物ですので問題は無いかと。」 暑さが故に義弘が覆面を取った場面を再生した。結愛「義弘が・・・、あれ程の魔力を・・・。」林田「しかし、いつの間に魔力を得て催眠術の修業を行ったのでしょうか。」マイヤ「原因はリンガルスにあると思われます、きっと短期間ではありますがリンガルスの下で修業したからだと思われます。また、無理矢理な方法で魔力を引き出したのかと。」結愛「しかし・・・、ただの魔学校の職員がどうして?」マイヤ「理事長、恐れながら申し上げます。リンガルスは大賢者なのです!!」林田・ドーラ・結愛「大賢者?!」結愛「・・・、って何ですか?」羽田「これがデジャヴってやつですか?」光明「以前にもあったんですね・・・。」 確かに以前にもあった会話だ、ただ重要なのはそこだけではない。義弘が大賢者の力を得たのはマイヤに催眠術を掛ける為だけなのだろうか。光明「そう言えば、レースの方は?」林田「テレビをつけますね。ただ・・・、爆弾処理の方が心配ですね。」男性「それなら安心して下せぇ。」林田「その声は・・・。」 林田が聞き覚えがある声に振り向くとそこには結愛や利通と共に競馬場に仕掛けられた爆弾の処理に向かったダンラルタ王国警察の爆弾処理班がいた。プニ「おやっさん、安心して下さい

  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   3. 「異世界ほのぼの日記」76~80

    -76 リンガルス- パルライは羽田からSDカードを受け取るとカメラに挿入しより強力な魔力を込め始めた。羽田「あの・・・、パルライさん?」デカルト「パルライはネクロマンサー、リッチの下で修業した魔法使いなんです。ネフェテルサ王国の警察署には今彼の師匠も来ているのですよ。」 そうこうしているうちにパルライが作業を終え、一息ついた。パルライ「よしっ・・・、終わりました。見てみましょう。」 カメラの小さい映像を3人の大人が凝視する。3人「こ・・・、これは・・・。」 映像では黒い覆面をしたリンガルスと思われる人物がパソコンで何かを編集している。デカルト「拡大出来たらな・・・。」パルライ「やってみますか。」 パルライが魔力を込め、パソコンの映像がくっきりと見えるまで拡大した。「首席入学者」の文字の下にある「梶岡浩章」の文字を消して「リラン・クァーデン」に変更していた。パルライ「確定ですね。」デカルト「待て、どこかへ向かうぞ。」 覆面男は書類を印刷してそそくさとパソコンの電源を切ると部屋を出た。羽田「この建物には魔学校長の部屋があったはずです、それと主要警備室。」パルライ「そこに行きましょう。」 3人はパルライの魔法で主要警備室に『瞬間移動』するとそこには警備員が3名いたのだが全員眠ってしまっていたので羽田が慌ててたたき起こした。羽田「しっかりしろ、警備はどうしたんだ!!」警備員「えっ・・・?痛た・・・、羽田さんじゃないですか。どうしてここに?」羽田「首席入学者が何者かによって改ざんされてんだよ、しかもただ事じゃない!!首謀者の1人が義弘なんだよ!!」警備員「何ですって?!大変じゃないですか!!ただ俺達は覆面をしていた奴が後ろから近づいてきてからどうやらずっと眠ってしまっていたらしく、記憶が無いのです。」 こっそりと『審議判定』の魔法を使用していたパルライが首を縦に振る。パルライ「本当の事を言っている様です。警備員さん、恐れ入りますが少し場所を開けて頂けませんでしょうか。」警備員「あの・・・、失礼ですがどちら様ですか?」羽田「バルファイ王国とダンラルタ王国の国王様方だ。」警備員「申し訳ございません!!どうぞ!!」パルライ「そ・・・、そんな身構えないで下さい。堅苦しいの苦手ですので。では、やりますよ。」 パルライが魔力を流

  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   3. 「異世界ほのぼの日記」71~75

    -71 捜査が続く中- 林田の『連絡』による電話に驚きを隠せない刑務所長に林田が質問した。刑務所長(電話)「都市伝説の通り・・・。」林田「今はそんな事言っている場合じゃない、お前の所に貝塚義弘がいただろ。パワハラ等で捕まった貝塚だ。」刑務所長「あいつなら逮捕された次の日に重岡とかいう投資家が保釈金を払って速攻出て行ったじゃないか、全国でニュースになっていたぜ。」 林田がただ度忘れしていたのだが、刑務所長が改めて言うには義弘の指示で保釈金を支払った重岡が車で義弘を県外の山奥に連れて行くとそこからは2人とも音信不通となったとの事で、新たな悪だくみを行っていた可能性があった。そこで結愛と光明、そして羽田を含む多くの黒服達が突然消えたと聞き、何らかの方法で追って来たかもしれない。林田「因みに結愛さんはどうやってこの世界に?それとここに来てからはどうやって?」結愛(無線)「これも数年前の話です、日本で忙しくしていた私が久々のゆったりとした休日を光明と楽しんでいた時、突然私たちの目の前に幻覚の様な竜巻が現れてそこにいた全員が吹き飛ばされたんです。そのあと目が覚めたらこの世界に。『作成』のスキルもその時知りました、それから少しの間バルファイ王国にある魔学校に通いながらこの世界の事を少しずつ調べて行ったんです。それから貝塚財閥の教育支援の一環として『転送』で持って来た財産の1部を寄付してネフェテルサ王国の孤児院を貝塚学園の小分校に、またバルファイ王国の魔学校を高等魔学校と貝塚財閥の支社にさせて頂いているのです。因みにレースの収益でダンラルタ王国に分校を建設する予定でした。」林田「なるほど、それは我々にも学園を守る義務がありますね。」 その守るべき学園に義弘の魔の手が触れようとしているかもしれない、それは流石に防がなければならない。 その頃、未だトップが⑨番車のまま遂に100周目を迎えようとしているレース場の脇にあるとある施設でバルファイ王国軍の将軍達がひっそりと1人過ごしていた国王を説得していた。バルファイ王国にあるホームストレート横には国王本人が自らの分身を忍ばせていた、分身と言えど思考等が本人とそのまま繋がっているので各々の場所に国王のオリジナルが存在している様な状態となっている。ただ分身は空の鎧に魂を魔力でくっつけているだけのもので、それが仮の姿として一

  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   3. 「異世界ほのぼの日記」66~70

    -66 一方で- 恋人たちが現場に戻って来たのはプニ達が爆弾を『処理』し終えてから十数分経過してからの事だった。2人は口の周りが不自然に明るく光り表情が少し赤くなっている、髪が少し乱れているのは言うまでもない。プニ「お前ら・・・、ううむ・・・。」 プニは仕事を再開すべきだと気持ちを押し殺した、何をしていたかだなんて正直想像もしたくない。 ただ林田警部が無線の向こうで呆れ顔になってしまっているのは確かだ、幸いケルベロスやレッドドラゴン達は気付いていないらしくその場を何としても納めなくてはと冷静に対処する事にした。 プニの無線機から林田警部の声が聞こえる、どうやら恋人たちは無線機の電源を切っていたらしい。林田(無線)「利通君・・・、そしてノーム君・・・、君らが無線機の電源を切ってまで2人きりになりたい気持ちは私も大人だから分からんでもないが・・・。」ドーラ「そんな・・・、照れるじゃないですか。」林田(無線)「ぶっ・・・。」 ドーラが林田に何をしたかはその場の全員が分からなかったが何かしらの攻撃がなされたらしい、多分ビンタに近い物だろう。取り敢えず林田は偶然を装う事にした、どう頑張ってもドーラが何かをした証拠が見つからないのだ。林田(無線)「失礼・・・。さてと、爆弾の方はどうなっているかね?」ドーラ「お父さ・・・、いや警部、1つがコインロッカーの中に見つかりました。爆弾処理班の方々によるとまだ複数個隠されているかとの事です。」林田(無線)「ノーム君・・・、まさかこの言葉を言う事になるとは思わなかったが、君にお父さんと呼ばれる筋合いは無いよ。取り敢えず見つかった爆弾はどうしたのかね?」利通「えっと・・・。」プニ「見つけた1個は俺達で処理したっす。」ケルベロス①「ただ競馬場内から爆弾の匂いがプンプンしますぜ、林田の旦那。」 相変わらずのキャラを保っているが仕事はしっかりと行っているので文句は言わないでおくことにした、別の者達には日を改めて。 一方、銃刀法違反の現行犯で逮捕した犯人をネフェテルサ王国の警察署に巡査が輸送し、それに合わせ警備本部にいた林田警部が一時的に署に戻り取り調べを行った。犯人によると自分は金で雇われただけだと言う、真犯人からは電話での指示を受けていたが非通知での着信だった為番号は知らないそうだ。そして分かった事がもう1つ、

  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   3.「異世界ほのぼの日記」61~65

    -61 昨日の敵は今日の友と言うが- 3位グループの3台は今までずっと共に走っていた為か、いつの間にか絆が生まれていた。④ドライバー「お前ら、大丈夫か?!悪かった!怪我してないか?!」⑫ドライバー「こちらこそ悪い・・・、あそこで俺が無理に妨害していなかったら・・・。⑧番車の野郎は・・・、無・・・。」⑧ドライバー「野郎じゃないわよ、失礼ね。」⑫ドライバー「そうか・・・、悪かった。怪我は無いか?」⑧ドライバー「私は大丈夫、とりあえずレースの邪魔にならない様に端に避けていましょう、奇跡的にも1台が通れる位の空間は空いてるみたいだからレースに問題は無いと思うわ。」⑫ドライバー「とにかく怪我が無かったらそれでいい、レースはまたの機会に参加すればいいさ。とりあえず端に・・・。」 どこかで会話を聞いていたのか実況のカバーサが一言。カバーサ「お2人さん、良い雰囲気ですがレース自体は一時的に予備のルートを使って続行していますのでご心配なく。」⑧ドライバー「そうなの?・・・って、アンタどこで聞いてんのよ!!」 ⑧番車のドライバーに追及されるとカバーサは慌てて胡麻化した。カバーサ「おや、1匹のコッカトリスが車番プレートを両手に持って自らコース飛んでますよ。えっと・・・、こちらは④番車のドライバーさんですか?」④ドライバー「俺は・・・、死んだ⑧番と俺を気遣ってくれた⑫番の為に・・・、それと自分達の為に完走だけでもするんだ・・・!!」⑧ドライバー「失礼ね、私まだ死んでないわよ!!」 ⑧番車のドライバーによる適格なツッコミにより一瞬会場は湧いたがレースの主催者から通達が出たのでカバーサが伝えた。カバーサ「えっと・・・、④番さん・・・、気合には皆が感動していますがお車で走っていませんので事故での失格は取り消されませんよ」④ドライバー「えっ・・・。」カバーサ「だから言ってるでしょ、あなた失格。今すぐコースから立ち退かないと私が自らピー(自粛)しますよ。」④ドライバー「は・・・、はいー・・・。」 ④番車のドライバーは諦めて地上に降り立つと人間の姿に戻ってから徒歩で戻って行った、背中にはとても哀愁を感じるが少し震えてもいた。カバーサ「まぁどう考えても距離的に無理なんですけどね、本人自ら立ち退いて下さったので良しとしましょう。あ、くれぐれも私は脅してませんので

  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   3.「異世界ほのぼの日記」56~60

    -56 レース開始直前だが- 光は出走表の場所をナルリスに聞き車券を購入しに向かっていた、まるで国民の祝日の様に老若男女が右往左往していて大混雑している。 先程1杯呑んだビールの影響か光はトイレに行きたくなったので車券売り場への道中で探すことにした。 トイレは意外過ぎるほど早く見つかり全く混雑していなかったので光はすぐに駆け込み用を済ませた。 トイレを出て車券売り場を目指す、ぷらぷらと歩いているとふんわりと優しい香りがして来たので近くを通った時少し寄ってみるかと意気込んだ。 何軒か日本に似た食べ物屋の屋台が出ている様でその内の1軒を覗いてみる事にした。光「『龍(たつ)の鱗(うろこ)』ね・・・、こんな名前の店あったかな。」 ただ一際行列が目立っており、その上光を誘った香りがその屋台からだったので光は一切迷う事無く飛び込んだ。 店の中では皆が一心不乱に丼に入った麺を啜っている。店主「いらっしゃいませ、お一人様ですか?お好きなお席へどうぞ。」 どうやらここはラーメン屋さんの屋台のようだ。他のお客さんが食べているラーメンはスープが綺麗に透き通った金色のもので、細麺。トッピングはカイワレ大根と何かを揚げているチップスらしい。(※作者が大好きなラーメンの1つです、店名は変えてますが。) カウンターにお品書きがあったのでチラリと見てみると「鯛塩ラーメン」の文字がある。光「『魚介ベースのスープで鯛の皮のチップスをトッピングした美味しいラーメンです』・・・か。」店主「お決まりですか?」光「あっ、鯛塩ラーメンをお願いします。」店主「少々お待ちください。」 屋台の隅に探していた出走表をみつけた。光「出走表頂いてもいいですか?」店主「勿論どうぞ、ラーメンが出来るまでゆっくり予想していて下さいね。」光「助かります。」 光は店の隅に行き出走表を1枚取って席に戻った、①~㉑までの車番の横にチーム名やホームストレートで行われた予選の計測タイム、スタートポジション等が書かれていた。光「確かポールポジション取った⑰ブルーボアが1番人気で、18kmのホームストレートはダントツ、ただガソリンの積載量が比較的少ない気がするな・・・。」 ピットでの給油は認められているがピットストップの回数が多いとその分逆転を許してしまう可能性が大きくなる。光「コーナリングの図を

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