-⑯立入禁止部屋- 先程の様なやり取りがあった後、伊津見はしゅんとしながらまたヘッドフォンを付け捜索をし始めた。どうやら光明はあまり良い所を言わなかったようだ、煽った3人も申し訳なさそうな顔をしていた。まさに『気まずい』という言葉がぴったりだった。 トイレから戻って来た光明の表情も同じようなものだった。伊津見「何か・・・、悪かったな。」 光明「俺も・・・、すまん。」 結愛「というか悪いのは煽った俺達だよな、悪い。」 光明「取り敢えず作戦再開だな。」 伊津見「うん、また今度飯でも行こう。」 光明「そうだ・・・。」 伊津見「みつもん、待ってくれ!」 光明「ん?」 伊津見「微かだがここだけ空気の流れが違う音がしたんだよ。」 琢磨「そんなのも聞こえるのか?」 光明「コンコンしてみるか。」 光明はドローンで以前の様に壁をコンコンした、すると一部の壁が一瞬だが横に動いた。光明「ん?引き戸か?結愛、開けるぞ。」 結愛「うん、頼む。」 光明は隠れていた引き戸を開け部屋から出るようにドローンを動かした、その先には廊下の様なものが広がっている。洋風の壁紙に赤い絨毯が敷かれた床。左右に長いものが目前に広がっていた。海斗「どっちでもいい、ゆっくりと前進してみてくれ。」 ドローンを進めていく光明、深夜だから基本真っ暗なのだが偶に電気が点灯している所を見つけたので中の様子をある程度伺えた。そして大広間っぽい場所にある階段を見つけた瞬間・・・、結愛「すまん光明、ここからさっきの場所に戻れるか?」光明は電灯を頼りに先程の場所に戻ると、結愛「やはりか・・・、ここは1階の『立入禁止部屋』だ。そこに実は扉があるんだが全く動かなかったんだよ、そういう事か・・・。」 海斗「畜生・・・、親父にやられたぜ。」 橘「じゃあやはり家と学校が繋がっていてここが隠し通路って訳だったんだな。」 琢磨「大きく一歩前進したな。」 守「でも大切なのはここからだ」 圭「進もう。」 光明は慎重にドローンを動かして行った、怪しそうな場所を知るため兄妹に案内をお願いすることにした。明らかに怪しいのは他の階にある立入禁止部屋なのでそれらを捜索していく事にした。まずは2階にある部屋を探すことに。 大広間にある大きな階段を上るとまた廊下が広がっていた。そこをゆっくりと進む。奥の一角
-⑰大きな一歩- 夜が明けようとしていた、基本的な潜入作戦は深夜に行っているのでとても小さなドローンは見つからない限りほったらかしにしておいても大丈夫な状態だと言える、なので光明は海斗や結愛の了承の下、義弘の秘密の図書館、いや書斎の天井にドローンを停めてその場を監視することにした。しかしもうすぐ早朝補習が始まる時間だ、停まったドローンは録画体制に入った。 忘れてはならない事だが彼らは高校生でこの学校はありとあらゆる物を投げ捨ててでも大学受験に熱を入れている場所だ、補習を欠席したらどういった制裁があるか分からない。伊津見のクラスメイトが銃殺されたのも事実だ、全員は素直に補習に出席しているフリを可能な限り行った。しかしその裏で義弘のみだけが入れる立入禁止部屋の大部分となる書斎の監視もできている状態だ、これは大きな一歩と言えよう。 早朝補習は講師陣による補習でまだ教師は出勤してきていない・・・、はずだった。ただ今日はいつもと違って学園の講師教師全員が朝一から出勤していた。やたらと黒服もうろついている、明らかにいつもと様子が違う、貝塚財閥で何かがあったのだろうか。 結愛は不本意ながら貝塚の人間であるので通りかかった黒服に尋ねてみることにした。結愛「おはようございます、黒服さん。」 黒服「・・・。」 黒服は深夜からずっと巡回していたのだろうか、意識が朦朧としている様だ。結愛はもう一度話しかけてみた。結愛「黒服さん?」 黒服「あ!結愛お嬢様!おはようございます!大変失礼致しました。申し訳ございません。」 結愛「おはようございます、朝から如何なさいましたの?」 黒服「・・・と仰いますと?」 結愛「講師の方々に加えて教師の方々、ましてや黒服の皆さんが全員朝からいらっしゃるなんて異様ですわ。」 黒服「恐れ入りますが私は存じ上げておりません、昨夜村岡黒服長に残業を頼まれただけなのです。」 結愛「村岡さんが?!あの、働き方改革にかなり真面目な村岡黒服長さんが?!」 黒服「はい、私も耳を疑いました。」 結愛「分かりましたわ、ありがとうございます。今日は構いません、私から村岡さんに伝えますので今日は上がってくださいませ。」 黒服「はっ、失礼いたします。」 黒服は安堵の表情を浮かべその場から離れていった、暫くして別の黒服が近づいて来た。 結愛は大人
-⑱会長- 元に戻った結愛が守たちをジロリと見た。結愛「何だよー、今のは俺んちの黒服のリーダーの一人だよ。性格は優しいんだが目がいかついから少し苦手なんだよ。」 守「黒服長って何人もいるのか?」 結愛「一応シフト制って事になってるが基本的には交代制だ、後俺が知ってるの黒服長は2人いるよ。」 圭「それより会長って?」 結愛「俺のじいちゃんな、家や会社にあんまり顔を出さないが外出する時は何人もの黒服を連れていることが多いんだ、ただ目立つのが嫌いだから少人数のことが多いんだよ。」 琢磨「侵入者って聞いたぞ。」 結愛「ああ・・・、じいちゃん他方から命を狙われやすくてよ、会社内にも侵入者がいる事なんて日常茶飯事なんだよ。いつもはひっそりと別宅に住んでるんだが・・・。」 その時、窓の外からけたたましいエンジン音がした。どうやら真っ赤な外国産のスーパーカーの様だ。結愛「あ、じいちゃんだ。」 橘「いや、逆に目立たね?!」 車のガルウィングが開きサングラスにハワイアンな恰好をした老人が降りて来た。光明「やっぱ目立たね?!」 老人、いや会長の貝塚 博(ひろし)は結愛に向かって手を振った。博「おー、結愛ー、元気だったかー?」 結愛は辺りを見回してから手を振り返した。結愛「おー、じいちゃん!久しぶり!」 琢磨「会長だよな・・・。」 守「フランクだな・・・。」 結愛「じいちゃん堅苦しいの嫌いだからな、他の大人がいない限りは俺もじいちゃんに合わせてんだよ。」 圭「理事長とキャラ全然違うね・・・。」 海斗「だから会う度に喧嘩が多く・・・。」 義弘「父さん!こんな所で何しているんだ!家で待ってたらこんな所に・・・、先に連絡ぐらいしろよ!服装だって貝塚財閥の会長らしくない、会う度に言っているがいい加減にしてくれ!」 博「相変わらず堅苦しいなお前は。いつも言っておるだろう、いつどこでも大切なのは人だというのに自分の考えのみが正しいと思うからそう怒鳴るんだ。」 義弘「この学園と財閥を作ったのは私だ、ここは私のもので、ここでは私がルールだ。名ばかりの会長である父さんにどうこう言われたくない。」 博「だからって若者の青春を奪う権利はお前にも、いや誰にもない。ここには食堂などの生活、そして部活動に必要な施設が全くないじゃないか、昼休みを含んだ休み時間が少なす
-⑲贈り物-羽田「お嬢様、これを。」 結愛「どなたからですの?」 羽田「会長からでございます、くれぐれもご・・・、いえお父様には内緒とのことで。」 結愛「分かりましたわ、ありがとうございます。」 羽田はその箱を結愛に渡し、すぐに立ち去った。結愛はすぐにその箱を開け中身を確認した、結愛は中身を確認して震えていた。ただ事ではない事をそこら辺にいた生徒全員が察した。琢磨「お、おい・・・、大丈夫なのかよ。」 結愛は質問に答える事無く震え続けた。そしてにこやかに笑った。結愛「これ欲しかったんだよー、ずっと探してたんだ、じいちゃん流石だぜぇ!この限定フィギュアずっと前から欲しかったんだよねー。」 生徒「は、はぁ・・・。」 お嬢様なのにまさかのヒーローもののフィギュアが大好きな奴だったとは、守や光明は呆然としていた。しかし、贈り物はそれだけではなさそうだった。 海斗が物凄い剣幕で教室に駆けよってきた。海斗「おい、結愛!これ見たか?!」 結愛「何だよ、お前が好きなバンドのベストアルバムじゃねぇか。」 海斗は博から自分へのプレゼントの箱を見せてきた、本当の贈り物は奥底に隠されていたのだ。 結愛は奥底の厚紙を剥がし、中身を確認した。それはそれは相当価値のあるものであった、博からの『自分達でどうしようもできない時に使いなさい、おじいちゃんからの愛情を受け取っておくれ。お友達を大切にね。』とのメッセージと共に。 博からの本当の贈り物、それは『貝塚財閥全権一週間強奪券』--その名の通り義弘が握る貝塚財閥の全権を1週間自分の物に出来るチケットだ。因みに義弘には拒否権は無いらしい、財閥の状況を察した博を含めた貝塚財閥の大株主たちが義弘の暴走を抑える為に作ったものだった。使うためには義弘、黒服、若しくは大株主の1人にこのチケットを渡す必要がある。そして義弘の手に渡った時点から一時的に1週間貝塚財閥の全権を握ることが出来る事になっている。早速結愛は博にお礼のメッセージを送った。結愛(メッセージ)「おじいちゃん、貴重なプレゼントありがとう。それに久々におじいちゃんに会えて俺も兄貴も嬉しかったよ、今何処にいるのかな?また、会いに来てね。」 すぐに博から返信が来た博(メッセージ)「おじいちゃんも会えて嬉しかったよ、贈り物受け取ってくれたかな?今おじいちゃんはハワ
-⑳秘密の部屋にて- 光明と結愛は先日、義弘の秘密の図書室、いや、書斎に仕掛けたドローンの映像をじっと見ていた。普段義弘以外出入りする事がない空間、勿論ずっと同じ映像が続いている。義弘が来ない限り当たり前の事なのだが2人は飽きてきていた。しかし、結愛は光明が自分の為に頑張ってくれていると思い余計な事かと発言を控えていた。その時だ、映像に義弘の姿が現れ、秘密の書斎で彼はパソコンに向かっていた。電源を入れ分厚い本を何冊も持ち寄り何やら真剣に調べものをしている、よくよく考えたら義弘は普段から知識やうんちくを会話に色々と差し込んでくる事が多かった事を結愛が思い出した。結愛「親父って思ったより勤勉だったんだな・・・。」 光明「感心している場合かよ。」 結愛「悪い悪い(わりいわりい)、何の資料を見ているか見えるか?」 光明「やってみるわ。」 光明は映像を解析し、義弘の手元を拡大した。ただ何冊もの書籍は全て義弘の陰になってしまっているので内容は全く見えない。なのでパソコンの内容を見えないかと色々とやってみたが全然確認できなかった。 光明の横で結愛は現場のドローンから送られる生の映像を見ていた。そこにも義弘が現れた。パソコンと分厚い本を数冊持ってきて調べものをしている。光明に操作方法を教えてもらい結愛は義弘の手元を探ろうとした。やたらと分厚い本が5~6冊、また比較的薄い本が1~2冊ある。結愛「あれは・・・。」 光明「ん?どうした?」 結愛「あの本なんだけどよ・・・。」 光明「どれどれ・・・。」 光明は自分が見ていた映像を一時停止し、結愛の操作していたパソコンのマウスに手を伸ばした。マウスにしては柔らかい物に手が当たった。結愛「お・・・、おい・・・。」 光明「ん?」 マウスの上で2人の右手が綺麗に重なっている。光明は慌てて手を離した。2人とも顔が赤くなっていた。光明「悪い、すまねぇ。」 結愛「まぁ、良いけどよ。」 それから暫く2人とも心臓の鼓動がバクバクと鳴っていた、本題に戻るのに何故か時間がかかる。 その間に映像の中の義弘はパソコンが並ぶ机の端っこにあるプリンターの方に移動していった、大きめの紙数枚に何かを印刷している様だ。その間に結愛はパソコンの前の書籍を見た。各教科ごとの大学入学共通テスト(旧:大学入試センター試験)の過去問題集と高等学
-㉑義弘のやり方- 結愛は誰にも気づかれないようにしつつも海斗に連絡していた、やはり時には兄貴を頼りたくなるもんだという事なのだろうか。誰かに相談したそうな素振りを全く見せていなかったので皆が勝手に強い人間なんだと勘違いしてしまっていたのではなかろうか。結愛「兄貴・・・。」 海斗「ん?」 結愛「今話せないか?」 海斗「勿論大丈夫だ。」 結愛「実はよ・・・。」 結愛は最近思っていることを海斗に打ち明けた、主に先日義弘の書斎で見かけた書類や書籍類についてだった。以前もこんな事があった様な無かった様な・・・。 義弘が彼なりに教育について真剣に考えてるのではなかろうかと思い始めた、それが故にしばらくは学校でも家でも可能な限り義弘の様子を観察しようと企んだ。結愛「以前、中学受験の過去問や資料を大量に調べて親父なりにプリントにまとめていただろ?デジャヴ的なものを感じてんだよ。」 海斗「確か親父の秘密の書斎・・・、だっけ?えっと・・・、そこで見かけたってやつか。」 結愛「あん時さ、物凄い量のプリントを押し付けられた事を思い出してよ、少し辛かったなー・・・、なんて。」 海斗「分かるわ、これからこの学校もあんな感じになるのかな。」 結愛「俺嫌なんだけど、皆を巻き込んじゃってあんな事したくねぇ。」 海斗「毎日毎日テストが夜遅くまでで寝る間も無かったな。」 結愛「俺普通の学校生活を送りたかっただけなのに・・・。」 海斗「だから取り戻そうや、俺たちの高校生活を。」 結愛「ああ・・・、うん・・・。」 海斗は別に相談する事が結愛にはあるのではないかと思えて仕方なかった、しかし今はやめておこう、最強になって学校生活を取り戻すことに集中するんだ。 一方、光明は秘密の書斎に仕掛けたドローンの映像をずっと見ていた。義弘が過去問を調べ尽くしていたあの時以来動きは全くない。代り映えのない退屈な映像が続く、ビルの管理人の仕事ってこんな感じなのかなって想像した。その時校内のスピーカーから声がした、義弘だ。すると結愛が耳を押さえながら入って来た、続いて伊津見も。義弘「皆さん、深夜の学園でいかがお過ごしでしょうか、理事長の貝塚義弘です。今から私自ら大学入試に向けた特別授業を開講しようと考えています、受講希望者は2階の特別教室までお越しください。」 伊津見「うるせぇな、
のためだ。-㉒伊津見の経験- 4組の伊津見は義弘による深夜の特別授業に強制参加することになり、筆記用具片手に渋々特別教室へと向かった。左耳には光明に渡された無線機、そして胸元に小型マイクを身につけスパイとして参加する。特別教室に入ると分厚い資料を配布し終えた義弘が教卓のすぐ近くに座っていた。ノートパソコンを教室に設置されたプロジェクターに接続して黒板代わりに使うのだろうか、大きなスクリーンを広げていた。伊津見達が教室に入ると義弘が歓迎の言葉をかけた。義弘「深夜の特別授業へようこそ、ここでは私自ら過去数年分の大学入試センター試験、及び大学入学共通テストの過去問を調べ上げ関連づけた資料を一緒に見ながら学んでいくものです。『かなり充実した』内容になっているはずなので存分に学んでいって欲しいです。席は決まってませんので見やすい所に自由に座ってくださいね。」 珍しい位に柔らかな笑顔で出迎えられた生徒たちは少しゾクゾクとした気分となっていた、日ごろのイメージと真逆だからだ。しかし各席に配布されている資料の厚さがこれから行われる授業の厳しさを物語っていた。義弘「各席に配っているのが私自ら調べ上げ、資料と紐づけたお手製のプリントです、最初から試験を解けと言われても無理なものは無理、解けないものは解けないものです。ですので解答・解説や資料を見ながら一緒に勉強していきましょう。元々白黒表記になっている問題や資料の写真は見やすくカラー表記にしてみましたのでお役に立てて頂ければ幸いです、勿論そちらは差し上げますのでご自由にお持ち帰りください。お役に立てて頂ければ幸いです。 私はこの授業の為に眠気覚ましのブラックガムをドカ食いしましたので、徹底的に勉強できたらと思います。それでは1教科目の国語から始めていきましょう。」 授業が始まった。一斉に分厚い資料を開いていく。5年前のセンター試験の過去問の大問①が現れた、義弘は生徒たちに小問や問題文を読み聞かせていく。義弘の声は優しさに満ち溢れ皆聞き入っていた。 授業が順々と進んでいく、皆重要な場所を赤ペンや蛍光ペンでチェックしていき通常の学校の授業の様に生徒たちは集中していった。義弘の解説は思った以上に分かりやすくそこにいた全員が次のクラス決めの摸試の時、ダークホースになってもおかしくない程になっていった。 学園が朝日に照らさ
-㉓猛暑の殺人- 暑い日が続いていた、そんな中守たちは相変わらず朝から晩まで勉強漬けの毎日を過ごしていた。義弘の指示が故に冷房は切られており、窓が閉め切られていた。ただ流石にこれにより死者が出てしまえばこれはこれで教育委員会等に訴えられてもおかしくない状況だ、義弘から教師・講師全員に通達が伝えられ冷房がやっと起動した。生徒全員ほっとしながら授業に集中し机に向かう、義弘も人の子だという事だ。 そんな中、黒服がダンボール箱を抱え各教室にやって来た。 守や結愛達がいる2年1組には黒服長の羽田が来た。羽田「しゃ・・・、ゔゔん、失礼。理事長先生からお茶の支給品が来た。各自1本ずつ持つように。冷え冷えでうまいぞ、結愛お嬢様もおひとついかがでしょうか?」 結愛「お父様からですの?」 羽田「そうでございます、ご・・・、ゔゔん、申し訳ございません。お父様からでございます。」 結愛「個人的にはコーラが良かったのですが。」 羽田「ご存じの通り、ご主・・・、いやお父様は炭酸入りのソフトドリンクはあまり飲まれませんので。」 結愛「やはりお父様とは好みが合わないみたい、それにしても珍しいですわね。羽田さんがそんなに噛むなんて、何かありましたの?」 羽田「先日の侵入者の事なのですが。」 結愛「黒服さんに紛れていた方ですの?」 羽田「はい、こちらをご覧いただけますでしょうか。」 羽田は指名手配犯のビラを結愛に見せた。結愛「これ、書き込んでも?」 羽田「どうぞ。」 結愛はマジックでサングラスを書き足していった。どう見ても先日ふらついていた『黒服』だ。結愛「間違いないですわね。」 羽田「はい、かいちょ・・・、いやおじい様を狙った侵入者ですね。」 結愛「おじい様が無事で何よりですわ、それと・・・。」 羽田「はい?」 結愛「そんなに無理して言い直さなくてもよろしくてよ。」 羽田「申し訳ございません、日ごろからお父様に言われているもので。」 琢磨「羽田さんも大変ですね。」 羽田「面目ない。」 このお茶の支給は夏の間続いた。生徒たちはこのありがたい贈り物を素直に受け取っていた。 数日経ったある日のこと、いつもの通り生徒達がお茶を飲んでいると3組の教室から男女の悲鳴が轟いた。その3組の教室から伊津見が凄い形相で走って来て慌てて1組の教室に入った。伊津見
-㊿女子会後の約束-光「さっきはごめんなさい、呼び捨てにしちゃって。」ナル「いえ、だいじょうぶです。それより・・・、あの・・・、お口に合いましたでしょうか。」光「はい・・・、美味しっかたです。ナルさんは器用ですね、以前から料理が出来る事は知っていましたがデザートまで・・・。」 光は顔を赤らめながら語った、ナルの横を偶々通ったウェイトレスが軽く肩を叩いた。ウェイトレス「良かったじゃない、気に入って貰えて。これ、貴方のオリジナルでしょ?」 感動でナルが号泣している、こんなナルを見るのは初めてだ。 このタルトは光の為にナルがオリジナルで考案したスイーツで、普段はメニューに載っておらず、前日2人が来ることを知ったナルがオーナーに頭を下げ頼み込み、無理やり日替わりのメニューを変更して貰っていた。ナル(前日)「私は明日を境にクビになっても構いません。ただ吉村様・・・、いや光さんにお召し上がり頂きたいのです!」オーナー(前日)「こうなりゃナルは何言っても聞かないもんな・・・。明日の日替わりタルトは決まってるんだけどね・・・。まぁ、美味しいから良いか・・・。」 オーナーのその言葉に自信を持ち安心して翌日提供出来ると思っていたが、やはり味覚は十人十色なので光に気に入って貰えるか不安で厨房で1人震えていた。その日は全然眠れず、もしも口に合わなかったら・・・、不味いと言われたらどうしようと、光にどう顔向けすべきか分からないと枕を濡らしていた。そのお陰で瞼が少し腫れ、目の下には隈が出来ていた。 当日、誰よりも早くカフェの厨房に入り準備をして疲れ切っていたナルは、光の美味しかったという言葉でやっと笑みがこぼれた。ナル「そろそろ・・・、仕事に戻ります・・・。時給を貰って働いているバイトですから。」光「待って!」 厨房に向かおうと後ろを振り返ったナルを光は思わず呼び止めてしまった、どう声をかけるべきか思いついていないうちに。光「あ・・・、えっと・・・、また今度ナルさんのお料理が食べたいのですが。」ナル「ではまた連絡します・・・、今日は・・・、これで。」 ナルが奥の厨房に消えて行くと、光はテーブルに戻り着席した。ハーブティーが落ち着かせてくれる。タルトをもう一口食べ、光は思わず微笑んだ。 ナル「よっしゃ・・・。」 厨房の陰で小さくガッツポーズしたナルを
-㊾独身女達の女子会- ハネムーンに出かけた新郎新婦を見送り、街の住民達は普段の生活へと戻っていった。 光はパン屋で有休を取得していたのでその日から週休含め3日間休みとなっていた。披露宴についてはエラノダの計らいで全住民出勤扱いとなり、1日分の給料が王宮から支払われる様になっていた。 ドーラに誘われカフェテラスでスイーツを食べながらお茶を楽しむ事になっていたのでギルド前に待ち合わせの為向かった。 カフェはギルドから数分歩いた所にあった為、2人はすぐに女子会を始めた。スイーツとハーブティーを注文し、ウェイターを待つ。 温かいお茶が提供されるまでの間は一先ず、冷水で喉を潤した。注文したケーキ「こだわり果実のカスタードタルト」が提供されウェイターの手によって切り分けられ、小皿に盛られた。サクサクと焼かれたタルト生地にカスタードクリームを敷き詰めその上に小さく切られた果実が散りばめられている。果実には1つ1つに蜂蜜が塗られ甘く味付けられている。 1口食べると果実の酸味とカスタードクリームや蜂蜜の甘みが織りなすハーモニーが口の中を満足で埋め尽くす。 そこに丁度運ばれてきた温かなハーブティーを流し込むと優雅な休日を楽しんでいるという実感が湧いて来た。 美味しいひと時を過ごしている時、ドーラが突然切り出した。ドーラ「ねぇ、どう思う?」光「えっ?あ、ごめん、聞いてなかった。何の話だっけ。」ドーラ「だからね、あたしらも結婚出来るのかな・・・って。」光「その前に相手がいなくちゃ。」 的を得ている答えを言ったつもりだった、結婚は1人で出来る事ではないし。互いを理解し合えた2人がする事だ。 ただ結婚したいと思うから出逢うのか、出逢ったが故に結婚したいと思う様になるのか、こりゃある意味哲学だなとこの世界に来てから初めて思った。 ただ光も他人の事を言えない身、これ以上ドーラに意見するのはどうかと自問自答してしまっていた。ドーラ「あんたはどうなの?相手というか良い人でもいる訳?」光「いると思う?この世界に来てからずっとただただ吞んだくれてただけだよ。」ドーラ「沢山の男と酒を交わして仲良くしている癖に、チャンスがあったんじゃないの?」 ドーラは一滴も酒を呑んでいないのに酔っぱらって絡み酒をしている様に見える。光「いないって言ってんじゃ・・・。」 そんな時
-㊽まだ輝ける- 板長は盃を片手に感動している新郎に寡黙な表情で語った。板長「良いかニコフ、軍を捨てたこんな元一兵卒の老人の話なんてジェネラルとしては聞きたくないかもだが、良かったら頭の隅にでも置いといてくれ。今日は決して人生のゴールなどではない。2人のとても大きく新たなスタートだ、いや、もしかしたらスタートラインに立つ前かも知れない。これから2人で存分に話し合って、計画して、どう人生を歩むかは君ら次第だ。今まで通りお互いが働いて2人きりの人生をずっと歩むも良し、子宝を得て新たに1人の大きな人生を1歩、1歩、君たちなりに支えながら歩ませるも良し。どちらにしろ、お前さんの人生だ。今日はおめでとう、これからはしっかりやれ。」 板長はニコフの肩を軽く叩いた。新郎は感動で涙が止まらない。ニコフ「御厨(みくりや)板長・・・、いや、アーク・ジェネラル・・・。」御厨「やめろ・・・、もう私はただの焼き肉屋の板長だ。王国軍の人間ではない。それよりもほら、盃が空いてるぞ、注いでやるから笑顔で呑んでくれ。俺からの祝いだ。それとも何だ?もしかして俺の酒が吞めないのか?」 御厨は冗談まじりの笑顔をこぼし酒を注いだ、ニコフは噛みしめる様に注がれた酒を呑んだ。ふと見ると御厨の盃がずっと空っぽだ。ニコフは徳利を手にし、酒を注いだ。ニコフ「呑んでよ・・・、父さん・・・。感謝の盃だ。」ヤンチ「おい、板長は俺の親父だよ!」御厨「待てヤンチ・・・、これで良いんだ。」ニコフ「実は僕、両親を早くに亡くしてね、教会の孤児院にいた頃から当時大隊長だった御厨板長に本当の父の様に育てて貰ってたんだよ。彼は自分の御給金の1部を毎月教会に寄付してね、その上度々教会に立ち寄り食事を作ってくれていたこともあって当時僕含め孤児院にいた子供達は全員板長の事を父さんと呼んでたんだ。ある日孤児院の企画で王国軍の仕事を見学し、汗水流しながら国の防御の仕事をこなし、次の年には将軍になってた。そんな御厨板長に憧れて俺も王国軍に入った。」ヤンチ「だから披露宴の時、両親の席に親父が・・・。ニコフさん、悪かった。すまない。」御厨「2人とも馬鹿か、祝いの席で湿っぽい表情をするな。ほら、笑って呑め。それとも父に反抗するつもりかい?」ヤンチ「親父には敵わないな、ほら呑もうや、兄弟。」ニコフ「ああ。」 兄弟は静かに乾杯を
-㊼輝く日・後編- 教会前でガイの提供した米を使ったライスシャワーを行い新郎新婦を迎え入れる。 新郎新婦を囲い参列者達が教会の前に揃うと自らカメラマンに志願した車屋の主人である珠洲田が集合写真のシャッターを切った。 次は御姫様抱っこの写真だ、ニコフがかなり照れていたが2人とも幸せそうな顔をしていた。 3枚目はメイスが2人の好きに撮るようにと言ったのでまさかのキス写真を撮影、女性陣がキャーキャーしている。 写真撮影が終わるとブーケトスに移った。キェルダがブーケを投げる、ふんわりと浮かんだブーケはゆっくりとネスタの手に吸い込まれていった。ネスタ「ありゃぁー、私もまだまだ捨てたもんじゃないかもね。」林田「ネスター!」利通「母ちゃん!!」 会場が笑いに包まれ和やかになり、全員披露宴会場となる冒険者ギルドへと移った。光達が用意した料理が次々と運ばれていく。 ジャンルを越えてキェルダとニコフの好物を中心とした料理が並べられた。 真紅のドレスを着たキェルダと和の衣装を着たニコフが拍手に包まれ入場して来た。 2人が席に着くと林田警部による噛み噛みのスピーチが始まった。林田「に、ニコフ、そ、そしてキェルダさん。本日は、ご、ご結婚おめでとうございやす。そ、そして、ごごご、ご家族の皆様、本日はおめでとうございます・・・。」 大抵の人が忘れがちというご両親へのお祝いの言葉も無事に伝え、後々は気楽にスピーチをした。 夫婦初めての共同作業、ケーキカットの時が来た。ラリーとヤンチが1晩かけて作った5メートルの高さの大きなケーキが運び込まれ、2人の前に置かれた。白い生クリームとカラフルな花、そしてリボンで彩られたケーキに2人が包丁を入れると参加者が皆拍手し、各々シャッターを切った。 そして小分けにされたケーキが配られ、キャンドルサービスが行われる。 暫く歓談の時間となり皆が食事を楽しんだ、特に特別料理として光が板長と組んで用意した「黒毛和牛のローストビーフ 赤ワインビネガーソースを添えて」と「黒毛和牛の天婦羅 天然岩塩と共に」が人気だった。 宴もたけなわとなり、キェルダからご両親への感謝の手紙のコーナーとなった。涙ながらに手紙を読み上げるキェルダにもらい泣きする人が多かった。 無事に披露宴が終わり、即座に2次会が始まった。魔法を使い一瞬で堅苦しい服から私服に
-㊻輝く日・中編- 2国の王族を巻き込んだ結婚式当日を迎え王宮横の教会には街中の住民が教会に集まり2人の結婚の式典を今か今かと待ちわびていた、林田親子も駆けつけ警備体制はばっちりだ。 光はネスタやローレンと合流し、数時間前からギルドの一角で焼き肉屋の板長の協力を得て披露宴に出す料理の準備を行っていた。 野菜や穀物はガイの畑から、その他の材料や飲み物をゲオルの店から提供する事になったので焼き肉屋の女将が特別に仕入れた肉類と合わせて調理していく。 披露宴でナイフを入れるウェディングケーキは花嫁のキェルダの希望でパン屋でラリーとヤンチが用意する事になった、ウェアウルフとウェアタイガーで何とか協力してくれればいいのだが。 ギルドで披露宴の飾りつけが着々と進んでいく中、教会ではアーク・ビショップのメイスによる祭事での式典が始まろうとしていた。光は盛り付けまでを急ピッチで進め新たに『作成』した『保管』のスキルで出来上がった料理を保管し、ナルと合流すると教会へと駆け足で急いだ。 教会に入ると参加者たちが着席し静かにその時を待っていた。メイス「お待たせ致しました。新郎・ニコフ・デランドの入場です!」 扉が開き、いつの間にか練習していたネフェテルサ・ダンラルタ両王国軍の鼓笛隊による入場曲の演奏が始まった。ただ、入場曲は入場曲でも某有名芸人がプロレスラーのモノマネをする時の「あの曲」だ。光「ははは・・・、誰の趣味?」ネスタ「うちの人だよ、恥ずかしくてしょうがないね。結婚式を執り行う教会の雰囲気に全く合わないから笑えて来るよ。」 教会の外で林田警部がくしゃみをした。林田「うう・・・、さぶっ。友人の晴れ舞台の日に風邪引いちまったかな・・・。」ニコフ「ふっ・・・、あいつめ・・・。」エラノダ「ははっ・・・、良い友人を持ったな、ニコフ。いや、デランド将軍。」 ニコフは少し微笑みつつも林田警部の演出を鼻で笑いながら王宮のメイド長と時間をかけて選んだ衣装の軍服を身に纏いエラノダの先導で入場した。 エラノダとニコフが入場を終えると、拍手が静まり返った。メイス「続きまして、新婦のキェルダ・バーレン改め、キェルダ・ダンラルタの入場です。」 キェルダに依頼され光が選んだ入場曲を鼓笛隊が奏でる、ダンラルタ側の鼓笛隊は鳥獣人族の集まりなので飛びながら演奏する。日本で「着うた
-㊺輝く日・前編- デカルトの唐突な思い付きでの発言によりその日は突然やって来た。デカルト「そうだ、『善は急げ』と言うからな、明日2人の結婚式を行おう。」 いくら何でも唐突で王族含めギルドにいた全員がざわついた。 林田警部やキェルダが発言の撤回を求めた。林田「国王様、恐れながら申し上げます。流石にご本人のご意見をお聞きしてからのほうがよろしいのでは?」キェルダ「叔父さん、確かに嬉しいけどあたいら心の準備がまだだよ。」 しかし、2人の静止を空しくしてしまった者がいた。光だ。電話片手にサムズアップしている、たまたま教会にいたアーク・ビショップのメイスに連絡を入れていたらしい。 メイスによれば丁度次の日、教会もメイス本人も予定が無く空いているので快く了承してくれたようだ。デカルト「アーク・ビショップ様に祭事を執り行って頂けるだなんてこんなに名誉な事は無い、明日やるぞ。」光「もうこれで逃げれないよ、2人とも覚悟なさい。」 光はまだ酒が抜けていない、ふらふらになりながら式の予定を決めてしまった。もう1人、デカルトに賛同する者がいた。受付嬢のエルフ、ドーラ。ドーラ「国王様、披露宴兼2次会はギルドにお任せください。ギルドマスターの許可が下りましたのでお料理を沢山お出しさせて頂きますよ。」デカルト「ほら決まりだ、エラノダに今言ったから2人とも衣装を合わせに王宮に行くぞ。」 自国の国王まで巻き込む位に話が大事になりすぎていてニコフは動揺を隠しきれていない、一先ず言われるがままに王宮へ向かう事にした。デカルト「一刻を争う、ニコフ、私の背に乗りなさい。キェルダは後からついて来るんだ。」 ギルドの出入口でデカルトは人間からコッカトリスの姿に戻った、キェルダは普段しまっている翼を背中から取り出しニコフを待っている。ニコフ「そんな・・・、国王様の背に乗るなど・・・。」デカルト「私が乗れと言っているんだ、早くしろ。それとも王命に背くつもりか?」 ニコフは少し抵抗しながらもデカルトの背に乗った。大きな翼を広げたコッカトリスは王宮に向けてひとっ飛びし、明日の新郎を瞬時に送り届けた。ただ王宮に着いた時、勢いが良すぎてスピードを緩め切れずエラノダが拘って王宮に取り付けた大きなステンドグラスを大胆に破壊してしまったが。 自らのお小遣いで買った大切なステンドグラスを
-㊹本来の勝負- 呑み比べの結果が結果だけにギルド内は少しだけ気まずい雰囲気に包まれていたが光は全く気にしていなかった、酔いが回りすぎて周りが見えなくなっていた訳では無かったがもう皆倒れてしまっているのでもう相手をしてくれる人がいない。光は寂しさを紛らわすためドーラに声を掛けた。光「ドーラぁ、ビールもう1杯~。」ドーラ「もうやめときなって、光にしては呑みすぎだよ。」 その時、頭を抱えながらキェルダが起き上がった。キェルダ「許してあげて、あたしらが巻き込んじまっただけなんだよ。」ドーラ「一先ずキェルダのお兄さん達と将軍が起きないと話が始まらないわ、皆にお冷を持ってくる。」 そう言うとドーラは受付カウンターの奥へと消えて行った、すれ違いざまにキェルダの家族たちが続々と目を覚まし始めた。デカルト「うん・・・、我々はどうしていたのだ・・・、皆、大丈夫か?」マック「叔父さん・・・、昼間っからここまで呑むのは久々だよ・・・。」ウェイン「それにしても俺達どうして呑んでたんだろ・・・。」 最後にニコフがゆっくりと体を持ち上げる。ニコフ「悔しいです・・・、勝負の形はどうであれ、負けたのですから・・・。このままではキェルダやご家族の皆さんに合わせる顔がありません。」林田「誰が負けだと決めたんですか、光さん以外は皆ほぼほぼ同時に酔い潰れたと言うに。」 お冷の入ったグラスを片手に林田がニコフを介抱した。林田「我が友よ、上級鳥魔獣と鳥獣人族と勝負して立派にここまでやったんだ、貴方は十分胸を張って顔を合わせてもいいはずだ。ですよね、皆さん?」 周りの冒険者達が拍手でニコフを称賛した。冒険者「あんたは立派だよ、俺達上級鳥魔獣と鳥獣人族が酔い潰れたのを初めて見たぞ。」冒険者「俺達だったら全員リバースの嵐だよ。」林田「ほら見ろ、皆認めてくれているだろう。ダンラルタ国王様、失礼ながらお伺い致します。貴方様のお気持ちはもうお決まりなのでしょう?」 デカルトはマックとウェインを集め頷いた、2人も納得している様だ。 3人がニコフに手を差し伸べた。デカルト「ニコフさん・・・、いやニコフよ。」ウェイン・マック「ニコフ将軍・・・、いや義弟よ。」3人「認めよう・・・、これからもキェルダ含めよろしくお願いします。」 ニコフは体を震わせ頬には涙が流れていた、彼は認めら
-㊸妹を守る男達の勝負-ウェイン「俺達と勝負して貰わないとな。」 マックとウェインが兄弟で妹の彼氏である王国軍のニコフ将軍に勝負を仕掛けている、ウェインの横でマックがどこかへ連絡を入れていた。 数分後、見覚えのある1匹のコッカトリスがギルドの前に止まり、出入口からスーツ姿の男性が入って来た。男性「この多忙な私を呼び出すとは、どこの生意気者かな。」ニコフ「ダンラルタ国王!!どうしてこちらに?!」デカルト「君は確か、この国の王国軍の将軍だね。甥っ子と姪っ子のピンチに叔父が来ては駄目なのかね?」ニコフ「甥っ子と姪っ子・・・、えっ?!」キェルダ「ニコフ・・・、実は・・・。」 キェルダが耳打ちをするとニコフは混乱してしまった。 それもそうだ、王族の上級鳥魔獣と鳥獣人族を相手に何で勝負しろというのだ。 すると、デカルトがドーラに声を掛けた。デカルト「お姉さん、ビールを4杯頂けますか?」ドーラ「は・・・、はい・・・。」 ドーラがジョッキ一杯に入ったビールを4杯運んでくると、デカルトが徐に切り出した。 昔からの伝統で上級鳥魔獣と鳥獣人族には女性の婚約者や恋人と勝負する事になっているのだが、その内容は・・・。デカルト「私達と飲み比べをしてもらおう、それともダンラルタ国王である私からの直々の勝負を受けずに私に恥をかかせるつもりなのかね?」マック「因みに俺達が勝ったらキェルダは諦めてもらう。」ニコフ「分かりました・・・、受けます。」キェルダ「ニコフ・・・、無茶だよ。」 ニコフの顔は真剣だったが、その横でキェルダはとある事を懸念していた。昔から鳥魔獣族と鳥獣人族は人間に比べ酒に対しかなりの強さを持っていた。そう、上級鳥魔獣と鳥獣人族は酒に強く、また多数が酒好きの日本で言う高知県民の集まりなのだ。きっと何かしら理由をつけて皆で吞みたかったのだろう。 ルールは至ってシンプル、同じ種類の酒を順番に呑み先に倒れた方の負け。酒の種類は順番に決めていく。 まずは手始めにデカルトが本人の希望で注文したビールからのスタートだ。順調に各々5杯目まで到達、その時・・・。女性達「あたし達は参加しちゃダメなのかよ、え?!」デカルト「男たちの真剣勝負につき女人は立ち入りをお断りします。」 勝負に参加しようとしている女性の1人、キェルダは至って真剣だった。早く呑みた
-㊷警察と王国軍、そして国民の友好関係-林田「では将軍、宜しくお願い致します。」将軍「かしこまりました。林田警部、お勤めご苦労様です。」 将軍の先導で冒険者達が王宮の下にある牢へと運ばれる、この国では刑務所や拘留所は王国軍の管理下となっているので常に連携を強く保っているのだ。将軍「そうだ、思い出しました。林田警部・・・、ちょっとお耳を・・・。」林田「どうしました?」 林田が将軍に耳を貸す、将軍が耳打ちで何かを伝えると林田警部は顔をニヤつかせ了承した。ドーラ「あの2人ったら・・・、相変わらずね。」 呆れた表情をしているドーラをよそに林田と共にニコニコしながら将軍が大隊長に犯人の連行を指示し、周辺で静かにしていた冒険者に向けて一言。林田・将軍「皆さん、お騒がせしました。今日は私たちの奢りです、じゃんじゃん呑んで下さい。」冒険者達「流石だぜ、いつも気前がいいな。2人に乾杯!」 冒険者達は片手に持ったジョッキを2人に向けて振り上げた、張り詰めていた空気が一気に朗らかになる。 ギルドの従業員からジョッキを受け取った林田はビールを飲み干した。将軍「林田警部、この後お仕事では?」林田「いや、休日出勤です。全く・・・、優秀な犯人ですよ。ねぇ、ノーム刑事・・・。」ドーラ「あ、いや、あの・・・、空いたジョッキ回収しまーす。」 警察署直通のベルと押し間違え、どうやら休日を満喫しようとしていた上司を呼び出してしまったと思われるその犯人のエルフはそそくさとした様子で客席へと逃げて行った。 女性「ニコフ、あんたも休みなんだろ?遠慮しないで吞みなって。」 女性の声に引かれる様に役目を終えた私服の将軍・ジェネラルのニコフが涙目になりながら振り向くと、パン屋で働く鳥獣人族で光の同僚であるキェルダがいた。仕事終わりにドーラから連絡を受けた光が林田の奢りで一緒に呑もうと誘っていたのだ。光「ニコフって・・・、キェルダ!!いくら何でも将軍に失れ・・・。」ニコフ「キェルダ・・・、会いたかった・・・。デート行けなくてごめん!」光・林田「え?!」キェルダ「こいつ・・・、あたしの彼氏。」ニコフ「ど、どうも・・・、お初にお目にかかります。お、王国軍でニコフをしてます、将軍と申します。いつも彼女と林田さんからお話を伺っており・・・。」キェルダ「何であんたが硬くなってん