ドーラがどうしてびっくりしているのかを光は理解出来なかった。
光「どうしたんですか?」
ドーラ「すみません。あの・・・、恐れ入りますが、もう働く必要無いんじゃないですか?」どうやら身分証を提示した時に銀行残高も見えるらしく、その金額を見て驚いた様だ。ただ、光はそんなに驚くほど持ってないんだけどと思いながらドーラに登録を進める様にお願いした。思ったよりあっさりと終わってしまった。
ドーラ「はい、登録が完了しました。こちらがギルドカードです。こちらには魔力により光さんの職歴やお持ちの資格などの情報が登録されています、これを職場での面接時に持っていけば大丈夫ですのでね。」
光「ありがとうございます。」光はギルドを出てゲオルの店のATMにカードを差し込んだ、「残高照会」のボタンを押すとそこには「1京円」の文字がありまた神様の仕業だなと愕然とした。しかし、働かずに過ごしていたら周りの住民に怪しまれる。街中にあるパン屋が従業員を募集していたので一先ずそこで働くことにした。
次は住む家だ、広めの土地を買える財産があるみたいだがやはり怪しまれたくないので一般家庭レベルの土地と一軒家を購入した。その事をネスタに話し、建設が終わり次第引っ越すつもりだという事も伝えた。 数日後、建設が終わったという連絡を受け、引っ越すことにした。この世界に来て間もないから特に大それた荷物がある訳ではないので荷造りにはさほど時間はかからなかった。 出発の時、玄関でネスタが光を待ち構えていた。ネスタ「寂しくなるね、ずっとここにいてくれて良かったのに。」
光「いえいえ、そう言う訳にもいきませんので。」 ネスタ「また遊びにおいでね。」 光「お世話になりました。」そういうと2人は抱き合い、光は新居へと向かった。
光の家はネスタの家から街を挟んで反対側にあった、特に急ぎの用事もないしパン屋での仕事も明後日からなのでゆっくりできる。なので光はのんびり歩いて行く事にした。空は青く澄んで空気が美味い。 1度ゲオルの店に寄り周りの目を気にしながらATMで支払いの金を下ろした。下ろした金を封筒に入れ、新居へと向かう。 街を抜けて数分歩いたところに新居があり、不動産屋の店主が待ち構えていた。店主「おはようございます、光さんですね?この度はこちらの物件のご購入ありがとうございます。」
光「おはようございます、早速中を拝見させて頂けますか?」 店主「勿論ですとも、今日からこちらが光さんのお宅ですから。」店主から鍵を渡され早速玄関を開けた窓から優しく日光が差し込み家全体を照らす。光は1階のリビング・キッチン・ダイニング、そして2階の寝室・バスルームを拝見して思った通りの家が建ち興奮していた。
店主「ご満足頂けたでしょうか?」 光「十分です、ありがとうございます!」 店主「ではお支払いの方、お願い申し上げます。当店信用等の観点からお支払いは現金とさせて頂いておりますがよろしいでしょうか?」 光「伺ってます、こちらです。」 店主「では・・・。」店主は自分の右手を前に出しステータス画面の様なものを操作した後異空間から計数機を取り出した、スキルか何かなのだろうか。
光「今のも魔法ですか?」
店主「ほう、初めてですか?『アイテムボックス』と言うのですが、結構沢山入るから便利ですよ。」 光「『アイテムボックス』・・・。」光は早速『アイテムボックス』を『作成』した、どうやら数億種類の物を数は無限に収納できる様だ。
店主「今の今で習得されたのですか?!私も結構苦労したのに!」
光「は・・・、はは・・・、くれぐれも秘密にお願いします・・・。」 店主「大丈夫ですよ、お客様の個人情報を守るのは我々の義務ですからご安心ください。それではお支払いの方を・・・。」-⑦本格的な生活と光の秘密-
店主は周りを見回して光に聞いた。
店主「そう言えば家財道具や家具はどうされるのですか?何なら当店で揃えさせて頂きますが。」
『作成』で作ったり日本のものを『転送』しようと思っていたから何も買っていない。
光「注文しているものがもうすぐ届く予定でして、足らないものは作ってみたりしようと思います。」
店主「ご自分でですか?!」店主はかなり驚いている様だが日本にいたときはDIYにハマっていた時もあるので問題ない。
店主と別れると光は『転送』スキルを使用し日本にある自分の家具や家財道具、そして家電を新居に設置した。光「さてと・・・。」
光は屋根に登り巨大なソーラーパネルを2枚『作成』し設置した。先ずは雨の日の為に蓄電池を取り付け、家の中に配線を通した。コンセントも『作成』して設置する。電灯は可能なかぎり蠟燭の明かりに色を合わせたものを選んだ以外は日本から持ってきた家電をコンセント繋げた、一先ず日本から『転送』した大きめの業務用の冷蔵庫の電源を入れ蓄電池に電力が貯まるまでとりあえず街の中で食料を中心に買い物を行う事にした。埋め込んだソーラーパネルに合わせて屋根の色は黒に塗って蓄電池は木箱に隠す、これで目立つことはないだろう。
市場で新しく仕入れた食料を冷蔵庫に詰め込むと、元々冷蔵庫に入っていた食料の鮮度等を確かめた。明日使えば何とかなるものも含め全て大丈夫そうだ。 さあ、光の本格的な「特に何もしない異世界生活」の始まりだ。光「さて、これから本格的な異世界生活の始まりだ、やるぞー!」
次の日、今日から新居での新生活の始まりだ。光は朝イチのモーニングルーティンの1つにしている朝シャンを済ませ洗濯機を回し、IHクッキングヒーターでハムエッグを作りオーブントースターでイングリッシュマフィンを焼くことにした。香ばしい香りが部屋を包む、因みに光はパン類はカリカリサクサクと音がするまでしっかり焼く派だ。
一先ず今朝のニュースを確認する事にした、昨日家電を設置した時に調べたのだが奇跡的にテレビ放送は受信できるらしく、光は助かっていた。 光は朝のニュースを確認する事にした、ただ日本の放送を受信しているのだ、日本のニュースが当然の様に流れる。そう言えばここの人間は情報をどうやって共有しているのだろうか。新聞・・・、的なものがあるのだろうか。光「そう言えば昨日掲示板を見かけたような気がするな・・・。」
とりあえず服を着替えて街の掲示板を見に行くことにした。
さて朝ごはんのハムエッグを取ろう・・・、とした瞬間。新聞屋「おざーす、新聞屋でーす、新聞取ってますかー?」
光「あっっっっっつつつつつつ!!!!」 新聞屋「あっ、ごめんなさい、大丈夫ですか?」 光「あ、いや、大丈夫です・・・、ただハムエッグが・・・。」光は新聞屋の足元を指差した、ハムエッグがぐちゃぐちゃだ。新聞屋は気まずくなり頭を数回搔いた。数秒考えた後、光に提案した。
新聞屋「あの・・・、僕作っていいですか?この家、最後なんで・・・。」
光「えっ?!」新聞屋は冷蔵庫の中身を確認し、ハムエッグを作り直し始めその横で鍋に火をかけた。床にぶちまけたハムエッグを片付け新しく焼けたハムエッグを皿に盛りイングリッシュマフィンを横に添え、鍋に固形コンソメと刻んだキャベツとソーセージを入れた。光はハムエッグを1口食べると思わず・・・。
光「美味しい・・・。」
新聞屋「お口に合いましたか、ではコンソメスープを・・・。」そう告げると鍋敷きを置きコンソメスープが並々入った鍋を置いた、新聞屋が器に移そうとしたらその腕を掴み光は目を大きく開いて告白した。
光「鍋ごと下さい、普段隠しているのですが実は私・・・、大食いなんです!!」
-⑧食料を得る-
新聞屋は光の必死な顔に少し引き気味だった、光はかなり強めに新聞屋の腕に掴んでいる。新聞屋は後ずさりしながら光に告げた。
新聞屋「わ・・・、分かりました。一旦店に戻ってきます。タイムカードを押してこないといけませんので。すぐに戻って来ますからちょっと待っ・・・。」
光「早く・・・・、早くしてください!!!お腹が空いて我慢できそうにありません!!!」 新聞屋「やたら大きな魔力保冷庫(冷蔵庫)があったのはそういう理由だったのですね、分かりましたから手を放してください!!!」ナルと名乗ったその新聞屋は逃げる様に光の家を出て店に急いだ。流石に大食いだからって女性1人で大鍋に並々入ったコンソメスープをすぐに平らげることは無いだろう、ただ急ぐしかない、それがナルに残る唯一の選択肢だった。
光はナルが家を出た後、一心不乱に鍋のスープを食べた。こんなに温かく優しい味のスープは久々だ。落ち着いてイングリッシュマフィンをもう1個焼こう、スープにつけたらぴったりだ。オーブントースターの電源をいれ、テーブルのスープに戻る。やはり美味しい、光は夢中になって食べた。
光「美味しすぎる・・・、ナルさん・・・、本当に新聞屋さんなの?!」
鍋のスープが底を尽き、光は椅子にもたれた。その瞬間ナルが家に必死の形相で入って来た、空っぽになった鍋を見て開いた口が塞がらない。
ナル「急いで何か作ります、待っててください!!!」
光「は・・・、やく・・・、お・・・、腹・・・、が空い・・・、て・・・、死に・・・、そう・・・。」ナルは急いでエプロンを締め米を研ぎ始めた、土鍋に米を流し込みつけ置きをする。その間に鍋いっぱいの水に昆布と鰹節を入れて出汁を取る、アジの干物を魚焼きグリルに入れると火をつけた。IHクッキングヒーターを見ながら声を掛ける。
ナル「それにしても不思議な魔法具ですね、何の変哲のないただの板に鍋を置いていると熱くなってくるなんて見たことないですよ。普通は火属性魔法を薪に当てて火をつけるのですが・・・、これはあなたの魔力ですか?」
軽トラと同じでガスコンロ的なものを使うときにも魔力が必要らしい、やはり改めて思ったがこの世界は何をするにしても魔法が絡んでくるみたいだ。
そんなこんなでナルによる追加の朝ごはんが出来上がった、先程と打って変わって和食の朝ごはんだ。土鍋で炊かれたご飯とみそ汁はお代わり自由で焼きアジやナルが持ってきた野菜の漬物はご飯にピッタリだ。 光は箸が止まらなかった、夢中になって食べた。ただまだ空腹は満たされない。光「れいぞ・・・、魔力保冷庫のもの全部使っていいのでもっとお願いします!!!」
ナル「ははは・・・、その代わり新聞は当店でお願いしますね。」 光「取ります、取りますからお願いします!!!」光は涙目になって訴えた。空腹で仕方がない、ナルにどう思われてもいいのでとにかく今は空腹を満たしたい。
ナルは無我夢中で料理を作っていた、その時の顔は何故か恍惚に満ち溢れていた。光はやっと満腹になり人生で初めてと言えるくらいの笑顔を見せた。光「はひはほー(ありがとう)、ほひほうははへひは(ご馳走様でした)。」
ナル「ハハハ・・・、それは良かったですが、これからどうするのですか?」 光「そうですね、とりあえず市場に行って食料を調達した後、余った土地を利用して家庭菜園でもしてみようかと。」 ナル「分かりました、またお手伝いできることがあれば仰って下さい。」ナルと別れ鍋や食器を片付けた後に市場で魚介類や畜産類を、そしてゲオルのお店で調味料やその他諸々を購入し冷蔵庫に押し込んだ。魚介類や畜産類は市場の人に捌いてもらったので冷蔵庫に入れやすくなっていた。
その後、ガイの畑へと向かい相談する。ガイは快く野菜類の種をくれた。 家に帰って『作成』した農機具で土地を耕し肥料を撒いた、川沿いから『作成』した水道管にホースを繋ぎ出来上がったばかりの畑に水をあげた。 水をあげた後、『作成』した防護用のネットで周囲を囲みこれで万全というところまで畑を作り上げた。 その時、横を通ったガイが声を掛けた。ガイ「立派な畑だね、さっきから今までの間にここまで作ったのかい?時間がかかる作業だったはずなのに、まだ正午だよ・・・すごいな・・・。」
-⑨情報を得、入浴する-
ガイが光の家を通り過ぎると情報を収集する時間にした、直近の情報は新聞以外なさそうだ。今朝、ナルがお試しとして持ってきた今朝の朝刊を見ることにした。1面にはネフェテルサの王族についての情報が記されていた。ただ、『どこかの北の国』みたいにずっと「~様万歳」的な文体が続いている訳では無かった。
2面を開いてみることにした、地域の物価や農作物についての情報が事細かに書かれている。どうやらご近所さんの畑で東京ドーム2個分位の大きさのキャベツと南瓜が取れたらしい、いや収穫する前から目立つだろうと誰もが突っ込みたくなる記事だった。 そう言えばこの世界の人たちは娯楽や趣味はどうしているのだろうか、周囲を見渡せば皆ずっと街での仕事や農業をしている人たちばかりで兎に角忙しいばかりの国なのかなと疑問に思いながら3面に移った。光「3面はテレビ欄・・・、テレビ欄?!テレビあんの?!」
その時インターホンの音がした、『御用の方はこちらのボタンを押してください』の札を立て掛けておいて正解だと思いながら玄関を開ける。
光「はーい。」
ネスタ「おっ、本当に来たね。これも魔法の1つかい?あたしゃ初めて見たよ。」この世界にはいわゆる呼び鈴という者が無く用があれば大抵玄関の前で名前を大きな声で叫ぶことが多いらしい、ノックをする人はちらほらしかいないそうだ。
光「ネスタ・・・、さん・・・、おはようございます。」
ネスタ「おはよう、新居を見に来るついでに夕飯を作りに来てやったよ。」 光「そうだ夕飯・・・。」 ネスタ「ん?何か作っていたのかい?」 光「実はカレーを仕掛けていたんです。」 ネスタ「カレーかい、あたしも大好きだよ。」 光「良かったら、明日食べに来ませんか?」 ネスタ「どうして明日なんだい?」どうやらこの世界ではカレーを1晩置くと美味しくなるという知識というより概念がならしい。一先ず出来上がったばかりの物をネスタに食べさせた、一応寸胴鍋で作ってあるから心配は無いのだが念の為光は普通の1人前の量で我慢し明日まで置いておくことにした。
ネスタ「そう言えばこの家、銭湯からかなり離れているね。ずっとシャワーで過ごすつもりなのかい?」
そうだ、思い出した。ネスタの家には風呂が無く、入浴はどうしているのだろうかと疑問に思っていた所だった。ネスタによるとこの国の人はシャワーは汚れを落とす程度で大体は皆地域の銭湯に行っているそうだ。やはり女子としてはお風呂は欠かせないし、1日の疲れを取れる場所が欲しい。とりあえず今夜はネスタと一緒に銭湯に行くことにした。そして明日、太陽光発電を利用した風呂を作ろう、出来れば露天風呂にしたい、光のこだわりというより子供の頃からの憧れだ。
銭湯へはネスタが軽トラに乗せて連れて行ってくれた、そう言えばこの国には軽トラ以外乗り物は無いのだろうか。ネスタに聞いてみる事にした。
ネスタ「そうだね、他にも町中には家族や友人同士で集まってお出かけする用のものがあるらしいけど、私はこれで十分だからね。それに私の免許で乗れるのが軽トラだけなんだ。」
軽トラ専用の免許とは初めて聞いた、光は自分の免許ではどこまで乗れるんだろうかと聞いた。
ネスタ「あんたの免許は・・・、あらま。町中の人たちと同じで大きな一般車全般は乗れるみたいだね、すごいじゃないか、いつの間に取ったんだい?」
どうやら日本にいた時に取っておいた普通免許が役に立つみたいでほっとした、そうこうしている間に山の中腹にある銭湯に着いた。
2人は軽トラを降りて入り口を目指す、エンジンはボンネット付近を軽くノックしながら「止まれ」と言うと止まった。 入口の自動ドアをくぐり受付をしてロッカーの鍵を受け取り脱衣所へ、そして浴室へ入って行く。大きな大浴場にサウナ、打たせ湯、そして露天風呂など日本の銭湯と変わらない景色がそこにあった。 入浴を済ませ脱衣所を抜ける。ロッカーの鍵を返して座る場所を探した。日本と同じように畳の休憩所が用意され日本と同じような自動販売機があった。光は思わず飲みたくなり「麦酒(ビール)」を購入、一気に体に流し込み息を吐いた。そして運転してくれているネスタと家で改めて乾杯する事になった、今夜は泊りになるみたいだ。-⑩異世界での初仕事-
ネスタの家で光は朝8時に鳴るようにアラームを設定していた。起きれなかったら困るので設定しておいて正解だ、昨晩ネスタにやたらと飲まされたので少し2日酔い気味だ。異世界から来た新しい友人の事が嬉しかったのだろう。この世界では平均的らしいが思ったより酒が強い人達ばかりで戸惑った、因みに光は日本では強い方だったはずなのだが。
2日酔いを気にして酔い止めと胃薬を『作成』し、ゲオルの店で買っておいたペットボトルの水で流し込んだ。そこにネスタが光を起こしに来た。ネスタ「おはよう、朝ごはん出来てるよ。下に降りてきな。」
光「あ・・・、おはようございます。」 ネスタ「昨日は楽しかったね、今夜は楽しみにしているよ。」 光「今夜・・・、何でしたっけ?」 ネスタ「もう、自分が言い出した事も忘れたのかい?カレーだろ。」 光「あ、ホントだ。」 ネスタ「もう、あんたしっかりしなきゃだよ、今日から仕事なんだから。」本当だ、今日からパン屋での仕事が始まるのだ。光は服を着替えネスタと朝食を取った、一汁三菜の和食。温かなおふくろの味。お出汁の効いた優しいお味噌汁が体に沁みる、それだけで白米が進む。そしてホカホカの焼き鮭が嬉しい。これぞ日本の朝ごは・・・、おっとここ日本じゃなかった。
ネスタ「すまないね、今朝用事があって家まで送れそうにないんだ。」
光「大丈夫です、まだ余裕がありますから。」朝食を済ませ玄関でネスタに見送られた光はネスタに手を振って自分の家へと向かった、一目から目立たない場所に移動して。
光「えっと・・・、『転送』が出来たから『瞬間移動』も『作成』出来るよね。」
光は両手を前に出しステータス画面を出した、そして『瞬間移動』スキルを『作成』して早速右手を前に出した。初めての『瞬間移動』だ。
光「おお、こりゃ便利だわ。ただやっぱ人前じゃ目立つから普段使い用に車・・・、というか軽トラ買わなきゃね。」
この辺りの住民は主に軽トラに乗っている、乗用車は街の人間だけが乗るのでこの辺りではやはり目立つ。
農作物に水をあげると光は家を出た。街に移動し、大きなバケットの看板が良く見えるパン屋を目指した。 パン屋にはすぐ着いた、店長のラリーに裏にある従業員通用口、そしてスタッフルームへと案内された。スタッフルームでは個人用にロッカーが用意されており、そこに荷物を入れて制服に着替える。 開店30分前、店内に従業員全員が集められた。光「お、おはようございます。吉村 光です、以前は団体向けの物売りの仕事をしていました。よ、宜しくお願いします。」
ローレン「宜しく、私はローレン。主に接客の仕事をしているんだ。」
ウェイン「俺はウェインだ、裏でパンを焼いてる。」 ラリー「後はキェルダ、マックという奴がいるけど今日は休みなんだ、また紹介するよ。さて、開店準備だ!」光はローレンに魔力計算機(レジ)の使い方を教えて貰った。計算機の下をスッっと通すと自動でパンの値段が合計に加算されるためパンの値段を覚える必要はない、本当に日本のレジみたいだ。
この店を職場に選んだ理由は「賄い」だった、特に多く作りすぎた時だがパンの売れ残る事が多い。それにこの店はオーブンから出して3時間経過したパンを引き上げて新しい物と入れ替える事もある、実はそれが狙いだった。 この店は引き上げたパンを賄いの材料として使ったり動物の餌にしたりしていた、ただ光がこの店に来たことによって動物の取り分が大幅に減るだろうが。 営業の仕事をしていたこともあり光は接客には自信があった、これによりパン屋は評判となり売り上げがどんどん上がって行った。常連客も光の顔を覚え光はどんどん仕事が楽しくなっていった。 そんな中、ラリーは光とローレンを呼び止めた。ラリー「新作パンを開発しようとして試作をかなり作りすぎちゃったんだ、良かったら試食してみてくれないか?無理なら持ち帰ってくれても構わないし。」
光「店長安心してください。」 ラリー「へ?」 光「私、大食いなんで。」-⑪大食いが役に立つ- 店長のラリーは聞き返した、身近に自分の事を大食いと自信満々に言う人がいる訳がないとずっと思っていたからだ。確かに大食いの番組はこの世界にあったりはするがそれもやらせやはったりの塊なのだろう、1人の人間が本当にあれだけの量を食べてしまう事を信じる事が出来なかった。 しかし、目の前の新人従業員は出来ると言い張っているのだ、よしそう言うなら試してやろう。丁度売れ残りのパンがかき集めたものがあったはずだ。ラリー「光・・・、そんなに言うなら俺が作った大食いメニュー、やってみるかい?」ローレン「店長、ウチそんなの無かっただろう、あたしゃここ長いけど見たことないよ。」ウェイン「まさかあの堅くなりかけてるパンを出すのか?」ラリー「ああ・・・、ただそのままでは出さない。これも以前から考えてた新作だ。無駄になりそうな食い物を可能な限り減らす方法を探してたんだ。折角だ、試しにやってみるさ。ウェイン、すまんが手伝ってくれ。光、食えなくても別に罰はない。こっちは一応売れ残りを出すんだからな、逆にもしも食えたら給料2倍だ。約束しよう。」ウェイン「ああ・・・、やってやるさ・・・。」 給料2倍・・・、別に金に困っている訳ではないけど(光の口座には1京円入っているため)、良い響きだ、心がうずうずしてくる。それに失敗しても何も問題なし、そんなの断る理由がどこにあるのだろうか!!!光「店長・・・、今すぐ持ってきて下さい!!!」 ラリーはその声を皮切りに厨房へと駆け込んで行き調理を始めていった、売れ残ったパンを細かく刻んでいく。その作業をウェインに任せると自分は大量のホワイトソースを作って行った。 刻んだパンをバターを塗った大きなグラタン皿に盛り、鶏もも肉の切り身やベーコンをラリー特製のホワイトソースやチーズをこれでもかと言わんばかりにかける。 最後にオーブンで焼いて大きなグラタンが完成した。ラリー・ウェイン「出来たぞ!!!食えるもんなら食ってみろ!!!」 直前まで通常通り接客の仕事を行っていた光を呼び出し光の前に出来立て熱々を提供した、店も丁度午前中の営業時間を終えたところだったので店にいた全員が光を見守った。光「いっただっきまーす!!!」 光は嬉しそうな顔で食べ始めた、熱々のグラタンが口の中に運ばれていく。光「おーいしいー!!!あっ、鶏肉とベ
-⑯林田と光の記憶- 林田は深くため息を吐き語りだした。林田「私が新人警官の頃です、その頃警察署長をしていた先輩と暴走族の摘発を行ったんです。日本のとある山で警察に協力的な2台の走り屋と共に暴走族を追い込んで逮捕した事があったんです、その2台のうち1台が赤いスポーツカーに乗った当時・・・。」光「『赤鬼』って呼ばれていたんですよね。」 林田は驚いていた、まさかと思っていた事が事実だと発覚し始めたので驚愕していた。ネスタは3人分の皿を洗っていたが手を止めて聞いていた。光「今は事情があって別姓を名乗っていますが、私は『赤鬼』と呼ばれていた走り屋、赤江 渚(あかえ なぎさ)の娘です。生まれる前に父を亡くし女手一つで育てられた私は母とよく夜の峠を攻めていました。ただ、本能のままにではなく警察署長に依頼されてでした。当時、様々な峠で違法な暴走族や走り屋の摘発に協力していた母は私を連れ2台で警官のいる場所まで犯人たちを追い込んで逮捕するまでを見届けていました。ある日、いつも通り警察署長の依頼で走っていたら車の整備不良が原因でコーナーを曲がり切れず峠から車ごと落ちて亡くなりました。母の車は無残に潰れ、母は即死だったそうです、あの車は決して裕福とは言えなかったのに必死にお金を貯めてくれた母からの最初で最後の贈り物で形見なんです。 あの日も私は母の遺志を継ぎ警察署長の依頼を受け夜の峠を攻める予定でしたが昼間に熱中症で倒れそのまま亡くなり、この世界に転生してきたんです。その時にあの車を持ってきて地下に格納しました。」(※『赤江 渚』については私の「私の秘密」をご参照ください、作者より。) 人の死に直面した時の話は涙なしに聞けないと言わんばかりに林田は涙を流しながら光の過去の話に聞き入り流れる涙を右手で拭い重い口を開いた。林田「そんな事があったんですね・・・、後ほどお母様の御仏壇に手を合わせてもよろしいでしょうか。」光「勿論、ありがとうございます。それと・・・。」林田「捜査へのご協力感謝します、ただ無理はなさらないでください。明日日時が決まればまたご連絡いたします。」 林田夫婦は渚の仏壇に手を合わせた。その後ネスタと光は家庭菜園で水やりをし、林田は携帯で先程の話をこの国の警察署長に話していた、そして光が操作に協力してくれるという事も。 電話の向こうで警察署長は涙を
-㉑苦労はしているのだろうか- 光がサンプルを見て選んでいる間に一瞬でゲオルが髪型を変えてしまったので、光は開いた口が塞がらなかった。流石リッチと言うべきなのだろうか。しかし、光には疑問が浮上した。光「リッチという事は・・・、アンデッド・・・、死んでるんですか?」 何処からどう見ても人間と変わりなく見えるので違和感を感じていた、これは光の勝手なイメージなのだがアンデッド(死者)なのでリッチも全体的に骸骨っぽい見た目と思っていたのだ。しかし、ゲオルは生きている普通の人間と変わらない見た目をしている。ゲオル「やっぱりそう思います?そうですよね、よく言われます。」 ゲオルは笑顔で答えていた、でも生きるため(?)に苦労をしていそうな感じもした。ゲオルは人気のない裏道に光を連れて行った、何をされるのだろうか。ゲオル「引かないで・・・、下さいね。」 ゲオルが魔術を解くとイメージ通りの姿をしたリッチが現れた、そして次の瞬間には元のゲオルの姿に戻っていた。ゲオル「特に満月の日苦労するんです、人間の姿を維持するの。一応魔法で膜張ってガードしているんですが満月の光を浴びるとどうしても元の姿に戻ってしまうんですよね。」光「アンデッドの方々がそうなるんですか?」 他にも身近に苦労している人もいるのだろうかと心配になってしまった。 満月と言えば狼男だろうか、これも光のイメージだが月夜の晩や丸い物を見てしまった時に凶暴な狼に変貌してしまう。 そして逆に夜の世界にしか生きることが出来ない者もいるはずだ、吸血鬼とか。その質問をゲオルにぶつけてみた。ゲオル「そうですね・・・、まあ取り敢えずお茶でも飲みながら話しますか。」 2人はカフェに移動して話すことにした、確かに男女が人気のない暗がりで話していたら怪しまれてもおかしくない。ゲオル「まずはヴァンパイア、吸血鬼ですね。最近の彼らは昼間でも普通に動けるみたいです、しかも人間の生き血を欲しがりません。オレンジやトマトを使ったジュースやチューハイが好きらしいです。確か・・・、新聞屋のナル君がそうだったかと。」光「適応しすぎでしょ・・・。今度呑みにでも誘ってみよう。」ゲオル「そして人狼・・・、ウェアウルフですね。最近は凶暴化の力が弱まっていると聞きます。それに最近は純粋な者はあまりおらず、人間とのハーフが殆どだそうですよ。
-㉖豪華な宴会と板前の過去- 貸切った大宴会場で店の女将が日本でも今まで見たことない位の笑顔を見せていた、肌はとてもつるつるで皺1つない印象で年齢を感じさせない。何か秘密があるんだろうか、接客していた女将とは別に若女将が存在しており2人が笑顔で奥から出てきた。女将「何かございまして?」光「あ・・・、いや・・・、女将さんお綺麗な方だなと思いまして。」女将「あらお上手ですこと、でも何も出ませんわよ。」 と言いながら片手に持っていた熱燗をテーブルに置く、どうやらかなり嬉しかったみたいで女将がサービスしてくれた様だ、ただどこから出てきたかは分からないが。若女将「女将、そろそろ・・・。」女将「あら失礼、ではこの辺で一旦失礼致しますわ。」若女将「あれ?また行っちゃった・・・、すみません。では鉄板の電源失礼致しますね。」 知らぬ間に女将は瞬間移動で消えてしまっていた、若女将は気付かなかったらしく首を左右に振っている。一先ず、鉄板の電源を入れ温めだした。 数分後、宴会場の外から女将、若女将、最後に板前の順番に3人が注文したコースのお肉を運んで来た。女将「お待たせいたしました、『特上焼き肉松コース』のA5ランクのサーロインでございます。」板前「1枚ずつお渡しさせて頂きますのでごゆっくりお楽しみください、味付けはシンプルにこちらの岩塩でどうぞ。」 静かで厳格な風貌ながら落ち着きがあり優しさ溢れる口調で板前が説明する、どうやらこの人はここの板長らしい。板前「板長、お待たせしました。」板長「ありがとう、良かったらお客様の前で説明して差し上げて。」板前「は、はい・・・。こ、こちらは・・・、カルビで・・・、ございます。甘く・・・、豊かな脂が・・・、ビールやご飯に・・・、ピッタリでございます。」板前「ハハハ・・・、一応合格にしておこうか。すみませんね、こいつ支店からこの本店に配属になったばかりで緊張しているみたいなんです。でも可愛い奴なんですよ。」 板長は意外と明るい人らしく気軽に声を掛けやすかった。板長「今から2枚目と3枚目のサーロインを焼いていきます。別の鉄板では、ヤンチってんですが、こいつがカルビを焼いていきますのでお好みの味付けでどうぞ。腕は確かなので美味しく焼いてくれると思いますよ。」 ヤンチが別の鉄板にカルビを丁寧に焼いて行った、お肉がゆっく
-㉛ロックフェス当日- 街の南側、銭湯のある山の麓に特設の野外ステージや音響システムなどがゲオルを中心とした街で働く魔法使いの者たちのよって設置され、街が興奮の渦に巻き込まれて行く中、光はいつも通りパン屋の仕事を夕方までこなしていた。街中の人がロックフェスを楽しめる様にエラノダが『フェスの日、街中の店は必ず夕方6時までに閉店する事』という決まりを作っているので野外ステージ以外の照明は消え、全ての店で『準備中』札がかけられていた。ただそれでも気分を盛り上げようと屋台を出している商人がいたりした、これに関してはエラノダも盛り上げ要因として容認していたので皆喜んでいた。 フェスなので競い合いをするものではないのだがバンド達の気合が故の熱気がムンムンとしていて体感温度が気温を大幅に上回っていた。 このフェスには決まりがあり各組オリジナル1曲、そしてカバー1曲の合計2曲を演奏する事になっていた。それを聞いてか焼き肉店の板長には心配事があった。 先日メンバーを組んだばかりの林田親子とヤンチのバンド、組んで間もないのにオリジナルで作詞作曲と練習を行い無事成功できるかが心配だったそうで光に相談を持ち掛けてきた。板長「私は音楽は全くなのですが、俺はヤンチの親みたいなもんなので楽器の経験があるのは勿論知っているのです、ただ作詞作曲の才があるかどうかは無知でして・・・。それに組んで間もないので練習も間に合ってないのでは・・・。」光「ヤンチさんは今まで沢山の苦悩を乗り越えた方ですよ、今回だって何とかなりますよ。」 板長の心配をよそにロックフェスが始まり、最初はパン屋の鳥獣人兄妹とナルのバンドがステージに出てきた。観客たちの興奮が最高潮に高まって来た所で1曲目の演奏が始まる。皆手に汗を握り涙が出てくる、声援が止まらない。そんな中王様3人と将軍達が変装したバンドがステージに立った。その瞬間大隊長と小隊長、そして将兵達が護衛の為フェス会場を囲もうとしていた、これではせっかくの変装の意味が無くなってしまう。そこでゲオルが全員を普段着の姿に変え一般客と何ら変わらないようにした。ステージ裏にいたエラノダは勿論知らなかったが王国軍は色々苦労したようだ、ただ共にバンドを組む3人の将軍達には伝えられたらしい。将軍「皆・・・、気を遣わせてすまない。」 そんな事もつゆ知らず、エラノダは1曲目
-㊱違和感の世界で・・・、え?- パン屋での仕事を終わらせた光は街中を少し散策して帰ることにした、いつもさり気なく通る道を改めてゆったりと歩いてみると何かしら発見がありそうでワクワクしてくる。 先日、呑み会を行ったパン屋の裏通りを少し歩いてみよう。テラス席が沢山ありカレーハンバーグが人気のコーヒー専門店や東京の浅草にありそうな風格のある老舗っぽいカレーが人気のメイド喫茶、そして元々賄いだった裏メニューのカレー茶漬けが密かな人気になっているインドカレー専門店など日本にあっても違和感ばかりの店が並んでいた。 川に座敷と半分に切った筒を設置して「流しカレールー」をやっている店もある、ただ利用してもなかなか掴めないので客足が遠のくばかりで次の策を考えている様だ。 いつ考えていつ作ったのだろうか、蛇口を捻ればオレンジジュースやカルピス、焼酎、生ビール、そして変わり種としてカレールーが出てくるお店も発見する。ただこのお店、お水が出てくる蛇口は無いらしい。光「か・・・、カレーばっかりじゃん・・・。」 様々なお店の前を通り少し引きながら散策して行った、店員さんがいたら確実に店に引きずり込まれる。しかし、今は何となくカレーの気分ではない。 行き止まりになったので来た道を戻り街の中心部へと戻ることにした、鬱陶しい位に嗅ぎ飽きたカレーの匂いに包まれゆっくりと歩く。 先程通った蛇口のお店で見覚えのある女の子がご飯片手にカレーの蛇口の前にへばりついていた、またカレー茶漬けばかりを沢山頼んで他の料理も食べて欲しい一心の店主を泣かせている見覚えのある男の子もいる。老舗っぽい店で両脇に種類の違うルーを持つメイド2人を従えひたすらカレーをがっつく見覚えのある女性、そしてスプーンの代わりに中華料理で使う蓮華で流れるカレールーをすくおうと必死になる見覚えのある男性。ただとろみがあり中々流れてこない上に流れてきても蓮華では全て取れない。因みに「大き目のおたま」はオプション料金らしい。 しかし今着目すべきはカレールーのとろみ加減やオプション料金のおたまではない、カレーを食べている人たちを先日どこかで見たことがあるという事だ。全員が私服なので違和感が勝り正直誰なのか思い出せない、光はカレールーを必死に取ろうとしている男性に見覚えのある服装を頭の中で着せてみた。光「えっと・・・、まさかね・
-㊶ギルドにて- 3国間で結ばれた『魔獣愛護協定』の影響で冒険者ギルドでは他の冒険者に混じり王国軍の将軍達が毎日警戒をしている、警察も協力してこの協定を全ての冒険者が大切なルールとして守ってくれるようにセキュリティを万全としている。その対策の1つとしてギルドマスターの認可のもと、刑事のドーラが看板娘兼受付嬢を務める様になった。ドーラが働く受付には「『魔獣愛護協定』により魔獣から剥ぎ取った素材や肉、魔獣の死体、そして各種罠で捕獲した魔獣自体の買取はお断りさせて頂いておりますのでご了承ください」と書かれた大きな看板を掲げてもいる。 一応、出入口には「警察官巡回時立寄所」の立札を掲げていて、真実なのだが一部の冒険者が疑ってしまっている。ただ冒険者たちに警戒されないようにドーラや将軍達は粗悪な者たちがうろついていても平然を装う様にしていた。冒険者「お姉ちゃん、嘘ついちゃいけないよ。今日1日いるけど警察官なんて1人も来ないじゃん。」 ドーラは体を微細に震わせながらも笑顔で対応しているドーラ「何を仰っているんですか、私だって警察署の方々がいついらっしゃるか分かりませんし毎日制服を着た方々が来られるとは限りませんから。まあまあ気にせずゆっくりと呑んで行って下さいよ、あなた方のパーティーには隣国のギルドマスターから賞賛のお手紙と特別報酬が出ているので今日は私に1杯奢らせて下さい。」冒険者「嬉しいね、お言葉に甘えさせてもらうよ。」 ドーラはほっと一息つくと通常業務に移った。農民や住民、他国から来ている行商人などから毎日多数の依頼が冒険者ギルドに寄せられているのでそれらを振り分けたり斡旋したりなど大忙しだ。それに光と同じで就職の為だという人が多数なのだがギルドへの登録希望者も後を絶たない、ただこれは平和だという証拠だ。 そんな中、後ろに並んでいたどこからどう見ても『ヒャッハー!』なあの世界からやって来たように見える冒険者達が2人やって来た。どうやら兄貴分と弟分らしい。冒険者兄「お姉ちゃん、ここ冒険者ギルドだよなあ。僕達お願いがあるんだぁ。」ドーラ「何でしょうか、私で宜しければ承りますよ。」 ドーラはあくまで冷静に対応している。冒険者達は各々のアイテムボックスから大量の荷物を取り出して言った。他国での依頼で討伐したのだろうか、全て魔獣の死体だ。そう、この国ではご法
-㊻輝く日・中編- 2国の王族を巻き込んだ結婚式当日を迎え王宮横の教会には街中の住民が教会に集まり2人の結婚の式典を今か今かと待ちわびていた、林田親子も駆けつけ警備体制はばっちりだ。 光はネスタやローレンと合流し、数時間前からギルドの一角で焼き肉屋の板長の協力を得て披露宴に出す料理の準備を行っていた。 野菜や穀物はガイの畑から、その他の材料や飲み物をゲオルの店から提供する事になったので焼き肉屋の女将が特別に仕入れた肉類と合わせて調理していく。 披露宴でナイフを入れるウェディングケーキは花嫁のキェルダの希望でパン屋でラリーとヤンチが用意する事になった、ウェアウルフとウェアタイガーで何とか協力してくれればいいのだが。 ギルドで披露宴の飾りつけが着々と進んでいく中、教会ではアーク・ビショップのメイスによる祭事での式典が始まろうとしていた。光は盛り付けまでを急ピッチで進め新たに『作成』した『保管』のスキルで出来上がった料理を保管し、ナルと合流すると教会へと駆け足で急いだ。 教会に入ると参加者たちが着席し静かにその時を待っていた。メイス「お待たせ致しました。新郎・ニコフ・デランドの入場です!」 扉が開き、いつの間にか練習していたネフェテルサ・ダンラルタ両王国軍の鼓笛隊による入場曲の演奏が始まった。ただ、入場曲は入場曲でも某有名芸人がプロレスラーのモノマネをする時の「あの曲」だ。光「ははは・・・、誰の趣味?」ネスタ「うちの人だよ、恥ずかしくてしょうがないね。結婚式を執り行う教会の雰囲気に全く合わないから笑えて来るよ。」 教会の外で林田警部がくしゃみをした。林田「うう・・・、さぶっ。友人の晴れ舞台の日に風邪引いちまったかな・・・。」ニコフ「ふっ・・・、あいつめ・・・。」エラノダ「ははっ・・・、良い友人を持ったな、ニコフ。いや、デランド将軍。」 ニコフは少し微笑みつつも林田警部の演出を鼻で笑いながら王宮のメイド長と時間をかけて選んだ衣装の軍服を身に纏いエラノダの先導で入場した。 エラノダとニコフが入場を終えると、拍手が静まり返った。メイス「続きまして、新婦のキェルダ・バーレン改め、キェルダ・ダンラルタの入場です。」 キェルダに依頼され光が選んだ入場曲を鼓笛隊が奏でる、ダンラルタ側の鼓笛隊は鳥獣人族の集まりなので飛びながら演奏する。日本で「着うた
-96 ご飯のお供②- 温かな朴葉味噌を熱々の白米に少しずつ乗せご飯を楽しむ一同、そんな中林田が懐で何かをごそごそと探し始めた。林田「次は私がご紹介させて頂いて宜しいでしょうか、ゲオルさんのお店でこれを売ってたので助かりました。」 林田は懐から小瓶を取り出すと嬉しそうに中身を自ら用意した小皿に出した、誰もが食べた事があるであろうメンマの「やわらぎ」だ。林田「そのまま食べても美味しいのですが、これを胡瓜キムチと混ぜても食感が良くてご飯にピッタリなんです。」 小皿とは別に少し大きめの器を用意し、胡瓜キムチとやわらぎを混ぜて振舞った。シャキシャキの胡瓜と柔らかなメンマがバランスよく混ざっている。メンマに和えられた辣油が味のアクセントになってご飯を誘い、それにより光と結愛はずっと箸が止まらなかった。結愛「アクセントの辣油がキムチの味を引き立てていますね、今日ご飯足りますか?」光「一応2升は用意しているんですが追加注文しないとダメかもしれませんね。」 光と結愛、そして羽田や林田のご飯のお供の時点で用意をしていた半分の1升が無くなろうとしていたので実は焦っていた。念の為、今現在もう半分の1升をお釜で炊いている状況だが無くなるのも時間の問題だろうか。林田のやわらぎ入り胡瓜キムチの出現は一同にとって大きかった、光は『瞬間移動』を利用して地下の貯蔵庫から追加の米を持って来る事にした。念の為に2升程追加を用意し、食事に戻った。 すると、家の入口の辺りから聞き覚えのある男性の声がした。男性「林田さん、林田さん?いらっしゃいますか?来ましたよー。」 その声に返事をする林田、ただ口の中には米が残っている。林田「ああ・・・、待って・・・、ましたよ・・・。裏・・・、庭に・・・、どうぞ・・・。」光「あれ?どなたか呼んだんですか?」林田「ごくん・・・、失礼しました。光さんもお会いした方ですよ。」男性「こんにちは、お久しぶりです。」 優しい笑顔で見覚えのある男性が裏庭に入って来た、この異世界で車を購入したお店の店主・珠洲田だ。珠洲田「光さん、お久しぶりですね。林田さんにご招待を頂きまして来させていただきました。私も皆さんと一緒でご飯が大好きなんです。」光「お久しぶりです、レースの映像でお見かけしましたよ。」珠洲田「これはこれはお恥ずかしい、まさか見られていたとは
-91 空からの来客- 宴が続く中、月の輝く星空から大声が響き一同を騒然とさせた。声「この私を差し置いて、皆さんだけでお楽しみとは何事ですか?」光「な・・・、何?!」 全員が飲食をやめ空を見上げた、見覚えのある1頭のコッカトリスが3人のホークマンを連れて地上へとゆっくりと舞い降りた。背には軽装の男性が2人乗っている、林田が逃げる様にして家の中へと駆けこむ。林田「ま・・・、まずい・・・。誘うの忘れていた。」 舞い降りたコッカトリスが背に乗っていた2人を降ろし人の姿へと変わる、ダンラルタ国王であるデカルトだ。横にはホークマンである甥っ子と姪っ子が3人共揃ってお出まししている。姪っ子が背から降りた男性と軽くキスを交わす。甥っ子達はウェアウルフと取り皿を持ち、焼肉を取りに行こうとしていた。デカルト「2人も乗せていたから疲れましたよ、と言うかのっちはどこですか?」ネスタ「のっち・・・?ああ、ウチの旦那ですね。さっき家の方に走って行きましたよ。」デカルト「奥さん、かしこまらないで下さい。我々はもう友達ではないですか。」林田「そう仰って下さると助かります!!」デカルト「またそうやってかしこまる、やめろと言っただろのっちー。」林田「人前だから、それにのっちはダメだって。」 2人のやり取りを数人の女性がヒヤヒヤしながら聞いていた、1国の王に何たる態度を取っているのだと言わんばかりに。その内の1人であるドーラが質問した。ドーラ「お義父さんと国王様、いつの間にそんな関係に?」デカルト「これはこれはいつぞやの受付嬢さんではありませんか?まさかのっちの娘さんだったとはね。」林田「たった今俺の息子と結婚したんだよ、だから義理の娘ね。」 横から聞き覚えのある女性が口の中で黒毛和牛をモグモグさせながら声を挟んだ、その声には光も懐かしさを感じている。女性「じゃあ私達と一緒で新婚さんって訳だ。」 声の正体は先程キスを交わした女性ホークマン・キェルダだ。光「キェルダ!!久しぶりじゃない!!」キェルダ「ついさっき新婚旅行から帰って来たのよ。」光「えらく長めの新婚旅行だったのね。」キェルダ「あんたは暫く仕事を休める位稼いだみたいじゃない。」光「流石、言ってくれるじゃん。」2人「あはは・・・。」 2人が談笑している中、バルタンの兄・ウェインとホークマンの弟
-86 超新鮮で大胆なBBQ- ガイの軽トラで1頭買いした黒毛和牛を林田家の裏庭へと運ぶと、今か今かと待つ人々が歓声を上げていた。その中には光が招待した結愛社長もいる、現場には大きなまな板と綺麗な包丁などが並べられ解体の準備がされていた。 丁度その頃、焼き肉屋の御厨板長と板前をしているウェアタイガーのヤンチが到着した。御厨「今夜はご招待頂きありがとうございます、ただ私達も召し上がって宜しいのでしょうか。」光「勿論です、お2人も楽しんで行って下さいね。」ヤンチ「さてと・・・、早速解体していきますか。」女性達「私達も是非手伝わせて貰おうかね。」 声の方向に振り向くとエプロン姿をしたネスタ林田、そしてまさかの貝塚結愛がいた。ヤンチ「お2人さん・・・、本気ですか?」ネスタ「あら、私はドワーフだよ。舐めて貰っては困るね。」 昔からドワーフの一族は身のために色々な技術を何でも習得するという伝統があった、牛肉の解体技術もその1つだ。ヤンチ「でも何で社長さんまで?」結愛「実は私も見分を広げる為にドワーフの方々から勉強させて頂いているんです、牛肉の解体もその1つです。」ネスタ「では早速やりますかね。」 鮮やかな手つきで3人が解体を進めていく。骨と骨の間に包丁を入れていき、スルッと肉が剥がされていった。結愛「さてと・・・、最初から贅沢に行きましょうか。鞍下、肩ロースです。丸々1本だからとても大きいでしょう。」光「涎が出てきちゃってるよ、早く食べたいな。」御厨「さぁ、焼肉にしていきましょうか。」 結愛から受け取った大きな塊を御厨が丁寧に肉磨きと整形をして焼肉の形へと切っていく。20kgもの塊が沢山の焼肉へと変身した。御厨「では、焼いていきましょう。ヤンチ、すまんが整形を頼む。」ヤンチ「あいよ、プロが2人もいるから解体は大丈夫そうですもん。」 御厨が炭火の網の上に肉を乗せ焼いていった、そこら中にいい香りが広がる。光「この匂いだけでビールが行けちゃいそう。」御厨「さぁ、焼けましたよ。塩と山葵でお召し上がり下さい。購入されたご本人からどうぞ。」光「塩と山葵がお肉の甘みを引き立てて美味しい!!」 光がビールを一気に煽る、何とも幸せそうだ。作業中の結愛やネスタ、そして焼き肉屋の2人にも振舞う。結愛「たまりませんね、ビールが美味しい。」光「今日
-81 集合- 魔学校長のマイヤは林田を許し、早速持ち帰った映像やマイヤの発言が証拠として使えるかを皆で確認しようと提案した。光明「まずはこちらをご覧ください。」 マイヤが義弘と思われる覆面男に催眠術を掛けられた場面だ、催眠術を掛けられマイヤが自らの手で書類を書き換えたあの場面。マイヤ「ノームを含む私達アーク・エルフの一族は催眠術に強い特殊スキルを祖先からの遺伝で持っているのですが、まさかその長たる私が・・・。」ドーラ「じいちゃん・・・、思い出したくないなら無理に思い出さなくていいよ。」マイヤ「いや、良いんだ。捜査に・・・、いやノームの仕事に協力出来るなら喜んでやるよ。」 映像内で書類を書き換えた後、マイヤがぐっすりと眠っているのが何よりの証拠だ。 次に鏡台にあったもう一つのカメラで撮影した映像を再生した。光明「これはマイヤさんが鏡台に仕掛けてあるもう一台の監視カメラの映像です、少し音が小さいので最初の映像から音声を抜粋してありますが勿論同時刻に同じ場所で撮影された物ですので問題は無いかと。」 暑さが故に義弘が覆面を取った場面を再生した。結愛「義弘が・・・、あれ程の魔力を・・・。」林田「しかし、いつの間に魔力を得て催眠術の修業を行ったのでしょうか。」マイヤ「原因はリンガルスにあると思われます、きっと短期間ではありますがリンガルスの下で修業したからだと思われます。また、無理矢理な方法で魔力を引き出したのかと。」結愛「しかし・・・、ただの魔学校の職員がどうして?」マイヤ「理事長、恐れながら申し上げます。リンガルスは大賢者なのです!!」林田・ドーラ・結愛「大賢者?!」結愛「・・・、って何ですか?」羽田「これがデジャヴってやつですか?」光明「以前にもあったんですね・・・。」 確かに以前にもあった会話だ、ただ重要なのはそこだけではない。義弘が大賢者の力を得たのはマイヤに催眠術を掛ける為だけなのだろうか。光明「そう言えば、レースの方は?」林田「テレビをつけますね。ただ・・・、爆弾処理の方が心配ですね。」男性「それなら安心して下せぇ。」林田「その声は・・・。」 林田が聞き覚えがある声に振り向くとそこには結愛や利通と共に競馬場に仕掛けられた爆弾の処理に向かったダンラルタ王国警察の爆弾処理班がいた。プニ「おやっさん、安心して下さい
-76 リンガルス- パルライは羽田からSDカードを受け取るとカメラに挿入しより強力な魔力を込め始めた。羽田「あの・・・、パルライさん?」デカルト「パルライはネクロマンサー、リッチの下で修業した魔法使いなんです。ネフェテルサ王国の警察署には今彼の師匠も来ているのですよ。」 そうこうしているうちにパルライが作業を終え、一息ついた。パルライ「よしっ・・・、終わりました。見てみましょう。」 カメラの小さい映像を3人の大人が凝視する。3人「こ・・・、これは・・・。」 映像では黒い覆面をしたリンガルスと思われる人物がパソコンで何かを編集している。デカルト「拡大出来たらな・・・。」パルライ「やってみますか。」 パルライが魔力を込め、パソコンの映像がくっきりと見えるまで拡大した。「首席入学者」の文字の下にある「梶岡浩章」の文字を消して「リラン・クァーデン」に変更していた。パルライ「確定ですね。」デカルト「待て、どこかへ向かうぞ。」 覆面男は書類を印刷してそそくさとパソコンの電源を切ると部屋を出た。羽田「この建物には魔学校長の部屋があったはずです、それと主要警備室。」パルライ「そこに行きましょう。」 3人はパルライの魔法で主要警備室に『瞬間移動』するとそこには警備員が3名いたのだが全員眠ってしまっていたので羽田が慌ててたたき起こした。羽田「しっかりしろ、警備はどうしたんだ!!」警備員「えっ・・・?痛た・・・、羽田さんじゃないですか。どうしてここに?」羽田「首席入学者が何者かによって改ざんされてんだよ、しかもただ事じゃない!!首謀者の1人が義弘なんだよ!!」警備員「何ですって?!大変じゃないですか!!ただ俺達は覆面をしていた奴が後ろから近づいてきてからどうやらずっと眠ってしまっていたらしく、記憶が無いのです。」 こっそりと『審議判定』の魔法を使用していたパルライが首を縦に振る。パルライ「本当の事を言っている様です。警備員さん、恐れ入りますが少し場所を開けて頂けませんでしょうか。」警備員「あの・・・、失礼ですがどちら様ですか?」羽田「バルファイ王国とダンラルタ王国の国王様方だ。」警備員「申し訳ございません!!どうぞ!!」パルライ「そ・・・、そんな身構えないで下さい。堅苦しいの苦手ですので。では、やりますよ。」 パルライが魔力を流
-71 捜査が続く中- 林田の『連絡』による電話に驚きを隠せない刑務所長に林田が質問した。刑務所長(電話)「都市伝説の通り・・・。」林田「今はそんな事言っている場合じゃない、お前の所に貝塚義弘がいただろ。パワハラ等で捕まった貝塚だ。」刑務所長「あいつなら逮捕された次の日に重岡とかいう投資家が保釈金を払って速攻出て行ったじゃないか、全国でニュースになっていたぜ。」 林田がただ度忘れしていたのだが、刑務所長が改めて言うには義弘の指示で保釈金を支払った重岡が車で義弘を県外の山奥に連れて行くとそこからは2人とも音信不通となったとの事で、新たな悪だくみを行っていた可能性があった。そこで結愛と光明、そして羽田を含む多くの黒服達が突然消えたと聞き、何らかの方法で追って来たかもしれない。林田「因みに結愛さんはどうやってこの世界に?それとここに来てからはどうやって?」結愛(無線)「これも数年前の話です、日本で忙しくしていた私が久々のゆったりとした休日を光明と楽しんでいた時、突然私たちの目の前に幻覚の様な竜巻が現れてそこにいた全員が吹き飛ばされたんです。そのあと目が覚めたらこの世界に。『作成』のスキルもその時知りました、それから少しの間バルファイ王国にある魔学校に通いながらこの世界の事を少しずつ調べて行ったんです。それから貝塚財閥の教育支援の一環として『転送』で持って来た財産の1部を寄付してネフェテルサ王国の孤児院を貝塚学園の小分校に、またバルファイ王国の魔学校を高等魔学校と貝塚財閥の支社にさせて頂いているのです。因みにレースの収益でダンラルタ王国に分校を建設する予定でした。」林田「なるほど、それは我々にも学園を守る義務がありますね。」 その守るべき学園に義弘の魔の手が触れようとしているかもしれない、それは流石に防がなければならない。 その頃、未だトップが⑨番車のまま遂に100周目を迎えようとしているレース場の脇にあるとある施設でバルファイ王国軍の将軍達がひっそりと1人過ごしていた国王を説得していた。バルファイ王国にあるホームストレート横には国王本人が自らの分身を忍ばせていた、分身と言えど思考等が本人とそのまま繋がっているので各々の場所に国王のオリジナルが存在している様な状態となっている。ただ分身は空の鎧に魂を魔力でくっつけているだけのもので、それが仮の姿として一
-66 一方で- 恋人たちが現場に戻って来たのはプニ達が爆弾を『処理』し終えてから十数分経過してからの事だった。2人は口の周りが不自然に明るく光り表情が少し赤くなっている、髪が少し乱れているのは言うまでもない。プニ「お前ら・・・、ううむ・・・。」 プニは仕事を再開すべきだと気持ちを押し殺した、何をしていたかだなんて正直想像もしたくない。 ただ林田警部が無線の向こうで呆れ顔になってしまっているのは確かだ、幸いケルベロスやレッドドラゴン達は気付いていないらしくその場を何としても納めなくてはと冷静に対処する事にした。 プニの無線機から林田警部の声が聞こえる、どうやら恋人たちは無線機の電源を切っていたらしい。林田(無線)「利通君・・・、そしてノーム君・・・、君らが無線機の電源を切ってまで2人きりになりたい気持ちは私も大人だから分からんでもないが・・・。」ドーラ「そんな・・・、照れるじゃないですか。」林田(無線)「ぶっ・・・。」 ドーラが林田に何をしたかはその場の全員が分からなかったが何かしらの攻撃がなされたらしい、多分ビンタに近い物だろう。取り敢えず林田は偶然を装う事にした、どう頑張ってもドーラが何かをした証拠が見つからないのだ。林田(無線)「失礼・・・。さてと、爆弾の方はどうなっているかね?」ドーラ「お父さ・・・、いや警部、1つがコインロッカーの中に見つかりました。爆弾処理班の方々によるとまだ複数個隠されているかとの事です。」林田(無線)「ノーム君・・・、まさかこの言葉を言う事になるとは思わなかったが、君にお父さんと呼ばれる筋合いは無いよ。取り敢えず見つかった爆弾はどうしたのかね?」利通「えっと・・・。」プニ「見つけた1個は俺達で処理したっす。」ケルベロス①「ただ競馬場内から爆弾の匂いがプンプンしますぜ、林田の旦那。」 相変わらずのキャラを保っているが仕事はしっかりと行っているので文句は言わないでおくことにした、別の者達には日を改めて。 一方、銃刀法違反の現行犯で逮捕した犯人をネフェテルサ王国の警察署に巡査が輸送し、それに合わせ警備本部にいた林田警部が一時的に署に戻り取り調べを行った。犯人によると自分は金で雇われただけだと言う、真犯人からは電話での指示を受けていたが非通知での着信だった為番号は知らないそうだ。そして分かった事がもう1つ、
-61 昨日の敵は今日の友と言うが- 3位グループの3台は今までずっと共に走っていた為か、いつの間にか絆が生まれていた。④ドライバー「お前ら、大丈夫か?!悪かった!怪我してないか?!」⑫ドライバー「こちらこそ悪い・・・、あそこで俺が無理に妨害していなかったら・・・。⑧番車の野郎は・・・、無・・・。」⑧ドライバー「野郎じゃないわよ、失礼ね。」⑫ドライバー「そうか・・・、悪かった。怪我は無いか?」⑧ドライバー「私は大丈夫、とりあえずレースの邪魔にならない様に端に避けていましょう、奇跡的にも1台が通れる位の空間は空いてるみたいだからレースに問題は無いと思うわ。」⑫ドライバー「とにかく怪我が無かったらそれでいい、レースはまたの機会に参加すればいいさ。とりあえず端に・・・。」 どこかで会話を聞いていたのか実況のカバーサが一言。カバーサ「お2人さん、良い雰囲気ですがレース自体は一時的に予備のルートを使って続行していますのでご心配なく。」⑧ドライバー「そうなの?・・・って、アンタどこで聞いてんのよ!!」 ⑧番車のドライバーに追及されるとカバーサは慌てて胡麻化した。カバーサ「おや、1匹のコッカトリスが車番プレートを両手に持って自らコース飛んでますよ。えっと・・・、こちらは④番車のドライバーさんですか?」④ドライバー「俺は・・・、死んだ⑧番と俺を気遣ってくれた⑫番の為に・・・、それと自分達の為に完走だけでもするんだ・・・!!」⑧ドライバー「失礼ね、私まだ死んでないわよ!!」 ⑧番車のドライバーによる適格なツッコミにより一瞬会場は湧いたがレースの主催者から通達が出たのでカバーサが伝えた。カバーサ「えっと・・・、④番さん・・・、気合には皆が感動していますがお車で走っていませんので事故での失格は取り消されませんよ」④ドライバー「えっ・・・。」カバーサ「だから言ってるでしょ、あなた失格。今すぐコースから立ち退かないと私が自らピー(自粛)しますよ。」④ドライバー「は・・・、はいー・・・。」 ④番車のドライバーは諦めて地上に降り立つと人間の姿に戻ってから徒歩で戻って行った、背中にはとても哀愁を感じるが少し震えてもいた。カバーサ「まぁどう考えても距離的に無理なんですけどね、本人自ら立ち退いて下さったので良しとしましょう。あ、くれぐれも私は脅してませんので
-56 レース開始直前だが- 光は出走表の場所をナルリスに聞き車券を購入しに向かっていた、まるで国民の祝日の様に老若男女が右往左往していて大混雑している。 先程1杯呑んだビールの影響か光はトイレに行きたくなったので車券売り場への道中で探すことにした。 トイレは意外過ぎるほど早く見つかり全く混雑していなかったので光はすぐに駆け込み用を済ませた。 トイレを出て車券売り場を目指す、ぷらぷらと歩いているとふんわりと優しい香りがして来たので近くを通った時少し寄ってみるかと意気込んだ。 何軒か日本に似た食べ物屋の屋台が出ている様でその内の1軒を覗いてみる事にした。光「『龍(たつ)の鱗(うろこ)』ね・・・、こんな名前の店あったかな。」 ただ一際行列が目立っており、その上光を誘った香りがその屋台からだったので光は一切迷う事無く飛び込んだ。 店の中では皆が一心不乱に丼に入った麺を啜っている。店主「いらっしゃいませ、お一人様ですか?お好きなお席へどうぞ。」 どうやらここはラーメン屋さんの屋台のようだ。他のお客さんが食べているラーメンはスープが綺麗に透き通った金色のもので、細麺。トッピングはカイワレ大根と何かを揚げているチップスらしい。(※作者が大好きなラーメンの1つです、店名は変えてますが。) カウンターにお品書きがあったのでチラリと見てみると「鯛塩ラーメン」の文字がある。光「『魚介ベースのスープで鯛の皮のチップスをトッピングした美味しいラーメンです』・・・か。」店主「お決まりですか?」光「あっ、鯛塩ラーメンをお願いします。」店主「少々お待ちください。」 屋台の隅に探していた出走表をみつけた。光「出走表頂いてもいいですか?」店主「勿論どうぞ、ラーメンが出来るまでゆっくり予想していて下さいね。」光「助かります。」 光は店の隅に行き出走表を1枚取って席に戻った、①~㉑までの車番の横にチーム名やホームストレートで行われた予選の計測タイム、スタートポジション等が書かれていた。光「確かポールポジション取った⑰ブルーボアが1番人気で、18kmのホームストレートはダントツ、ただガソリンの積載量が比較的少ない気がするな・・・。」 ピットでの給油は認められているがピットストップの回数が多いとその分逆転を許してしまう可能性が大きくなる。光「コーナリングの図を