3.「異世界ほのぼの日記~日本に似て便利な世界でぷらぷら生活~」佐行 院-①突然の異世界- ここは東京、現在20XX年、去年からより酷く進みだした地球温暖化により7月8月における1日の平均気温が40度を超える様になってしまった今日この頃、営業職の女子社員・吉村 光(よしむら あかり)は営業先への外回りに出ていた。日差しがまぶしい、正午となり昼休み。1日の中でも1番暑い時間帯を迎え涼を求めて多くの人が喫茶店やレストランで食事を取っていた、光もその1人になろうと店を探していた。光「お腹空いたし暑くて何もする気しないよ、何食べようかな・・・。」 街は誘惑に溢れているがどこのお店も満席でなかなか食事にありつけない。そんな中、1軒の中華屋さんを見つけた。夏の風物詩となった『冷やし中華はじめました』の看板が出ている。ちょうどそこから男性が2人出てきた。男性①「いや、美味かったな。」男性②「そっすね、これで午後からも頑張れますよ。」光「羨ましいな・・・、あたしも冷やし中華にしよう。」 ひんやりと冷たい冷やし中華、細切りの胡瓜やハム、そして錦糸卵が乗っておりトマトが彩りを加える。横に添えられた練りからしが味のアクセントとなって美味な1杯を想像し光は店内に入った、涼を得たいという同じ考えの人間たちで賑わっており店の中は常に満席で4~5人ほど待ちが生じていた。このお店は回転率がいいらしく15分ほどで席へ案内されお品書きを見ずにすぐ冷やし中華を注文した、このお店ではポン酢だれか胡麻だれを選べるらしく光は胡麻だれを選んだ。女将さんに渡されたお冷が嬉しくて、光は4杯もお代わりしてしまった。女将「そんなに慌てて沢山飲むとお腹壊して冷やし中華が食べれなくなるよ。」光「暑くて仕方無いんだもん。それよりおばちゃーん、お腹空いたよー。」女将「『お姉さん』だろ、この子にはお仕置きが必要かもね。」光「勘弁してよー。」女将「冗談だよ、もう少し待ってな。」 暫くして注文した胡麻の冷やし中華がやって来た、光は麺に胡麻だれを絡ませ啜った。啜りきったその顔は恍惚に満ち溢れていた。瑞々しくシャキシャキの胡瓜が嬉しい、光は夢中になって食べていた。そこに女将さんがやって来て餃子の乗った小皿を置いた。女将「サービスだよ、あんたの食べ方が気持ちよくてね。食べていきな。」光「ありがとう、おば
-②異世界?日本?どっち?- 部屋の扉を開けて女性が光に声を掛けてきた、光にとって何となく予想はしていたが最も困った事態が起こった。女性「・・・・・・・、・・・・・・・(異世界語)。」 そう、言語が分からない。しかしその問題もすぐに思った以上に呆気なく解決した。女性「ん?大丈夫かい?あんた昨日の朝川辺で倒れてたから雑貨屋のゲオルさんに担いでもらって来たんだよ。」光「え?」女性「どうやら言葉は話せるみたいだね、下で朝ご飯の準備をしているから降りてきな。」光「あ・・・、はい・・・。」女性「そう言えば、あんた名前は?」光「光です・・・、吉村 光。」女性「光ね、良い名じゃないか。あたしゃネスタ、よろしくね。早く降りてくるんだよ。」 光は頷いてネスタを見送り、起き上がりベッドから出た。出窓からはヨーロッパの農村の風景が広がっている。私道はアスファルトではなく石畳で主の道路は舗装されていない道が続いていた、子供たちが笑顔で外を駆け回り大人たちは楽し気に談笑していて日本とは真逆で皆ゆったりと過ごしていた。 光は部屋を出て階段を降り、ダイニングに入った。異世界で最初の食事だ。ネスタ「あ、降りてきたね、いらっしゃい。」光「お腹空いちゃって、良い匂いだったのでつい・・・。」ネスタ「フフフ・・・、早く座りな。」 光はパンがメインの洋風で温かな美味しいスープが真ん中に置かれたテーブルを想像した。しかしそこにあったのは茶碗の白米に焼き鮭をメインとし、お味噌汁の香りが食欲を誘う和定食の朝ごはんだった。光「日本・・・、みたい・・・。」ネスタ「ニ、ニホン?どこだいそこは?そんな名前の国聞いた事無いねえ。」光「じゃあ・・・、ここは?」ネスタ「あんたここの人じゃないのかい?ここはネフェテルサ王国、人民に優しい王族が統べる至って平和な国さ。」光「ネフェテルサ・・・。」 光は未だ違和感を感じながら出された朝ごはんを食べる、お腹を満たしながらネスタに色々と聞かれた。光は日本の暑さにやられ倒れたらしく、気付いたらベッドで寝ていた事を明かした。 今思えばどうして急に言語が分かるようになったのだろうか。食事を終え片づけをするネスタを手伝いダイニングから自分が寝ていたベッドのある部屋に戻ったその時、幻聴のような声が聞こえた。声「気が付いたか・・・。」光「え?」
-③神様によりできた便利な国- 元居た世界で本当に自分が亡くなった事を知り光は涙を流した、神様は気まずそうにしている。神様「うーん・・・、だから見せたくなかったの。無理くりこっちに連れてきたからせめてこの後の生活は出来るだけ何も気にしなくていいようにしたんだよ。」光「分かった・・・。」神様「気が向いたら様子を見に来るから元気でいろよ、便利なスキルを特別にあげるから許せ。とりあえず必要な物が手に入るスキルをやろう、出来るだけお前さんの世界に近いように国を作り替えたから他に必要な物はそれで作ると良い。では説明はちゃんとしたからな、しっかりと過ごせよ、じゃあな。」 急に目の前が明るくなった、またベッドの上だ。どうやら神様に会っていた間ずっと光は倒れていた事になっていたらしくここまではネスタが運んでくれたようだ、どう説明しようか悩んでいたがすぐにどうでもよくなってしまった。光は神様が言ってたスキルを確認すべく異世界転生によくあるステータス画面を出してみた、どうやら両手をぐっと開き前に出して念じると出るらしい。神様のお陰で日本語で書かれているので見やすい、1番下のスキルの場所に『作成』という文字があったので試しに使ってみることにした。使用するには右手を前に出し欲しい物を念じるらしい。光は試しに『バランス栄養食』と念じてみた、すると有名なクッキーの様なブロック型の栄養食が出てきた、食べやすいチョコレート味とある。これは便利だと大切に使おうと思いながら栄養食を食べた。 ずっとベッドに寝転んでいる訳にはいかないし、ずっとネスタの世話になっている訳にもいかないので光は一先ず外に出てみることにした。玄関を出ようとした光をネスタが呼び止めた。ダイニングに招き入れられお茶を振舞われた。ネスタ「あんたそう言えば何の仕事してんだい?」 ここは異世界、勿論今まで光のいた日本とは違う世界だ、企業向けOA商品の営業職と言っても分かってもらえないだろう。光「団体向けの物売りの仕事を。」ネスタ「じゃあ、冒険者とか勇者という訳では無いらしいね。」光「冒険者?じゃあギルドとかもあるんですか?」ネスタ「勿論さ、この辺りは農民が多いからこの辺の魔獣の駆除も頼んだらしてもらえるから助かっているんだよ。冒険者に登録をするならそこに行けばいいよ。」光「とりあえず、辺りを散策してきます。」
-④日本との違い- 光は動力源が気になったので男性に質問してみた。光「これはどうやって動かすんですか?」男性「どうやってって・・・、このクラッチを踏んでここに魔力を流すだけだよ。」 すると男性は青いクリスタルに指を近づけてクリスタルを光らせ軽トラを起動してみせた、もう1台はオートマなのでクラッチを踏む必要は勿論ない。光「凄い・・・。」男性「いや、この辺りじゃ普通だけど。」光「え?」男性「皆魔法を使えて当たり前じゃん。」 光は驚くばかりだった、魔法があるのは流石異世界といえる。光も魔法を使ってみたいと思った。光「よし・・・。」 光は右手を前に出して『作成』スキルを使い魔力を作ってみた。全身が綺麗なオーラで纏われる、それをオートマの軽トラのクリスタルに指から流すと軽トラが起動した。光「やった!」男性「やるじゃないか、ただあんた、免許は?」 光は日本にいた頃の免許証を出した、どうやらこっちの世界でも有効らしくすぐに乗れるらしい。日本語も向こうの言語に翻訳されて男性側には表示されているようだ。男性「吉村 光か・・・、珍しい名前だな。俺はガイだ、よろしく。」光「ガイさん、よろしくお願いします。これからまた色々と教えて下さい。」ガイ「任せな、俺でよかったら何でも聞いてくれ。」 頼もしい仲間が増えて光は嬉しかった。そう言えば1つ忘れていた事があった、雑貨屋に行かなければならない。ゲオルという人にお礼を言っておかなければならなかった、この世界に来た初日、川辺で倒れていた自分を運んできてくれた恩人だ。光「ガイさん・・・、ここに雑貨屋さんってありますか?」ガイ「食料の調達かい?街に入ってすぐの緑色の店だよ。」光「ありがとうございます、行ってきます。」 光はガイと別れ街へと向かった、街に入ってすぐの建物が緑色できっとそこが雑貨屋なのだと分かった。とりあえず中に入ってゲオルを探すことにした。重くて大きな赤い扉を開け・・・、ようとしたら自動で開いたので光はびっくりした。きっとこれも魔法なんだ、もしくは神様が便利なように作ってくれたんだと解釈した。 扉から中に入って中の商品を物色しつつゲオルを探すことにした、中には塩や砂糖といった調味料から洗面用具など色々揃っていた。ただ、レトルトカレーやインスタントラーメンといった即席の食品まである、まるで日本
-⑤お金はどうしよう- 光は一先ず食料を手に入れる術を手に入れようとした。何でもかんでも『作成』スキルに頼ってばかりいたら周囲の人に怪しまれるし、ずっとネスタの家でただ飯を食べる訳にもいかない。 まず、光は転生する前に自分が元々住んでいたアパートに残っている食料を持ってこれないかと考えた。自分自身が『移動するスキル』を『作成』して日本とネフェテルサを往復して持ってきたら・・・、いや、結構時間がかかる。 では、『転送』のスキルを『作成』しよう、冷蔵庫ごと転送しちゃえばいいのだ・・・、この世界には電気が無い。そうだ・・・、あれがあるじゃないか、あれを『作成』して設置しよう。 光は、丁度近くにいたゲオルに尋ねてみた。光「この辺りって結構晴れていますか?」ゲオル「そうですね、雨は1か月に2~3回あるかないかではないですかね、でも夏になる直前は鬱陶しい位毎日の様に降りますがね。」光「それって何月くらいですか?」ゲオル「だいたい6月くらいですね。」 どうやらこの世界にも梅雨の時期があるらしい、まさかここまで日本を再現してくるとは神様って本当にすごいなと改めて思った。 とりあえず光はゲオルの店を出て職業を探すことにした。ゲオルによると仕事を探す為にもこの町の冒険者ギルドに行く必要があるらしい、今年からギルドカードが履歴書の代わりになるのだという。早速光はゲオルに道を聞いて冒険者ギルドに向かう事にした。街の中心部にあるので歩いて行けるらしいので向かおうとしたが、その前に喉が渇いたので飲み物を手に入れることにした。 市場とかではどんなお店があるかをちらっとしか見ていなかったのでお金のことを全く調べていなかった。ゲオルの店の中にある飲み物コーナーに向かう。光「えっと・・・、お茶は・・・、128円・・・、円?!噓でしょ?!」 光は恐る恐るだが懐に入れていた財布から1000円札を出しゲオルに聞くことにした。光「ゲオルさん・・・、まさかこれ・・・、使えませんよね・・・?」ゲオル「何を仰っているのですか?当然、使えるに決まっているじゃないですか。ほら、レジの所の看板をご覧下さい。魔法マネー(電子マネー)各種や魔力カード(やクレジットカードは勿論、デビッドカード)もお使い頂けますよ。」 お・・・、思いっきり日本じゃん・・・、これも神様がしたって事なのと光は流石に
-⑥心配する必要なかったじゃん- ドーラがどうしてびっくりしているのかを光は理解出来なかった。光「どうしたんですか?」ドーラ「すみません。あの・・・、恐れ入りますが、もう働く必要無いんじゃないですか?」 どうやら身分証を提示した時に銀行残高も見えるらしく、その金額を見て驚いた様だ。ただ、光はそんなに驚くほど持ってないんだけどと思いながらドーラに登録を進める様にお願いした。思ったよりあっさりと終わってしまった。ドーラ「はい、登録が完了しました。こちらがギルドカードです。こちらには魔力により光さんの職歴やお持ちの資格などの情報が登録されています、これを職場での面接時に持っていけば大丈夫ですのでね。」光「ありがとうございます。」 光はギルドを出てゲオルの店のATMにカードを差し込んだ、「残高照会」のボタンを押すとそこには「1京円」の文字がありまた神様の仕業だなと愕然とした。しかし、働かずに過ごしていたら周りの住民に怪しまれる。街中にあるパン屋が従業員を募集していたので一先ずそこで働くことにした。 次は住む家だ、広めの土地を買える財産があるみたいだがやはり怪しまれたくないので一般家庭レベルの土地と一軒家を購入した。その事をネスタに話し、建設が終わり次第引っ越すつもりだという事も伝えた。 数日後、建設が終わったという連絡を受け、引っ越すことにした。この世界に来て間もないから特に大それた荷物がある訳ではないので荷造りにはさほど時間はかからなかった。 出発の時、玄関でネスタが光を待ち構えていた。ネスタ「寂しくなるね、ずっとここにいてくれて良かったのに。」光「いえいえ、そう言う訳にもいきませんので。」ネスタ「また遊びにおいでね。」光「お世話になりました。」 そういうと2人は抱き合い、光は新居へと向かった。 光の家はネスタの家から街を挟んで反対側にあった、特に急ぎの用事もないしパン屋での仕事も明後日からなのでゆっくりできる。なので光はのんびり歩いて行く事にした。空は青く澄んで空気が美味い。 1度ゲオルの店に寄り周りの目を気にしながらATMで支払いの金を下ろした。下ろした金を封筒に入れ、新居へと向かう。 街を抜けて数分歩いたところに新居があり、不動産屋の店主が待ち構えていた。店主「おはようございます、光さんですね?この度はこちらの物件のご購入あり
-⑦本格的な生活と光の秘密- 店主は周りを見回して光に聞いた。店主「そう言えば家財道具や家具はどうされるのですか?何なら当店で揃えさせて頂きますが。」 『作成』で作ったり日本のものを『転送』しようと思っていたから何も買っていない。光「注文しているものがもうすぐ届く予定でして、足らないものは作ってみたりしようと思います。」店主「ご自分でですか?!」 店主はかなり驚いている様だが日本にいたときはDIYにハマっていた時もあるので問題ない。 店主と別れると光は『転送』スキルを使用し日本にある自分の家具や家財道具、そして家電を新居に設置した。光「さてと・・・。」 光は屋根に登り巨大なソーラーパネルを2枚『作成』し設置した。先ずは雨の日の為に蓄電池を取り付け、家の中に配線を通した。コンセントも『作成』して設置する。電灯は可能なかぎり蠟燭の明かりに色を合わせたものを選んだ以外は日本から持ってきた家電をコンセント繋げた、一先ず日本から『転送』した大きめの業務用の冷蔵庫の電源を入れ蓄電池に電力が貯まるまでとりあえず街の中で食料を中心に買い物を行う事にした。埋め込んだソーラーパネルに合わせて屋根の色は黒に塗って蓄電池は木箱に隠す、これで目立つことはないだろう。 市場で新しく仕入れた食料を冷蔵庫に詰め込むと、元々冷蔵庫に入っていた食料の鮮度等を確かめた。明日使えば何とかなるものも含め全て大丈夫そうだ。 さあ、光の本格的な「特に何もしない異世界生活」の始まりだ。光「さて、これから本格的な異世界生活の始まりだ、やるぞー!」 次の日、今日から新居での新生活の始まりだ。光は朝イチのモーニングルーティンの1つにしている朝シャンを済ませ洗濯機を回し、IHクッキングヒーターでハムエッグを作りオーブントースターでイングリッシュマフィンを焼くことにした。香ばしい香りが部屋を包む、因みに光はパン類はカリカリサクサクと音がするまでしっかり焼く派だ。 一先ず今朝のニュースを確認する事にした、昨日家電を設置した時に調べたのだが奇跡的にテレビ放送は受信できるらしく、光は助かっていた。 光は朝のニュースを確認する事にした、ただ日本の放送を受信しているのだ、日本のニュースが当然の様に流れる。そう言えばここの人間は情報をどうやって共有しているのだろうか。新聞・・・、的なものがあるのだろうか
-⑧食料を得る- 新聞屋は光の必死な顔に少し引き気味だった、光はかなり強めに新聞屋の腕に掴んでいる。新聞屋は後ずさりしながら光に告げた。新聞屋「わ・・・、分かりました。一旦店に戻ってきます。タイムカードを押してこないといけませんので。すぐに戻って来ますからちょっと待っ・・・。」光「早く・・・・、早くしてください!!!お腹が空いて我慢できそうにありません!!!」新聞屋「やたら大きな魔力保冷庫(冷蔵庫)があったのはそういう理由だったのですね、分かりましたから手を放してください!!!」 ナルと名乗ったその新聞屋は逃げる様に光の家を出て店に急いだ。流石に大食いだからって女性1人で大鍋に並々入ったコンソメスープをすぐに平らげることは無いだろう、ただ急ぐしかない、それがナルに残る唯一の選択肢だった。 光はナルが家を出た後、一心不乱に鍋のスープを食べた。こんなに温かく優しい味のスープは久々だ。落ち着いてイングリッシュマフィンをもう1個焼こう、スープにつけたらぴったりだ。オーブントースターの電源をいれ、テーブルのスープに戻る。やはり美味しい、光は夢中になって食べた。光「美味しすぎる・・・、ナルさん・・・、本当に新聞屋さんなの?!」 鍋のスープが底を尽き、光は椅子にもたれた。その瞬間ナルが家に必死の形相で入って来た、空っぽになった鍋を見て開いた口が塞がらない。ナル「急いで何か作ります、待っててください!!!」光「は・・・、やく・・・、お・・・、腹・・・、が空い・・・、て・・・、死に・・・、そう・・・。」 ナルは急いでエプロンを締め米を研ぎ始めた、土鍋に米を流し込みつけ置きをする。その間に鍋いっぱいの水に昆布と鰹節を入れて出汁を取る、アジの干物を魚焼きグリルに入れると火をつけた。IHクッキングヒーターを見ながら声を掛ける。ナル「それにしても不思議な魔法具ですね、何の変哲のないただの板に鍋を置いていると熱くなってくるなんて見たことないですよ。普通は火属性魔法を薪に当てて火をつけるのですが・・・、これはあなたの魔力ですか?」 軽トラと同じでガスコンロ的なものを使うときにも魔力が必要らしい、やはり改めて思ったがこの世界は何をするにしても魔法が絡んでくるみたいだ。 そんなこんなでナルによる追加の朝ごはんが出来上がった、先程と打って変わって和食の朝ごはんだ。土鍋で炊
-60 十人十色- トップを独走する⑨番車と事故を起こした⑰番車を除いた各組の車がバルファイ王国にある第一コーナーと砂漠の道、国境近くの平地を抜けネフェテルサ王国に入って改めて平地に差し掛かり、未だ数台がスピード勝負を行っていた頃、⑨番車は市街地の複雑で狭い道を走っていた。市街地のコースではそのまま走ると交差点等でぶつからない様にする為、トンネルを掘ったり街中の小川の両端に柵を付けコースの一部として利用したり、また橋や立体交差を一時的に増やしたりと事故を出来る限り防止している。因みにコースの整備にはゲオルが魔法で関わっていたので車券購入時にかなり有利になっているはずなのだが・・・、そこは今関係ないのでやめておこう。 小川の端を突っ切っていた⑨番車は橋を通り対岸をまた突っ切ろうとしていて、未だ独走状態でほぼ趣味のドライブ感覚だ。ドライバーから何気にルンルンと鼻歌が出始めているので実況のカバーサが悪戯感覚で音声を切り替えた。⑨ドライバー「ふんふんふん・・・、ふふふふふん・・・。」カバーサ「トップの⑨番車はネフェテルサ王国の市街地で余裕をかましています、まさかの鼻歌が出ているなんて良いですねぇ・・・。曲選びはあれですけど。」光「何で『ぶんぶんぶん』なの・・・。童謡って・・・。」ナルリス「どうよ。」 周囲が凍り付くように静まり返ったのでゲオルがナルリスの肩に手を置いて一言。ゲオル「ナル君・・・、ウケると思ったんですか?」ナルリス「・・・、あ、フランクフルト1つー。」光「あ、逃げた。」ゲオル「逃げましたね。」 売り子の下に向かったナルリスは顔が赤くなっていて、汗が尋常では無い位に噴出していた。 その時、後続車の2位を争う3台のグループ、⑥番車⑮番車、して⑳番車が喧嘩をするようにひしめき合いながらトンネルを抜け出して走っていく。全車カフェラッテだが、数台纏まるとエンジン音も迫力がある。ぶつかりそうでぶつからない瀬戸際でずっと争っているらしくそろそろ1台が抜け出しそうな様子なのだが結局3台でずっと走っている。 暫くして3位グループが仲良さげな様子で走って来た。車番を出走表の番号と照らし合わせてチームを確認してみると加速やコーナリングの性能がほぼほぼ一緒と言える位に似ていて、ずっと一進一退をずっと繰り返している。よく見たら全車ダンラルタ王国代表らしい。
-59 かなりのハンデと判断力の良さ- スタート地点で各車が和やかに過ごしていると実況のカバーサの声が響いた。カバーサ「ご連絡いたします、只今の点灯は故障によるものではなく正式なスタートでございます。繰り返します、只今の点灯は故障によるものではなく正式なスタートでございます。よって冷静な判断でスタートした⑨ドッグファイトが1位で独走しています。」ゲオル・ナルリス「嘘だろ、こんな事毎年あったか?!」カバーサ「ドライバーの冷静さを見る為に敢えて主催者が仕掛けたトラップでございます、これに引っかかった残りの各ドライバーが車に乗り込みスタートして行きました。ドライバーの皆さん、くれぐれもスタートする時、他のドライバーに影響を与える事の無いようにお願いします。事故は勘弁ですよー。」光「カバーサさん・・・、こんなキャラだったっけ・・・。」 隣の魔法使いと吸血鬼が口をあんぐりとさせていた頃、唯一光が投票した⑨番車は大差を付け悠々と走っていた。18kmのホームストレートを抜け第一コーナーに差し掛かり、冷静なコーナリングを見せた。立ち上がりも悪くない、どうやら光の判断は正しかった様だ。 ふとオーロラビジョン映像が車内に切り替わり、実況と一緒に2人の男性の声が流れ出した。男性①「お、おい・・・。大丈夫なのか?」男性②「ま、まぁ・・・、問題ないさ・・・。何せ俺達の車は予選をトップ通過した高性能なんだぜ・・・。」男性①「な・・・、ならいいが・・・、ってあれ?何か俺達の声響いてね?」男性②「本当だ・・・、どういう事だ。」カバーサ「お気づきでしょうか、説明し忘れてました、てへっ。今年からレース中の車内の映像が流れ、ドライバーとチームメイトとの通信の音声を実況席を通してお楽しみ頂ける様になりました。各車の皆さんは下手に作戦を漏らさないようにお願いしますねー。」⑰ドライバー「聞いてねぇよ、こんなの初めてだ。慎重に行こう・・・。」 ポールポジションに車を止めている⑰ブルーボアのドライバーは運転席に急いで乗り込み魔力を流し込んで車を発進させた、後続車を一気に突き放し⑨番車をトップスピードで追いかけ始めた。ギアを5速に入れ18kmものホームストレートで一気に差を付け先程⑨番車が冷静にコーナリングを見せた第一コーナーに差し掛かった。第一コーナーの周りは砂漠から飛んで来た砂に囲
-58 レース開始- とりあえず⑮番車に投票しようと決めた光は残りの2台、若しくは3台を歩きながら決める事にし、忘れないように出走表の⑮番車に「◎」印を付けた。 改めて出走表の全体を見回し、計測タイムが一際目立っていた⑰番車も考えていたがやはりネフェテルサ王国の市街地をコースとして使用するレースなのでバルファイ王国のストレートを過ぎてからの事を考慮し「×」印を付けて票は入れない事にした。 コーナリング重視でのチューニングである事を考え⑥番車は入れる、まぁ50週目になるまでだったら買い足しが可能だから大丈夫だろう、気楽に行こう。 とりあえず後1台か・・・、そう思いながら所々に設置されたモニターを見ていると他のチーム以上にピットスタッフとドライバーが入念に打ち合わせと練習を行い、連携が取れていそうなチームがあった。やはりピットがもたつくとコースに戻った時の順位に影響する。光「このチームは⑨番車ドッグファイトね・・・、これ入れてみようかな。このチーム初出場か・・・。来たら大きいかもね。じゃあ⑥⑨⑮のボックスにしよう。」 偶々空いていた券売機が目の前にあったので思ったよりすんなりとマークシートを記入して車券を購入できた。光「結構遠くまで来ちゃったから『瞬間移動』で良いかな。」 『作成』したばかりの『念話』でゲオルとナルリスの位置を確認する、どうやら光がすぐ戻ると言ってからずっと客席で待ってくれていた様だ。他の観客達を驚かせる訳にはいかないと思い近くのトイレの隅に『瞬間移動』した、そして客席に戻り近くの売り子からビールを3杯購入して待っていてくれていた2人に渡した。光「すみません・・・、あまりにもパルライさんのラーメンが美味しかったので。これで許して下さい。」ゲオル「いえいえ、それにしてもまさか私の弟子がラーメン屋をしているとは思いませんでしたよ、ずっと連絡をよこさなかったので何をしているのか心配していたんです。屋台だったんですって?」光「中は比較的広々とした屋台でしたよ、ただそこからの香りが凄くて。」ナルリス「俺も今度食べに行きたいな・・・、今度連れてってよ。」光「ごめん・・・、普段何処でお店をしているか聞いてなくて。」ゲオル「念話で今聞いてみては?」光「えっと・・・、こうでしたかね・・・。(念話)パルライさーん、聞こえますか?先程はありがと
-57 誘われるがままに-店主「では、スープを残したまま少々お待ちください。」 屋台にて店主による誘惑の言葉に迷う事無く鯛塩飯を注文した光は、ゾクゾクしながら店主を待っていた。車券の事など頭の隅にもない様子だ。ただ大食いなのでここのラーメンだけで自分の腹が満たされるかどうかを心配し始めた。 大食いの人間特有の心配をする光をよそにニコニコしながら店主が茶碗1杯のご飯を手に近づいてきた。店主「お待たせ致しました、鯛塩飯です。残ったスープにぶっこんでお召し上がり下さい。」 光はご飯を1匙すくい、スープに入れて1口食べようとしたら店主が来て説明しなおした。店主「すみません、説明が足りませんでした。ご飯を全部入れっちゃって豪快に食べちゃって下さい、美味しいですよ。」光「全部ですか・・・?」店主「はい、お席が汚れても私は気にせず喜んでお掃除致しますので。」 光はご飯の入った茶碗をスープの入った丼の上でひっくり返し、ご飯をスープにどぽんと入れた。 ご飯の1粒1粒にスープが染み込みお茶漬けや雑炊の様にサラサラと食べれる状態に変身する。 そのご飯をカウンターやテーブルに蓮華代わりとして設置されたお玉でたっぷりとすくい1口・・・。光「嘘でしょ・・・、美味しい!!!」 サラサラと優しく口に流れ込むご飯がスープを引き連れて次々と胃に納まっていく、まるで飲み物の様に。(※食べ物ですのでちゃんと咀嚼しましょう。)光「ダメ・・・、無くなっちゃう。」 自分の意志に反して両手は食事を止めさせようとしない。気付いたときには既に丼の中身は無くなり、スープは1滴も残っていない。光「美味しかった・・・。」店主「フフフ・・・、ご満足頂けましたか?」光「はい・・・、お会計お願いします。」店主「それより、予想の方はお決まりになりましたか?確か⑮番車をお考えだったと思いますが・・・。」光「どうしてご存知なんで・・・。」 光が質問しようとしたら頭の中に声が直接流れ込んできた。声「光さん!!光さん!!どちらですか?!」光「へ?」店主「おや・・・、この声は・・・。」声「光さん、聞こえますか?ゲオルです!!念話の魔法で直接語り掛けています、返事をしてください!!どちらにいらっしゃいますか?!」 念話・・・?あ、そう言えばここ異世界だったわ・・・、と改めて感じた光。店主
-56 レース開始直前だが- 光は出走表の場所をナルリスに聞き車券を購入しに向かっていた、まるで国民の祝日の様に老若男女が右往左往していて大混雑している。 先程1杯呑んだビールの影響か光はトイレに行きたくなったので車券売り場への道中で探すことにした。 トイレは意外過ぎるほど早く見つかり全く混雑していなかったので光はすぐに駆け込み用を済ませた。 トイレを出て車券売り場を目指す、ぷらぷらと歩いているとふんわりと優しい香りがして来たので近くを通った時少し寄ってみるかと意気込んだ。 何軒か日本に似た食べ物屋の屋台が出ている様でその内の1軒を覗いてみる事にした。光「『龍(たつ)の鱗(うろこ)』ね・・・、こんな名前の店あったかな。」 ただ一際行列が目立っており、その上光を誘った香りがその屋台からだったので光は一切迷う事無く飛び込んだ。 店の中では皆が一心不乱に丼に入った麺を啜っている。店主「いらっしゃいませ、お一人様ですか?お好きなお席へどうぞ。」 どうやらここはラーメン屋さんの屋台のようだ。他のお客さんが食べているラーメンはスープが綺麗に透き通った金色のもので、細麺。トッピングはカイワレ大根と何かを揚げているチップスらしい。(※作者が大好きなラーメンの1つです、店名は変えてますが。) カウンターにお品書きがあったのでチラリと見てみると「鯛塩ラーメン」の文字がある。光「『魚介ベースのスープで鯛の皮のチップスをトッピングした美味しいラーメンです』・・・か。」店主「お決まりですか?」光「あっ、鯛塩ラーメンをお願いします。」店主「少々お待ちください。」 屋台の隅に探していた出走表をみつけた。光「出走表頂いてもいいですか?」店主「勿論どうぞ、ラーメンが出来るまでゆっくり予想していて下さいね。」光「助かります。」 光は店の隅に行き出走表を1枚取って席に戻った、①~㉑までの車番の横にチーム名やホームストレートで行われた予選の計測タイム、スタートポジション等が書かれていた。光「確かポールポジション取った⑰ブルーボアが1番人気で、18kmのホームストレートはダントツ、ただガソリンの積載量が比較的少ない気がするな・・・。」 ピットでの給油は認められているがピットストップの回数が多いとその分逆転を許してしまう可能性が大きくなる。光「コーナリングの図を
-55 レース当日を迎え- レース当日を迎え、光達は南側の山にレース用に掘られているトンネルの前に特設された観客席で、ビール片手に選手たちがトンネルから出てくるのを今か今かと待っていた。 レースコースを挟み向かい側に魔術で作られたと思われる巨大なオーロラビジョンに映るレース模様を観客皆がドキドキしながら注目している。 ホームストレートに各国から常連として毎回出場しているチームが各国3チーム、新規の参加チームが3チーム、そして各国の王宮で選ばれた選手達が集まる選抜チームが3チームで、毎年通り合計21チームが出場する事になった。 前日に行われた予選の結果、今年からバルファイ王国代表で新たに出場する事になったブルーボアが1位のポールポジションを獲得し優勝候補として名乗りを上げている。 規定通り皆と同じ珠洲田のカフェラッテを使用していたがエンジンの開発に余念の無い研究を重ね加速と最高速度に特化した物が完成し、メンバー全員が意気揚々としている。 予選ではバルファイ王国の王都に設置された18kmものホームストレートを1番速く走り抜けたチームからポジションを取っていくルールなので全力で車を走らせた結果だった。 色とりどりのカフェラッテにゼッケンのプレートが貼り付けられ各々のポジションに付き準備万端で15分後のスタートを待っていた。 涼し気な気温、そして眩しい程の晴天によりドライとなった路面により絶好のレース日和となっている。 各国の各所に観客席が特設され、満員御礼となっていた。レースのスタートが近づく度に観客たちの熱気が高まって行く中、光は1人、ナルリスとゲオルの席を取り待っていた。光「2人とも遅いな・・・、どこ行っちゃったんだろ・・・、トイレかな?」 光に席の確保を頼んでから40分程戻って来ないので心配になって来た、一応確保した席は連絡したはずなのだがちゃんと伝わっているのだろうか。 心配する光の前をビールの売り子が横切ったので、熱気による暑さも手伝い欲しくなってしまい思わず手を挙げた。光「お姉さん、ビール!!大サイズで!!」売り子「400円でーす、毎度ー。」 渡されたビールを一気に煽り息を吐く、まるで1人公園で缶チューハイを呑むおっさんの様だ。ただ、周りにも同じ様にビールを呑む女性達が数人いたのですぐに意気投合していた。乾杯を交わし塩味のポテチ
-54 国境を越えたビッグイベント- 今朝のリベンジを心に誓いながら光は自宅の家庭菜園でサラダに使うレタスやキュウリといったシャキシャキで瑞々しい野菜を収穫していた。 ドッキリのお詫びとしてネスタが朝ごはんを作ってくれるそうなので横に添えようと張り切って採っている時、ふといつも使っているゴマダレが切れている事を思い出した。 散歩がてらゲオルのお店に向かう、横には彼氏となったナルリス。光に歩幅を合わせて歩いてくれているので自然と笑みがこぼれた。その光景を陰から利通が眺めている。利通「羨ましいな・・・、恋人か・・・。」林田「心配しなくてもいずれは良い人が現れるさ、ただ俺みたいな失敗はするなよ。」ネスタ「誰が失敗だって?」林田「か・・・、母ちゃん、違うんだって。」 林田警部が奥さんから大き目の雷と拳骨を喰らわされている頃、付き合いたてのカップルは街の中に差し掛かろうとしていた。ただ、先程から違和感を感じる。 改めて道路が舗装しなおされ、平らにならされている。ゆっくり歩いていると数人のリッチが分担して道路を舗装し直していて、その中にゲオルもいた。ゲオル「ふう・・・、道幅も申し分ないはずなのでここはこんなもんで大丈夫ですかね。確か・・・、この辺りに地下のトンネルを掘るらしいのですが、そこは大工さん達の腕の見せ所ですかね。おや、光さんとナル君では無いですか、おはようございます。」光・ナルリス「おはようございます、ゲオルさん。」ゲオル「あら、お2人揃って昨日の今日で早速おデートですか?」光「あはははは・・・・まぁ、ね。」 リッチには何もかもお見通しらしい、今朝の事を話題にしないでくれたら助かるのだが。 ただ気になる事は、どうしてリッチが数人集まって道路の舗装を直していたのかという事だ。 何かを思い出し察したかの様にナルリスが声を掛けた。ナルリス「もしかして『アレ』の時期ですか?」ゲオル「そうなんですよ、この後別の人たちが街中に柵や観客席、あと関係者席などを設置する様になってるんです。」光「ナルリス、『アレ』って何?」ゲオル「おやおや、もうお互いを名前で呼ぶようになっているんですね。」光「それより何なんですか?」ゲオル「おっと失礼。毎年ネフェテルサ、ダンラルタ、そしてバルファイの3国を1つのコースとして繋いでのカーレースが行われるんです
-53 翌朝を迎えて- 窓から差し込む柔らかな朝日と共に光は目が覚めた。昨夜は珍しく呑みすぎたのだろうか、少し頭痛がする。 正直自宅での女子会で呑み始め、玄関前でナルリスに告白され受け入れてキス・・・、キス?!光「嘘でしょ?!私ナルリスとキスしちゃったの?!・・・、ファーストキス奪われちゃった。」 それからの事を思い出そうとしていた、恥ずかしくなってヤケ酒して確か何度かリバースして・・・、そこから思い出せない。 周囲をチラリと見回すと自分とナルリスが脱ぎ散らかした・・・、ん?! いや、待て、落ち着こう。そんな訳がないじゃないか・・・。落ち着いて確認しよう。ほら、ベッドの上には衣服を何も着ていない自分とナルリスが寝転んで・・・、え?!光「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああ!!!!!!!」 とにかく急ぎ服を着て落ち着こう、それから深呼吸して確認。ベッドのシーツから濡れていてそこら辺から異臭がするし少し赤色っぽいけど大丈夫だろう・・・、ん?!光「確定じゃない・・・、酔った勢いって怖い・・・。ヴァンパイアと初キスに初夜・・・、何て滑稽なの・・・、ハハハ・・・。実はもっと血が出ててナルリスに吸い取られたって?はぁ~・・・。」 異世界にいるが故に出来る想像まで浮かび上がり始めた。そんな時、自室の出入口の扉越しにネスタとドーラがこちらを覗き込んでいる。ネスタ「どうぞ、続けて続けて。」ドーラ「いやぁ奥様、貴重な物が見えましたね、私この上なく感動してます。」光「覗いてたんですか?!心の準備も出来てないんだから見物してないで止めて下さいよ!!」ネスタ「良いもんだね、朝早くだけどこれを肴に呑めるさね。」ドーラ「私も呑んで良いですか?」光「本当に朝から缶ビール呑んでるし・・・、っていい加減にして下さいよ!!」 その時、林田警部と利通親子が立て看板を持ち勢いよく入って来た。林田親子「テッテレー!!ドッキリでした!!」ネスタ「ごめんねぇ。まさか昨日の夜、2人の初キスシーンまで見えると思わなかったからさ、悪戯したくなっちゃって。」ドーラ「魔法で睡眠状態を出来るだけ継続させている内にシーツ等をすりかえたりして事後をそれなりに再現してみました、テヘ。」光「え・・・?」ネスタ「ナルリスが仕掛け人をするのにノリ良い子で助かったよ。」
-52 女子会の夜は更けて- ナルは語り続けた。ナル「あの日、新聞の配達係が風邪で欠員し、最後に勧誘を兼ねて訪れたのがここでしたね。玄関を開けて下さったのがその時まで見たことも無い様な綺麗な女性の光さんでした、それから大食いと聞いて無茶だと言える量の食事を作ってみましたがそれにも関わらず完食してしまった事には驚きました。私が作ったただの男料理を綺麗に食べてくれたので本当に嬉しかったです。それをきっかけに家庭菜園をお手伝いさせて頂いたり、一緒に料理したり遊んだり銭湯にいったりと本当に楽しくて幸せでした。会う度に私を幸せにして下さる貴女に一生かけて恩返しがしたい。 先程申し上げました通り、私はヴァンパイアです。貴女がこの国にやってくる数年前まで私は一族共々、吸血鬼が故に恐れられ忌み嫌われていました。元々暮らしていた村を追われ王国の山の隅に追いやられ、逃げる様に引っ越しを繰り返していました。誰も味方がおらず、食料を得る事も困難で生きる事で精一杯でした。 後に私の家族は全員、ヴァンパイアを忌み嫌う人の手により殺され1人逃げ出した私は天涯孤独の身となりました。 生きる為とは言え、人の血を吸っていたのは確かです。しかし、私自身好きで吸っていた訳ではありません。当時まだ子供だった頃から料理とトマトが大好きだった私を温かく家に招き入れ我が子の様に育てて下さった恩人であるリッチ、ゲオルさんのお陰で今はこの様に姿を変え人に混じり平然と暮らせていますが、正直まだ、家族を殺された事は悔しくてなりません。今でも家族を思い、一晩中1人悔し涙を流す日々です。 そんな中、改めて私に嬉し涙を流させて下さった貴女に心から伝えたい。くどくどと長くなりましたが吉村 光さん・・・、大好きです。私とお付き合いしてください!」 光は躊躇いながらも答えた。光「お気持ちにお答えする前に貴方にお伝えせねばならない事があります。私は元々この世界の人間ではありません、林田警部や車屋の珠洲田さんと同じく異世界から転生して来た者です。 最初は右も左も、言葉も全く分からないこの地でナルさんと同じくゲオルさんに助けて頂きネスタさんのご厚意で林田警部のお宅に数泊させて頂いた後、この世界に連れてきた神様に与えられた財産でこの家を買い、沢山の方々に支えて頂きながら生活を始めて行きました。 実は生まれる前に父親を