-㉕歪んだ権力- どう見ても羽田の方が気が気でない様な感じなのだが通話の向こうの警官は驚くほど冷静だった。警官「分かりました、貝塚学園にす・・・ガチャ!」 羽田「ん?!」 海斗「切・・・、ら・・・、れた・・・。」 結愛「どうゆう事?」 羽田「恐れ入ります、信じたくはないのですが警察内で何かしらの権力での圧力がかけられているのかと・・・。」 結愛「ま・・・さ・・・か・・・。」 海斗「お父様ということですか?」 羽田「下手したらの話ですが・・・。」 一方、羽田の嫌な予感が的中したらしく、警察署には義弘の姿があった。警察署長の部屋で威張って座っている。 署長と警視庁の警視総監はとなりで正座させられていた。ずっとブルブルと震えている。義弘「署長、私に逆らってパトカーを走らせたらどうなるか分かっておるよな?」 警視総監「当然です、貝塚社長に逆らえるものなどこの国にはおりません。謝って逆らいでもしたら末代の恥でございます。」 警視総監の家は4人家族で暮らしている、残り30年分残っている住宅ローンを義弘が一括で支払い貝塚財閥が全権を握っている様な有り得ない状況となってしまっていた。義弘はこの権力を行使して貝塚学園からの通報は全て無視するようにと指示を出していた、警視総監がローン代を義弘に返さない限り日本の警察は義弘の思い通りとなっている。殺人が多数発生することを予測して先に手を回していたという事だ。 結愛と海斗の2人は思った、『アレ』を使う時が来たのだと。いくら何でも殺人事件が2度も起こっているのに警察が動いていないのはやはりおかしすぎる、相当な権力という名の圧力を持ってでもないと実現しない話だ。 しかし、誰もが不審に思わない訳がない、特に貝塚財閥に莫大な投資をしている人間は。2人は乃木先生に相談すべく彼女を探しに行こうとしていた。その時、学園の出入口に1台のミニバンが停まった。羽田達黒服が近づいて事情聴取しようとしていた。 ミニバンの運転席が開き、長袖の作業着姿の男性が1人降りてきた。とめどなく流れる汗を首にかけたタオルでずっと拭いている。こんな暑いときに長袖なんてよく着るなとその場の全員が思った。(※今更ですが黒服にも夏用に半袖の制服があります。)男性「暑い暑い、公恵(きみえ)に言われて来てみたけどこんなに暑いならやめておくべきだった
-㉖大株主の心の広さ- 結愛は『あのチケット』を握りしめて走ってやって来た、そして乃木先生に向かって頭を下げた。結愛「乃木先生、お願いします!このチケットをお父様に渡して使わせて下さい!」 乃木「お嬢様、頭を上げて下さい。その私の父ならここにおりますよ。」 結愛「えっ・・・?!」 幸太郎「こんにちは、娘がいつも大変お世話になっております。」 幸太郎は優しく微笑んだ、結愛はギョッとしたがすぐに冷静になった。この人が自分達、いやこの学校の救世主だと思うと待ち望んでいた人が現れたと涙が溢れた。海斗は落ち着かせなきゃと結愛と肩を組んだ。結愛「あに・・・、お兄様。」 海斗「今はそんなの気にすんな、取り敢えず落ち着け。申し訳ありません、少し席を外してもよろしいでしょうか。」 幸太郎「勿論、どうぞ。」 暫くして気持ちを落ち着かせた結愛を連れて海斗が戻って来た、2人の手には『あのチケット』が握りしめられている。2人とも震えていた、しかしこの学校を何とかしなきゃという正義感が強くなり震えはすぐに止まった。幸太郎「現状を知りたい、黒服さん、事件現場にご案内をお願いできますか?」 羽田「かしこまりました、こちらでございます。」 幸太郎「因みに黒服さん、お名前は?」 羽田「羽田と申します。」 幸太郎「羽田さん、今の僕には貴方が頼りです。お手伝いをお願いできませんか?」 羽田「全力を尽くします。」 全員が事件現場に到着した、遺体は葬儀屋が運び出した後だった。それ以外はそのままだったので事件の悲惨さを物語っていた。即座に事件の酷さを察知した幸太郎は自ら110番通報した、同じ内容だったので警察側はすぐに通話をを切った。現状を知った瞬間、幸太郎は頭に血が上ろうとしていて冷静さを保つことが困難になっていた。咄嗟に別の所に連絡を入れ始めた、相手はあの博だった。博(電話)「もしもし、ああ幸太郎さんじゃないか、珍しいな。」 幸太郎「博さん、今どこにいる?」 博「ハワイにいるんだが、ただ事じゃなさそうだな。」 幸太郎は事件について彼が知っていることの全てを打ち明けた。博「わしの孫達がそこにいるんじゃないか?」 結愛「じ・・・、じいちゃん、俺親父の事信用出来ねぇ、あれを使うからな。」 幸太郎はチケットを渡そうとした結愛を静止し、大事に持
-㉗重要人物- どうやったのか1日もしないうちに博はハワイから戻って来た、そして息つく間もなく事件現場を確認しに学園へと赴いた。学校の出入口で幸太郎が博を出迎えた、羽田の案内で事件現場の2年3組へと向かう。博「これは酷いな・・・。」幸太郎「どう思う?」博「あの計画を進める時が来たかも知れん。」幸太郎「ただ、私たちだけでは力不足だ。特にあの2人が出てきた時は。」博「ああ、義弘派閥の2人か。あいつらが動けば面倒だな。」幸太郎「やはりあの人の力を借りるしかないな、私が電話してみたら会ってくれるみたいだ。改めてもう1度電話しようと思うのだが。」博「私もあの人と話したい、スピーカーにお願いできるか?それと相談に行く時は私も行こう。」 一方、光明は犯行の証拠となる映像が残っているのではないかと各箇所に設置した監視カメラやドローンを確認していた。事件が起きた数分前の映像を見てみると侵入者と思われる黒服が西條に後ろからスタンガンを突き付け気絶させている所が映っていた、西條が配ろうとしていたお茶のダンボールを奪い取るとその中の数本に透明な液体を注射器で注入しているのが見える。注射器で空いた小さい穴を見つからないようにグルーガンで器用に埋め箱に戻した様だ、その映像を西條に見てもらうべく光明は西條の眠る保健室に向かった。 保健室では圭が付きっきりで看病をしていた。西條はぐっすりと眠っている。光明「この人が侵入者にやられた黒服さん?」圭「うん、少し熱があるけどぐっすり眠ってるみたい。どうしたの?」光明「ドローンと監視カメラの映像を確認してもらおうと思ったんだけど、後の方がいいな。」圭「今はゆっくり寝かせてあげよう。」 その時、西條が目を覚ました。西條「痛たたたたた・・・、えっと、君たちは?」圭「気が付きましたか、私2年1組の赤城です。」光明「2年3組の伊達光明です。」西條「私は西條だ、ずっと看病してくれてたのか?」圭「西條さんずっと寝てましたから殆ど何もしてませんけど。」西條「いや助かるよ、ありがとう
-㉘話し合い、そして侵入者- 博と幸太郎は女性が指定した喫茶店に向かった。数分後、女性は1人の男性を連れてやって来た。 2人はコーヒーを飲みながら幸太郎の説明を聞いた。女性「いくら何でもやりすぎだね、呆れたもんだよ。そう言えばあんた、奥さんはどうした?」男性「妻は海外支社から娘が戻ってくるので一先ず家で留守番しています。」女性「まあいいさ、とりあえずあれだね、あたしらだって株主である前に人間さね。許せないよ。」博「ただ現状、私と幸太郎だけでは不十分だ。」幸太郎「それにさっきも言ったとおり義弘派閥の2人が動いていたらこちらに勝ち目は無い。」女性「だから私の出番って事だね。」博「頼めるかい?」女性「任せろってんだ。」 その頃学園では黒服長の羽田が黒服全員を集めていた。 同行している守・圭・琢磨・橘・結愛・海斗には黒服の前で自分の事を名前で呼ばないように頼んでいる。羽田「黒服長は私以外にも唐松(からまつ)・佐野(さの)の2人が居ます、くれぐれも秘密裏に。」 羽田は黒服全員に同じ質問をし、耳打ちで答えさせ偽者、つまり侵入者を見つけ出そうとしていた。 自分の直属の黒服長は誰だと質問し答えさせていく、そして。侵入者「む・・・、村岡さんです。」羽田「見つけたぞ、お前が侵入者か!」侵入者「くっ・・・、仕方ねえ。」羽田「捕まえろ!」 羽田の指示でそこにいた黒服全員が侵入者に襲い掛かり捕まえた。 羽田が侵入者のサングラスを奪い取る。羽田「貴様・・・、国際指名手配犯のラルクじゃないか!警察に突き出してやる!」ラルク「無駄だ、俺の依頼主が警察に圧を掛けてるから動かねぇさ。」羽田「まさか・・・、お前の依頼主は・・・、畜生・・・!」 羽田は保健室にいる結愛のもとに急いだ。 保健室のベッドの横で結愛はずっと圭と共に西條の世話をしていた。羽田「お嬢様!大変です!」結愛「静かになさい・・・、西條さん寝てるんですよ
-㉙吐露、そして計画実行へ- ラルクが逮捕され数日、警視総監から直接博のもとに電話が来た、拘置所にて取り調べを行うので立ち会って欲しいとの事だ。学園で起こった殺人事件について真相が明らかになるのだ、博は喜んで協力すると答えた。 まず4組の教室であった殺人についてだが学校全体の偏差値を少しでも上げなければという理由で生まれた極端な考えで起こったもので武器を仕掛けたのはラルク本人だという事だ、その時彼は英語の特別講師として侵入していた。 また3組で起こったものについてだがその理由は不明だとの事だ、殺人を行っただけだという。どちらも義弘の指示で動いたとラルクが吐いた。 因みに今回は特別に警視総監自ら取り調べを行っている、今回の取り調べの音声を記録すべく博に同行していた結愛は光明にICレコーダーを借りていた。警察側もうそ発見器を使用している。警視総監「もう一度聞こう、お前に殺人を指示したのは貝塚義弘で間違いないな?」ラルク「ああ・・・、俺はあいつに金で雇われただけだ。」警視総監「義弘が直々にお前を雇ったんだな?」ラルク「しつこいな、そうだと言ってんだろ。」 うそ発見器も反応していない様なので、どうやらラルクは本当の事を言っているみたいだ。はっきりと音声も録音されているので、これは十分証拠となる。 数日後、ラルクが吐露した通り両方の殺人が義弘のものか確証を取るため、義弘の取り調べを行った。しかし、義弘は一貫して黙秘を貫いた。 次の日、博は幸太郎と共に結愛に会いに行った。現在、一時的にだが貝塚財閥の全権を握るのは結愛だからだ。博「結愛、ちょっと時間あるか?」結愛「良いけど、何?」博「海斗も一緒に聞いてくれると嬉しいんだが。」結愛「そこにいるから呼んでくる。」 結愛はすぐに海斗を呼んできた。博「凄く、言いにくい相談なんだがね・・・、お前さんらの親父を理事長(社長)から降ろそうと思っているんだ、今の学園では生徒たちが安心して生活できんだろう、それにこれを見てくれ。」 義弘は懐から大量の手紙を取り出した、博が義弘に内緒で貝
-㉚運命の株主総会- 幸太郎は結愛と海斗、博、そして自ら総会に招待した生徒を貝塚財閥の大会議室に招き入れた。招待された生徒は勿論、結愛と海斗も初めて入る部屋でコンサートホールの様に前にあるステージに向かって下り階段が伸びている。幸太郎「ようこそ、貝塚財閥株主総会へ。」 幸太郎は招き入れた生徒達を後ろの端の席へと座らせ、自分と博は左寄りの前の方に陣取った。続々と株主が入ってくる。幸太郎と博の反対に右寄りの前の方にスーツを身に纏った2人が座った。生徒たちは彼らの顔を見て驚いた。古文の茂手木と数学の重岡だ。ちょうど横を通りかかった幸太郎に聞いた。海斗「何であの2人が・・・、学校の先生だったはず。」 幸太郎「あの2人は本当は投資家で私やおじいさんと同じ、ここの大株主だ。ただ義弘派閥と言って義弘の言いなりなんだ、多分今日は敵として戦う事になるだろう。」 その時だ、博がステージに立ちマイクを握った。博「おはようございます、皆様本日はお集まりいただきありがとうございます。只今より緊急株主総会を開始いたします。尚、この場に私の愚息が居ないのはその愚息について話し合う場だからです。」 茂手木「愚息とは失礼だな、名ばかりの会長が何を言ってるんだ。彼は1代でこの会社をここまで大きくした言わば偉人じゃないか!」 博「じゃあその偉人がした事を見るがいい!」 博は光明に借りた今までの事件に関する映像を見せながら、警視総監の借金を利用しての全国警察への圧力の事や生徒達が苦しむ学園の現状を伝えた。 最後に、貝塚財閥本社社長室に仕掛けられた隠しカメラに捉えられた映像が流れた。それは投資家である重岡や茂手木に金を渡している所の物だった、勿論音声付きで。明らかなる贈収賄の証拠映像だ。博「これを見てもまだ偉人と呼ぶか?!私は自らの教育が足らなかったと自分の事が恥ずかしくてたまらない!愚息を即刻、社長の任から解くべきだ!」 重岡「今までハワイで遊んでいたじいさんに会社の経営ができるなんて思えません!皆さん、この解任案は反対すべきです!」 数十分にわたり議論は続いた、そして議長がステージに上がり採決
-㉛ 後日談・異世界へ- 株主総会がおわり、義弘が逮捕されてから数年、貝塚財閥は本格的に社長となった結愛の理念の下で教育支援を中心としたに力を入れて信頼を取り戻していった。 今となっては貝塚学園は雰囲気が明るく、部活動等が充実した有名進学校として有名となり当時の面影を全く残していない。 副社長となった結愛の夫・光明が結愛にオリジナルの珈琲を淹れて渡した。光明「ここも大分変ったよな、理想の学校として全国から憧れられる存在になっているから、お前もあれからもの凄い努力をしたんじゃないのか?」 結愛「何言ってんだよ、俺じゃなくて周りの人たちのお陰だろうが。」 相変わらず結愛の口調は代表取締役社長に就任しても変わらない。 そんな中、結愛は気がかりになっている事を思い出した。結愛「光明・・・、例の件の調査は順調に進んでいるか?」 光明「あの件か・・・、状況は全く変わってない様だよ。」 実は後々事実を知る事になるのだが、義弘が逮捕された翌日に義弘派閥の株主・重岡が保釈金を支払いすぐに釈放されてから行方不明になっているという噂が最近になって結愛の耳に入り、同じ株主である宝田真希子や乃木幸太郎の協力を得て義弘の行方を追っていたのだ。奴の性格を考えると逃げた先で何かしらやらかしかねない、本当に信用できない男なのだ。 そんな中、学園の生徒の1人が雑誌の切れ端を持って職員室にやって来た。まさかこの切れ端が波紋を生むことになるとは今は想像も出来ない。ただ、重要な案件に繋がりかねないと思った乃木幸太郎の娘である教員の公恵は急いで結愛のいる社長室兼理事長室へと向かった。 実は最近移動が面倒になってきたので結愛がいっその事と思い学園の理事長室を社長室も兼ねる部屋という事にしたのだ、なので普段は本社では無く学園にいる事が多い。 因みに、義弘の時からそうだったが今でも貝塚財閥の社長がこの学園の理事長を兼ねている。乃木「結愛さ・・・、いや理事長。こちらをご覧頂けますか?」 結愛「乃木先生、あなたは私達の恩師です。「理事長」もその他人行儀もやめて下さいと言ったはずですよ。」 乃木「そうね、ごめんなさい。この部屋に来るとどうしてもこうなっちゃうのよ、癖が抜けなくなってて。」 結愛「大丈夫ですよ、それでどうされました?」 乃木は結愛に
3.「異世界ほのぼの日記~日本に似て便利な世界でぷらぷら生活~」佐行 院-①突然の異世界- ここは東京、現在20XX年、去年からより酷く進みだした地球温暖化により7月8月における1日の平均気温が40度を超える様になってしまった今日この頃、営業職の女子社員・吉村 光(よしむら あかり)は営業先への外回りに出ていた。日差しがまぶしい、正午となり昼休み。1日の中でも1番暑い時間帯を迎え涼を求めて多くの人が喫茶店やレストランで食事を取っていた、光もその1人になろうと店を探していた。光「お腹空いたし暑くて何もする気しないよ、何食べようかな・・・。」 街は誘惑に溢れているがどこのお店も満席でなかなか食事にありつけない。そんな中、1軒の中華屋さんを見つけた。夏の風物詩となった『冷やし中華はじめました』の看板が出ている。ちょうどそこから男性が2人出てきた。男性①「いや、美味かったな。」男性②「そっすね、これで午後からも頑張れますよ。」光「羨ましいな・・・、あたしも冷やし中華にしよう。」 ひんやりと冷たい冷やし中華、細切りの胡瓜やハム、そして錦糸卵が乗っておりトマトが彩りを加える。横に添えられた練りからしが味のアクセントとなって美味な1杯を想像し光は店内に入った、涼を得たいという同じ考えの人間たちで賑わっており店の中は常に満席で4~5人ほど待ちが生じていた。このお店は回転率がいいらしく15分ほどで席へ案内されお品書きを見ずにすぐ冷やし中華を注文した、このお店ではポン酢だれか胡麻だれを選べるらしく光は胡麻だれを選んだ。女将さんに渡されたお冷が嬉しくて、光は4杯もお代わりしてしまった。女将「そんなに慌てて沢山飲むとお腹壊して冷やし中華が食べれなくなるよ。」光「暑くて仕方無いんだもん。それよりおばちゃーん、お腹空いたよー。」女将「『お姉さん』だろ、この子にはお仕置きが必要かもね。」光「勘弁してよー。」女将「冗談だよ、もう少し待ってな。」 暫くして注文した胡麻の冷やし中華がやって来た、光は麺に胡麻だれを絡ませ啜った。啜りきったその顔は恍惚に満ち溢れていた。瑞々しくシャキシャキの胡瓜が嬉しい、光は夢中になって食べていた。そこに女将さんがやって来て餃子の乗った小皿を置いた。女将「サービスだよ、あんたの食べ方が気持ちよくてね。食べていきな。」光「ありがとう、おば
-130 新しい仕事の為- タンクに珠洲田がある程度魔力を貯めておいてくれたので、渚はごく少量の魔力を流したのみでエンジンを起動する事が出来た。先程も聞いたのだが日本にいた頃と全く変わらないけたたましい排気音、渚の頬には感動の涙が流れていた。渚「懐かしいね・・・、またコイツで走れるんだね。」シューゴ「大きくてかっこいいですね、これが乗用車ってやつですか?」 シューゴもまた「乗用車は貴族の乗り物」と言う考えの持ち主で、すぐ目の前で見るのは人生初めてだそうだ。因みに本人の免許は林田警部の妻・ドワーフのネスタと同様に「軽トラ限定」となっていて、正直今の屋台のサイズはギリギリらしい。渚「これは・・・、スポーツカーって言った方が良いのかもしれませんね・・・。」 シューゴは初めて見たエボⅢをちらちらと見ながらも気を取り直し、屋台を追加する上で確認する事が1点あったので説明をしながら確認した。シューゴ「渚さん、ギルドカードをお見せして頂けますか?」 渚は取得したばかりのギルドカードを見せた。シューゴ「これは冒険者ギルドのカードですね。実は・・・、屋台を増やす上でまず考慮しないといけない事が一点、この国では「屋台」も「個人事業主・商店」の扱いになります。今回の様に2台目と言う名の「支店」の場合でもです。普通に企業やお店に雇われて働く場合は冒険者ギルドへの登録だけで十分ですが、今回の場合は前者なので「商人兼商業者ギルド」に登録する必要があるんです。渚さんはこちらのカードはお持ちでは無いですか?」 シューゴは商人兼商業者ギルドのギルドカードを見せながら聞いた。勿論初見なので首を横に振る渚、それにまだ必要な物や登録事項があった。いずれにせよギルドカードは偽造不可能なので必須となる、ただ渚とたまたまだがこの場に来たばかりの光は全くもってチンプンカンプンだった。シューゴ「そして最も重要なのは車です、ギルドで商用登録した上で屋台として造られた軽トラ等を購入する必要があるんです。」渚「光、知ってたかい?」光「うん・・・、全部初耳。」 取り敢えずだが屋台をするのだから車を用意する必要がある事は分かった、ただたった今職を失いシューゴと屋台をする事になった渚には正直資金が無かった。 渚は隣にいた光に、小声で毎日欠かさず大盛りの夕飯を作る事を条件に資金を貸してほしいと相談
-129 渚の転職- 電話を切った渚は震えながらシューゴに尋ねた。渚「シュ・・・、シューゴさん・・・。拉麵屋台って私にも出来ますかね?」シューゴ「あの・・・、どうされました?」渚「どうしましょう・・・。今の電話勤め先の八百屋さんの大将なんですがね、自分達ももう歳だから店を畳むって言ってるんです。」 急な知らせに動揺を隠せない渚はあからさまに震えていた、八百屋の店主によると一応渚の次の就職先は探すとの事なのだが念の為に自身でも探してみて欲しいと通達してきたのだ。 たった今、新メニューの開発に協力してもらった恩義がある。それに2台目の拉麺屋台に乗るのが女性だと話題と良い宣伝になりそうだ。シューゴ「渚さん、免許証はお持ちですか?」渚「勿論、こちらです。」 渚は日本で取得した運転免許証を見せた、今更だが日本語はこの世界の言葉に訳されて見えている。 シューゴは渡された免許証をしっかりと確認し、返却した。シューゴ「なるほど、ウチの屋台のトラックはMTなんだけど大丈夫ですか?何ならATをご用意致しますが。」渚「大丈夫です、日常的にMTに乗って・・・。」 その時外から聞き覚えのあるけたたましい排気音がし始め、渚の言葉をかき消してしまった。シューゴ「な・・・。何ですか、この音は?」渚「えっと・・・、愛車と言う名の証拠品が来ました・・・。」 窓の外を見ると、駐車場に洗車を終えピカピカになった真紅のエボⅢが爆音と共に到着した。車内から珠洲田が手を振っている。 渚はシューゴの手を握り、この世界の仕様になった愛車を迎えに行った。 自然の流れでだが、渚は思わずシューゴの手を握ってしまった事に気付くのに少し時間が掛かった。その上自分で気づいた訳では無い。珠洲田「なっちょ・・・、いつの間にこの世界で彼氏が出来たんだ?」渚「えっ・・・?あっ、ごめんなさい。本当にごめんなさい。」 渚は慌てて手を放し、シューゴに何度も何度も謝った。シューゴ「構いませんよ・・・、まだ独身ですし・・・。」珠洲田「あれ?よく見たら拉麵屋台の店主さんじゃないですか、どうしてなっちょと一緒にいるんですか?」渚「あの・・・、ここはこの人の・・・。」シューゴ「今日からウチの屋台で働いてもらう事になったんです。」 渚は震えながらゆっくりとシューゴの方に振り向きじっと目を見た。渚「
-128 新メニューと渚の驚愕- とにかく辛く仕上げたこの焼きそば、光が渚の遺伝で辛い物好きになるのも納得がいく。渚「ウチは昔、決して裕福とは言えなかったんだがね。せめて夕飯は豪華にしようとインスタントの焼きそばに残った豚キムチとウインナーを入れて、少しだけでも豪華に見せる様にしてたんだ。」 当初はまだ幼少だった光用に普通のソース味の焼きそばを作っていたのだが、渚自身の分として作っていたこの「辛い焼きそば」に興味を持った小さな光に恐る恐る少しだけ与えるとハマってしまったらしくそれから「何か食べたいものは?」と聞かれるとこの焼きそばをねだる程になっていた。 それから渚はこの焼きそばを酒の肴に、まだ未成年だった光はご飯のお供にしてよく食べていたのだ。 光はこの焼きそばの作り方を聞くことが出来ないまま渚が亡く・・・、いや渚と生き別れになってしまったので代用品としてあのツナマヨをよく食べていたんだそうだ。 その事を聞き、林田が号泣していた。林田「泣かせてくれるじゃないですか・・・、やはり私は罪深き男・・・。」渚「林田ちゃん、何を泣いているんだい。もう、伸びちまうから早く食べちまおうよ。」光「懐かしの味、頂きます!!」 辛子マヨネーズを麺に絡ませ一気に啜ると辛さがガツンとやって来て食欲をそそった、豚肉と一緒に食べると少し甘みのある脂が麺にピッタリだ。白米や酒が進む。 ソースの絡んだウインナーを食べるとそれも白米と酒に合うので最高の組み合わせだ。皆一気に完食してしまいそうになった時、店の出入口が開きある男性が入ってきた。レンカルドの兄で拉麺屋台店主、シューゴだ。少し落ち込んでいるっぽいが。レンカルド「兄さん、どうした?」シューゴ「レンカルド、実は相談が2つあって。その内の1つなんだが俺も新メニューを考えようと思っててな・・・。ん?この香りは?」レンカルド「あそこにいる渚さんが拘りの、そして娘の光さんとの思い出の味として作ってくれた焼きそばだよ。良かったら食べてみる?」 レンカルドがシューゴに自分の皿を差し出すと香りに料理の誘われ1口、決して豪華だとは言えないその料理の味に刺激され感動した兄は渚にお願いした。シューゴ「渚・・・、さんでしたっけ?このお料理のレシピをお教え願えますか?」渚「何を仰っているんですか、決して料理なんて呼べない代物ですの
-127 渚の拘り- 林田は友人であるデカルトに唐突なお願いをした。ただ相手は隣国の王、表情はおそるおそるといった感じだ。林田「デカルト、すまん・・・。少しお願いがあるんだがいいか?」デカルト「ん?どうした、のっち。」林田「ははは・・・、もう良いか。この新メニューの値段を決めてくれないか?」 店主のレンカルドが決めかねているので国王の権限で決めてしまって欲しいとの事なのだ。デカルト「俺は良いけど・・・。店主さん・・・、宜しいのですか?かなり拘って作っておられるとお聞きしましたが。」レンカルド「何を仰いますやら。1国の王様にお決め頂けるとはこの上ない幸せ、どうぞ宜しくお願い致します。」 価格を決めるヒントとして1つ質問してみる。デカルト「確か・・・、お兄さんの作られる拉麺のスープを使っておられるのですよね?お兄さんのお名前をお伺い出来ませんか?」レンカルド「兄・・・、ですか?シューゴと申しますが。」 メニュー表のパスタの欄を改めて見直しながら考え始めた。デカルト「パスタ料理の平均価格から見てそうですね・・・、「シューゴさん」だから1500円でいかがでしょうか?」レンカルド「あ・・・、ありがとうございます。光栄でございます。」 レンカルドが涙ながらに感謝を伝える横でデカルトが話題を変えようと「拘り」について聞いてみる事にしてみた。デカルト「そう言えば他の皆さんは何か拘っておられる事はありませんか?結構拘っておられる品を食べたので是非と思いまして。」渚「そうですね・・・、うちは「焼きそば」でしょうか。光、覚えているかい?あんたも女子高生だった時から好きだったインスタントの焼きそばに豚キムチを入れたやつ。」光「あれね、いつ作っても麺がやわやわになっちゃうやつ。いつもウインナーを入れてくれてたのを覚えてるよ、母さんの影響で辛い物が好きになったきっかけだったな。」 かなり腹に来ているはずの林田が唾を飲み込みながら渚に尋ねた、この世界の住民は皆美味い物に目が無い。林田「美味そうですね、宜しければ作って頂けませんか?」渚「私は構いませんが、店主さん良いんですか?」レンカルド「大丈夫ですよ、魔力保冷庫の中にある食材も良かったらお使いください。」渚「恩に切ります。んっと・・・、韮と豚の小間切れ肉、それとキムチはあるから後は「あれ」と「あれ」
-126 飲食店に拘る理由- 店主が思い出に浸っていると勢いよく出入口のドアが開いた、ドアを開けたのは愛車の修理を待つ渚の娘・光だ。店主「ごめん光ちゃん、今「準備中」というか休憩してたんだよ。」光「こちらこそごめんなさい、レンカルドさん。車屋の珠洲田さんに母の場所を聞いたらここだって聞きまして。」 光は懐からハンカチを出して汗を拭った、息を整えようとするとレンカルドがお冷を渡した。レンカルド「ほら、これ飲んで。それにしても光ちゃんのお母様だったんですね、何となく雰囲気が似ていた訳だ。」渚「こちらこそ娘がお世話になっています。」レンカルド「いえいえ、何を仰いますやら。光ちゃんはここの常連になってくれましてね、いつも美味しそうに私の料理を食べてくれるんです。」 料理と聞いて渚は先程の昔話について疑問に思っていた事をレンカルド本人にぶつけてみた、不自然すぎる事が一点。渚「そう言えば先程ヨーロッパや日本の洋食屋で修業をしたと仰っていましたが、どうやってそう言った国々に?」レンカルド「私が18歳になったばかりの頃です。実は兄が祖父の拉麺屋台の修繕とスープの再現に勤しんでいた傍らで、私は不治の病に倒れ入院先の病院で意識と霊魂の一部のみが異世界に飛ばされていたんです。そして現地の料理人見習の方に一時的に憑依する形でその方と一緒に洋食の修業をし、終わった頃に私本人として復活致しました。意識と霊魂の一部が自分自身の体に戻ったのですが、異世界で学んだ技能などははっきりと覚えていたのでこの経験を是非活かそうとこの飲食店を始めました。」光「初めて食べた時に何処か懐かしさを感じたから常連になっちゃったって訳。」男性「あのー・・・、とても良い話をお聞かせ頂いた後に恐縮なのですが、私はずっとほったらかしですか?」 光は後ろに振り返り、飲食店に来た目的等をやっと思い出した。レンカルドの話につい聞き入ってしまっていたのだ。 焦りの表情を見せながら一緒に連れてきたその男性を急いで招き入れた。光「あ、ごめんなさい。珠洲田さんの所に行ったらこの人がいてね、一緒に連れて行ってくれって頼まれたんだ。」デカルト「来ちゃったー。」林田「デカ・・・、ダンラルタ国王様。どうしてこちらに?」 周囲に他の人がいるので林田はいつも通り名前で呼びかけたが急いで言い直した。デカルト「のっ
-125 兄弟の頑固な拘りと料理- 渚はふと疑問に思ったことを店主にぶつけてみた、店内が不自然な位にスープの匂いで満たされていたからだ。渚「お店で出されるんですか?」店主「いえ、軽トラを改造した屋台で各国を放浪して売っているんです。」 ふと窓の外を見ると木製の屋根と煙突が付いた軽トラがあった、ぶら下がっている赤提灯に「拉麺」と書かれている。店主「屋台で販売する事が兄の拘りみたいでして、1箇所に留まりたくないそうなんです。」渚「お2人で拉麺屋をするおつもりは無いんですか?」店主「自分は自分で洋食の修業をしてきましたので大切にしたいんです。」渚「そうですか・・・。」 匂いの素となっていたスープの入った寸胴鍋を軽トラに乗せると兄らしき男性はまた何処かへと行ってしまった。 お店では再びハンバーグの香りがし始めた。店主は何故か「営業中」の札を「準備中」に返すと渚たち以外にお客がいない店内で店主が珈琲を淹れ始めた、自分用だろうか。ただ不自然なのは他にもカップが数個。 全てのカップに珈琲を淹れると渚たちが座るテーブルへと持って来た。店主「実はそろそろ休憩にしようかと思っていたんです、こちらの珈琲は私からご馳走させて頂きますので良かったらちょっと昔話にお付き合い願えますか?」 そう言うと淹れてきた珈琲を配膳し、他のテーブルから持って来た椅子に座り語りだした。店主「私達兄弟は学生の頃に祖父母を亡くしましてね。当時2人はずっと、昼間に小さな町工場を経営しながら夜に拉麵屋台をやっていたんです。私も兄もたまに食べていた2人の拉麺が大好きだったんですよ。ただ私も含め先祖代々そうなのですが、バーサーカーが故の頑固さで休みなくずっと働いていたが故に祖父は過労で倒れてそのまま・・・。 あ、バーサーカーと言っても我々は全く好戦的ではないのでご安心を。 実は私達の両親は私達が小学生の頃に離婚しましてね、2人共父に引き取られたんです。ただ父は務めていた会社が倒産してから全く働くこと無く酒と煙草、そしてギャンブルばかりしていました。 そんな中、祖母は私達に苦労をさせまいと1人になってもずっと町工場と屋台を続けていました。そんな祖母も祖父の後を追う様に急病に倒れ亡くなりました。 せめてもの感謝の気持ちとして2人の工場と味を残していきたいと兄が父に町工場を存続する様に説得
-124 大将の秘密の工房- デカルトが王宮からネフェテルサ王国に向かって飛び立った頃、ロラーシュ大臣によって一時的にだが鉱石がすっからかんになった採掘場を見てゴブリンキングのリーダー・ブロキントは一言呟いた。ブロキント「見た感じ美味そうに食うてたけど、そんなに美味いもんなんかいな・・・。言うてしもたらあれやけど石やで。」 味を一応想像したけど全くもって美味しいイメージが湧かない。 その時、たまたま近くを通った屋台から聞こえたチャルメラの音を聞き、魔法で誘われたかの様に腹をさすりながら食べに行った。ブロキント「大将ー、1杯くれまっか。」大将「あいよ、椅子出すからちょっと待っててくれな。」 大将は軽トラを改造した屋台から小さな椅子を数脚持ち出すとその一つに座るように誘った、ブロキントがそれに座るとスープの入った寸胴に火にかけ徐々に熱を加えていく。 丁寧に血を拭き取った豚骨と鶏ガラから丹念に煮だしたスープが香りだし食欲を湧かせる。大将「兄ちゃん、麺の硬さは?」ブロキント「粉落としで頼んま。」 採掘場で働くゴブリン達は皆歯応えのある硬い麺を好んだ、特にブロキントは茹でた後も生麺の香りがする粉落としを好んだ。2~10秒ほどで湯から上げるので名前の通り表面の打粉を落とすだけの茹で方。 濃い目の醤油ベースのタレを丼の底に入れ、香りの迸るスープを注いだ後茹でたての麺を湯切りして入れる。具材はもやしにシナチク、ナルト、そして豚肩ロースを丸めて作った特製の大きな叉焼。この叉焼は先程の醤油ダレで煮込み味を染み込ませている。大将「お待ちどうさん、待ってもらったから叉焼おまけしてあるよ。」ブロキント「それはおおきに、頂きますぅ。」 普段は2枚入れている叉焼を3枚にしてくれている美味そうな拉麺を前に、リーダーが割り箸を割り感動の1口目に入ろうとすると腹を空かせた部下たちが続々と屋台の席を埋めていった。ブロキントはおまけ分の大きな叉焼を急いで口に入れた、トロトロの食感と肉汁が舌を楽しませる。大将「ほらよ、絶対に合うぞ。」 大将が笑顔で白く光る銀シャリを渡すとブロキントは一気にがっついた。素直に合う、本当に合う。因みに炊飯器は太陽光発電で動く様にし、降水時でも大丈夫な様にバッテリーに繋いでいる。ゴブリン「リーダー早いでんな、ずるいですわ。大将、わいらにも一つ
-123 鉱石蜥蜴の正体と謝罪- 採掘場に潜み、その場のミスリルをメタル代わりに食べ尽くしてしまったが故に本人も気づかぬ内に鉱石蜥蜴(メタルリザード)の上級種である希少鉱石蜥蜴(ミスリルリザード)になっていたのはダンラルタ国王の側近である食いしん坊のロラーシュ大臣であった。 大臣を含む鉱石蜥蜴(メタルリザード)種の者達は人間や他の魔獣と同様の食物を普通に食べても体質的には問題ないのだが、デカルトはロラーシュ本人がたまにこっそり他の採掘場でメタルを勿論迷惑を掛けない程度におやつとして食べていた事を黙認していた。しかし、どうやら普通のメタルに飽きてしまったらしくぶらっとこの採掘場に来て1口ミスリルを食べたら一気にハマってしまったとの事だ。夢中になっていたが故に気付けば1週間ずっと食べ続けてしまっていたそうだ。 因みに王宮で大臣をしている位なのだから勿論人語を話せるのだが、正体がバレない様に敢えて人語を無視している事もデカルトは知っている。 別にミスリル鉱石自体は翌日にまた出現するので生産的には問題ないのだが流石に食べ過ぎだ、これは酷い。一先ずデカルトは採掘場のリーダーであるゴブリンキングのブロキントに頭を下げ小声で一言。デカルト「ブロキントさん、王宮の者がご迷惑をお掛けし大変申し訳ございません。心よりお詫び申し上げます。」ブロキント「国王はん、そんなんやめて下さい。誰だって美味いもん見つけたら独り占めしたくなるもんです。」デカルト「そう仰って頂けると幸いです。ご迷惑をお掛けしたゴブリンさんや発注元の方々にも王宮から謝罪させて下さい。勿論、1週間分の御給金は上乗せして王宮から支払わせて頂きます。」ブロキント「逆に申し訳ないです・・・。」デカルト「それ位のご迷惑をお掛けしたのです、せめてもの謝罪です。さてと・・・。」 デカルトはロラーシュに気付かれない様にこっそりと近づき、物陰に潜んだ。因みにロラーシュがまだ人語を理解しないフリを続けているのでデカルトは『完全翻訳』で話しかける事にした。ロラーシュ「誰だ・・・、誰がちょこまかと動いているんだ。コソコソせずに出て来い・・・。」デカルト「分かりました、ただ随分と長いおやつタイムですね。1週間も王宮に出勤できない程美味しい鉱石だった用ですね、大臣。」ロラーシュ「その声は・・・。こ・・・、国王様!!何故
-122 作業不可の理由と古き友人- 珠洲田からの連絡によるとこの国の車はエンジンの起動の為に予め魔力を貯めるタンクがあり、渚のエボⅢの様な乗用車は軽に比べて1まわり大きいのだがそのタンクを作るためのミスリル鉱石が足らないとの事なのだ。 この世界においてミスリル鉱石はそこまで希少という訳では無いのだが、全体の採掘量の8割以上を占めるダンラルタ王国での生産が滞りがちになっており、珠洲田自身も必要なので1週間前から採掘業者に何度も発注しているのだが全くもって品物が届いていないというのだ。 今までは軽自動車での作業ばかりだったので在庫で何とか持たせていたのだが、今回はエボⅢなのでどうしても追加が必要になる。 林田は状況を確認すべくある友人に連絡を取る事にした。林田「もしもし、今電話大丈夫か?」友人(電話)「のっちー、久々じゃん。」林田「デカルト・・・、それやめろと前から言ってるだろ。」 そう、林田が連絡を取ったのはダンラルタ国王でありやたらと「のっち」と呼びたがるコッカトリスのデカルトだ。デカルト(電話)「それは置いといて何か用か?」林田「実はな・・・。」 すぐさま珠洲田から聞いた事を報告し、ダンラルタ王国におけるミスリル鉱石の状況が知りたいと伝えた。デカルト(電話)「何だって?!それは迷惑を掛けて申し訳ない。すぐに王国軍の者と調べて来るから待ってくれ。何分俺も初耳だ、状況を知る必要があるから俺自身も出る事にしよう。待ってくれているお客さんにも俺の方から謝らせてくれ。」林田「すまない、宜しく頼む。」 デカルトは電話を切るとすぐに王国軍の者を呼び出した、応じたのは軍隊長のバルタン・ムカリトとウィダンだ。デカルト「南の採掘場の現状を知りたいので一緒について来て頂けますか?」ムカリト「勿論です。」ウィダン「かしこまりました、国王様。」 3人は王宮を出るとすぐに南の採掘場に向かって飛び立った。そこではゴブリン達が日々採掘作業に勤しんでいて、唯一人語を話せるゴブリンキングのリーダー・ブロキントが指揮を執っていた。 3人は採掘場の出入口の手前に降り立つと早速ブロキントに話を聞くことにした。ブロキント「お・・・、王様。おはようさんです。」 ブロキントは何故か関西弁を話した。デカルト「ブロキントさん、おはようございます。我々がここに来たのは他