Chapter: 3. 「異世界ほのぼの日記」120-120 神の加護- 珠洲田は顔見せを終えるとすぐに渚の車を見回し始めた。ただ初めて見るにしてはやけに詳しそうに軍手をした両手で所々をいじりながら、そして何処か懐かしそうに見ている。珠洲田「このエボⅢって確か・・・。ここが・・・、うん。やっぱりか。」光「この車をご存知なんですか?」珠洲田「いや実はね、あっちの世界にいた時なんですが三菱の修理工場やチューンアップパーツの店で働いてた事がありましてね。その時色々いじったエボⅢに似ているんですよ。」 光が珠洲田の様子をしばらくの間見ていたら、お茶を飲みに行き戻って来た渚が思い出したかのように話しかけた。渚「あれ?もしかして、あんたスーさんかい?三菱にいていつもこのエボⅢのチューニングを頼んでいた、ほらあたしだよ。渚。」珠洲田「な・・・ぎ・・・、あんたなっちょか。やっぱり見覚えのあるエボⅢだと思ったんだよ。」渚「いや、全然変わらないね、スーさん。あんただったら何でも頼める気がするよ。」 どうやら2人は小学生時代からの幼馴染らしく、ずっと登下校は一緒だったという。高校はお互い別々だったのだが、渚がエボⅢを購入し「赤鬼」として散々乗り回した結果、ガソリンタンクに小さくだが穴が開いたりトランスミッションとギアボックスが故障した事をきっかけに修理工場で再会して今に至ったという。因みに渚は珠洲田の初恋の人だったそうだ、エボⅢに乗る姿に惚れていたらしい。珠洲田「事故で亡くなったって聞いたよ、でも元気そうで何よりだ。」渚「実は事故る寸前にこの世界のダンラルタっていう王国の峠にこの車ごと転生してきたらしいのさ、峠から峠だったもんだから最初は全然気づかなかったんだけどいつの間にかね。後からクォーツって神様に向こうの世界での事を聞いてやっと実感が湧いたって訳。どうやらその神様がこっちの言語を脳に入れ込んで、そのついでにこの車も運んできてくれたらしいのさ。」珠洲田「あらまぁ・・・、それにしても元気そうで何よりだ。よし、懐かしの車をこっちの物として作り替えるか。久々だな、こいつのキーを回すのは。」 珠洲田は昔懐かしい幼馴染の愛車のエンジンを起動して、自らの店に持っていこうとするとすぐに異変に気付いた。あの頃とは音が全く違って聞こえて来るらしい。珠洲田「あれ・・・?何か音が違うな・・・。」渚「実はね・・・、さっき言った
Last Updated: 2025-04-15
Chapter: 3. 「異世界ほのぼの日記」119-119 渚の新居- その場の雰囲気と場の流れに身を任せ、光は先程答えを聞けなかった質問を渚に再度ぶつけた。まさかこんな奇跡が起こるとは、きっともう一生ないだろう。光「ねぇ、母さん。さっきは上手くスルーされたけどやっぱりウチに住まない?」渚「良いのかい?あんたの家、エボⅢ置けんの?」 流石に愛車をずっと『アイテムボックス』の中に入れておくのはもうウンザリだそうなのだ。学生の頃からずっと憧れていてやっとの思いで買った自慢の愛車、やっぱり太陽の下で眺めていたい。その上別に無制限なので気にしてはいないがかなり容量を使う、そして正直に言うと『アイテムボックス』内で物を探すのに少し邪魔となっている。光「エボⅢの駐車場位余裕で用意するから。それに毎晩銭湯に行ってたらそりゃお金かかるよ、ウチにも露天風呂作っているから背中位流させて。」渚「そうかい・・・?じゃあ、お世話になろうかね。」林田「そうと決まれば皆で引っ越しの手伝いしますよ。」 渚は少し申し訳なさそうな表情をしていた、理由は本人の部屋に入るとすぐに発覚した。光が『瞬間移動』を渚に『付与』すると、渚は使い慣れていたかのようにすぐにその場にいた全員を連れて行った。渚「い・・・、いらっしゃい・・・。」 以前言っていた通り部屋は風呂なし、6畳1ルーム。トイレと洗面台と簡易的なキッチンが設置されていたその部屋には、テレビと小さなテーブルに何故かウォーターベッド置かれている、ベッドはピンク色で真ん中に大きく「我愛你(I Love You)」と書かれている見た側が確実に恥ずかしくなる物で光は正直家に持ち込みたくなかったが渚のお気に入りなので許すことにした。渚「だから手伝って貰う程じゃないって言ったの。」 頭を掻きながら渚は顔を赤らめ恥ずかしそうにしていた、そして林田とナルリスに聞こえない位の小声で少し笑いながら何かを耳打ちした。 それを聞いた瞬間に光は先程の渚以上に顔を赤らめ3つ隣の部屋に響く位の大声で叫んだ。光「お母さん!!これ、持ち込み禁止!!!!」林田「渚さん・・・、娘さんによっぽどな事を言ったんですね。」ナルリス「敢えて聞かないでおきます。」 光は涙を流しながら答えた。光「絶対聞かないで下さい・・・。」 さて、光一行は気を取り直して挨拶を兼ねて大家の所に許可を得に行った。引っ越す事が出来る
Last Updated: 2025-04-15
Chapter: 3. 「異世界ほのぼの日記」118-118 違和感と事情- 今思えば的な話なのだが、光や渚は転生してからあまり年を取った実感が湧いていない事に気づいた。何となくだが自分達だけ時間が止まっている様な、今会ったばかりの林田警部も久々に会うのに何の変化も感じない。林田「私もこの世界に転生してからしばらくして知ったのですが、どうやら転生者は年を取らなくなっているみたいです。本来なら今頃私も白髪の爺さんですから。」 言われてみれば確かに林田は光とこの世界で初めて出会った時と変わらず黒髪の立派な50代の紳士の姿をずっとキープしている。渚「確かにそうだね、今頃私ゃ腰の曲がった婆さんになっていてもおかしくないもんね。」林田「渚さん・・・、それは言い過ぎでしょ。」渚「ジョークジョーク。」 渚のお陰でその場が和んだ所で光は気になっていた事が2つあったので渚に聞いてみることにした、1つは個人的な事だがもう1つは重要な事できっと林田も気になっているはずだからだ。光「そういえば母さん、普段使っていた眼鏡どうしたの?」渚「ああ、言ってなかったかい?あれ伊達メガネだったんだよ、自分が「赤鬼」だってバレたくなかったからね。この世界では隠す必要がなくなったからずっとこのままでいるのさ。」 そう、久々に会った母親は「赤鬼」としてエボⅢに乗っていた時と変わらない姿でずっといるのだ。会社員と走り屋の2つの顔の両立は意外に難しかったらしい。 そしてもう1つ、林田も気になっていたであろう質問をぶつけた。光「ねぇ・・・、父さんはこの世界に来ているの?」渚「残念だけどこっちの世界に来てから見かけてないねぇ、私も八百屋の仕事が休みの時に探してはいるんだがね。」林田「渚さん・・・、ご主人はやはり阿久津さんだったのでしょうか。」渚「うん、確かにこの子の父親は当時走り屋のリーダーをしていた阿久津だよ。でも事情があってこの子にはずっと「吉村」って名乗らせていたんだ。」光「母さん・・・、どうして私は「赤江」でも「阿久津」でもなく「吉村」なの?」 渚は頬に手を当てながら近くのベンチに座ろうと提案した後、重い口を開いた。渚「知っていたと思うけど私のお母さん、つまりあんたのおばあちゃんの旧姓が「吉村」だったんだよ。実は当時「阿久津」も「赤江」も代々広域暴力団の家系で世間では余り良いイメージでは無かったんだ、あたしも父さんも実家
Last Updated: 2025-04-15
Chapter: 3. 「異世界ほのぼの日記」117-117 不自然な事象- ナルリスは渚がアイテムボックスから出した愛車・エボⅢを見て驚きを隠せずにいた。この世界では大抵の者が珠洲田製の軽自動車に乗っていて、乗用車を持っているのは都市圏に住む金持ちや貴族が殆どだ。ナルリス「光・・・、貴族様だったの?」 こう聞きたくなるのも無理は無い、しかし光はごく普通の一般市民だ。ただ神様の力により全財産の金額がとんでもなくなっているが。その事が冒険者ギルドで発覚してから光は決して言わないでおこうと誓っていた、ただ普段地下倉庫にしまっているカフェラッテを含めて愛車が2台ある時点で怪しまれても仕方ない。 一先ず話題を変えようと渚に質問をぶつけた。光「母さんは今どこに住んでいるの?」 かなり久々に、しかもこの異世界で亡くなったはずの母親との再会は本当に感動的で願わくば一緒に住めないかと思っていた。渚「今ね・・・、ネフェテルサ王国って所の団地かなぁ。」ナルリス「団地に住んでる方がお持ちのお車には思えないのですが。」渚「やっぱりそういう理由なのかな。何処も止める所がなくてね、いつも『アイテムボックス』に入れてんのよ。つい最近の事だけど今住んでる所に引っ越す時に大家さんに言って駐車場を確保してもらおうとしたら何故か入居自体を拒否されかけちゃったけど、そういう訳だったのね。」 違う、そういう訳では無い。後で分かった事なのだが大家にとったら皆軽しか乗らないのでその分の駐車場しか用意出来てなかった為に渚のエボⅢが大きすぎて困惑してしまったのだ、きっと駐車しようとしたら白線からかなりはみ出てしまう。別に入居を拒否した訳では無いらしく、ただの言い間違いだった。光「団地なんてあったっけ?」ナルリス「確か・・・、お風呂山の手前だった様な。」渚「そうそう、だから今みたいな風呂なしアパートでも問題なし。」 光は決して聞き逃さなかった、自分の母親が風呂なしアパートに住んでるって?自分は神様に貰った財産で一軒家を購入、それに対して親は風呂なしアパート暮らし・・・。何となく気になる事を聞いてみた。光「母さん・・・、家賃いくらの所なの?」渚「月3万8千円だったかな、八百屋の給料って安くてね。あんたはどこで働いている訳?」光「パン屋さん・・・、かな。」 真実を伝えその場を治めた。実はこの世界では冒険者ギルドに登録しているかどうかで
Last Updated: 2025-04-15
Chapter: 3. 「異世界ほのぼの日記」116-116 桜とそよ風が連れてきた故人- 光はビール片手に幼少の思い出に浸っていた、桜は若くして亡くなってしまった母・渚との数少ない思い出の花だ。 今いる遊歩道と同様に家のすぐ近くに桜の花が綺麗に見えるスポットのあった場所に住んでいた頃の光の小さな手を引いてゆっくりと歩く渚の姿は美しく優しい印象で光の目に焼き付いていた、とても巷で「赤鬼」と呼ばれていた走り屋に思えない。 桜の花を眺める度に光は母の穏やかだった顔や温かかった手を思い出して涙を流した。ナルリス「優しい・・・、お母さんだったんだな。」光「うん、桜を見る度いつも思うの。一度でも良いから母に会って一緒にお酒を呑めたらなって。何かね、桜の花の1つ1つが母の温かみを思い出させてくれてこの時だけ何となく子供の頃の気持ちに戻れる気がするんだ。」 ナルリスは知らぬ間に光が右手に持つ酒が缶ビールから紙コップに入った日本酒に変わっている事に気づいた。表情が先程以上に赤くなっている事も、そして涙もろくなっている事も納得がいく。光「多分母は今の私の姿を見ても私に気付く事は無いだろうけど会えたら声を掛けたい、産んでくれてありがとうって感謝の言葉を言いながら日本酒を注ぎたいな。」 その時、ふんわりとした風により散った桜の花びらが1枚光の日本酒の表面に乗った。風に身を任せゆらゆらと揺れながら浮かんでいる。光「会えたらな・・・、会いたいな・・・。後で仏壇にこの日本酒をお供えしよう。」 いつの間に、そしてどこから仕入れたのか分からないが左手に一升瓶を持っている。酔ったせいか幻聴らしき女性の声がし始めた。女性「光、大きくなったね。」光「えっ・・・?」 光は涙ながらに声の方に振り向いた、しかしこちらを向く女性の姿は全くない。その代わりに桜の花びらがそよ風に乗り頬をかすめた。 ナルリスが目を丸くして光の方を見ている。ナルリス「何かあった?」光「いや・・・、何でも無い。ごめん。」 どうやら今の声はナルリスに聞こえてなかったらしい、やはり今の声はただの幻聴だったのだろうか。女性「光・・・、こっち。注いでくれる?」 振り向くと光に紙コップを差し出す女性が1人、どうやらほろ酔いらしく表情が赤くなっている。光「気のせいかな・・・、悪酔いしたかも。隣にお母さんに似た人がいるんだけど。」 光の隣でナルリスがガタガタ
Last Updated: 2025-04-15
Chapter: 3. 「異世界ほのぼの日記」115-115 陽気に誘われて- 過ごしやすいぽかぽかと暖かな陽気、いい意味で眠気を誘うこの気候が光は大好きだった。日本で言うと3月~4月のこの優しさの溢れる気候、桜の花びらが開き沢山の人々を優しく迎える花見の時期。四季を全く実感しないネフェテルサでもこの気候に出逢えて嬉しく思っていた。 光は日本にいた頃からこの時期必ず行っていた事があった、唐揚げの油で口を光らせながら思い出に浸るためにスマホのフォトアプリを起動して写真を出しナルリスに見せることにした。ナルリス「こんな花道を歩きながら美味しくビールが呑みたいって?」 日本にいた頃、光の自宅から歩いて5分もしない距離に遊歩道沿いに咲き誇る桜がとても綺麗な公園があった。光は毎年の開花予測と休日をチェックして時には有休を取得してでもその公園に出かけ、ビール片手に歩きながら桜を愛でていた。 幾度表情を変える桜の花や木々の姿を残そうと毎年必ず写真を撮り、フォトアプリに残している。その膨大と言える量の桜の写真をナルリスに見せていた。光「この世界で出来る場所無いかな?」 キラキラと目を輝かせる光の期待に応えようとナルリスは思いつく限りのスポットを雑誌を見せながら提示した、どれも日本での写真に劣る事の無い綺麗さを誇っている。どうやらこの国でもきれいな桜が楽しめる様だ。 テレビのニュースなどでネフェテルサでの開花予測を調べてみると1番早くて2日後、光のパン屋の仕事も丁度休みで嬉しさの余り飛び上がっている。その表情を見てナルリスは安心した、当日は雑誌にも載っていた近所の遊歩道を歩く事にしてその日は眠る事にした。 翌日、その日は1日パン屋の仕事があったので表情に出ない様に必死になっていたが明らかに思考が駄々洩れになってしまっていたらしく、キェルダに何かしらを汲み取られていた。キェルダ「あんた・・・、ニヤついてるけど何かあった?」光「いやぁー、別にー。いつも通りですよ。」 明日が楽しみすぎて仕事中ずっと顔が赤い、しかし仕事はしっかりしているから文句は言えないので店長のラリーは開店中の間そっとしておく事にした。そして売れ残りのパンを回収し、閉店準備をし始めた時に聞いてみる事に。ラリー「どうした光ちゃん、明日の休みにナルリスとデートでもするのかい?」光「デートだなんて店長ったらもぉー!!」 嬉しさの余り店長の肩を軽く
Last Updated: 2025-04-12