-㉔猛暑の捜査- 一斉捜査が始まり、黒服が学校中をうろついていた。 しばらくして黒服の1人が3組の教室に入って来た。黒服「黒服長、よろしいでしょうか?」 羽田「三田(さんだ)か、どうした。」 三田「西條が見つかりました、ただ・・・。」 羽田「ん?」 三田は西條を3組の教室に入れた、体中をぐるぐる巻きに縛られている。羽田「西條、何があったんだ。」 西條「実はここにお茶を運ぼうとした時に後ろから電撃のようなものを突き付けられて気付けばこんなことに。」 三田「1階の掃除用具入れにこの状態で閉じ込められていたんです。」 羽田「という事は西條は無実・・・、因みに犯人の顔は覚えているか?」 西條「すみません、後ろから襲われたので見えてなくて・・・。」 羽田「分かった、ほどいてやるからゆっくり休め。」 西條「はっ、すみません。」 三田は西條を連れて控室に向かった、西條はぐったりとしていてまだ少し体が重そうだった。ただ羽田や結愛の役に立てなかった事を悔いていて少し涙目になっていた、申し訳ないと言わんばかりに。 すれ違うように結愛達が息を切らしながら教室に戻って来た。結愛「羽田さん、西條さんは見つかりましたの?」 羽田「見つかりましたが、西條は被害者だったようです。1階の掃除用具入れにぐるぐる巻きで閉じ込められてました、犯人の顔も覚えて無い様でして。」 結愛「そうですか・・・、もしかしたら例の指名手配犯の可能性もあり得ますわね。」 羽田「取り敢えず警察を呼びます、生徒の皆さんは各組の教室に戻ってください。さぁ、お嬢様も。」 結愛「はい、お願いしますわ。」 羽田は急いでインカムを外線に繋ぐように指示を出し110番通報した。 30分、いや1時間以上は待ったのだが警察のパトカーは全く学園にやって来ない、静寂が辺りを包み皆息をするのがやっとの状態だった。その時、葬儀屋の寝台車が2台出入口に停車し亡くなった2人の遺体を運んでいった。以前4組の生徒が銃殺された時の様にてきぱきと作業を行い葬儀屋は去って行った。 しばらくして羽田が教室に戻って来た、警察がなかなか来ないので三田が相談をもちかけたのだ。三田「黒服長、変ではないですか?葬儀屋はすぐに来るのに警察が全然来ないだなんて。」 羽田「海斗坊ちゃんと結愛お嬢様に相談してみよう。」 三田「ご
-㉕歪んだ権力- どう見ても羽田の方が気が気でない様な感じなのだが通話の向こうの警官は驚くほど冷静だった。警官「分かりました、貝塚学園にす・・・ガチャ!」 羽田「ん?!」 海斗「切・・・、ら・・・、れた・・・。」 結愛「どうゆう事?」 羽田「恐れ入ります、信じたくはないのですが警察内で何かしらの権力での圧力がかけられているのかと・・・。」 結愛「ま・・・さ・・・か・・・。」 海斗「お父様ということですか?」 羽田「下手したらの話ですが・・・。」 一方、羽田の嫌な予感が的中したらしく、警察署には義弘の姿があった。警察署長の部屋で威張って座っている。 署長と警視庁の警視総監はとなりで正座させられていた。ずっとブルブルと震えている。義弘「署長、私に逆らってパトカーを走らせたらどうなるか分かっておるよな?」 警視総監「当然です、貝塚社長に逆らえるものなどこの国にはおりません。謝って逆らいでもしたら末代の恥でございます。」 警視総監の家は4人家族で暮らしている、残り30年分残っている住宅ローンを義弘が一括で支払い貝塚財閥が全権を握っている様な有り得ない状況となってしまっていた。義弘はこの権力を行使して貝塚学園からの通報は全て無視するようにと指示を出していた、警視総監がローン代を義弘に返さない限り日本の警察は義弘の思い通りとなっている。殺人が多数発生することを予測して先に手を回していたという事だ。 結愛と海斗の2人は思った、『アレ』を使う時が来たのだと。いくら何でも殺人事件が2度も起こっているのに警察が動いていないのはやはりおかしすぎる、相当な権力という名の圧力を持ってでもないと実現しない話だ。 しかし、誰もが不審に思わない訳がない、特に貝塚財閥に莫大な投資をしている人間は。2人は乃木先生に相談すべく彼女を探しに行こうとしていた。その時、学園の出入口に1台のミニバンが停まった。羽田達黒服が近づいて事情聴取しようとしていた。 ミニバンの運転席が開き、長袖の作業着姿の男性が1人降りてきた。とめどなく流れる汗を首にかけたタオルでずっと拭いている。こんな暑いときに長袖なんてよく着るなとその場の全員が思った。(※今更ですが黒服にも夏用に半袖の制服があります。)男性「暑い暑い、公恵(きみえ)に言われて来てみたけどこんなに暑いならやめておくべきだった
-㉖大株主の心の広さ- 結愛は『あのチケット』を握りしめて走ってやって来た、そして乃木先生に向かって頭を下げた。結愛「乃木先生、お願いします!このチケットをお父様に渡して使わせて下さい!」 乃木「お嬢様、頭を上げて下さい。その私の父ならここにおりますよ。」 結愛「えっ・・・?!」 幸太郎「こんにちは、娘がいつも大変お世話になっております。」 幸太郎は優しく微笑んだ、結愛はギョッとしたがすぐに冷静になった。この人が自分達、いやこの学校の救世主だと思うと待ち望んでいた人が現れたと涙が溢れた。海斗は落ち着かせなきゃと結愛と肩を組んだ。結愛「あに・・・、お兄様。」 海斗「今はそんなの気にすんな、取り敢えず落ち着け。申し訳ありません、少し席を外してもよろしいでしょうか。」 幸太郎「勿論、どうぞ。」 暫くして気持ちを落ち着かせた結愛を連れて海斗が戻って来た、2人の手には『あのチケット』が握りしめられている。2人とも震えていた、しかしこの学校を何とかしなきゃという正義感が強くなり震えはすぐに止まった。幸太郎「現状を知りたい、黒服さん、事件現場にご案内をお願いできますか?」 羽田「かしこまりました、こちらでございます。」 幸太郎「因みに黒服さん、お名前は?」 羽田「羽田と申します。」 幸太郎「羽田さん、今の僕には貴方が頼りです。お手伝いをお願いできませんか?」 羽田「全力を尽くします。」 全員が事件現場に到着した、遺体は葬儀屋が運び出した後だった。それ以外はそのままだったので事件の悲惨さを物語っていた。即座に事件の酷さを察知した幸太郎は自ら110番通報した、同じ内容だったので警察側はすぐに通話をを切った。現状を知った瞬間、幸太郎は頭に血が上ろうとしていて冷静さを保つことが困難になっていた。咄嗟に別の所に連絡を入れ始めた、相手はあの博だった。博(電話)「もしもし、ああ幸太郎さんじゃないか、珍しいな。」 幸太郎「博さん、今どこにいる?」 博「ハワイにいるんだが、ただ事じゃなさそうだな。」 幸太郎は事件について彼が知っていることの全てを打ち明けた。博「わしの孫達がそこにいるんじゃないか?」 結愛「じ・・・、じいちゃん、俺親父の事信用出来ねぇ、あれを使うからな。」 幸太郎はチケットを渡そうとした結愛を静止し、大事に持
-㉗重要人物- どうやったのか1日もしないうちに博はハワイから戻って来た、そして息つく間もなく事件現場を確認しに学園へと赴いた。学校の出入口で幸太郎が博を出迎えた、羽田の案内で事件現場の2年3組へと向かう。博「これは酷いな・・・。」幸太郎「どう思う?」博「あの計画を進める時が来たかも知れん。」幸太郎「ただ、私たちだけでは力不足だ。特にあの2人が出てきた時は。」博「ああ、義弘派閥の2人か。あいつらが動けば面倒だな。」幸太郎「やはりあの人の力を借りるしかないな、私が電話してみたら会ってくれるみたいだ。改めてもう1度電話しようと思うのだが。」博「私もあの人と話したい、スピーカーにお願いできるか?それと相談に行く時は私も行こう。」 一方、光明は犯行の証拠となる映像が残っているのではないかと各箇所に設置した監視カメラやドローンを確認していた。事件が起きた数分前の映像を見てみると侵入者と思われる黒服が西條に後ろからスタンガンを突き付け気絶させている所が映っていた、西條が配ろうとしていたお茶のダンボールを奪い取るとその中の数本に透明な液体を注射器で注入しているのが見える。注射器で空いた小さい穴を見つからないようにグルーガンで器用に埋め箱に戻した様だ、その映像を西條に見てもらうべく光明は西條の眠る保健室に向かった。 保健室では圭が付きっきりで看病をしていた。西條はぐっすりと眠っている。光明「この人が侵入者にやられた黒服さん?」圭「うん、少し熱があるけどぐっすり眠ってるみたい。どうしたの?」光明「ドローンと監視カメラの映像を確認してもらおうと思ったんだけど、後の方がいいな。」圭「今はゆっくり寝かせてあげよう。」 その時、西條が目を覚ました。西條「痛たたたたた・・・、えっと、君たちは?」圭「気が付きましたか、私2年1組の赤城です。」光明「2年3組の伊達光明です。」西條「私は西條だ、ずっと看病してくれてたのか?」圭「西條さんずっと寝てましたから殆ど何もしてませんけど。」西條「いや助かるよ、ありがとう
-㉘話し合い、そして侵入者- 博と幸太郎は女性が指定した喫茶店に向かった。数分後、女性は1人の男性を連れてやって来た。 2人はコーヒーを飲みながら幸太郎の説明を聞いた。女性「いくら何でもやりすぎだね、呆れたもんだよ。そう言えばあんた、奥さんはどうした?」男性「妻は海外支社から娘が戻ってくるので一先ず家で留守番しています。」女性「まあいいさ、とりあえずあれだね、あたしらだって株主である前に人間さね。許せないよ。」博「ただ現状、私と幸太郎だけでは不十分だ。」幸太郎「それにさっきも言ったとおり義弘派閥の2人が動いていたらこちらに勝ち目は無い。」女性「だから私の出番って事だね。」博「頼めるかい?」女性「任せろってんだ。」 その頃学園では黒服長の羽田が黒服全員を集めていた。 同行している守・圭・琢磨・橘・結愛・海斗には黒服の前で自分の事を名前で呼ばないように頼んでいる。羽田「黒服長は私以外にも唐松(からまつ)・佐野(さの)の2人が居ます、くれぐれも秘密裏に。」 羽田は黒服全員に同じ質問をし、耳打ちで答えさせ偽者、つまり侵入者を見つけ出そうとしていた。 自分の直属の黒服長は誰だと質問し答えさせていく、そして。侵入者「む・・・、村岡さんです。」羽田「見つけたぞ、お前が侵入者か!」侵入者「くっ・・・、仕方ねえ。」羽田「捕まえろ!」 羽田の指示でそこにいた黒服全員が侵入者に襲い掛かり捕まえた。 羽田が侵入者のサングラスを奪い取る。羽田「貴様・・・、国際指名手配犯のラルクじゃないか!警察に突き出してやる!」ラルク「無駄だ、俺の依頼主が警察に圧を掛けてるから動かねぇさ。」羽田「まさか・・・、お前の依頼主は・・・、畜生・・・!」 羽田は保健室にいる結愛のもとに急いだ。 保健室のベッドの横で結愛はずっと圭と共に西條の世話をしていた。羽田「お嬢様!大変です!」結愛「静かになさい・・・、西條さん寝てるんですよ
-㉙吐露、そして計画実行へ- ラルクが逮捕され数日、警視総監から直接博のもとに電話が来た、拘置所にて取り調べを行うので立ち会って欲しいとの事だ。学園で起こった殺人事件について真相が明らかになるのだ、博は喜んで協力すると答えた。 まず4組の教室であった殺人についてだが学校全体の偏差値を少しでも上げなければという理由で生まれた極端な考えで起こったもので武器を仕掛けたのはラルク本人だという事だ、その時彼は英語の特別講師として侵入していた。 また3組で起こったものについてだがその理由は不明だとの事だ、殺人を行っただけだという。どちらも義弘の指示で動いたとラルクが吐いた。 因みに今回は特別に警視総監自ら取り調べを行っている、今回の取り調べの音声を記録すべく博に同行していた結愛は光明にICレコーダーを借りていた。警察側もうそ発見器を使用している。警視総監「もう一度聞こう、お前に殺人を指示したのは貝塚義弘で間違いないな?」ラルク「ああ・・・、俺はあいつに金で雇われただけだ。」警視総監「義弘が直々にお前を雇ったんだな?」ラルク「しつこいな、そうだと言ってんだろ。」 うそ発見器も反応していない様なので、どうやらラルクは本当の事を言っているみたいだ。はっきりと音声も録音されているので、これは十分証拠となる。 数日後、ラルクが吐露した通り両方の殺人が義弘のものか確証を取るため、義弘の取り調べを行った。しかし、義弘は一貫して黙秘を貫いた。 次の日、博は幸太郎と共に結愛に会いに行った。現在、一時的にだが貝塚財閥の全権を握るのは結愛だからだ。博「結愛、ちょっと時間あるか?」結愛「良いけど、何?」博「海斗も一緒に聞いてくれると嬉しいんだが。」結愛「そこにいるから呼んでくる。」 結愛はすぐに海斗を呼んできた。博「凄く、言いにくい相談なんだがね・・・、お前さんらの親父を理事長(社長)から降ろそうと思っているんだ、今の学園では生徒たちが安心して生活できんだろう、それにこれを見てくれ。」 義弘は懐から大量の手紙を取り出した、博が義弘に内緒で貝
-㉚運命の株主総会- 幸太郎は結愛と海斗、博、そして自ら総会に招待した生徒を貝塚財閥の大会議室に招き入れた。招待された生徒は勿論、結愛と海斗も初めて入る部屋でコンサートホールの様に前にあるステージに向かって下り階段が伸びている。幸太郎「ようこそ、貝塚財閥株主総会へ。」 幸太郎は招き入れた生徒達を後ろの端の席へと座らせ、自分と博は左寄りの前の方に陣取った。続々と株主が入ってくる。幸太郎と博の反対に右寄りの前の方にスーツを身に纏った2人が座った。生徒たちは彼らの顔を見て驚いた。古文の茂手木と数学の重岡だ。ちょうど横を通りかかった幸太郎に聞いた。海斗「何であの2人が・・・、学校の先生だったはず。」 幸太郎「あの2人は本当は投資家で私やおじいさんと同じ、ここの大株主だ。ただ義弘派閥と言って義弘の言いなりなんだ、多分今日は敵として戦う事になるだろう。」 その時だ、博がステージに立ちマイクを握った。博「おはようございます、皆様本日はお集まりいただきありがとうございます。只今より緊急株主総会を開始いたします。尚、この場に私の愚息が居ないのはその愚息について話し合う場だからです。」 茂手木「愚息とは失礼だな、名ばかりの会長が何を言ってるんだ。彼は1代でこの会社をここまで大きくした言わば偉人じゃないか!」 博「じゃあその偉人がした事を見るがいい!」 博は光明に借りた今までの事件に関する映像を見せながら、警視総監の借金を利用しての全国警察への圧力の事や生徒達が苦しむ学園の現状を伝えた。 最後に、貝塚財閥本社社長室に仕掛けられた隠しカメラに捉えられた映像が流れた。それは投資家である重岡や茂手木に金を渡している所の物だった、勿論音声付きで。明らかなる贈収賄の証拠映像だ。博「これを見てもまだ偉人と呼ぶか?!私は自らの教育が足らなかったと自分の事が恥ずかしくてたまらない!愚息を即刻、社長の任から解くべきだ!」 重岡「今までハワイで遊んでいたじいさんに会社の経営ができるなんて思えません!皆さん、この解任案は反対すべきです!」 数十分にわたり議論は続いた、そして議長がステージに上がり採決
-㉛ 後日談・異世界へ- 株主総会がおわり、義弘が逮捕されてから数年、貝塚財閥は本格的に社長となった結愛の理念の下で教育支援を中心としたに力を入れて信頼を取り戻していった。 今となっては貝塚学園は雰囲気が明るく、部活動等が充実した有名進学校として有名となり当時の面影を全く残していない。 副社長となった結愛の夫・光明が結愛にオリジナルの珈琲を淹れて渡した。光明「ここも大分変ったよな、理想の学校として全国から憧れられる存在になっているから、お前もあれからもの凄い努力をしたんじゃないのか?」 結愛「何言ってんだよ、俺じゃなくて周りの人たちのお陰だろうが。」 相変わらず結愛の口調は代表取締役社長に就任しても変わらない。 そんな中、結愛は気がかりになっている事を思い出した。結愛「光明・・・、例の件の調査は順調に進んでいるか?」 光明「あの件か・・・、状況は全く変わってない様だよ。」 実は後々事実を知る事になるのだが、義弘が逮捕された翌日に義弘派閥の株主・重岡が保釈金を支払いすぐに釈放されてから行方不明になっているという噂が最近になって結愛の耳に入り、同じ株主である宝田真希子や乃木幸太郎の協力を得て義弘の行方を追っていたのだ。奴の性格を考えると逃げた先で何かしらやらかしかねない、本当に信用できない男なのだ。 そんな中、学園の生徒の1人が雑誌の切れ端を持って職員室にやって来た。まさかこの切れ端が波紋を生むことになるとは今は想像も出来ない。ただ、重要な案件に繋がりかねないと思った乃木幸太郎の娘である教員の公恵は急いで結愛のいる社長室兼理事長室へと向かった。 実は最近移動が面倒になってきたので結愛がいっその事と思い学園の理事長室を社長室も兼ねる部屋という事にしたのだ、なので普段は本社では無く学園にいる事が多い。 因みに、義弘の時からそうだったが今でも貝塚財閥の社長がこの学園の理事長を兼ねている。乃木「結愛さ・・・、いや理事長。こちらをご覧頂けますか?」 結愛「乃木先生、あなたは私達の恩師です。「理事長」もその他人行儀もやめて下さいと言ったはずですよ。」 乃木「そうね、ごめんなさい。この部屋に来るとどうしてもこうなっちゃうのよ、癖が抜けなくなってて。」 結愛「大丈夫ですよ、それでどうされました?」 乃木は結愛に
-100 番外編・林田の回想と夜勤明けの出会い- 私は林田 希(はやしだ のぞむ)、ネフェテルサ王国警察で警部の職に就いている。私は元々この世界の者ではなく日本からの転生者だ。転生前も今と変わらずいち警察官としての職務に就いていたのだが、突如心臓麻痺で倒れてそのまま帰らぬ人となってしまった・・・、と思っていたら知らぬ間にこの世界にいて今に至る。 この世界に来た初日は不安でいっぱいだった、1番の要因はやはり言葉だ。何処からどう見ても西洋の雰囲気を漂わせるこの世界の言葉や文化など分かる訳がない。何も分からず辺りを見回していたら鍬を持った男性に声を掛けられた。男性「・・・・・・・、・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?(異世界語)」林田「えっ・・・、えっと・・・。」 その瞬間奇跡が起こった、神というものが本当に存在するというのか。男性「大丈夫ですか、私の声が聞こえますか?言っている事が分かりますか?」 何故か先程は全くだったこの世界の言葉が急に日本語に聞こえるようになった。林田「えっ・・・、は・・・、はい・・・。」男性「良かった、気が付きましたか。酒にでも酔ってこんな所でずっと寝てたんですか?」林田「いや、私は今の今まで仕事を・・・。」男性「因みに何のお仕事を?」林田「恥ずかしながら、こういう者です。」 私が胸元の警察手帳を見せると、男性はこの国の警察署らしき建物に連れてきてくれた。確か受付の女性が今の警察署長に魔法みたいな物で話を付けてくれたんだっけな、今思えばあれは何だったんだろう。女性「副警察署長がお待ちです、こちらにどうぞ。」 長い廊下を暫く歩き、面談室に通された。そこで警察手帳を見せて事情を話すとこの国の警察の職務に就き、我々に協力して欲しいと言われたっけ。 とにかく、あの2人には感謝だ。勿論、今の署長にもだよ。 さてと・・・、こんな俺も今ではこの国の警察署の警部だ。日本の方々も含め警察の皆がそうなのかは知らないが、職業上勤務時間が不規則な事が多い。今日だってそうだ、本当は昨日の夜10時には家へ帰れる予定だったんだが事件事故が相次いで発生したので今やっと仕事が終わった。林田「朝8時か・・・、結局夜勤みたいになっちゃったな。疲れた。よし、あれやるか!!」 実は私は月に一度夜勤に就く事がある。私の様に警部職に就く者
-99 ご飯のお供⑤- 利通の得意料理のピーマンの肉詰めを食べた一同は、光の一言により利通にかなりの期待を寄せてしまっていた。利通は梶岡という新たな仕事仲間の前で皆の期待に応えようと考えに考えた。利通「少しお時間を頂けますでしょうか、実は得意なのはピーマンの肉詰めだけではなくて。すぐに作ってきますからごゆっくり。」 その言葉をかけると『瞬間移動』でどこかへ行ってしまった。 2時間程経過しただろうか、慌てた様子で光の家に戻って来た利通は大皿と深めの中華鍋を持っていた。スパイスの良い香りが辺りに広がる。利通「お待たせしました、まずはフランクフルトソーセージです。今回は敢えて焼かずにボイルでお召し上がりください。自分で腸詰にしてきました。」 沸騰しない位に沸かしたお湯にフランクフルトソーセージを入れ、数分間茹でていく。ゆっくりと・・・、ゆっくりと熱を加えていき、ぷかぷかと浮かび上がって来た位のタイミングでお湯から上げた。利通「自分はいつも何も付けずにおかずや肴にするのですが、今回は横に辛子マヨネーズを添えておきますのでお好みでどうぞ。」 全員が最初は利通本人がする様に何も付けずに1口、齧った瞬間に口に肉汁が溢れそれだけで白飯を誘う。 次は辛子マヨネーズを付けて1口、マヨネーズの酸味と辛子の辛味が加わる事で利通は全員の食欲がより増していくのを感じていた。 ただ、相当な量の米を食べているはずなのに皆の食欲は増すばかりでその勢いは衰える事を知らない。 全員が特製のフランクフルトソーセージに舌鼓を打っている間に、利通は次の料理の準備をし始めた。練りに練り上げた生地の空気を両手で丁寧に抜き、熱したフライパンで焼き始めた。表面にはうっすらとパン粉を付けてある。利通「では2品目に移りましょうか、光さんのご希望通りハンバーグをご用意致しました。今回はご飯に合う様におろしポン酢でお召し上がり下さい。」光「凄い美味しそう・・・、何かドーラさんに悪い気がしてきました。」利通「大丈夫ですよ、これはドーラの大好物でもありましてね。それに今回に至っては光さんが食べると言うと喜んで手伝ってくれましたんですよ。」 利通は表面のパン粉がうっすら狐色になるまで焼き上げると熱々に温めた鉄板に乗せ、おろしポン酢を横に添え好みの味付けで楽しめる様にした。 1口食べると表面のパン粉
-98 ご飯のお供④- 林田警部は声をかけてきた男性を光の家の裏庭へと招待すると、そこにいた全員に紹介した。林田「皆さんお待たせいたしました、ご紹介させて下さい。こちらは私の部下の梶岡刑事です。今回の貝塚義弘逮捕に大いに協力をしてくれたので招待したのです。」 元々警察の人間でもない梶岡は当然警官として働いた覚えもないし、はたまた刑事になるなど思った事も無く、当然の事ながら初耳なので驚きを隠せない。梶岡「えっ・・・、あ・・・、あの・・・、林田さん?ど・・・、どういう事ですか?」林田「言った通りだよ。実は先日のご活躍についての事をネフェテルサ署長に話してね、これからも協力と活躍をして欲しいと是非刑事職について欲しいとの通達なんだ。」梶岡「あの・・・、宜しいのでしょうか?」林田「当然、これからもよろしくお願いします。勿論、優秀な生徒として魔学校に通いながらだがね。梶岡君、いや梶岡刑事。」 梶岡は涙した、こんなに嬉しい事は一生に一度あるかないかだ。林田「さて、刑事としての初仕事だ。ここにいる皆さんにご飯のお供を紹介して下さい。」梶岡「は・・・、はあ・・・。そうですね・・・、数の子の松前漬けですかね。」光「良いですね、早速食べましょう。」 光は数の子の松前漬けを『作成』し、そこにいた全員がご飯に乗せて食べた。シャクシャクとした数の子の食感がたまらない。梶岡は今まで出てきたご飯のお供と自ら提案した数の子の松前漬けで白米を勢いよく5杯食べてしまった、かなり空腹だったのだろうか。すると、急いで食べたせいか喉を詰まらせかけた。林田「ははは・・・、そんなに急がなくても良いのでは?」 梶岡は体調を戻すと、涙を流し始めた。梶岡「実は・・・、こんなに沢山の方々と食事した事があまり無いし、元々貧乏学生ですからこんなに美味しい物を沢山食べれるなんて思わなくてね。それに先程の事が響いてまして。」 光は梶岡の肩にそっと手を乗せた、梶岡は未だに震えている。光「さあさあ落ち着いて、まだありますから食べましょう。」 梶岡は光の言葉に促され、テーブルの上にあるご飯のお供と白飯を味わいだした。ゆっくりと噛みしめるように咀嚼をした。そして梶岡は自分の茶碗の飯におこげを見つけた。梶岡「宜しいのでしょうか、一番美味しい所を自分なんかが。」光「何を仰いますか、まだまだいっぱい
-97 ご飯のお供③- 光明は抱えていた小さな発泡スチロールを降ろし、ゆっくりとビニールテープを剝がしていった、宅急便の届け票がまだ付いていたままだったので届いたばかりと言うのは嘘ではないのだろう。光明「むふふ・・・、これこれ。」 にやけながら発泡スチロールから小さな箱を取り出す光明、嬉しさは満更ではなさそうだ。光明「今回は誠に勝手ながら2種類ご用意致しました、まずは福岡県博多の辛子明太子です。」 炊き立て熱々の白飯に真っ赤な辛子明太子を乗せ、皆が1口齧る。プチプチとした卵の食感や舌ざわりと赤い唐辛子の辛味がご飯を誘う。光明が持参したもう1種類を知る前にかなりの量の白飯を堪能してしまっているが光の魔力のお陰でまだまだお腹は余裕だ、林田に至っては1腹だけで白飯を2杯食べてしまった。林田「光明さん、早く次の物を出してください。私のお茶碗の中の白米が今か今かと待ち構えています!!」結愛「いや、待ち構えているのは警部さんでは?」光「そんなこと言ってる結愛さんだってそうでしょ?」結愛「あ、バレました?あなた、早く出して!!」 結愛に急かされた光明は発泡スチロールの中から小瓶を2本取り出した。光明「焦らない焦らない、すぐ出すから待ってな。では皆様お待たせしました、こちらは粒雲丹です。今回は北海道利尻島産の物と山口県下関産の物を用意しました。小皿に移してお出ししますので宜しければどちらが利尻か、もしくは下関かを当てて見て下さい。」光「何処か今日の趣旨と違っている様な気がしますがやってみましょうか。」 白と黒の小皿に少しずつ粒雲丹が盛られており、全員最初は白の皿の物から食べていった。少量だが濃厚な粒雲丹だ。 とろりと口の中で溶け雲丹の風味が広がる、それを白飯で追いかけるというこの上ない贅沢。全員が少量の粒雲丹でお茶碗2杯分のご飯を食べると、水を飲んで口の中をリセットした。 全員が黒の皿の粒雲丹に移る、口の中で溶かすと白の皿の物と同様に優しい雲丹の風味が広がるが・・・。光「白(こっち)が利尻ですね。」光明「もう分かっちゃったんですか?」 味には明らかに大きな違いがあったのだが他のメンバーが正直チンプンカンプンな様子だったので、某有名グルメ漫画の主人公のであり、厳格な美食家を父に持つ新聞社のぐうたらサラリーマンの様な口調で説明した。光「白の皿も黒
-96 ご飯のお供②- 温かな朴葉味噌を熱々の白米に少しずつ乗せご飯を楽しむ一同、そんな中林田が懐で何かをごそごそと探し始めた。林田「次は私がご紹介させて頂いて宜しいでしょうか、ゲオルさんのお店でこれを売ってたので助かりました。」 林田は懐から小瓶を取り出すと嬉しそうに中身を自ら用意した小皿に出した、誰もが食べた事があるであろうメンマの「やわらぎ」だ。林田「そのまま食べても美味しいのですが、これを胡瓜キムチと混ぜても食感が良くてご飯にピッタリなんです。」 小皿とは別に少し大きめの器を用意し、胡瓜キムチとやわらぎを混ぜて振舞った。シャキシャキの胡瓜と柔らかなメンマがバランスよく混ざっている。メンマに和えられた辣油が味のアクセントになってご飯を誘い、それにより光と結愛はずっと箸が止まらなかった。結愛「アクセントの辣油がキムチの味を引き立てていますね、今日ご飯足りますか?」光「一応2升は用意しているんですが追加注文しないとダメかもしれませんね。」 光と結愛、そして羽田や林田のご飯のお供の時点で用意をしていた半分の1升が無くなろうとしていたので実は焦っていた。念の為、今現在もう半分の1升をお釜で炊いている状況だが無くなるのも時間の問題だろうか。林田のやわらぎ入り胡瓜キムチの出現は一同にとって大きかった、光は『瞬間移動』を利用して地下の貯蔵庫から追加の米を持って来る事にした。念の為に2升程追加を用意し、食事に戻った。 すると、家の入口の辺りから聞き覚えのある男性の声がした。男性「林田さん、林田さん?いらっしゃいますか?来ましたよー。」 その声に返事をする林田、ただ口の中には米が残っている。林田「ああ・・・、待って・・・、ましたよ・・・。裏・・・、庭に・・・、どうぞ・・・。」光「あれ?どなたか呼んだんですか?」林田「ごくん・・・、失礼しました。光さんもお会いした方ですよ。」男性「こんにちは、お久しぶりです。」 優しい笑顔で見覚えのある男性が裏庭に入って来た、この異世界で車を購入したお店の店主・珠洲田だ。珠洲田「光さん、お久しぶりですね。林田さんにご招待を頂きまして来させていただきました。私も皆さんと一緒でご飯が大好きなんです。」光「お久しぶりです、レースの映像でお見かけしましたよ。」珠洲田「これはこれはお恥ずかしい、まさか見られていたとは
-95 ご飯のお供- 光の考えた計画はこの異世界に転生してきた日本人で集まり、転生前から愛して止まないこれぞ白米にぴったりだと言う1品を持ち寄り美味い白米を思う存分食べ尽くそうという物だった。光「ご飯片手のパーティーなので、敢えて酒は無しにして純粋にご飯を楽しむものにしてみようと思ってまして。」結愛「たまにはそういう催し物もありかも知れませんね、やってみますか。」 次の日、林田や結愛の呼びかけに応じて数名が光の家に集まった。各々の「好き」を発表する場にする為、ご飯のお供は自分で持ち寄ると言うルールにしていた。ただ米は光拘りの新潟県魚沼産のコシヒカリを使用する。いつもは炊飯器を使用しているが今回は御厨の提案で昨晩林田家で使用した直火でのお釜での炊飯を行う事となった。 光の家の裏庭にある以前ナンを焼いたり燻製をするのに使用した焼き窯をベースに用意したお釜で炊いた白米が空腹を誘う香りを漂わせている。光「我慢・・・、出来ない・・・。」結愛「私も・・・、です・・・。」 「はじめちょろちょろ中パッパ」の教えを大切に、最初は柔らかな弱火で途中から火を強めた後、より美味しくする為じっくりと蒸らしていく。蓋を取った瞬間立ち込める湯気と共に魅惑の香りがやってきてそこにいた全員が日本人であることを喜んだ。 杓文字で返すように混ぜ、各々の茶碗に優しく盛り付けると輝かんばかりに美しい純白の白米に皆が目を輝かせていた。光「では、折角の炊き立てご飯が冷めない内に始めて行きましょうか。最初は私から、シーチキンを提供させて頂きます。」 各々にシーチキンを贅沢にも1缶ずつ渡し、光が拘っている調理の手順を説明していく。「調理」と言っても混ぜるだけなのだが。光「蓋を利用して油を切ったシーチキンにマヨネーズと醤油を加え一旦混ぜます。そこに辣油と一味唐辛子を好みの量で加えて下さい。」結愛「もう後は混ぜるだけですか?」光「よく混ぜたら騙されたと思って最初の1口を思いっきり頬張ってみて下さい。」林田「むぐむぐむぐむぐ・・・、ん?!嘘でしょ?!もうお代わりだなんて!!」 参加をした全員が最初の1口を食べるとすぐにご飯を口に搔きこみ出した、そして気付かぬ内に全員が1杯目を数秒で平らげてしまった。(※是非お試しあれ、美味いよ!!)光「凄いでしょ、この1口目でどれ位の量のご飯を食べるか
-94 日本人が故の楽しみ- 宴もたけなわとなり、皆が酒の〆にサラサラとした物を求め始め、解体していた牛肉のお店から光がテールも仕入れていたので御厨がそれを使いテールスープを作っていた。ただしつこい様だが呑みながらなので途中「味見」という名目で数回ほど飲んでいる、どうやら濃厚なスープをも肴になってしまっていた様だ。 出来上がったスープに中華麺や窯のご飯を入れてラーメンやお茶漬けに仕上げていく、光と林田警部はご飯を入れてお茶漬け風に楽しんでいた。光「ああ・・・、日本人はやっぱり米だわ。」林田「そうですね、米が美味しいと日本人で良かったと実感できますね。」光「そう言えば林田さんは好きなご飯のお供はありますか?」 林田は食事の手を止め、目を閉じて自らの好物を思い浮かべていた。林田「そうですね・・・、やはり京都のちりめん山椒でしょうか。あの風味がご飯を呼ぶんですよね、光さんはどうですか?」光「私はシーチキンですね、マヨ醤油に辣油と唐辛子を組み合わせると朝からご飯3杯は行けますよ。」林田「それにシーチキンは酒にも合いますもんね。」光「林田さん、警察の方なのに罪な人ですね。思い出したら欲しくなっちゃったじゃないですか。」林田「あらま、これは申し訳ございません。」 談笑する2人に数人ほどが近づいて来た、解体を終えた結愛がハイボールを片手に光の隣に座る。ハイボールは少し薄めに作っている為ごくごく呑める様だ。 大きなジョッキ一杯に入ったハイボールを煽ると会話に参加し始めた。結愛「何だか楽しそうな話していますね。」光「ご飯のお供の話をしていたんですよ、結愛さんは社長さんだからやっぱり高級品が出て来るんですかね。」結愛「私はそうですね・・・、胡瓜の糠漬けですかね。」林田「意外ですね、もっと拘った珍品が出てくるのかと思いましたよ。」 すると、結愛はジョッキに残っていたハイボールを飲み干した後、自分の『アイテムボックス』から壺を取り出して蓋を開けた。自らの手で中の糠を混ぜると胡瓜が数本お出ましした、結愛は糠を落とすと光と林田に1本ずつ振舞った。結愛「私が漬けた胡瓜です、家にもいっぱいあるので良かったらどうぞ。」 光と林田は手渡された胡瓜を思いっきり齧った。光・林田「頂きます・・・。カジッ・・・、え?!カジッ、カジッ、カジッ・・・、美味い・・・。美味
-93 巨獣人族達の未来- 刺身をたった1口食べただけで号泣するデカルトを見てガヒューはもらい泣きをしてしまいそうになっていた。目の前で1国の王が自分の料理で涙しているのだ、これほど嬉しい事は無い・・・、はずだった。マック「叔父さんは相変わらずだな、何でも美味い美味いと言ってすぐ泣くんだから。」ウェイン「特に日本酒を呑んでる時とかな。」 ガヒューの涙は一気に引いてしまった、目の前にいる人化した上級鳥魔獣は酒を呑むと涙もろくなり味音痴になるのだろうか。キェルダ「ガヒューさん、ごめんなさいね。古来からなのですがコッカトリスは情に厚い者が多いんですよ、叔父さんはその代表格でして。」 それを聞いたデカルトが重めの口調で反論した。よっぽど刺身が気に入ったのだろうか。デカルト「愚か者たちよ・・・、何を言っているのだ。そういう事は1口食ってから言わんかい。」 たかが刺身だろうと言わんばかりの様子で各々が刺身を1切れ掴み、口へと運ぶ。豊かな甘みを含んだ脂が口いっぱいに広がりゆっくりと消えて行く。醤油に混ぜたおろしたての山葵の辛さの中にある穂のかで優しい甘みと、皮の香りをつけながら絞った酢橘の酸味が手伝い日本酒を誘った。3人が揃って日本酒を呑む。キェルダ「前言・・・、撤回・・・。」ウェイン「美味・・・。」マック「過ぎる・・・。」 自分達の発言を反省する兄妹、デカルトと同様に涙を流していた。キェルダ「実は私、あまり刺身は好きでは無かったのですがこんなに美味しい刺身は初めてです。本当にごめんなさい。」マック「ガヒューさん、あんた天才だよ。料理人になったらどうだい、なぁ、叔父さん。」ウェイン「これお店出したらお客さん凄くなるんじゃないか?」マック「叔父さん、どうだろう?」 デカルトはマックの言葉を受けて深く考え込み、ガヒューに質問した。デカルト「ガヒューさん、貴方や今回我々が救出した方々を含むジャイアントの皆さんは料理人の方々ばかりなのですか?」ガヒュー「私みたいに調理師免許を取って料理する者もいますし、魚介類を養殖する漁師もいれば無農薬の農産物を専門で作る農家もいます。勿論、牧場や養鶏所を経営する者もいたりして食料自給率はほぼほぼ100%と言っても過言ではありません。」デカルト「そうですか・・・、何か勿体ないな・・・。」 デカルトは腕を組んでま
-92 飽き対策- ずっと焼肉を食べて呑んでばかりいる者達を見て解体をずっと行っていたネスタがぼそっと呟いた。ネスタ「皆ずっとバクバク食べているけど肉ばっかりで飽きない物かね。」 その一言を待っていたかの様に結愛が動きを見せた、丁度いいタイミングで林田家の裏庭にやって来た羽田の方を向いて頷いた。結愛「フフフ・・・、そろそろ誰かがそう言うと思ってましたよ。師匠、私に任せて頂けますか?羽田さん、お願いします!!」羽田「貝塚社長から光さんへのお礼と皆様へのプレゼントです。」 羽田は氷の詰まった発泡スチロールをひっくり返し中身を木製のまな板へと取り出した、脂の乗りが十分で一番うまい状態であがった鰤だ。ネフェテルサでは特殊な海水の海に囲まれている為に季節や時期を問わず年中新鮮で美味な鰤が採れる。ただ、バルファイ王国から研究に来たどの海洋学者も理由は分からないと言う。羽田「今朝ネフェテルサ王国沿岸で採れた鰤、運よく一番の上物と出会えましたのでお持ちしました。社長・・・、それで・・・。」 羽田がこそこそと結愛に細長い紙を渡す、おそらく領収証だろう。金額を見て結愛は目が真っ白になり、そのままの姿で後ろに倒れてしまった。羽田「社長、大丈夫ですか?!」結愛「こ・・・、こんなに高いの・・・?」 その様子を見たネスタが結愛の持つ領収証を見てみた。ネスタ「ありゃ、これはこれはかなりの上物を掴んだ様だね。よっぽど美味い鰤なのかね。」御厨「それでは僭越ながら私が捌かせて頂きましょう。」 御厨が包丁を握り羽田が持って来た上物を捌こうとすると羽田が声を掛け、同行してきた男性達を呼んだ。羽田「すみません板長、少々お待ち頂けますか?こちらですよ。」林田「き・・・、君は・・・。」デカルト「貴方方は・・・。」 林田とデカルトが驚くのも無理は無い、そこにいたのは事件解決の為林田に協力した梶岡浩章とガヒュー達巨獣人族だったからだ。ガヒュー「デカルト国王にお礼がしたくて来ちゃいました、俺と梶岡さんでこの鰤を捌こうと思います。あの時のハーブティーとフルーツタルトは本当に美味しかった。」梶岡「俺も林田警部には冤罪にして貰ったり昼飯を食わせて貰ったりと恩義があります、是非お礼をさせて下さい。」林田「梶岡君、君の食べた丼はこちらの板前さんが特製の物だ。」ヤンチ「お口に合いまし