-⑮隠し扉- 早速2人は見つけたスイッチを使って隠し扉を開ける事にした。パスワード解析装置を使ってパスワードを解析し、テンキーを動かしていく。「ガチャッ・・・。」 隠し扉の鍵が開いたようだ、光明の操作でドローンを動かし扉の中へ入っていく。中は暗いので暗視カメラを使用しないと進んでいけなかった。ゆっくりと慎重に前へと進んでいく。光明の隣で画面を凝視する結愛。しばらくすると円状で広々とした空間に出た。光明「どうだ、見覚えあるか?」 結愛「全くだな。全体がコンクリの壁。こんな空間家では全く見たことねぇ。」 海斗「向こう側にも通路があるらしいな、ここが家に通じているのか?」 光明「とにかく行ってみよう。」 光明はドローンを慎重に進ませていった、念の為に赤外線スコープを常に作動させていた。奥に奥にどんどん進んでいく、すると一番奥に木製の扉を発見した。周囲には怪しいものは何もないようだった、慎重に扉を開けていく。そっと・・・、そっと・・・。 中に入ると全体的に洋風の壁の部屋があった。光明「もしかして・・・。」 結愛「俺たちの家っぽいけどこんな部屋あったか?」 取り敢えず光明は部屋の天井にドローンをくっつけ隠しカメラの様に部屋を監視していく事にした、愛と海斗は何かを思い出したような表情をしていた。海斗「そう言えば俺らは立ち入り禁止の部屋がいくつかなかったか?」 結愛「確か1階と2階、4階に1部屋ずつあったな。」 琢磨「お前らん家何階建てだよ。」 海斗「地上5階建てに地下・・・。」 守「地下?!」 結愛「あったか?」 琢磨「知らねーのかよ!」 海斗「地下は無かった。」 橘「無いんかい!何で言ったんだ!」 海斗「いや、たまにはボケとかないと。」 守「空気読め!」 海斗はそこにいた全員にビンタされた。海斗「痛(いて)ぇよ、場を和ませてもいいだろ。」 結愛「はいはい、ありがとねー。(棒)」 全員、ため息をつき呆れ顔をしていた。 それを横目に光明はドローンを左右に動かしていく、しかし先程開けた木製の扉以外には出入口らしいものは見つからず、ほぼ一面壁のみの部屋となっていた。光明「しばらく様子を見て義弘が出入りするのを待つしかなさそうだな。」 結愛「娘の俺が言うのもなんだが、親父も手の込んだことするな。」 海斗「多分校舎と同じよ
-⑯立入禁止部屋- 先程の様なやり取りがあった後、伊津見はしゅんとしながらまたヘッドフォンを付け捜索をし始めた。どうやら光明はあまり良い所を言わなかったようだ、煽った3人も申し訳なさそうな顔をしていた。まさに『気まずい』という言葉がぴったりだった。 トイレから戻って来た光明の表情も同じようなものだった。伊津見「何か・・・、悪かったな。」 光明「俺も・・・、すまん。」 結愛「というか悪いのは煽った俺達だよな、悪い。」 光明「取り敢えず作戦再開だな。」 伊津見「うん、また今度飯でも行こう。」 光明「そうだ・・・。」 伊津見「みつもん、待ってくれ!」 光明「ん?」 伊津見「微かだがここだけ空気の流れが違う音がしたんだよ。」 琢磨「そんなのも聞こえるのか?」 光明「コンコンしてみるか。」 光明はドローンで以前の様に壁をコンコンした、すると一部の壁が一瞬だが横に動いた。光明「ん?引き戸か?結愛、開けるぞ。」 結愛「うん、頼む。」 光明は隠れていた引き戸を開け部屋から出るようにドローンを動かした、その先には廊下の様なものが広がっている。洋風の壁紙に赤い絨毯が敷かれた床。左右に長いものが目前に広がっていた。海斗「どっちでもいい、ゆっくりと前進してみてくれ。」 ドローンを進めていく光明、深夜だから基本真っ暗なのだが偶に電気が点灯している所を見つけたので中の様子をある程度伺えた。そして大広間っぽい場所にある階段を見つけた瞬間・・・、結愛「すまん光明、ここからさっきの場所に戻れるか?」光明は電灯を頼りに先程の場所に戻ると、結愛「やはりか・・・、ここは1階の『立入禁止部屋』だ。そこに実は扉があるんだが全く動かなかったんだよ、そういう事か・・・。」 海斗「畜生・・・、親父にやられたぜ。」 橘「じゃあやはり家と学校が繋がっていてここが隠し通路って訳だったんだな。」 琢磨「大きく一歩前進したな。」 守「でも大切なのはここからだ」 圭「進もう。」 光明は慎重にドローンを動かして行った、怪しそうな場所を知るため兄妹に案内をお願いすることにした。明らかに怪しいのは他の階にある立入禁止部屋なのでそれらを捜索していく事にした。まずは2階にある部屋を探すことに。 大広間にある大きな階段を上るとまた廊下が広がっていた。そこをゆっくりと進む。奥の一角
-⑰大きな一歩- 夜が明けようとしていた、基本的な潜入作戦は深夜に行っているのでとても小さなドローンは見つからない限りほったらかしにしておいても大丈夫な状態だと言える、なので光明は海斗や結愛の了承の下、義弘の秘密の図書館、いや書斎の天井にドローンを停めてその場を監視することにした。しかしもうすぐ早朝補習が始まる時間だ、停まったドローンは録画体制に入った。 忘れてはならない事だが彼らは高校生でこの学校はありとあらゆる物を投げ捨ててでも大学受験に熱を入れている場所だ、補習を欠席したらどういった制裁があるか分からない。伊津見のクラスメイトが銃殺されたのも事実だ、全員は素直に補習に出席しているフリを可能な限り行った。しかしその裏で義弘のみだけが入れる立入禁止部屋の大部分となる書斎の監視もできている状態だ、これは大きな一歩と言えよう。 早朝補習は講師陣による補習でまだ教師は出勤してきていない・・・、はずだった。ただ今日はいつもと違って学園の講師教師全員が朝一から出勤していた。やたらと黒服もうろついている、明らかにいつもと様子が違う、貝塚財閥で何かがあったのだろうか。 結愛は不本意ながら貝塚の人間であるので通りかかった黒服に尋ねてみることにした。結愛「おはようございます、黒服さん。」 黒服「・・・。」 黒服は深夜からずっと巡回していたのだろうか、意識が朦朧としている様だ。結愛はもう一度話しかけてみた。結愛「黒服さん?」 黒服「あ!結愛お嬢様!おはようございます!大変失礼致しました。申し訳ございません。」 結愛「おはようございます、朝から如何なさいましたの?」 黒服「・・・と仰いますと?」 結愛「講師の方々に加えて教師の方々、ましてや黒服の皆さんが全員朝からいらっしゃるなんて異様ですわ。」 黒服「恐れ入りますが私は存じ上げておりません、昨夜村岡黒服長に残業を頼まれただけなのです。」 結愛「村岡さんが?!あの、働き方改革にかなり真面目な村岡黒服長さんが?!」 黒服「はい、私も耳を疑いました。」 結愛「分かりましたわ、ありがとうございます。今日は構いません、私から村岡さんに伝えますので今日は上がってくださいませ。」 黒服「はっ、失礼いたします。」 黒服は安堵の表情を浮かべその場から離れていった、暫くして別の黒服が近づいて来た。 結愛は大人
-⑱会長- 元に戻った結愛が守たちをジロリと見た。結愛「何だよー、今のは俺んちの黒服のリーダーの一人だよ。性格は優しいんだが目がいかついから少し苦手なんだよ。」 守「黒服長って何人もいるのか?」 結愛「一応シフト制って事になってるが基本的には交代制だ、後俺が知ってるの黒服長は2人いるよ。」 圭「それより会長って?」 結愛「俺のじいちゃんな、家や会社にあんまり顔を出さないが外出する時は何人もの黒服を連れていることが多いんだ、ただ目立つのが嫌いだから少人数のことが多いんだよ。」 琢磨「侵入者って聞いたぞ。」 結愛「ああ・・・、じいちゃん他方から命を狙われやすくてよ、会社内にも侵入者がいる事なんて日常茶飯事なんだよ。いつもはひっそりと別宅に住んでるんだが・・・。」 その時、窓の外からけたたましいエンジン音がした。どうやら真っ赤な外国産のスーパーカーの様だ。結愛「あ、じいちゃんだ。」 橘「いや、逆に目立たね?!」 車のガルウィングが開きサングラスにハワイアンな恰好をした老人が降りて来た。光明「やっぱ目立たね?!」 老人、いや会長の貝塚 博(ひろし)は結愛に向かって手を振った。博「おー、結愛ー、元気だったかー?」 結愛は辺りを見回してから手を振り返した。結愛「おー、じいちゃん!久しぶり!」 琢磨「会長だよな・・・。」 守「フランクだな・・・。」 結愛「じいちゃん堅苦しいの嫌いだからな、他の大人がいない限りは俺もじいちゃんに合わせてんだよ。」 圭「理事長とキャラ全然違うね・・・。」 海斗「だから会う度に喧嘩が多く・・・。」 義弘「父さん!こんな所で何しているんだ!家で待ってたらこんな所に・・・、先に連絡ぐらいしろよ!服装だって貝塚財閥の会長らしくない、会う度に言っているがいい加減にしてくれ!」 博「相変わらず堅苦しいなお前は。いつも言っておるだろう、いつどこでも大切なのは人だというのに自分の考えのみが正しいと思うからそう怒鳴るんだ。」 義弘「この学園と財閥を作ったのは私だ、ここは私のもので、ここでは私がルールだ。名ばかりの会長である父さんにどうこう言われたくない。」 博「だからって若者の青春を奪う権利はお前にも、いや誰にもない。ここには食堂などの生活、そして部活動に必要な施設が全くないじゃないか、昼休みを含んだ休み時間が少なす
-⑲贈り物-羽田「お嬢様、これを。」 結愛「どなたからですの?」 羽田「会長からでございます、くれぐれもご・・・、いえお父様には内緒とのことで。」 結愛「分かりましたわ、ありがとうございます。」 羽田はその箱を結愛に渡し、すぐに立ち去った。結愛はすぐにその箱を開け中身を確認した、結愛は中身を確認して震えていた。ただ事ではない事をそこら辺にいた生徒全員が察した。琢磨「お、おい・・・、大丈夫なのかよ。」 結愛は質問に答える事無く震え続けた。そしてにこやかに笑った。結愛「これ欲しかったんだよー、ずっと探してたんだ、じいちゃん流石だぜぇ!この限定フィギュアずっと前から欲しかったんだよねー。」 生徒「は、はぁ・・・。」 お嬢様なのにまさかのヒーローもののフィギュアが大好きな奴だったとは、守や光明は呆然としていた。しかし、贈り物はそれだけではなさそうだった。 海斗が物凄い剣幕で教室に駆けよってきた。海斗「おい、結愛!これ見たか?!」 結愛「何だよ、お前が好きなバンドのベストアルバムじゃねぇか。」 海斗は博から自分へのプレゼントの箱を見せてきた、本当の贈り物は奥底に隠されていたのだ。 結愛は奥底の厚紙を剥がし、中身を確認した。それはそれは相当価値のあるものであった、博からの『自分達でどうしようもできない時に使いなさい、おじいちゃんからの愛情を受け取っておくれ。お友達を大切にね。』とのメッセージと共に。 博からの本当の贈り物、それは『貝塚財閥全権一週間強奪券』--その名の通り義弘が握る貝塚財閥の全権を1週間自分の物に出来るチケットだ。因みに義弘には拒否権は無いらしい、財閥の状況を察した博を含めた貝塚財閥の大株主たちが義弘の暴走を抑える為に作ったものだった。使うためには義弘、黒服、若しくは大株主の1人にこのチケットを渡す必要がある。そして義弘の手に渡った時点から一時的に1週間貝塚財閥の全権を握ることが出来る事になっている。早速結愛は博にお礼のメッセージを送った。結愛(メッセージ)「おじいちゃん、貴重なプレゼントありがとう。それに久々におじいちゃんに会えて俺も兄貴も嬉しかったよ、今何処にいるのかな?また、会いに来てね。」 すぐに博から返信が来た博(メッセージ)「おじいちゃんも会えて嬉しかったよ、贈り物受け取ってくれたかな?今おじいちゃんはハワ
-⑳秘密の部屋にて- 光明と結愛は先日、義弘の秘密の図書室、いや、書斎に仕掛けたドローンの映像をじっと見ていた。普段義弘以外出入りする事がない空間、勿論ずっと同じ映像が続いている。義弘が来ない限り当たり前の事なのだが2人は飽きてきていた。しかし、結愛は光明が自分の為に頑張ってくれていると思い余計な事かと発言を控えていた。その時だ、映像に義弘の姿が現れ、秘密の書斎で彼はパソコンに向かっていた。電源を入れ分厚い本を何冊も持ち寄り何やら真剣に調べものをしている、よくよく考えたら義弘は普段から知識やうんちくを会話に色々と差し込んでくる事が多かった事を結愛が思い出した。結愛「親父って思ったより勤勉だったんだな・・・。」 光明「感心している場合かよ。」 結愛「悪い悪い(わりいわりい)、何の資料を見ているか見えるか?」 光明「やってみるわ。」 光明は映像を解析し、義弘の手元を拡大した。ただ何冊もの書籍は全て義弘の陰になってしまっているので内容は全く見えない。なのでパソコンの内容を見えないかと色々とやってみたが全然確認できなかった。 光明の横で結愛は現場のドローンから送られる生の映像を見ていた。そこにも義弘が現れた。パソコンと分厚い本を数冊持ってきて調べものをしている。光明に操作方法を教えてもらい結愛は義弘の手元を探ろうとした。やたらと分厚い本が5~6冊、また比較的薄い本が1~2冊ある。結愛「あれは・・・。」 光明「ん?どうした?」 結愛「あの本なんだけどよ・・・。」 光明「どれどれ・・・。」 光明は自分が見ていた映像を一時停止し、結愛の操作していたパソコンのマウスに手を伸ばした。マウスにしては柔らかい物に手が当たった。結愛「お・・・、おい・・・。」 光明「ん?」 マウスの上で2人の右手が綺麗に重なっている。光明は慌てて手を離した。2人とも顔が赤くなっていた。光明「悪い、すまねぇ。」 結愛「まぁ、良いけどよ。」 それから暫く2人とも心臓の鼓動がバクバクと鳴っていた、本題に戻るのに何故か時間がかかる。 その間に映像の中の義弘はパソコンが並ぶ机の端っこにあるプリンターの方に移動していった、大きめの紙数枚に何かを印刷している様だ。その間に結愛はパソコンの前の書籍を見た。各教科ごとの大学入学共通テスト(旧:大学入試センター試験)の過去問題集と高等学
-㉑義弘のやり方- 結愛は誰にも気づかれないようにしつつも海斗に連絡していた、やはり時には兄貴を頼りたくなるもんだという事なのだろうか。誰かに相談したそうな素振りを全く見せていなかったので皆が勝手に強い人間なんだと勘違いしてしまっていたのではなかろうか。結愛「兄貴・・・。」 海斗「ん?」 結愛「今話せないか?」 海斗「勿論大丈夫だ。」 結愛「実はよ・・・。」 結愛は最近思っていることを海斗に打ち明けた、主に先日義弘の書斎で見かけた書類や書籍類についてだった。以前もこんな事があった様な無かった様な・・・。 義弘が彼なりに教育について真剣に考えてるのではなかろうかと思い始めた、それが故にしばらくは学校でも家でも可能な限り義弘の様子を観察しようと企んだ。結愛「以前、中学受験の過去問や資料を大量に調べて親父なりにプリントにまとめていただろ?デジャヴ的なものを感じてんだよ。」 海斗「確か親父の秘密の書斎・・・、だっけ?えっと・・・、そこで見かけたってやつか。」 結愛「あん時さ、物凄い量のプリントを押し付けられた事を思い出してよ、少し辛かったなー・・・、なんて。」 海斗「分かるわ、これからこの学校もあんな感じになるのかな。」 結愛「俺嫌なんだけど、皆を巻き込んじゃってあんな事したくねぇ。」 海斗「毎日毎日テストが夜遅くまでで寝る間も無かったな。」 結愛「俺普通の学校生活を送りたかっただけなのに・・・。」 海斗「だから取り戻そうや、俺たちの高校生活を。」 結愛「ああ・・・、うん・・・。」 海斗は別に相談する事が結愛にはあるのではないかと思えて仕方なかった、しかし今はやめておこう、最強になって学校生活を取り戻すことに集中するんだ。 一方、光明は秘密の書斎に仕掛けたドローンの映像をずっと見ていた。義弘が過去問を調べ尽くしていたあの時以来動きは全くない。代り映えのない退屈な映像が続く、ビルの管理人の仕事ってこんな感じなのかなって想像した。その時校内のスピーカーから声がした、義弘だ。すると結愛が耳を押さえながら入って来た、続いて伊津見も。義弘「皆さん、深夜の学園でいかがお過ごしでしょうか、理事長の貝塚義弘です。今から私自ら大学入試に向けた特別授業を開講しようと考えています、受講希望者は2階の特別教室までお越しください。」 伊津見「うるせぇな、
のためだ。-㉒伊津見の経験- 4組の伊津見は義弘による深夜の特別授業に強制参加することになり、筆記用具片手に渋々特別教室へと向かった。左耳には光明に渡された無線機、そして胸元に小型マイクを身につけスパイとして参加する。特別教室に入ると分厚い資料を配布し終えた義弘が教卓のすぐ近くに座っていた。ノートパソコンを教室に設置されたプロジェクターに接続して黒板代わりに使うのだろうか、大きなスクリーンを広げていた。伊津見達が教室に入ると義弘が歓迎の言葉をかけた。義弘「深夜の特別授業へようこそ、ここでは私自ら過去数年分の大学入試センター試験、及び大学入学共通テストの過去問を調べ上げ関連づけた資料を一緒に見ながら学んでいくものです。『かなり充実した』内容になっているはずなので存分に学んでいって欲しいです。席は決まってませんので見やすい所に自由に座ってくださいね。」 珍しい位に柔らかな笑顔で出迎えられた生徒たちは少しゾクゾクとした気分となっていた、日ごろのイメージと真逆だからだ。しかし各席に配布されている資料の厚さがこれから行われる授業の厳しさを物語っていた。義弘「各席に配っているのが私自ら調べ上げ、資料と紐づけたお手製のプリントです、最初から試験を解けと言われても無理なものは無理、解けないものは解けないものです。ですので解答・解説や資料を見ながら一緒に勉強していきましょう。元々白黒表記になっている問題や資料の写真は見やすくカラー表記にしてみましたのでお役に立てて頂ければ幸いです、勿論そちらは差し上げますのでご自由にお持ち帰りください。お役に立てて頂ければ幸いです。 私はこの授業の為に眠気覚ましのブラックガムをドカ食いしましたので、徹底的に勉強できたらと思います。それでは1教科目の国語から始めていきましょう。」 授業が始まった。一斉に分厚い資料を開いていく。5年前のセンター試験の過去問の大問①が現れた、義弘は生徒たちに小問や問題文を読み聞かせていく。義弘の声は優しさに満ち溢れ皆聞き入っていた。 授業が順々と進んでいく、皆重要な場所を赤ペンや蛍光ペンでチェックしていき通常の学校の授業の様に生徒たちは集中していった。義弘の解説は思った以上に分かりやすくそこにいた全員が次のクラス決めの摸試の時、ダークホースになってもおかしくない程になっていった。 学園が朝日に照らさ
-⑮カレーと驚きともうひとつの秘密と- ある朝、今日はパン屋の仕事も休みなのでゆっくり出来るなとうんと体を伸ばした。朝一でシャワーを浴び先日のカレーを食べようかと温めていく。スパイスの芳しい香りが部屋を包み光の空腹を誘う、涎を飲み込みながら皿に白飯をよそっているとインターホンが鳴った。カレーはお預けかなと思いながら玄関のドアを開けた、ネスタだ。何か忘れていたような気がするが何だったのであろうか。ネスタ「あーら、この前の約束忘れてたのかい。やだよ、熟したカレーをご馳走してくれるって言ってたじゃないか。」光「そうでした、丁度温めていたので良かったらどうぞ。」ネスタ「そう来なくっちゃね、頂くよ。」 光は米だけには拘りを持っていて家で食べる米は必ず新潟県魚沼産のコシヒカリと決めていた。異世界に来た今もその拘りは変わらず、念の為『作成』で作っておいてアイテムボックスに入れておいたのだ。その拘りのコシヒカリを皿によそってカレーをかける。 2人はテーブルに向かい合わせて座りカレーに食らいつきだした。ネスタ「うーん、本当に美味しいね。食が進んで匙が喜んでいるさ。」光「大袈裟ですよ、市販のカレールーを使ってますもん。」ネスタ「ゲオルさんのお店に売ってあるやつかい?」光「全体的に黄色のあれです。」ネスタ「リンゴと蜂蜜で有名なやつだね、あの辛口でないと旦那が食べないんだよ。」光「そう言えば私旦那さんにお会いした事無いですね。」ネスタ「あの人警察で働いてるからよく職場に呼び出されるんさ。」光「警察?!へぇ、そうなんですね・・・。」 そう言っているとインターホンが数回連続で鳴り響いた。勢いよくドアが開く、聞き覚えのある男性の声が響いた。男性「ネスタ、探したぞ!ここにいたのか、腹が減って死にそうだよ。」ネスタ「あんた、光ちゃんに失礼じゃないか!」男性「ああ、申し訳ない。腹が減っててつい。」光「林田さん?!何でここに?!」ネスタ「何言ってんのさ、うちの旦那じゃないか。私ネスタ林田だもん。」 思った以上に世間が狭すぎる、ご近所付き合いも大事にしないとなと改めて思った。そうこうしていた時、林田がお腹をさすりながら鼻をクンクンさせていた。林田「光さん、カレーですか。」光「・・・食べますか?」林田「ありがとうございます、カレー大好きなんです!!」 また
-⑭初めて会った日本人- 話を聞いているとどうやらこの林田という刑事、光と同じ経路でこの世界に転生してきたらしく、同様に神様からの色んなプレゼントをもらっていたらしい。言語も日本語に自動翻訳されていたので光の免許証も日本語のまま見えていたそうだ。林田「では、部下を待たせていますので失礼致します。」光「あの警部さん。」林田「林田で良いですよ、どうされました?」光「またお話しできますか?実は転生者は自分だけだと思っていたので不安だったんです。」林田「勿論、これが私の連絡先です。」 林田は光に名刺を渡した、携帯の番号とメールアドレスが記されている。こっちの世界で使う事は無いと思っていたので携帯と充電器はアイテムボックスにしまっていた。 林田たちが光の家を去った後、光は家庭菜園の雑草を取り除き水やりをして街に出かけて行った。遂に車・・・、というより軽トラを見に行くのだ。 軽トラ屋は街の入り口付近にあった、因みに乗用車は王都に行くと手に入るらしい。しかし、そこまで大きい車は必要ないしいざという時に農業の手伝いができたらという気持ちから光は軽トラを買う決心をしていた。 光は看板を見て後ずさりした。どこからどう見ても日本の国産車メーカーの看板に見える。ただよく見てみたら・・・。光「ス・・・、ズ・・・、タ?スズタなのね?ははは・・・、どこまで日本に寄せてんの・・・。」 そう呟きながら店に入った。普通の荷台が載っているタイプから緑色のほろが付いているもの、ダンプタイプなどの種類が揃っていた。ただどれも一律100万円と言うのだから驚きだ。 因みに皆が大抵軽トラを買うので軽トラ屋と呼ばれているだけで実は軽乗用車も無い事は無い。箱型のバンタイプのものもあるので選択肢は多い、ただそれらも全部100万円だそうなのだ。奥から店主が出てきて声をかけた。店主「いらっしゃい、どのような物をお探しで?」光「荷物が沢山乗るものを思ったので軽トラが良いかなと思ったんですが・・・、どれも一律価格なんですね。」店主「その方が分かりやすいでしょ、ハハハ・・・。」 まさかの理由に光は顔が引きつっていた。 気を取り直して車を見よう、今思えば軽トラだと雨の時に困る。ではほろが付いている物にしようか、いやそれだとバックの時後ろが見えづらい。ダンプタイプは・・・、正直いらない機能だ。箱
-⑬無知からの脱却- 隣国の王が共通で言っていた『一刻を争う』問題とは何なのだろうか、正直恥ずかしくて聞く勇気がない。周りを見ると国の街の全員が知っているみたいで光にとってはむしろこの事が一刻を争う問題となっていた、パン屋で仕事している時もミーシャとラリーが深刻な表情で話し合っていたので自分も早くニュースを見える環境にしなくてはと仕事が終わると一目散に家路を急いだ。因みに今日は半休だ。 家に帰るとすぐにテレビの電源を入れた、相変わらず日本のテレビ放送が流れている。光はこの世界のテレビ放送を見る為にチャンネルを再登録する事にした。光「えっと・・・、放送スキャンは・・・、これか。」 家電の操作や設定は得意な方で自分一人でやってのけてしまう事が多く、今回はその特技が生かされ助かった。 放送スキャンをやり直しても何故か日本の放送が受信されるようになっている、ただ数チャンネルほど追加されていてそれがこの世界のテレビ放送だとすぐに理解できた。見える放送局の選択肢が多いので助かる、神様のお陰だなと笑みを浮かべた。 そうこうしているうちにニュースの時間となったみたいだ。キャスター「こんにちは、この時間のニュースをお知らせいたします。」 最初は隣国の王がこの国を会合の為に訪問している事だった。映像もはっきりと残されているが撮影クルーっぽい集団は見かけなかった。まぁ、たまたまだろうと光は受け流した。 次は雨不足で野菜の不足が目立ち、市場価格が高騰傾向にあると報じられていた。確かに市場で見かけた野菜は日本にいた時より少し高かった気がする、家庭菜園を始めて正解だ。後で野菜たちの様子を水やりがてら見に行ってみよう。 最後に隣国と共通して起こっている問題なのだが最近町はずれの山々で走り屋による騒音問題があるらしい。そう言えばネスタと銭湯に行った時道路にタイヤ痕が数か所あったような・・・、ただこの辺りの人たちは農耕用の軽トラに乗っている人達がほとんどで乗用車はちらほらとしか見かけず、走り屋仕様の車は全く見かけない。別の街からわざわざ走りに来ているのだろうか、暇な人もいるんだなと光はコーヒーを啜った。きっと国王同士が会合で話し合っているのはこの事なのだろうと思っていた時、インターホンが鳴った。玄関を開けるとそこには警官らしき男性が2名立っていた。光に罪を犯した覚えはない。
-⑫突然の訪問- 朝一、光が残っているカレーを一人前食べ保存容器に入れてからパン屋の仕事に向かっている頃、街中の様子が慌ただしくなっていた。その様子は少なくとも催し物での盛り上がりとは全くもって違っていた。市場は片付けられお店は閉店していて街の真ん中では国旗のデザインが描かれたテントが四方に張られていた、光は騒ぎの中にラリーとゲオルを見つけたので話しかけることにした。ゲオル「もうすぐご到着みたいですよ。」ラリー「早く済まさなくてはいけませんね。」光「ゲオルさん、店長、おはようございます。」ゲオル「光さん、おはようございます。」ラリー「おはよう、丁度良かった、人手を探してたんだよ。」 何かただ事では無い事が起ころうとしているのだという事は光にも理解できたが、正直言って何が何だか分からなかった。一先ず、自分に出来る事は無いかと尋ねた。ラリー「店に荷物を置いてきてあっちのテーブルの準備を手伝ってやってくれ。」 ラリーが指差したテーブルでネスタやパン屋で働く女性陣が料理の準備をしている。見回してみるとどうやら中華料理から構成されたメニューになっているらしい、それも豪華な物ではなくいわゆる『町中華』の中華料理だ。光「おはようございます、何があるんですか?」ネスタ「あっ、光ちゃん、おはよう。あたしらもさっき聞いたばっかりなんだけどね、王族の方々が街に来るみたいなんだよ。今日はこういった料理が食べたいって今朝文が来たみたいでね、初めて作る料理ばかりで大騒ぎさ。」光「でもどうやってここまで作ったんですか?」ミーシャ「文にレシピが載っていたからその通りに作ってみたんだけど、あんたこの料理知っているかね。」光「私の祖国でもちょこちょこ食べる料理ですけど。」ドーラ「助かりました、申し訳ないんですがお願いがあるんです。」光「私で良ければ。」ドーラ「料理が出来てきたのは良いんですけど、私たちが食べたことない物ばかりなので味が大丈夫なのか不安でして・・・。」 言ってしまえば試食を頼みたいとの事だった、光は今朝カレー1人前しか食べていないので丁度お腹が空いてしまっていた。鍋やフライパンには炒飯や天津飯といったご飯ものを中心に餃子や春巻きなどの天心、麻婆豆腐、青椒肉絲、そして杏仁豆腐といったラインナップ。王族は何人来るのだろうか、結構量があるので相当な人数だろ
-⑪大食いが役に立つ- 店長のラリーは聞き返した、身近に自分の事を大食いと自信満々に言う人がいる訳がないとずっと思っていたからだ。確かに大食いの番組はこの世界にあったりはするがそれもやらせやはったりの塊なのだろう、1人の人間が本当にあれだけの量を食べてしまう事を信じる事が出来なかった。 しかし、目の前の新人従業員は出来ると言い張っているのだ、よしそう言うなら試してやろう。丁度売れ残りのパンがかき集めたものがあったはずだ。ラリー「光・・・、そんなに言うなら俺が作った大食いメニュー、やってみるかい?」ローレン「店長、ウチそんなの無かっただろう、あたしゃここ長いけど見たことないよ。」ウェイン「まさかあの堅くなりかけてるパンを出すのか?」ラリー「ああ・・・、ただそのままでは出さない。これも以前から考えてた新作だ。無駄になりそうな食い物を可能な限り減らす方法を探してたんだ。折角だ、試しにやってみるさ。ウェイン、すまんが手伝ってくれ。光、食えなくても別に罰はない。こっちは一応売れ残りを出すんだからな、逆にもしも食えたら給料2倍だ。約束しよう。」ウェイン「ああ・・・、やってやるさ・・・。」 給料2倍・・・、別に金に困っている訳ではないけど(光の口座には1京円入っているため)、良い響きだ、心がうずうずしてくる。それに失敗しても何も問題なし、そんなの断る理由がどこにあるのだろうか!!!光「店長・・・、今すぐ持ってきて下さい!!!」 ラリーはその声を皮切りに厨房へと駆け込んで行き調理を始めていった、売れ残ったパンを細かく刻んでいく。その作業をウェインに任せると自分は大量のホワイトソースを作って行った。 刻んだパンをバターを塗った大きなグラタン皿に盛り、鶏もも肉の切り身やベーコンをラリー特製のホワイトソースやチーズをこれでもかと言わんばかりにかける。 最後にオーブンで焼いて大きなグラタンが完成した。ラリー・ウェイン「出来たぞ!!!食えるもんなら食ってみろ!!!」 直前まで通常通り接客の仕事を行っていた光を呼び出し光の前に出来立て熱々を提供した、店も丁度午前中の営業時間を終えたところだったので店にいた全員が光を見守った。光「いっただっきまーす!!!」 光は嬉しそうな顔で食べ始めた、熱々のグラタンが口の中に運ばれていく。光「おーいしいー!!!あっ、鶏肉とベ
-⑩異世界での初仕事- ネスタの家で光は朝8時に鳴るようにアラームを設定していた。起きれなかったら困るので設定しておいて正解だ、昨晩ネスタにやたらと飲まされたので少し2日酔い気味だ。異世界から来た新しい友人の事が嬉しかったのだろう。この世界では平均的らしいが思ったより酒が強い人達ばかりで戸惑った、因みに光は日本では強い方だったはずなのだが。 2日酔いを気にして酔い止めと胃薬を『作成』し、ゲオルの店で買っておいたペットボトルの水で流し込んだ。そこにネスタが光を起こしに来た。ネスタ「おはよう、朝ごはん出来てるよ。下に降りてきな。」光「あ・・・、おはようございます。」ネスタ「昨日は楽しかったね、今夜は楽しみにしているよ。」光「今夜・・・、何でしたっけ?」ネスタ「もう、自分が言い出した事も忘れたのかい?カレーだろ。」光「あ、ホントだ。」ネスタ「もう、あんたしっかりしなきゃだよ、今日から仕事なんだから。」 本当だ、今日からパン屋での仕事が始まるのだ。光は服を着替えネスタと朝食を取った、一汁三菜の和食。温かなおふくろの味。お出汁の効いた優しいお味噌汁が体に沁みる、それだけで白米が進む。そしてホカホカの焼き鮭が嬉しい。これぞ日本の朝ごは・・・、おっとここ日本じゃなかった。ネスタ「すまないね、今朝用事があって家まで送れそうにないんだ。」光「大丈夫です、まだ余裕がありますから。」 朝食を済ませ玄関でネスタに見送られた光はネスタに手を振って自分の家へと向かった、一目から目立たない場所に移動して。光「えっと・・・、『転送』が出来たから『瞬間移動』も『作成』出来るよね。」 光は両手を前に出しステータス画面を出した、そして『瞬間移動』スキルを『作成』して早速右手を前に出した。初めての『瞬間移動』だ。光「おお、こりゃ便利だわ。ただやっぱ人前じゃ目立つから普段使い用に車・・・、というか軽トラ買わなきゃね。」 この辺りの住民は主に軽トラに乗っている、乗用車は街の人間だけが乗るのでこの辺りではやはり目立つ。 農作物に水をあげると光は家を出た。街に移動し、大きなバケットの看板が良く見えるパン屋を目指した。 パン屋にはすぐ着いた、店長のラリーに裏にある従業員通用口、そしてスタッフルームへと案内された。スタッフルームでは個人用にロッカーが用意されており、そこに荷物を
-⑨情報を得、入浴する- ガイが光の家を通り過ぎると情報を収集する時間にした、直近の情報は新聞以外なさそうだ。今朝、ナルがお試しとして持ってきた今朝の朝刊を見ることにした。1面にはネフェテルサの王族についての情報が記されていた。ただ、『どこかの北の国』みたいにずっと「~様万歳」的な文体が続いている訳では無かった。 2面を開いてみることにした、地域の物価や農作物についての情報が事細かに書かれている。どうやらご近所さんの畑で東京ドーム2個分位の大きさのキャベツと南瓜が取れたらしい、いや収穫する前から目立つだろうと誰もが突っ込みたくなる記事だった。 そう言えばこの世界の人たちは娯楽や趣味はどうしているのだろうか、周囲を見渡せば皆ずっと街での仕事や農業をしている人たちばかりで兎に角忙しいばかりの国なのかなと疑問に思いながら3面に移った。光「3面はテレビ欄・・・、テレビ欄?!テレビあんの?!」 その時インターホンの音がした、『御用の方はこちらのボタンを押してください』の札を立て掛けておいて正解だと思いながら玄関を開ける。光「はーい。」ネスタ「おっ、本当に来たね。これも魔法の1つかい?あたしゃ初めて見たよ。」 この世界にはいわゆる呼び鈴という者が無く用があれば大抵玄関の前で名前を大きな声で叫ぶことが多いらしい、ノックをする人はちらほらしかいないそうだ。光「ネスタ・・・、さん・・・、おはようございます。」ネスタ「おはよう、新居を見に来るついでに夕飯を作りに来てやったよ。」光「そうだ夕飯・・・。」ネスタ「ん?何か作っていたのかい?」光「実はカレーを仕掛けていたんです。」ネスタ「カレーかい、あたしも大好きだよ。」光「良かったら、明日食べに来ませんか?」ネスタ「どうして明日なんだい?」 どうやらこの世界ではカレーを1晩置くと美味しくなるという知識というより概念がならしい。一先ず出来上がったばかりの物をネスタに食べさせた、一応寸胴鍋で作ってあるから心配は無いのだが念の為光は普通の1人前の量で我慢し明日まで置いておくことにした。ネスタ「そう言えばこの家、銭湯からかなり離れているね。ずっとシャワーで過ごすつもりなのかい?」 そうだ、思い出した。ネスタの家には風呂が無く、入浴はどうしているのだろうかと疑問に思っていた所だった。ネスタによるとこの国の人はシ
-⑧食料を得る- 新聞屋は光の必死な顔に少し引き気味だった、光はかなり強めに新聞屋の腕に掴んでいる。新聞屋は後ずさりしながら光に告げた。新聞屋「わ・・・、分かりました。一旦店に戻ってきます。タイムカードを押してこないといけませんので。すぐに戻って来ますからちょっと待っ・・・。」光「早く・・・・、早くしてください!!!お腹が空いて我慢できそうにありません!!!」新聞屋「やたら大きな魔力保冷庫(冷蔵庫)があったのはそういう理由だったのですね、分かりましたから手を放してください!!!」 ナルと名乗ったその新聞屋は逃げる様に光の家を出て店に急いだ。流石に大食いだからって女性1人で大鍋に並々入ったコンソメスープをすぐに平らげることは無いだろう、ただ急ぐしかない、それがナルに残る唯一の選択肢だった。 光はナルが家を出た後、一心不乱に鍋のスープを食べた。こんなに温かく優しい味のスープは久々だ。落ち着いてイングリッシュマフィンをもう1個焼こう、スープにつけたらぴったりだ。オーブントースターの電源をいれ、テーブルのスープに戻る。やはり美味しい、光は夢中になって食べた。光「美味しすぎる・・・、ナルさん・・・、本当に新聞屋さんなの?!」 鍋のスープが底を尽き、光は椅子にもたれた。その瞬間ナルが家に必死の形相で入って来た、空っぽになった鍋を見て開いた口が塞がらない。ナル「急いで何か作ります、待っててください!!!」光「は・・・、やく・・・、お・・・、腹・・・、が空い・・・、て・・・、死に・・・、そう・・・。」 ナルは急いでエプロンを締め米を研ぎ始めた、土鍋に米を流し込みつけ置きをする。その間に鍋いっぱいの水に昆布と鰹節を入れて出汁を取る、アジの干物を魚焼きグリルに入れると火をつけた。IHクッキングヒーターを見ながら声を掛ける。ナル「それにしても不思議な魔法具ですね、何の変哲のないただの板に鍋を置いていると熱くなってくるなんて見たことないですよ。普通は火属性魔法を薪に当てて火をつけるのですが・・・、これはあなたの魔力ですか?」 軽トラと同じでガスコンロ的なものを使うときにも魔力が必要らしい、やはり改めて思ったがこの世界は何をするにしても魔法が絡んでくるみたいだ。 そんなこんなでナルによる追加の朝ごはんが出来上がった、先程と打って変わって和食の朝ごはんだ。土鍋で炊
-⑦本格的な生活と光の秘密- 店主は周りを見回して光に聞いた。店主「そう言えば家財道具や家具はどうされるのですか?何なら当店で揃えさせて頂きますが。」 『作成』で作ったり日本のものを『転送』しようと思っていたから何も買っていない。光「注文しているものがもうすぐ届く予定でして、足らないものは作ってみたりしようと思います。」店主「ご自分でですか?!」 店主はかなり驚いている様だが日本にいたときはDIYにハマっていた時もあるので問題ない。 店主と別れると光は『転送』スキルを使用し日本にある自分の家具や家財道具、そして家電を新居に設置した。光「さてと・・・。」 光は屋根に登り巨大なソーラーパネルを2枚『作成』し設置した。先ずは雨の日の為に蓄電池を取り付け、家の中に配線を通した。コンセントも『作成』して設置する。電灯は可能なかぎり蠟燭の明かりに色を合わせたものを選んだ以外は日本から持ってきた家電をコンセント繋げた、一先ず日本から『転送』した大きめの業務用の冷蔵庫の電源を入れ蓄電池に電力が貯まるまでとりあえず街の中で食料を中心に買い物を行う事にした。埋め込んだソーラーパネルに合わせて屋根の色は黒に塗って蓄電池は木箱に隠す、これで目立つことはないだろう。 市場で新しく仕入れた食料を冷蔵庫に詰め込むと、元々冷蔵庫に入っていた食料の鮮度等を確かめた。明日使えば何とかなるものも含め全て大丈夫そうだ。 さあ、光の本格的な「特に何もしない異世界生活」の始まりだ。光「さて、これから本格的な異世界生活の始まりだ、やるぞー!」 次の日、今日から新居での新生活の始まりだ。光は朝イチのモーニングルーティンの1つにしている朝シャンを済ませ洗濯機を回し、IHクッキングヒーターでハムエッグを作りオーブントースターでイングリッシュマフィンを焼くことにした。香ばしい香りが部屋を包む、因みに光はパン類はカリカリサクサクと音がするまでしっかり焼く派だ。 一先ず今朝のニュースを確認する事にした、昨日家電を設置した時に調べたのだが奇跡的にテレビ放送は受信できるらしく、光は助かっていた。 光は朝のニュースを確認する事にした、ただ日本の放送を受信しているのだ、日本のニュースが当然の様に流れる。そう言えばここの人間は情報をどうやって共有しているのだろうか。新聞・・・、的なものがあるのだろうか