林田の『連絡』による電話に驚きを隠せない刑務所長に林田が質問した。
刑務所長(電話)「都市伝説の通り・・・。」
林田「今はそんな事言っている場合じゃない、お前の所に貝塚義弘がいただろ。パワハラ等で捕まった貝塚だ。」 刑務所長「あいつなら逮捕された次の日に重岡とかいう投資家が保釈金を払って速攻出て行ったじゃないか、全国でニュースになっていたぜ。」林田がただ度忘れしていたのだが、刑務所長が改めて言うには義弘の指示で保釈金を支払った重岡が車で義弘を県外の山奥に連れて行くとそこからは2人とも音信不通となったとの事で、新たな悪だくみを行っていた可能性があった。そこで結愛と光明、そして羽田を含む多くの黒服達が突然消えたと聞き、何らかの方法で追って来たかもしれない。
林田「因みに結愛さんはどうやってこの世界に?それとここに来てからはどうやって?」
結愛(無線)「これも数年前の話です、日本で忙しくしていた私が久々のゆったりとした休日を光明と楽しんでいた時、突然私たちの目の前に幻覚の様な竜巻が現れてそこにいた全員が吹き飛ばされたんです。そのあと目が覚めたらこの世界に。『作成』のスキルもその時知りました、それから少しの間バルファイ王国にある魔学校に通いながらこの世界の事を少しずつ調べて行ったんです。それから貝塚財閥の教育支援の一環として『転送』で持って来た財産の1部を寄付してネフェテルサ王国の孤児院を貝塚学園の小分校に、またバルファイ王国の魔学校を高等魔学校と貝塚財閥の支社にさせて頂いているのです。因みにレースの収益でダンラルタ王国に分校を建設する予定でした。」 林田「なるほど、それは我々にも学園を守る義務がありますね。」その守るべき学園に義弘の魔の手が触れようとしているかもしれない、それは流石に防がなければならない。
その頃、未だトップが⑨番車のまま遂に100周目を迎えようとしているレース場の脇にあるとある施設でバルファイ王国軍の将軍達がひっそりと1人過ごしていた国王を説得していた。バルファイ王国にあるホームストレート横には国王本人が自らの分身を忍ばせていた、分身と言えど思考等が本人とそのまま繋がっているので各々の場所に国王のオリジナルが存在している様な状態となっている。ただ分身は空の鎧に魂を魔力でくっつけているだけのもので、それが仮の姿として一般に公開されている国王の姿とされていた。鎧と言っても食事等の動作は人間と同様に行う仕様になっている。将軍「国王様、恐れながら申し上げます。ダンラルタ王国にて例のクァーデン家に不穏な動きがあるとの連絡がありまして・・・、ただその前に毎年恒例の『アレ』がありますので今すぐレース本部にお戻りいただけますでしょうか。」
バルファイ国王「ううむ・・・、私は派手なのが苦手なので分身に任せてここでひっそりとしていたかったのですが致し方ありませんね。それと元々クァーデン家はバルファイ王国にいた貴族、気を緩めるわけにはいきません。念の為、少しお時間を頂けますか?知恵を授かりにあの人に会う必要がありそうです、何となく嫌な予感がして仕方が無いので。」一方、ネフェテルサ王国のレースコース横、特設の観客席で「勝ち確定」を予見した光が前祝をしていた。
光「私さっきからずっと呑んでばっかりだけど良いのかな?一応・・・、主人公なんだけどぉ!!」
ナルリス「気にしない気にしない、良いから呑もうや。」同時刻、空腹の魔法使いがとある店へと向かっていた。
魔法使い「そろそろ着く頃だな・・・、腹減ったー。」
ルンルンしながら店に入ろうとすると大人数で店内が賑わっているのを目にし、少し待ちを覚悟しながら引き戸を開けた。
それと同時にカバーサの実況がコース全体に響きわたる。カバーサ「レースも100周目になろうとしており、バルファイ王国にあるレース本部で国王様の宣言と同時に毎年恒例の演出がある模様です。相変わらずの鎧姿で誰も素顔を見たことが無いとされる国王様による今年の演出は何なのでしょうか。」
カバーサの台詞が終わるとバルファイ国王の鎧の分身が特設のステージ上で煙玉を落とすと真昼間なのにも関わらず辺りが真夜中の様に真っ暗になり豪華なスターマインの花火が打ち上げられた、安全の為走行中の各車ではライトが強制的に点灯している。ステージ上の煙幕が無くなると同時に鎧の分身と店にいたバルファイ国王が入れ替わり観客達が全員騒然とした、光もその内の1人で先程の魔法使いも店先で同様に驚愕していた。
光・魔法使い「まさか・・・、(光)あの人が・・・、(魔法使い)あいつが・・・、
バルファイ国王だってーーーーー?!」-72 強力な協力-
煙幕が消えると同時にステージ上にバルファイ国王本体が出てきたホームストレートの映像を見る光と、その逆に煙幕が消えると同時に鎧が出てきた店先にいた魔法使いはバルファイ国王を2度見、いや3度見していた。
魔法使い「お前・・・、ずっと黙っていたのか?」
バルファイ国王「師匠すみません・・・、あまり派手に目立つのが得意では無いのです。なので普段は鎧を分身にして過ごしていました、国民に対し私自信を偽るようで気が引けたのですが。」 魔法使い「ははは・・・、お前は昔から変わらんな・・・、パルライ。」今更感を感じるその魔法使い、リッチのゲオルは笑う事しかできなかった」。
パルライ「実はパルライは偽名で、本当はバルファイなんです。センス無いでしょ?」
ゲオル「そこも相変わらず・・・、ですな・・・、パル・・・、バルファイ国王。」 パルライ「師匠やめて下さい、今まで通りパルライでお願いします。それよりお聞きしたい事がありまして。」 ゲオル「俺にか?」 パルライ「知恵をお借りしたいのですが・・・。」一方その頃、競馬場で爆弾を探すプニ達は少し苦戦していた。梶岡が居たら爆弾の場所を教えて貰えると思うのにとため息をついている。ケルベロス達が鼻を利かせて何とか匂いを辿ってくれているが、頑丈な場所に置いているのか、それとも深い所に埋めているのか捜索は難航していた。結愛が何とかならないものかと考えぬき、『捜索』のスキルを『作成』した。
プニ「結愛って器用なんだな、何でも出来そうだし。」
結愛「改めて何なんだよ、気持ち悪ぃな。」 光明「じ・・・、実は俺も思ってた。」 結愛「光明程じゃねぇよ、お前と違って機械に強いわけじゃねぇし。」 光明「あ、そうだった。」 結愛「おい、どういう意味だ。言ってみんかい!!」 レッドドラゴン「おいおい・・・、取り敢えず爆弾探そうぜ。一刻を争うんだ、時間かける訳にも行かんだろ。」 結愛「悪い悪い・・・、つい意地になっちまった、許してくれ。」その時、結愛の持つ無線機から声がした。声の主は林田警部。
林田(無線)「光明さん、光明さんいらっしゃいますか?」
光明「光明です、どうされましたか?」 林田(無線)「羽田さんから機械がお得意だとお聞きしまして、ご協力をお願い出来ますでしょうか。」 光明「すぐ行きます、少々お待ちください。」光明は『瞬間移動』で林田のいる警察署へと飛んだ。
林田「おお・・・、行動がお早いですね。」
光明「一刻を争うかと思って、駄目でしたかね。」 林田「何を仰いますやら、むしろ助かりますよ。」林田は光明に電話の向こうのガヒューを紹介すると早速本題に入った。
林田「実はガヒューさんからクァーデン家の牢屋にて、貝塚義弘が金銭を授受していたのを見たと言っていたのです。贈収賄が疑われます、ダンラルタ王国軍の方々の協力を得てこちらの監視カメラの映像データを押収してきました。宜しければ解析して証拠となる音声を拾い出して頂けませんか?」
光明「分かりました、パソコンをお借りできますか?」光明は林田からカメラのデータの入ったSDカードとパソコンを受け取ると早速解析作業に取り掛かった、光明は解析作業を進めながら林田に話しかけてみた。
光明「それにしてもどうやってダンラルタ王国軍の方々にご協力頂けましたね。」
林田「独自のネットワークとコネってやつですよ。」 光明「さてと・・・、そろそろ終わりますよ。幸い、音声も取り出せそうです。」光明は解析を終えると林田と2人で映像を見ると、大きく舌打ちした。くっきりとあの人物が映っている。
光明「義弘・・・。」
林田「確定・・・、ですね・・・。ゆっくりと見ていきましょう。」-73 証拠-
光明は警察署で解析を終えた映像を林田と確認していると、我慢できなくなったのか結愛が競馬場から『瞬間移動』してきた。興奮からか、それとも火照っているからか顔が赤くなっている。まぁ、今日はそんなに暑くない様に思えるのだが。
結愛「光明・・・、証拠出たか・・・?!出ーたーかーあー?」
光明「お・・・、落ち着けよ・・・、林田さんの・・・、大人の前だぞ!!」 結愛「えっ・・・、コホン・・・、私とした事が。失礼。」 林田「大丈夫ですよ、無線からも会話がちょこちょこ聞こえてましたから。」 光明「取り敢えず見よう、再生するぞ。」光明はノートパソコンのエンターキーを押して映像を再生し始めた、全体的に暗いが松明が揺らぎバーの間接照明の様に照らしている。数秒後、顔を隠した3人組がある牢屋に入って行った。別のカメラの映像に切り替わり、3人がはっきりと映っていた。続きを再生しようとすると、窓の外から聞き覚えのある声がする。
声「その映像、ちょっと待った!!」
林田「ここは15階だぞ、誰だよ?!」3人が窓の外を見ると背に人の姿をし、小さくなった巨獣人族を乗せたコッカトリスが飛んでいる。デカルトがガヒューを連れてきたのだ。
デカルト「のっちー、超特急で来たから疲れた、お茶でもくれや。」
林田「デカルト・・・、その呼び名止めんかい。」 デカルト「ううむ・・・。とにかく希(のぞむ)、早く入れんかい。」 光明「もしかしてさっき仰っていた独自ネットワークとコネって・・・。」 林田「お気付きですか。私の友人、ダンラルタ国王のデカルトです。」 結愛「世間狭・・・。」呆然としている結愛を横目に窓から入って来たデカルトは背からガヒューを下ろすと人の姿に戻り光明に再生を促した。
デカルト「貴方が光明さんですね、お邪魔してすみませんでした。再生をお願い致します。」
光明「あ・・・、はい・・・。再生します。」映像が再生され、3人の姿がくっきりと映っている。その内の1人を見てまずデカルトが反応した。
デカルト「間違いない、金を渡しているのはクァーデンですよ。主のパントリー・クァーデンです。」
結愛「受け取っている内の1人は・・・、間違いありません。私の憎き父・・・、貝塚義弘です。」 光明「もう1人は魔学校の入学センター長だ、確か名前は・・・、リンガルス!!」 林田「光明さん、音声をお願いします。」光明の操作で音声が再生された。
パントリー(映像)「リンガルス・・・、私の娘を何とか首席で入れてくれないか?これで上手くやってくれ。そしてこの為に貴方を呼んだのです、義弘さんもお願いします。」
義弘(映像)「ああ・・・、勿論だ。愚かな馬鹿娘から財閥と学園の全てを取り戻す布石にする。リンガルス、裏工作はしっかりしといてくれよ。結愛め・・・、たった数年で私が苦労して築き上げたものを我が物にした様につけあがりよって・・・、覚えておけ・・・。」 結愛「義弘め・・・、折角信頼を取り戻してきた貝塚財閥を奪われてたまるか・・・。羽田さん、聞こえますか?」同時刻、自分がバルファイ国王だと明かしたパルライは師匠であるゲオルに相談を持ち掛けていた。
パルライ「実は以前バルファイ王国領に邸を構えていたクァーデン家という悪名高い貴族がいたのですが私たち王宮の者が知らぬ内にダンラルタ王国領に突然引っ越したのです。それ以来王宮や領内の山々、また王都に魔法を使ったと思われる悪質な悪戯が多発してまして。誰の仕業か調べる方法を探しているのですが、流石にダンラルタ王国の方々にご迷惑をお掛けする訳にも行きませんので少し知恵をお借り出来ませんか?」
ゲオル「ううむ・・・、悪戯は決まった時間に起こっているのか?」 パルライ「どうも不定期でしてね、予告等もないので頭を抱えているのです。」 ゲオル「一先ず、王都全体を障壁魔法で囲む必要があるな。障壁内で魔法が発動された瞬間、お前の目の前に魔法を掛けた本人が即飛んでくるようにしておけば何とかなるのでは?」パルライは早速王国魔法軍を全員集めて王都全体を障壁で囲みガードを固めた。
-74 取り敢えず一段落-
3国を跨いだ爆弾魔事件の捜査が続く中、いよいよ数日にも渡るレースもファイナルラップとなっていた。トップはずっと独走していた⑨番車ドッグファイト、キュルアがスタートしてから1度もピットに入らず走り続けたお陰で独走状態を保ち続けゴールまで至った。車自体は魔力で走るので燃料の補給は必要なかったのだが交代要員で控えていたレーサーは数日間ずっと控え部屋で眠っていた内に優勝する感じになり、何もしなかったので賞金は全額キュルアが受け取るべきだと主張していた。
ただキュルアの頭の中は猫の事で一杯で、ここ数日間愛猫を撫でていないので禁断症状が出始めている。キュルア「猫・・・、猫・・・、猫ぉーーーーーーーー!!!なでなでさせろぉーーーーーーーーーーー!!!」
⑨監督「分かったから、マイクをオンにして叫ぶなよ・・・。」 カバーサ「只今、かなりの大音量での叫び声が全会場で響き渡った事をお詫び申し上げます。」どうやらキュルアの叫び声はカバーサが実況席を通して全ての観客席に聞こえる様にしてしまっていた、優勝の瞬間のキュルアの声を観客に届けようとカバーサが思いつき気遣いのつもりで行った事だったのだが逆効果だったようだ。キュルアの恥ずかしい姿を晒してしまった形になった。
ホームストレートに⑨番車が帰って来た、バルファイ王国中から集まった国民達が車両を見守っている。ただ18kmという距離は早く猫を撫でたいキュルアにとってかなりのものだったらしい、パルライの手によりゴールで大きなチェッカーフラッグが左右に振られる。それを横目にシグナルの下を通過しゴールした瞬間、脇に寄せた車両をピタッと止め交代要員の控え選手達がいる控え部屋へとダッシュしていった。実はキュルアの禁断症状を予期していた控え選手達が気を遣って猫を預かってくれていて表彰式までなでなで出来る様にしてくれていた、キュルアが愛猫に顔を近づけ擦り付けるとそこにたまたま監督が通りかかった。⑨選手「おおキュルア・・・、よくやっ・・・、ってありゃりゃ。」
キュルア「おお・・・、待っていたかー、存分になでなでしてやるからな覚悟しとけよ。ほれほれほれほれほれ・・・。」 ⑨監督「仕方がない奴だな、お前は。表彰式まで好きなだけ撫でておけ。ただ、着替えだけは済ませておくんだぞ。」監督は静かにドアを閉め、キュルアは存分に撫で始めた。
カバーサ「1着は⑨番車ドッグファイトです、50周目の締め切り時点での人気に応え下位を走る車両に大差を付けてぶっちぎりのトップでのゴールとなりました。来年からは締め切りのタイミングを考え直す必要があるかも知れませんね。ただ、チームメイトや監督と集まることなく1人で部屋に籠って猫を撫でてます、撫でたい欲がそこまでだったのでしょうか。2着はまだホームストレートに入っていませんがどうやら⑥番車か⑮番車のどちらかになりそうです、これはかなりの高配当となる模様ではないでしょうか。」
光「貰った!よっしゃー!」 ゲオル「流石光さんですね、ボート行ってた時もそうですがセンスがあるのではないですか?(念話)パルライ、様子はどうだ?」 パルライ(念話)「特に目立った動きは見えませんね、ただ1つ引っ掛かる事がありまして。」 ゲオル(念話)「何だ、言ってみろ。」 パルライ(念話)「実は私達主催者の方には⑲番車は怪我で欠場している事になっているのですが、最下位で走っているみたいでして・・・。出走表にも横線が引かれているので師匠もご存知かと思ったのですが。」 ゲオル(念話)「不自然だな・・・、ん?電話か?」その時、ゲオルの電話が鳴ったが発信者を見てみるとそこには「林田警部」の文字があったので身に覚えが無いなと思いながら電話に出てみる事にした。
ゲオル(念話)「すまん、少し抜けるぞ。」
パルライ(念話)「分かりました、どうぞ。」 ゲオル「もしもし、ゲオルです。」 林田(電話)「もしもし、林田です。実は難航している捜査がありまして・・・、恐れ入りますがゲオルさんのお力をお借りしたいのです。どちらにいらっしゃいますか?」 ゲオル「光さん達とレース場にいるのですが、緊急の様ですのですぐに向かいますね。」 林田(電話)「ネフェテルサ王国警察にお願いします。」 ゲオル「ああ・・・、なるほど。そこですね、よいしょっと。お疲れ様です。」瞬時に林田のいる場所を特定し『瞬間移動』を行うと林田は驚いていた。
林田「お早いですね、助かります。早速なのですがこちらの資料をご覧頂けますか?ダンラルタ王国とバルファイ王国を跨いで今調べている事件なのですが。」
ゲオル「なるほど・・・、少しお時間を頂けますか?」-75 ネクロマンサーの捜査-
ゲオルは念話でパルライに連絡を取り、分身でも良いのでネフェテルサ王国警察に来て捜査に協力出来ないかと聞くとパルライは快諾しすぐに分身で『瞬間移動』した。
林田「何と、バルファイ国王様ではありませんか。突然どうされたのです?」
パルライ「たった今師匠に呼ばれまして、捜査に協力する様にとの事だったので。」 ゲオル「こいつは私の弟子でして、ただ国王という事は最近知ったのですがね。」林田から資料を受け取るとパルライは食いつく様に見た、そこに「クァーデン家」の文字があったからだ。以前からあの悪名高い貴族を見逃してしまい、その末路として外部に解き放ってしまった自分が許せなかったのだそうだ。3国間における『魔獣愛護協定』があるのにも関わらず奴隷として巨獣人族を捕縛していた噂を耳にしていたのでダンラルタにいる今も目を付けていたのだが王国兵からの「動きがあった」との言葉で一層自分が許せなくなったらしい。
林田「国王様、恐れ入りますがこちらの映像をご覧頂けますか?」
パルライ「すみません、私もダンラルタ国王と同じで堅苦しいのが苦手ですのでパルライとお呼びして頂けませんか?」 林田「わ、分かりました。ではパルライさん、こちらをご覧ください。」クァーデン家にある地下牢の監視カメラの映像だ、3人の贈収賄のシーン。
パルライ「クァーデンのやりそうな事です、許すべきではない。」
林田「この贈収賄事件により首席での入学を取り消された方がいまして。」 パルライ「許せませんね、元々クァーデン家はバルファイ王国領にいたので尚更です。」 デカルト「おいパルライ、さっきから俺に気付いてなかったのか?」 パルライ「すみません、いつもとお姿が違いましたので。」 デカルト「まぁ、良いか。一緒に捜査の手伝いを頼む。」 パルライ「分かりました、取り敢えずバルファイ魔学校に行きましょう。証拠を多く掴まねば。」 デカルト「そうだな・・・、じゃあ一緒に来てくれ。」デカルトはパルライを背に乗せ魔学校へと向かい飛び立った、現場には調査を続ける羽田達の姿があった。羽田は手袋をして壊れたカメラを持っており、結愛からの「2国の国王が来る」との伝言で緊張している様子だった。
羽田「ご、ご、ご足労おかけしても、も、も、申し訳ありません。わた、わた、私は貝・・・、塚財閥の・・・、羽ちゃと申しましゅ。」
その様子を無線を通して聞いていた結愛が口を挟んだ。
結愛(無線)「羽田さん、緊張しすぎですよ。しっかりして下さい。王様方、申し訳ございません。」
パルライ「いえいえ、お気になさらず。」 デカルト「一先ず、何か証拠になりそうな物はありませんか?」 羽田「こち・・・、こちらですね。」羽田が持っていたカメラを2人に見せるとデカルトがパルライに聞いた。
羽田「ズタズタに壊されていまして。」
デカルト「何とかなりそうか?」 パルライ「やってみましょう。」 羽田「ん?」パルライが受け取ったカメラに魔力を注ぐと一瞬でその形は復元されたが中にはSDカードらしきものは無く空っぽとなっていた。
羽田「これじゃ証拠になりませんね。」
パルライ「因みにこれは何処にあったんです?」 羽田「入学センターのパソコンに向く様に置かれていました、監視カメラだと思われます。」 パルライ「ふむふむ。なるほど・・・、ちょっとやってみましょう。」 羽田「はい?」パルライがゆっくりと魔力を注ぎカメラを包み込む。
パルライ「羽田さん、何も入っていないSDカードはありませんか?」
羽田「16ギガの物で宜しければ。」 パルライ「十分です、このカードにカメラ自身の記憶を流し込みます。映像化しているので証拠になると思うのですが。」 羽田「は・・・、はぁ・・・。」-76 リンガルス- パルライは羽田からSDカードを受け取るとカメラに挿入しより強力な魔力を込め始めた。羽田「あの・・・、パルライさん?」デカルト「パルライはネクロマンサー、リッチの下で修業した魔法使いなんです。ネフェテルサ王国の警察署には今彼の師匠も来ているのですよ。」 そうこうしているうちにパルライが作業を終え、一息ついた。パルライ「よしっ・・・、終わりました。見てみましょう。」 カメラの小さい映像を3人の大人が凝視する。3人「こ・・・、これは・・・。」 映像では黒い覆面をしたリンガルスと思われる人物がパソコンで何かを編集している。デカルト「拡大出来たらな・・・。」パルライ「やってみますか。」 パルライが魔力を込め、パソコンの映像がくっきりと見えるまで拡大した。「首席入学者」の文字の下にある「梶岡浩章」の文字を消して「リラン・クァーデン」に変更していた。パルライ「確定ですね。」デカルト「待て、どこかへ向かうぞ。」 覆面男は書類を印刷してそそくさとパソコンの電源を切ると部屋を出た。羽田「この建物には魔学校長の部屋があったはずです、それと主要警備室。」パルライ「そこに行きましょう。」 3人はパルライの魔法で主要警備室に『瞬間移動』するとそこには警備員が3名いたのだが全員眠ってしまっていたので羽田が慌ててたたき起こした。羽田「しっかりしろ、警備はどうしたんだ!!」警備員「えっ・・・?痛た・・・、羽田さんじゃないですか。どうしてここに?」羽田「首席入学者が何者かによって改ざんされてんだよ、しかもただ事じゃない!!首謀者の1人が義弘なんだよ!!」警備員「何ですって?!大変じゃないですか!!ただ俺達は覆面をしていた奴が後ろから近づいてきてからどうやらずっと眠ってしまっていたらしく、記憶が無いのです。」 こっそりと『審議判定』の魔法を使用していたパルライが首を縦に振る。パルライ「本当の事を言っている様です。警備員さん、恐れ入りますが少し場所を開けて頂けませんでしょうか。」警備員「あの・・・、失礼ですがどちら様ですか?」羽田「バルファイ王国とダンラルタ王国の国王様方だ。」警備員「申し訳ございません!!どうぞ!!」パルライ「そ・・・、そんな身構えないで下さい。堅苦しいの苦手ですので。では、やりますよ。」 パルライが魔力を流
-81 集合- 魔学校長のマイヤは林田を許し、早速持ち帰った映像やマイヤの発言が証拠として使えるかを皆で確認しようと提案した。光明「まずはこちらをご覧ください。」 マイヤが義弘と思われる覆面男に催眠術を掛けられた場面だ、催眠術を掛けられマイヤが自らの手で書類を書き換えたあの場面。マイヤ「ノームを含む私達アーク・エルフの一族は催眠術に強い特殊スキルを祖先からの遺伝で持っているのですが、まさかその長たる私が・・・。」ドーラ「じいちゃん・・・、思い出したくないなら無理に思い出さなくていいよ。」マイヤ「いや、良いんだ。捜査に・・・、いやノームの仕事に協力出来るなら喜んでやるよ。」 映像内で書類を書き換えた後、マイヤがぐっすりと眠っているのが何よりの証拠だ。 次に鏡台にあったもう一つのカメラで撮影した映像を再生した。光明「これはマイヤさんが鏡台に仕掛けてあるもう一台の監視カメラの映像です、少し音が小さいので最初の映像から音声を抜粋してありますが勿論同時刻に同じ場所で撮影された物ですので問題は無いかと。」 暑さが故に義弘が覆面を取った場面を再生した。結愛「義弘が・・・、あれ程の魔力を・・・。」林田「しかし、いつの間に魔力を得て催眠術の修業を行ったのでしょうか。」マイヤ「原因はリンガルスにあると思われます、きっと短期間ではありますがリンガルスの下で修業したからだと思われます。また、無理矢理な方法で魔力を引き出したのかと。」結愛「しかし・・・、ただの魔学校の職員がどうして?」マイヤ「理事長、恐れながら申し上げます。リンガルスは大賢者なのです!!」林田・ドーラ・結愛「大賢者?!」結愛「・・・、って何ですか?」羽田「これがデジャヴってやつですか?」光明「以前にもあったんですね・・・。」 確かに以前にもあった会話だ、ただ重要なのはそこだけではない。義弘が大賢者の力を得たのはマイヤに催眠術を掛ける為だけなのだろうか。光明「そう言えば、レースの方は?」林田「テレビをつけますね。ただ・・・、爆弾処理の方が心配ですね。」男性「それなら安心して下せぇ。」林田「その声は・・・。」 林田が聞き覚えがある声に振り向くとそこには結愛や利通と共に競馬場に仕掛けられた爆弾の処理に向かったダンラルタ王国警察の爆弾処理班がいた。プニ「おやっさん、安心して下さい
-86 超新鮮で大胆なBBQ- ガイの軽トラで1頭買いした黒毛和牛を林田家の裏庭へと運ぶと、今か今かと待つ人々が歓声を上げていた。その中には光が招待した結愛社長もいる、現場には大きなまな板と綺麗な包丁などが並べられ解体の準備がされていた。 丁度その頃、焼き肉屋の御厨板長と板前をしているウェアタイガーのヤンチが到着した。御厨「今夜はご招待頂きありがとうございます、ただ私達も召し上がって宜しいのでしょうか。」光「勿論です、お2人も楽しんで行って下さいね。」ヤンチ「さてと・・・、早速解体していきますか。」女性達「私達も是非手伝わせて貰おうかね。」 声の方向に振り向くとエプロン姿をしたネスタ林田、そしてまさかの貝塚結愛がいた。ヤンチ「お2人さん・・・、本気ですか?」ネスタ「あら、私はドワーフだよ。舐めて貰っては困るね。」 昔からドワーフの一族は身のために色々な技術を何でも習得するという伝統があった、牛肉の解体技術もその1つだ。ヤンチ「でも何で社長さんまで?」結愛「実は私も見分を広げる為にドワーフの方々から勉強させて頂いているんです、牛肉の解体もその1つです。」ネスタ「では早速やりますかね。」 鮮やかな手つきで3人が解体を進めていく。骨と骨の間に包丁を入れていき、スルッと肉が剥がされていった。結愛「さてと・・・、最初から贅沢に行きましょうか。鞍下、肩ロースです。丸々1本だからとても大きいでしょう。」光「涎が出てきちゃってるよ、早く食べたいな。」御厨「さぁ、焼肉にしていきましょうか。」 結愛から受け取った大きな塊を御厨が丁寧に肉磨きと整形をして焼肉の形へと切っていく。20kgもの塊が沢山の焼肉へと変身した。御厨「では、焼いていきましょう。ヤンチ、すまんが整形を頼む。」ヤンチ「あいよ、プロが2人もいるから解体は大丈夫そうですもん。」 御厨が炭火の網の上に肉を乗せ焼いていった、そこら中にいい香りが広がる。光「この匂いだけでビールが行けちゃいそう。」御厨「さぁ、焼けましたよ。塩と山葵でお召し上がり下さい。購入されたご本人からどうぞ。」光「塩と山葵がお肉の甘みを引き立てて美味しい!!」 光がビールを一気に煽る、何とも幸せそうだ。作業中の結愛やネスタ、そして焼き肉屋の2人にも振舞う。結愛「たまりませんね、ビールが美味しい。」光「今日
-91 空からの来客- 宴が続く中、月の輝く星空から大声が響き一同を騒然とさせた。声「この私を差し置いて、皆さんだけでお楽しみとは何事ですか?」光「な・・・、何?!」 全員が飲食をやめ空を見上げた、見覚えのある1頭のコッカトリスが3人のホークマンを連れて地上へとゆっくりと舞い降りた。背には軽装の男性が2人乗っている、林田が逃げる様にして家の中へと駆けこむ。林田「ま・・・、まずい・・・。誘うの忘れていた。」 舞い降りたコッカトリスが背に乗っていた2人を降ろし人の姿へと変わる、ダンラルタ国王であるデカルトだ。横にはホークマンである甥っ子と姪っ子が3人共揃ってお出まししている。姪っ子が背から降りた男性と軽くキスを交わす。甥っ子達はウェアウルフと取り皿を持ち、焼肉を取りに行こうとしていた。デカルト「2人も乗せていたから疲れましたよ、と言うかのっちはどこですか?」ネスタ「のっち・・・?ああ、ウチの旦那ですね。さっき家の方に走って行きましたよ。」デカルト「奥さん、かしこまらないで下さい。我々はもう友達ではないですか。」林田「そう仰って下さると助かります!!」デカルト「またそうやってかしこまる、やめろと言っただろのっちー。」林田「人前だから、それにのっちはダメだって。」 2人のやり取りを数人の女性がヒヤヒヤしながら聞いていた、1国の王に何たる態度を取っているのだと言わんばかりに。その内の1人であるドーラが質問した。ドーラ「お義父さんと国王様、いつの間にそんな関係に?」デカルト「これはこれはいつぞやの受付嬢さんではありませんか?まさかのっちの娘さんだったとはね。」林田「たった今俺の息子と結婚したんだよ、だから義理の娘ね。」 横から聞き覚えのある女性が口の中で黒毛和牛をモグモグさせながら声を挟んだ、その声には光も懐かしさを感じている。女性「じゃあ私達と一緒で新婚さんって訳だ。」 声の正体は先程キスを交わした女性ホークマン・キェルダだ。光「キェルダ!!久しぶりじゃない!!」キェルダ「ついさっき新婚旅行から帰って来たのよ。」光「えらく長めの新婚旅行だったのね。」キェルダ「あんたは暫く仕事を休める位稼いだみたいじゃない。」光「流石、言ってくれるじゃん。」2人「あはは・・・。」 2人が談笑している中、バルタンの兄・ウェインとホークマンの弟
-96 ご飯のお供②- 温かな朴葉味噌を熱々の白米に少しずつ乗せご飯を楽しむ一同、そんな中林田が懐で何かをごそごそと探し始めた。林田「次は私がご紹介させて頂いて宜しいでしょうか、ゲオルさんのお店でこれを売ってたので助かりました。」 林田は懐から小瓶を取り出すと嬉しそうに中身を自ら用意した小皿に出した、誰もが食べた事があるであろうメンマの「やわらぎ」だ。林田「そのまま食べても美味しいのですが、これを胡瓜キムチと混ぜても食感が良くてご飯にピッタリなんです。」 小皿とは別に少し大きめの器を用意し、胡瓜キムチとやわらぎを混ぜて振舞った。シャキシャキの胡瓜と柔らかなメンマがバランスよく混ざっている。メンマに和えられた辣油が味のアクセントになってご飯を誘い、それにより光と結愛はずっと箸が止まらなかった。結愛「アクセントの辣油がキムチの味を引き立てていますね、今日ご飯足りますか?」光「一応2升は用意しているんですが追加注文しないとダメかもしれませんね。」 光と結愛、そして羽田や林田のご飯のお供の時点で用意をしていた半分の1升が無くなろうとしていたので実は焦っていた。念の為、今現在もう半分の1升をお釜で炊いている状況だが無くなるのも時間の問題だろうか。林田のやわらぎ入り胡瓜キムチの出現は一同にとって大きかった、光は『瞬間移動』を利用して地下の貯蔵庫から追加の米を持って来る事にした。念の為に2升程追加を用意し、食事に戻った。 すると、家の入口の辺りから聞き覚えのある男性の声がした。男性「林田さん、林田さん?いらっしゃいますか?来ましたよー。」 その声に返事をする林田、ただ口の中には米が残っている。林田「ああ・・・、待って・・・、ましたよ・・・。裏・・・、庭に・・・、どうぞ・・・。」光「あれ?どなたか呼んだんですか?」林田「ごくん・・・、失礼しました。光さんもお会いした方ですよ。」男性「こんにちは、お久しぶりです。」 優しい笑顔で見覚えのある男性が裏庭に入って来た、この異世界で車を購入したお店の店主・珠洲田だ。珠洲田「光さん、お久しぶりですね。林田さんにご招待を頂きまして来させていただきました。私も皆さんと一緒でご飯が大好きなんです。」光「お久しぶりです、レースの映像でお見かけしましたよ。」珠洲田「これはこれはお恥ずかしい、まさか見られていたとは
1.「私の秘密-赤鬼-」佐行 院 仕事に追われ1日1日が過ぎてゆき、一般では「花金」と呼ばれる週末。明日からの土日という楽しい2日間をどう過ごそうか、それとも今夜どう楽しもうかを沢山の人たちが考えているこの時間帯、開いている店と言えば飲み屋やコンビニ、そして最近増えてきた24時間営業のスーパーぐらい。他には夜勤で働く人たちがいる工場などがちらほらとあり建物から明かりが漏れている場所がほとんどなく電灯の明かりが優しく照らされる夜の街で独身の冴えない眼鏡女子の会社員、赤江 渚(あかえ なぎさ)は家路を急いでいた。毎日朝の9時から出社しての8時間勤務、1時間休憩を含め18時が定時での退勤なのだがそういう訳にも行かない、金曜日は特になのだが帰り際に上司の取口(とりぐち)部長から必ずと言って良いほど呼び止められて書類を押し付けられ毎日の様に残業が加算されすぎており毎月60時間以上の計算となりため息の日々。正直三六協定はどこへやら・・・。ある週の金曜日、毎度の様に帰り際の渚を取口が呼び止めた。取口「渚ちゃーん、今週も頼むよ、うちのチーム書類が立て込んでいるから進めておかないとね。」渚「はーい・・・。」 正直言ってしまうと原因は取口による書類の記入ミスや漏れによるものなのだが、本人は早々と定時に上がり気の合う仲間と逃げる様に近くの繁華街へ呑みに行ってしまう。今週に至っては残業はタイムカードを切ってから行うようにとも言いだした。何て卑怯な奴なんだと、やはりブラック企業の従業員の扱いは酷いなと身をもって学んだ今日この頃。 そんな中、最近巷で噂になっている事があった。特に地元の暴走族や走り屋を中心になのだが『赤いエボⅢに見つかると警察に捕まる』との事だ。通称『赤鬼』。毎週金曜日の夜に県内の暴走族や走り屋のスポットとなっている山に4WD車1台で行っては暴走行為、走り屋行為をしている奴らを一掃しているらしい。正体は未だ不明で年齢や性別など諸々全てが分かっていない。一部の人間には『赤鬼は警察の人間だ』とも言われている。 会社でもその噂で持ちきりだった。丁度よく今日は金曜日。取口「皆聞いたか、先週の金曜日にまた『赤鬼』が出たらしいぞ。今夜も出るかもな。」女性「怖い、今夜は私も早く家に帰ろう。」渚「何言ってんの、今日も残業でしょ・・・。」女性「噂なんだけどさ、『赤鬼』
2.「最強になるために~社長令嬢の青春奪還物語~」佐行 院-①序章- 私立西野町高等学校、私服登校可能など自由な校風のこの学校に通う宝田 守(たからだ まもる)はまったりとした毎日を友人と共に過ごしていた。1コマ55分の授業を6コマ出席して幼馴染の女の子・赤城 圭(あかぎ けい)と帰る。それが守の日常。他の人と何ら変わらない普通の高校生。因みに、守と圭は同じ1年3組だ。 比較的新しい5階建ての校舎に体育館やグラウンド、また食堂があって皆が各々の時間を楽しく過ごしていた。 部活も勿論存在する。運動部や文化部、そして同行会、沢山ある。因みに守は帰宅部(面倒くさいから)、圭もそうだった。因みに運動部にはクラブハウス(部室棟)があった いつも昼休みは図書室で本を読んで過ごした。読書は大好きだ。自分ひとりの世界に入り込める。ゆっくりと本を読み没頭し、チャイムがなったら教室へと戻って授業。本当に普通の日常。 放課後は必ず寄って帰る場所がある、学校の敷地の一角に佇む「浜谷商店(はまたにしょうてん)」というお店だ。歩いてすぐだから守だけじゃなくて西野町高校に通う生徒はみな好んで寄っている。ご夫婦で経営されているお店で皆顔なじみである。ある意味第二の両親と言っても過言ではない。今日はおばちゃんが担当らしい。 守「おばちゃーん、いつものー。」おばちゃん「あいよ、あんたもこれ飽きないねぇ。いつもありがとね。」圭「おばちゃんコーラ無いのー?」おばちゃん「ごめんねー、裏見てきてもいいかい?」圭「もう喉カラカラだよー、早くー、死んじゃうよー。」おばちゃん「そんなんで死ぬわけないだろ、待ってな。」 守は大好きなメンチカツとハムカツを頬張り、圭はコーラをぐいっと飲みながら歩いて帰る。それが僕たちの1日の締めくくりだった・・・、その時が来るまでは。 3学期の終業式の日、事件は起きた。 式を終えホームルームも終わり、守は圭と浜谷商店へと向かっていった。守「あれ食わなきゃ1日が終わらねえよな。」圭「ウチも早くコーラ飲みたーい。」守「またかよ、お前好きだよなー。」 いつも通り・・・のはずだった。圭「ねえ・・・、あれ・・・。」 浜谷商店のいつもは開いていた引き戸が完璧に閉まっている。貼り紙が一枚。「お客様各位 日ごろからのご愛顧誠にありがとうございま
-⑥考査と摸試- 時が流れ数か月、今の「貝塚」になって初めての中間考査となった。以前に比べ範囲が広く感じる上に授業時間が長くなったので当然のように制限時間が長かった。ただ範囲が広くなった分頭を悩ませる生徒が多数存在したがこの考査を突破しなければ進級が危なくなる。 ただ以前理事長の義弘が夏休みなどの長期休みを廃止してしまったので、危ぶまれるものが一つ、良いようで、いや悪いようで減ってしまっていた。今回の摸試は2日かけて6教科8科目の学力を競う、自信満々のものもいればそうでないものもちらほらといた。因みに生徒番号は胸元の番号で結愛と海斗は記入不要となっている。ただそこはやはり学校の先生が考えて作った考査、工夫を凝らした問題がいっぱいだ。 琢磨は2日目の最終科目・現代文の「傍線部(※)の人物像を絵で描きなさい。(色塗り不要)」の問題をじっくりと丁寧に描いて満足感いっぱいで居眠りを決め込んでいた。「(色塗り要)」だったら何人か色ペンを出そうと焦った生徒もいたろうに。若しくは授業中に「色は塗る必要がありますか?」と質問した生徒でもいたのだろうか。中学時代の美術の授業ではあるまいて、そんなに彩り必要とは思えない。もしかして先生が気を利かせて最後の最後にジョークでもかましたのだろうか。まぁ、気にしても仕方ないかという雰囲気と共に中間考査は終わりを告げた。終了のチャイムが鳴り響く。試験官は飛井。飛井「そこまで!後ろから回答用紙のみを回収するように。」守「終わったー、とりあえず一安心だな。」飛井「おい宝田、何を言っているんだ。」 次の言葉に全員耳を疑った。飛井「今から講師の方々による摸試だぞ、早く準備せんか!」全員「何て?!」結愛「親、お・・・、お父様はその様な事は仰っていませんでしたわよ!」 結愛は一応大人の前でのお嬢様モードでいようとしたが気が動転していたのかごちゃついている。この事は義弘が誰にも言わず秘密裏に行っていた様だ。飛井と入れ替わって乃木が入ってきた。問題用紙がかなりの分厚さとなり運ぶのが大変そうだ、教卓に音を立てて置いてから一呼吸ついて試験の開始を告げた。乃木「着席してください、今から数学の問題用紙を配りますがまだ開けないで下さい。」守「どんだけの問題を詰め込んだらああなるんだよ。」圭「かなり手の込んだ問題かもしれないね。それにしてもさ、
-96 ご飯のお供②- 温かな朴葉味噌を熱々の白米に少しずつ乗せご飯を楽しむ一同、そんな中林田が懐で何かをごそごそと探し始めた。林田「次は私がご紹介させて頂いて宜しいでしょうか、ゲオルさんのお店でこれを売ってたので助かりました。」 林田は懐から小瓶を取り出すと嬉しそうに中身を自ら用意した小皿に出した、誰もが食べた事があるであろうメンマの「やわらぎ」だ。林田「そのまま食べても美味しいのですが、これを胡瓜キムチと混ぜても食感が良くてご飯にピッタリなんです。」 小皿とは別に少し大きめの器を用意し、胡瓜キムチとやわらぎを混ぜて振舞った。シャキシャキの胡瓜と柔らかなメンマがバランスよく混ざっている。メンマに和えられた辣油が味のアクセントになってご飯を誘い、それにより光と結愛はずっと箸が止まらなかった。結愛「アクセントの辣油がキムチの味を引き立てていますね、今日ご飯足りますか?」光「一応2升は用意しているんですが追加注文しないとダメかもしれませんね。」 光と結愛、そして羽田や林田のご飯のお供の時点で用意をしていた半分の1升が無くなろうとしていたので実は焦っていた。念の為、今現在もう半分の1升をお釜で炊いている状況だが無くなるのも時間の問題だろうか。林田のやわらぎ入り胡瓜キムチの出現は一同にとって大きかった、光は『瞬間移動』を利用して地下の貯蔵庫から追加の米を持って来る事にした。念の為に2升程追加を用意し、食事に戻った。 すると、家の入口の辺りから聞き覚えのある男性の声がした。男性「林田さん、林田さん?いらっしゃいますか?来ましたよー。」 その声に返事をする林田、ただ口の中には米が残っている。林田「ああ・・・、待って・・・、ましたよ・・・。裏・・・、庭に・・・、どうぞ・・・。」光「あれ?どなたか呼んだんですか?」林田「ごくん・・・、失礼しました。光さんもお会いした方ですよ。」男性「こんにちは、お久しぶりです。」 優しい笑顔で見覚えのある男性が裏庭に入って来た、この異世界で車を購入したお店の店主・珠洲田だ。珠洲田「光さん、お久しぶりですね。林田さんにご招待を頂きまして来させていただきました。私も皆さんと一緒でご飯が大好きなんです。」光「お久しぶりです、レースの映像でお見かけしましたよ。」珠洲田「これはこれはお恥ずかしい、まさか見られていたとは
-91 空からの来客- 宴が続く中、月の輝く星空から大声が響き一同を騒然とさせた。声「この私を差し置いて、皆さんだけでお楽しみとは何事ですか?」光「な・・・、何?!」 全員が飲食をやめ空を見上げた、見覚えのある1頭のコッカトリスが3人のホークマンを連れて地上へとゆっくりと舞い降りた。背には軽装の男性が2人乗っている、林田が逃げる様にして家の中へと駆けこむ。林田「ま・・・、まずい・・・。誘うの忘れていた。」 舞い降りたコッカトリスが背に乗っていた2人を降ろし人の姿へと変わる、ダンラルタ国王であるデカルトだ。横にはホークマンである甥っ子と姪っ子が3人共揃ってお出まししている。姪っ子が背から降りた男性と軽くキスを交わす。甥っ子達はウェアウルフと取り皿を持ち、焼肉を取りに行こうとしていた。デカルト「2人も乗せていたから疲れましたよ、と言うかのっちはどこですか?」ネスタ「のっち・・・?ああ、ウチの旦那ですね。さっき家の方に走って行きましたよ。」デカルト「奥さん、かしこまらないで下さい。我々はもう友達ではないですか。」林田「そう仰って下さると助かります!!」デカルト「またそうやってかしこまる、やめろと言っただろのっちー。」林田「人前だから、それにのっちはダメだって。」 2人のやり取りを数人の女性がヒヤヒヤしながら聞いていた、1国の王に何たる態度を取っているのだと言わんばかりに。その内の1人であるドーラが質問した。ドーラ「お義父さんと国王様、いつの間にそんな関係に?」デカルト「これはこれはいつぞやの受付嬢さんではありませんか?まさかのっちの娘さんだったとはね。」林田「たった今俺の息子と結婚したんだよ、だから義理の娘ね。」 横から聞き覚えのある女性が口の中で黒毛和牛をモグモグさせながら声を挟んだ、その声には光も懐かしさを感じている。女性「じゃあ私達と一緒で新婚さんって訳だ。」 声の正体は先程キスを交わした女性ホークマン・キェルダだ。光「キェルダ!!久しぶりじゃない!!」キェルダ「ついさっき新婚旅行から帰って来たのよ。」光「えらく長めの新婚旅行だったのね。」キェルダ「あんたは暫く仕事を休める位稼いだみたいじゃない。」光「流石、言ってくれるじゃん。」2人「あはは・・・。」 2人が談笑している中、バルタンの兄・ウェインとホークマンの弟
-86 超新鮮で大胆なBBQ- ガイの軽トラで1頭買いした黒毛和牛を林田家の裏庭へと運ぶと、今か今かと待つ人々が歓声を上げていた。その中には光が招待した結愛社長もいる、現場には大きなまな板と綺麗な包丁などが並べられ解体の準備がされていた。 丁度その頃、焼き肉屋の御厨板長と板前をしているウェアタイガーのヤンチが到着した。御厨「今夜はご招待頂きありがとうございます、ただ私達も召し上がって宜しいのでしょうか。」光「勿論です、お2人も楽しんで行って下さいね。」ヤンチ「さてと・・・、早速解体していきますか。」女性達「私達も是非手伝わせて貰おうかね。」 声の方向に振り向くとエプロン姿をしたネスタ林田、そしてまさかの貝塚結愛がいた。ヤンチ「お2人さん・・・、本気ですか?」ネスタ「あら、私はドワーフだよ。舐めて貰っては困るね。」 昔からドワーフの一族は身のために色々な技術を何でも習得するという伝統があった、牛肉の解体技術もその1つだ。ヤンチ「でも何で社長さんまで?」結愛「実は私も見分を広げる為にドワーフの方々から勉強させて頂いているんです、牛肉の解体もその1つです。」ネスタ「では早速やりますかね。」 鮮やかな手つきで3人が解体を進めていく。骨と骨の間に包丁を入れていき、スルッと肉が剥がされていった。結愛「さてと・・・、最初から贅沢に行きましょうか。鞍下、肩ロースです。丸々1本だからとても大きいでしょう。」光「涎が出てきちゃってるよ、早く食べたいな。」御厨「さぁ、焼肉にしていきましょうか。」 結愛から受け取った大きな塊を御厨が丁寧に肉磨きと整形をして焼肉の形へと切っていく。20kgもの塊が沢山の焼肉へと変身した。御厨「では、焼いていきましょう。ヤンチ、すまんが整形を頼む。」ヤンチ「あいよ、プロが2人もいるから解体は大丈夫そうですもん。」 御厨が炭火の網の上に肉を乗せ焼いていった、そこら中にいい香りが広がる。光「この匂いだけでビールが行けちゃいそう。」御厨「さぁ、焼けましたよ。塩と山葵でお召し上がり下さい。購入されたご本人からどうぞ。」光「塩と山葵がお肉の甘みを引き立てて美味しい!!」 光がビールを一気に煽る、何とも幸せそうだ。作業中の結愛やネスタ、そして焼き肉屋の2人にも振舞う。結愛「たまりませんね、ビールが美味しい。」光「今日
-81 集合- 魔学校長のマイヤは林田を許し、早速持ち帰った映像やマイヤの発言が証拠として使えるかを皆で確認しようと提案した。光明「まずはこちらをご覧ください。」 マイヤが義弘と思われる覆面男に催眠術を掛けられた場面だ、催眠術を掛けられマイヤが自らの手で書類を書き換えたあの場面。マイヤ「ノームを含む私達アーク・エルフの一族は催眠術に強い特殊スキルを祖先からの遺伝で持っているのですが、まさかその長たる私が・・・。」ドーラ「じいちゃん・・・、思い出したくないなら無理に思い出さなくていいよ。」マイヤ「いや、良いんだ。捜査に・・・、いやノームの仕事に協力出来るなら喜んでやるよ。」 映像内で書類を書き換えた後、マイヤがぐっすりと眠っているのが何よりの証拠だ。 次に鏡台にあったもう一つのカメラで撮影した映像を再生した。光明「これはマイヤさんが鏡台に仕掛けてあるもう一台の監視カメラの映像です、少し音が小さいので最初の映像から音声を抜粋してありますが勿論同時刻に同じ場所で撮影された物ですので問題は無いかと。」 暑さが故に義弘が覆面を取った場面を再生した。結愛「義弘が・・・、あれ程の魔力を・・・。」林田「しかし、いつの間に魔力を得て催眠術の修業を行ったのでしょうか。」マイヤ「原因はリンガルスにあると思われます、きっと短期間ではありますがリンガルスの下で修業したからだと思われます。また、無理矢理な方法で魔力を引き出したのかと。」結愛「しかし・・・、ただの魔学校の職員がどうして?」マイヤ「理事長、恐れながら申し上げます。リンガルスは大賢者なのです!!」林田・ドーラ・結愛「大賢者?!」結愛「・・・、って何ですか?」羽田「これがデジャヴってやつですか?」光明「以前にもあったんですね・・・。」 確かに以前にもあった会話だ、ただ重要なのはそこだけではない。義弘が大賢者の力を得たのはマイヤに催眠術を掛ける為だけなのだろうか。光明「そう言えば、レースの方は?」林田「テレビをつけますね。ただ・・・、爆弾処理の方が心配ですね。」男性「それなら安心して下せぇ。」林田「その声は・・・。」 林田が聞き覚えがある声に振り向くとそこには結愛や利通と共に競馬場に仕掛けられた爆弾の処理に向かったダンラルタ王国警察の爆弾処理班がいた。プニ「おやっさん、安心して下さい
-76 リンガルス- パルライは羽田からSDカードを受け取るとカメラに挿入しより強力な魔力を込め始めた。羽田「あの・・・、パルライさん?」デカルト「パルライはネクロマンサー、リッチの下で修業した魔法使いなんです。ネフェテルサ王国の警察署には今彼の師匠も来ているのですよ。」 そうこうしているうちにパルライが作業を終え、一息ついた。パルライ「よしっ・・・、終わりました。見てみましょう。」 カメラの小さい映像を3人の大人が凝視する。3人「こ・・・、これは・・・。」 映像では黒い覆面をしたリンガルスと思われる人物がパソコンで何かを編集している。デカルト「拡大出来たらな・・・。」パルライ「やってみますか。」 パルライが魔力を込め、パソコンの映像がくっきりと見えるまで拡大した。「首席入学者」の文字の下にある「梶岡浩章」の文字を消して「リラン・クァーデン」に変更していた。パルライ「確定ですね。」デカルト「待て、どこかへ向かうぞ。」 覆面男は書類を印刷してそそくさとパソコンの電源を切ると部屋を出た。羽田「この建物には魔学校長の部屋があったはずです、それと主要警備室。」パルライ「そこに行きましょう。」 3人はパルライの魔法で主要警備室に『瞬間移動』するとそこには警備員が3名いたのだが全員眠ってしまっていたので羽田が慌ててたたき起こした。羽田「しっかりしろ、警備はどうしたんだ!!」警備員「えっ・・・?痛た・・・、羽田さんじゃないですか。どうしてここに?」羽田「首席入学者が何者かによって改ざんされてんだよ、しかもただ事じゃない!!首謀者の1人が義弘なんだよ!!」警備員「何ですって?!大変じゃないですか!!ただ俺達は覆面をしていた奴が後ろから近づいてきてからどうやらずっと眠ってしまっていたらしく、記憶が無いのです。」 こっそりと『審議判定』の魔法を使用していたパルライが首を縦に振る。パルライ「本当の事を言っている様です。警備員さん、恐れ入りますが少し場所を開けて頂けませんでしょうか。」警備員「あの・・・、失礼ですがどちら様ですか?」羽田「バルファイ王国とダンラルタ王国の国王様方だ。」警備員「申し訳ございません!!どうぞ!!」パルライ「そ・・・、そんな身構えないで下さい。堅苦しいの苦手ですので。では、やりますよ。」 パルライが魔力を流
-71 捜査が続く中- 林田の『連絡』による電話に驚きを隠せない刑務所長に林田が質問した。刑務所長(電話)「都市伝説の通り・・・。」林田「今はそんな事言っている場合じゃない、お前の所に貝塚義弘がいただろ。パワハラ等で捕まった貝塚だ。」刑務所長「あいつなら逮捕された次の日に重岡とかいう投資家が保釈金を払って速攻出て行ったじゃないか、全国でニュースになっていたぜ。」 林田がただ度忘れしていたのだが、刑務所長が改めて言うには義弘の指示で保釈金を支払った重岡が車で義弘を県外の山奥に連れて行くとそこからは2人とも音信不通となったとの事で、新たな悪だくみを行っていた可能性があった。そこで結愛と光明、そして羽田を含む多くの黒服達が突然消えたと聞き、何らかの方法で追って来たかもしれない。林田「因みに結愛さんはどうやってこの世界に?それとここに来てからはどうやって?」結愛(無線)「これも数年前の話です、日本で忙しくしていた私が久々のゆったりとした休日を光明と楽しんでいた時、突然私たちの目の前に幻覚の様な竜巻が現れてそこにいた全員が吹き飛ばされたんです。そのあと目が覚めたらこの世界に。『作成』のスキルもその時知りました、それから少しの間バルファイ王国にある魔学校に通いながらこの世界の事を少しずつ調べて行ったんです。それから貝塚財閥の教育支援の一環として『転送』で持って来た財産の1部を寄付してネフェテルサ王国の孤児院を貝塚学園の小分校に、またバルファイ王国の魔学校を高等魔学校と貝塚財閥の支社にさせて頂いているのです。因みにレースの収益でダンラルタ王国に分校を建設する予定でした。」林田「なるほど、それは我々にも学園を守る義務がありますね。」 その守るべき学園に義弘の魔の手が触れようとしているかもしれない、それは流石に防がなければならない。 その頃、未だトップが⑨番車のまま遂に100周目を迎えようとしているレース場の脇にあるとある施設でバルファイ王国軍の将軍達がひっそりと1人過ごしていた国王を説得していた。バルファイ王国にあるホームストレート横には国王本人が自らの分身を忍ばせていた、分身と言えど思考等が本人とそのまま繋がっているので各々の場所に国王のオリジナルが存在している様な状態となっている。ただ分身は空の鎧に魂を魔力でくっつけているだけのもので、それが仮の姿として一
-66 一方で- 恋人たちが現場に戻って来たのはプニ達が爆弾を『処理』し終えてから十数分経過してからの事だった。2人は口の周りが不自然に明るく光り表情が少し赤くなっている、髪が少し乱れているのは言うまでもない。プニ「お前ら・・・、ううむ・・・。」 プニは仕事を再開すべきだと気持ちを押し殺した、何をしていたかだなんて正直想像もしたくない。 ただ林田警部が無線の向こうで呆れ顔になってしまっているのは確かだ、幸いケルベロスやレッドドラゴン達は気付いていないらしくその場を何としても納めなくてはと冷静に対処する事にした。 プニの無線機から林田警部の声が聞こえる、どうやら恋人たちは無線機の電源を切っていたらしい。林田(無線)「利通君・・・、そしてノーム君・・・、君らが無線機の電源を切ってまで2人きりになりたい気持ちは私も大人だから分からんでもないが・・・。」ドーラ「そんな・・・、照れるじゃないですか。」林田(無線)「ぶっ・・・。」 ドーラが林田に何をしたかはその場の全員が分からなかったが何かしらの攻撃がなされたらしい、多分ビンタに近い物だろう。取り敢えず林田は偶然を装う事にした、どう頑張ってもドーラが何かをした証拠が見つからないのだ。林田(無線)「失礼・・・。さてと、爆弾の方はどうなっているかね?」ドーラ「お父さ・・・、いや警部、1つがコインロッカーの中に見つかりました。爆弾処理班の方々によるとまだ複数個隠されているかとの事です。」林田(無線)「ノーム君・・・、まさかこの言葉を言う事になるとは思わなかったが、君にお父さんと呼ばれる筋合いは無いよ。取り敢えず見つかった爆弾はどうしたのかね?」利通「えっと・・・。」プニ「見つけた1個は俺達で処理したっす。」ケルベロス①「ただ競馬場内から爆弾の匂いがプンプンしますぜ、林田の旦那。」 相変わらずのキャラを保っているが仕事はしっかりと行っているので文句は言わないでおくことにした、別の者達には日を改めて。 一方、銃刀法違反の現行犯で逮捕した犯人をネフェテルサ王国の警察署に巡査が輸送し、それに合わせ警備本部にいた林田警部が一時的に署に戻り取り調べを行った。犯人によると自分は金で雇われただけだと言う、真犯人からは電話での指示を受けていたが非通知での着信だった為番号は知らないそうだ。そして分かった事がもう1つ、
-61 昨日の敵は今日の友と言うが- 3位グループの3台は今までずっと共に走っていた為か、いつの間にか絆が生まれていた。④ドライバー「お前ら、大丈夫か?!悪かった!怪我してないか?!」⑫ドライバー「こちらこそ悪い・・・、あそこで俺が無理に妨害していなかったら・・・。⑧番車の野郎は・・・、無・・・。」⑧ドライバー「野郎じゃないわよ、失礼ね。」⑫ドライバー「そうか・・・、悪かった。怪我は無いか?」⑧ドライバー「私は大丈夫、とりあえずレースの邪魔にならない様に端に避けていましょう、奇跡的にも1台が通れる位の空間は空いてるみたいだからレースに問題は無いと思うわ。」⑫ドライバー「とにかく怪我が無かったらそれでいい、レースはまたの機会に参加すればいいさ。とりあえず端に・・・。」 どこかで会話を聞いていたのか実況のカバーサが一言。カバーサ「お2人さん、良い雰囲気ですがレース自体は一時的に予備のルートを使って続行していますのでご心配なく。」⑧ドライバー「そうなの?・・・って、アンタどこで聞いてんのよ!!」 ⑧番車のドライバーに追及されるとカバーサは慌てて胡麻化した。カバーサ「おや、1匹のコッカトリスが車番プレートを両手に持って自らコース飛んでますよ。えっと・・・、こちらは④番車のドライバーさんですか?」④ドライバー「俺は・・・、死んだ⑧番と俺を気遣ってくれた⑫番の為に・・・、それと自分達の為に完走だけでもするんだ・・・!!」⑧ドライバー「失礼ね、私まだ死んでないわよ!!」 ⑧番車のドライバーによる適格なツッコミにより一瞬会場は湧いたがレースの主催者から通達が出たのでカバーサが伝えた。カバーサ「えっと・・・、④番さん・・・、気合には皆が感動していますがお車で走っていませんので事故での失格は取り消されませんよ」④ドライバー「えっ・・・。」カバーサ「だから言ってるでしょ、あなた失格。今すぐコースから立ち退かないと私が自らピー(自粛)しますよ。」④ドライバー「は・・・、はいー・・・。」 ④番車のドライバーは諦めて地上に降り立つと人間の姿に戻ってから徒歩で戻って行った、背中にはとても哀愁を感じるが少し震えてもいた。カバーサ「まぁどう考えても距離的に無理なんですけどね、本人自ら立ち退いて下さったので良しとしましょう。あ、くれぐれも私は脅してませんので
-56 レース開始直前だが- 光は出走表の場所をナルリスに聞き車券を購入しに向かっていた、まるで国民の祝日の様に老若男女が右往左往していて大混雑している。 先程1杯呑んだビールの影響か光はトイレに行きたくなったので車券売り場への道中で探すことにした。 トイレは意外過ぎるほど早く見つかり全く混雑していなかったので光はすぐに駆け込み用を済ませた。 トイレを出て車券売り場を目指す、ぷらぷらと歩いているとふんわりと優しい香りがして来たので近くを通った時少し寄ってみるかと意気込んだ。 何軒か日本に似た食べ物屋の屋台が出ている様でその内の1軒を覗いてみる事にした。光「『龍(たつ)の鱗(うろこ)』ね・・・、こんな名前の店あったかな。」 ただ一際行列が目立っており、その上光を誘った香りがその屋台からだったので光は一切迷う事無く飛び込んだ。 店の中では皆が一心不乱に丼に入った麺を啜っている。店主「いらっしゃいませ、お一人様ですか?お好きなお席へどうぞ。」 どうやらここはラーメン屋さんの屋台のようだ。他のお客さんが食べているラーメンはスープが綺麗に透き通った金色のもので、細麺。トッピングはカイワレ大根と何かを揚げているチップスらしい。(※作者が大好きなラーメンの1つです、店名は変えてますが。) カウンターにお品書きがあったのでチラリと見てみると「鯛塩ラーメン」の文字がある。光「『魚介ベースのスープで鯛の皮のチップスをトッピングした美味しいラーメンです』・・・か。」店主「お決まりですか?」光「あっ、鯛塩ラーメンをお願いします。」店主「少々お待ちください。」 屋台の隅に探していた出走表をみつけた。光「出走表頂いてもいいですか?」店主「勿論どうぞ、ラーメンが出来るまでゆっくり予想していて下さいね。」光「助かります。」 光は店の隅に行き出走表を1枚取って席に戻った、①~㉑までの車番の横にチーム名やホームストレートで行われた予選の計測タイム、スタートポジション等が書かれていた。光「確かポールポジション取った⑰ブルーボアが1番人気で、18kmのホームストレートはダントツ、ただガソリンの積載量が比較的少ない気がするな・・・。」 ピットでの給油は認められているがピットストップの回数が多いとその分逆転を許してしまう可能性が大きくなる。光「コーナリングの図を