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2. 「最強になるために」①~⑤

作者: 佐行 院
last update 最終更新日: 2025-01-21 11:29:30

2.「最強になるために~社長令嬢の青春奪還物語~」

佐行 院

-①序章-

 私立西野町高等学校、私服登校可能など自由な校風のこの学校に通う宝田 守(たからだ まもる)はまったりとした毎日を友人と共に過ごしていた。1コマ55分の授業を6コマ出席して幼馴染の女の子・赤城 圭(あかぎ けい)と帰る。それが守の日常。他の人と何ら変わらない普通の高校生。因みに、守と圭は同じ1年3組だ。

 比較的新しい5階建ての校舎に体育館やグラウンド、また食堂があって皆が各々の時間を楽しく過ごしていた。

 部活も勿論存在する。運動部や文化部、そして同行会、沢山ある。因みに守は帰宅部(面倒くさいから)、圭もそうだった。因みに運動部にはクラブハウス(部室棟)があった

 いつも昼休みは図書室で本を読んで過ごした。読書は大好きだ。自分ひとりの世界に入り込める。ゆっくりと本を読み没頭し、チャイムがなったら教室へと戻って授業。本当に普通の日常。

 放課後は必ず寄って帰る場所がある、学校の敷地の一角に佇む「浜谷商店(はまたにしょうてん)」というお店だ。歩いてすぐだから守だけじゃなくて西野町高校に通う生徒はみな好んで寄っている。ご夫婦で経営されているお店で皆顔なじみである。ある意味第二の両親と言っても過言ではない。今日はおばちゃんが担当らしい。

守「おばちゃーん、いつものー。」

おばちゃん「あいよ、あんたもこれ飽きないねぇ。いつもありがとね。」

圭「おばちゃんコーラ無いのー?」

おばちゃん「ごめんねー、裏見てきてもいいかい?」

圭「もう喉カラカラだよー、早くー、死んじゃうよー。」

おばちゃん「そんなんで死ぬわけないだろ、待ってな。」

 守は大好きなメンチカツとハムカツを頬張り、圭はコーラをぐいっと飲みながら歩いて帰る。それが僕たちの1日の締めくくりだった・・・、その時が来るまでは。

 3学期の終業式の日、事件は起きた。

 式を終えホームルームも終わり、守は圭と浜谷商店へと向かっていった。

守「あれ食わなきゃ1日が終わらねえよな。」

圭「ウチも早くコーラ飲みたーい。」

守「またかよ、お前好きだよなー。」

 いつも通り・・・のはずだった。

圭「ねえ・・・、あれ・・・。」

 浜谷商店のいつもは開いていた引き戸が完璧に閉まっている。貼り紙が一枚。

「お客様各位

 日ごろからのご愛顧誠にありがとうございます。

 突然ではございますが私情により閉店させて頂く事となりました。

 皆様にはご迷惑をお掛けし大変申し訳ございません。

 本当にありがとうございました。

そして西野町高校の皆さんへ

皆さんと過ごした時間や思い出は私たち夫婦にとってかけがえのない宝物です。

本当にありがとう・・・、楽しかった・・・。

                        浜谷信二・妻 博美 」

 突然過ぎて守たちは膝から崩れ落ちた。圭は涙を飲んでいる。圭のこんなの悲しそうな表情を見るのは小学生の時以来か。今日は買い食いしながら西野町高祭(文化祭・体育祭)や遠足などの楽しい思い出を語る予定だった。2年になると厳島神社に向かう修学旅行があり、その事も語る予定だった。それが出来なくなった。

 その情報は瞬く間に全校生徒へと伝わった。野球部員に至っては何故かわんこそばの食べ比べをしている生徒もいたのでわんわんと泣いている。

野球部員「俺まだ記録更新出来たはずなのにーーーーーー!!!」

 そこら辺にいた全員が「そこかよ」突っ込んだという。

 守も圭も同じように突っ込んだ。ただ場が和んだが浜谷商店が復活するわけではない。

 ただそこには以前とは違い真っ暗な建物がポツンとあるだけだった。

-②変化、そして異様-

 春休みが過ぎて守たちは2年生になった。

圭「今年も同じクラスといいね。」

守「嗚呼・・・、そうだな。」

圭「私、やっぱり出席番号1番かな」

守「そりゃそうだろう、名字が赤城だもんな。」

 そんな何気ない会話を交わしながらゆっくりと学校へと歩を進めた。

 学校につく前に浜谷商店の跡地に向かった。お店はすっかり無くなってしまい、そこには途轍もなく大きな豪邸が建っていた。

 豪華そうな彫刻の表札の名前は「貝塚(かいづか)」。

 守は「ふーん」と思いながら学校へと足を向ける。そんな守を圭が血相を変えて呼んだ。

圭「大変!早く来て!」

 守たちは校門へと走った。

圭「学校名見て!!」

守たちは目を疑った。場所を間違えたのかとも思った。

 『私立 貝塚学園高校』

 すっかり変わってしまっている。しかし校門に立っているのは確かに守たちの1年の時の担任だった湯村(ゆむら)先生だった。

湯村「おはよう、どうした、早く入りなさい。遅刻するぞ。それとも転校でもするのか?」

 湯村先生は冗談が好きだった、ただ決して面白かった訳では無かったが。しかし先生は生徒からの人気はあった。守も圭も先生が好きだった。

湯村「ほら、早く体育館に行きなさい。全校集会の後クラスが発表されるからな、楽しみにしとけよ。」

 言われるがままに体育館へと入る。何故かステージには玉座のような椅子が3つ置かれていた。守は友人の空口琢磨(からぐち たくま)を見つけ声を掛けた。

守「おはよう、どうなってんだよこれ。」

琢磨「よう、守か。俺も何も知らなくてよ。それに何故かこんなジャージを渡されたんだが。」

 そう言えば体育館に入る直前に名前を確認された後、守も圭も灰色のジャージの入ったビニール袋を渡された事を思い出した。周りを見回すと何人かはそれに着替えている。胸元には番号が書かれていた。まるで刑務所だ。よく見たら壁に「袋に入った服に生徒は全員着替えること」とあった。ちらほらと着替えを済ませた生徒が増えてきている。

 時間が経過し先生の始業式開始の号令があったので全員集まった。ただクラスが分からないので皆まばらに散っている。

湯村「そのままでもいいから聞いてくれ。皆気付いていると思うが今日から本校は『私立 貝塚学園高校』となった。新しく理事長に就任された貝塚社長の挨拶がある。よく聞くように。理事長先生、お願いいたします。」

理事長「ありがとう。皆さん、おはようございます。この学校を買い取り今日から理事長に就任致しました貝塚財閥の貝塚義弘(かいづか よしひろ)です。どうぞよろしく。

 えー、これから私が理事長を務めるにあたり、経費削減を兼ねた改善等を施し、この学校のレベルを最大限に引き上げようと思います。それにあたり、色々と廃止していこうと思います。

 まずはじめに「修学旅行等のイベント」です。皆さんにはこれから毎日徹底的に勉学に励んで頂くために高校時代という時間を最大限に使いたいので廃止することにしました。勿論、これは経費の削減を兼ねてます。

 次は「年4回の長期休み」です。この間に思い出作りをしようと勉学がおろそかになる生徒が毎年多数存在しています。これのお陰でどれだけ平均学力が下がったか。なので廃止させて頂きます。

 続けて「昼休み」です。これも時間の最大活用もありますが、実は脳の回転は満腹時より空腹時の方が良いとされていまして、そのことを活かすために学校敷地内を「飲食禁止」とします。なので、食堂や購買でのパンの販売、自動販売機を全て廃止します。勿論持ち込みも禁止です。校内全域に監視カメラやセンサーを設置していますので隠しても無駄ですよ。

 そしてこういった「式典」も全て廃止します、時間が勿体ないですから。体育館に全員が集まるのは今日が最後だと思ってください。その上で授業時間を1コマ60分にするとお伝えしておきます。各時間における休み時間を5分としますので移動等に使ってください。

 それと大学入試共通1次試験に必要な「6教科8科目」以外の授業も廃止していきます。徹底的に大学入試対策を行っていくためです。

 最後に「部活動」も廃止します。これは近日問題になっている教員の先生方の残業問題対策のためです。時間外労働を徹底的に削減して先生方に安心してお仕事して頂く為です。それにクラブハウスの維持費もかかるし。

 さて、浮いた経費を少し使って有名進学塾の講師の先生方をお呼びし、朝の7:00の早朝補習と夜の9:00までの放課後補習を実施していきます。

 では・・・、今日はこれで解散としますが、この後始まるのはホームルームではなく補習ですのでくれぐれもご出席いただきますよう。

 これからは宿題も増加すると思われますのでご容赦下さい。

 さてと今から1時間後にクラブハウスを取り壊しますのでそれまでに私物を各々の部室から避難させておいて下さい。解散!」

 その後「クラスを発表します!!」の一言で横断幕が貼りだされた。生徒の名前の横にはジャージの胸元の番号が書かれている。

圭「守、今年も同じクラスみたいだね、ただ・・・。」

守「ん?どうした?」

 明らかに圭の様子がおかしい。

圭「出席番号1番じゃないみたいなんだ。」

 ふと横断幕に目をやると2年1組の所に守達の名前があり、名前順では1番上のはずの圭の名前の上に「貝塚結愛(かいづか ゆうあ)」の文字がある、それに自分たちのように「番号」がない。不自然すぎる。

 そんな中、急いで私物を取りに行く沢山の生徒たち。

 これから守たちは、いや、この学校はどうなっていくのだろうか。不安を胸に教室に向かった。

-③騒動・困惑-

 「最後の」全校集会が終わり運動部の部員たちを中心にもうすぐなくなる部活動に所属する生徒たちが慌ただしく動き出した。何名かが気付いたようなのだがクラブハウスの前に大きな鉄球を吊るしたクレーンが2台、静かに刻々と近づく「1時間後」を待っていた。

生徒①「早くしろー、大変だ!!早くしないと俺たちの物がなくなっちまうぞ!!」

生徒②「折角親父に買ってもらったバットをなくしてたまるか!!」

生徒③「ウチもラケットずっと置いてるのに!!」

生徒④「サイン入りのゴルフクラブを失ってたまるか!!」

生徒⑤「あたしあれが無いと・・・、あの枕が無いと寝れないの!!!」

生徒①~④「枕置いてんのかよ、家でどうしてんだよ!!」

 余裕が少しあるのか何故かボケとツッコミが交錯している。一方その頃・・・。

 部活に所属していなかった守、圭、そして琢磨は新しいクラスとなった2年1組の教室へと走った。

琢磨「何はともあれ同じクラスになれてよかったな。」

 少し笑みを浮かべて走る3人。琢磨は至っては何故かこの状況を楽しんでいる様に見える。階段をのぼり廊下を左に曲がって一番奥が2年1組の教室だ。教室に着くとすぐに異変に気付いた。

「2年1組(結愛)」

 3人が見た看板には個人名の「結愛」に文字が。

守「どこかで見たことがあるな。」

圭「この名前・・・、確か出席番号1番の名前・・・。」

琢磨「この名前だっ・・・。」

女子「私(わたくし)の名前がいかがなされましたの?」

 突然琢磨の声をかき消した声の正体は守たちが着ているジャージとはかけ離れた衣装を身に纏った女生徒だった。今にもふんぞり返りそうである。

結愛「早くおどきになって、高貴な私をお通しにならないおつもり??」

圭「何よあん・・・。」

湯村「結愛お嬢様、大変申し訳御座いません。すぐに立ち退きますのでこの者らの無礼をどうかお許しくださいませ。」

守「先生何言ってんだよ!!こいつも俺たちと同じ生徒だろ!!」

湯村「こっちの台詞だ!!お前らこちらのお方をどなたと心得る!!我らの理事長であの年商1京円を誇る大企業貝塚財閥の貝塚義弘様のご息女、結愛お嬢様だぞ!!早くどけ!!」

結愛「先生大袈裟ですわ、私そこまで大した権限は持ち合わせておりませんのよ。では皆様ご免あそばせ。」

 そう言うと教室のなかで一際目立つように置かれた机と椅子のセットへと向かい静かに着席した。周りの席は他の学校と何ら変わらない学習机セットなのに結愛のだけは装飾等が派手に敷き詰められている。周りの生徒は勿論の様にざわざわとしている。

湯村「ではお嬢様、もうすぐ最初の補習が始まりますのでそれまでごゆるりとお過ごし下さいませ。」

結愛「感謝しますわ。御機嫌よう。」

 湯村先生は長い廊下をゆっくりと歩き職員室へと帰って行った。結愛は廊下の外の様子を伺っている。

結愛「先生は行きまして・・・??」

 周囲にそう一言尋ねる。全員が首を縦に振った、その瞬間・・・。

結愛「あーーーーーだりーーーー、やってらんねーーーーー!!!!あの親父大袈裟な事しすぎなんだよなー。皆ごめんよー。俺本当はこんななんだよー、大人の前じゃお嬢様キャラしてっけどよー、自分でも気持ち悪くて吐きそうなんだよー、ポテチー、ポテチ食いてー!!!」

 湯村が視界から消えた瞬間結愛は足を思いっきり広げぐでーんとした態度を取り、性格を一変させた。

生徒達「嘘だろうがー!!」

守「じゃあこの学校どうなってんの。」

結愛「え?ああ。俺と兄貴がこの学校に通うって言った瞬間に親父がこの学校を買い取っちまってよー、好き勝手しまくってんだよー、困ったもんさ。俺も兄貴も普通に高校生活を送りたかったんだよ、でも親父は実力主義だからどうしてもいい大学に進ませたがっててこんな事に、参ったもんさ。あ、兄貴来た、おーい、兄貴ぃー。」

兄「その様子だと周りには大人がいねぇって事か、助かるぜ。皆俺はかわいい結愛の兄の海斗(かいと)だ、よろしく頼むぜ。」

圭「シ、シスコンなんだ・・・。」

結愛「兄貴のクラスは上の階だろ、早く帰れよー。」

海斗「そう言うなって、コーラ買ってきたから許せよ。」

 結愛は海斗からコーラを受け取ると一気に飲食禁止のはずのこの校内で堂々とがぶ飲みした。とてもじゃないが「お嬢様」とは呼べない。

守「お、おい・・・、飲食禁止だろ、センサーとカメラがあるんじゃないのか。」

結愛「センサーとカメラ??ああ、あのちゃっちいやつか。センサーは俺と兄貴でとっくにぶっ壊したぜ、親父機械に疎いからカメラにはずっとおなじ映像が流れる様にして騙してんの。」

 結愛は衣服に似合わず工具をこちらに見せ自慢をしてきた。その時、外から大勢の足音が聞こえてきた。教室の入り口がばっと開きまさかのレッドカーペットが敷かれた。どうやら理事長だ。生徒は全員一先ず着席した。結愛と海斗を除いて。

義弘「結愛、海斗もいたか、丁度いい。後で海斗には後で伝えようと思ったが手間が省けたな。いいかお前ら、お前らはこの学校で最強を目指すんだ、一流の大学に入って勉学に励みいつか貝塚財閥を継いでもらわなければならん。」

結愛「分かっておりますわ、お父様。」

海斗「かしこまりました、お父様。」

 先程とは打って変わってといったところか。しかし昔からの習性からかお嬢様らしさ、御坊ちゃまらしさはあるようだ、きっと大人の前だけでだが。ただ周囲の生徒達はさっきの二人を見ているので数人が笑いを堪えていた。ギャップが激しすぎるからか。しかも二人とも飲んでいたコーラを背中で隠している

義弘「このクラスと海斗の3年1組は二人を最強にするためのものだ、他の生徒を蹴落としてでも最強を目指せ。さて補習までの時間お茶でもどうかな。」

結愛「ありがとうございます。お父様と飲むお紅茶大好きですの。」

海斗「私も同行しましょう。」

 生徒たちは嘘つけと全員思った。

それはそうと義弘は「蹴落としてでも」と言っていた。年商1京円クラスの大企業の社長は考えていることが違う、まさか子供の為に学校を買い取ってしまうとは。

 しばらくして、海斗と結愛が戻ってきた。まさかのぐでぐでモードで。

結愛「やってらんねーーーーー、俺紅茶嫌いなんだよ。やっぱコーラだよなー。」

 結愛はまたコーラをがぶ飲みする。コーラを飲み干すと声を上げて言い出した。

結愛「皆聞いてくれー、俺と兄貴はこの機会に親父から会社の全権を奪取しようと思ってんだ、協力してほしい、「最強になるために」な」

 結愛はにやりと笑った。

-④残酷な破壊と手紙-

 守や結愛たちが教室で最初の補習の準備をしていると、クラブハウスや校内の部室から私物をさせてきた「元」部員達が続々と帰ってきた。荷物が多い生徒や少ない生徒、中には高価な宝飾品を持っていたものもいた。結愛が宝飾品に反応していたので多分本物だろう、どこのブランドの物かは想像もできないがかなりの高級品そうだ。必要なのかどうかは正直分からないものが正直な気持ちでこれらを先生たちが見たらどういう反応をするのだろうか、特に湯村先生が。

 「以前」湯村先生には毎日決まって同じ食堂に食事を取りに行く習慣があった。自由な校風だったため、昼食を校外に食べに行っても大丈夫だった。守や琢磨もその食堂でちょこちょこ食事を行っていたので先生の事をよく見かけた。湯村先生本人は毎回同じメニュー「小ご飯とみそ汁」のセットをしみじみと噛みしめながら食べていた。小さめのお茶碗1杯のご飯と優しいお出汁の味が嬉しい温かなみそ汁。具材は豆腐と若布(わかめ)。そして店主自家製のお新香が付いて180円という価格。毎日そのセットを食べていた、ただ本人たちの給料日にはたまの贅沢にとポテトサラダや白身魚のフライといったおかずを一品食べる様にしていたらしい、本当にとてもうれしそうな表情をしながら。ただ、左手の薬指に指輪をしているので結婚はしているらしい、奥さんは忙しい人なのだろうか。もしくは高校生のおこづかい程度の価格で食事が提供されるこのお店で食事をしなければならない位厳しくされているのだろうか。しかし、詮索はよしておこう、いくら何でも本人が可哀そうだ。

 さて、そんな湯村先生が先程の宝飾品を見ると自分が教師であることを忘れる位の気持ちになってしまうのは明白。守たちも呆然と立ち尽くしていた。いよいよ義弘が言っていた「1時間後」が来ようとしている。

 まだ守たちは結愛を完全に信用している訳ではなかった。性格から見て結愛や海斗は義弘に反発している様だがやはり2人は貝塚財閥側の人間、いつ義弘側についてもおかしくはない。

守「お・・・、お嬢様?」

結愛「ああ、結愛でいいよ。」

守「じゃあ・・・、結愛?一つ聞きたいんだけど。」

結愛「何だよ。」

守「俺たちはどうやって結愛の事を信用すればいいんだ?仮にも貝塚財閥の人間だよな、出来れば信用できるように誠意なものを見せて欲しいんだが。」

結愛「そうだな・・・、じゃあ2つ見せるわ。」

守「2つ?」

結愛「とりあえずこっちに来てくれ。」

 全員を教室の一番後ろの監視カメラの下に集めると手元の工具入れから金槌を取り出し、カメラに向かってジャンプした。

『がっしゃーーーん!!』

 結愛は全員の目の前で監視カメラを破壊してみせた。配線もついで感覚で綺麗に切っている。

結愛「それと・・・。」

 結愛は全員の前で衣服を脱ぎ捨てた。下にはまさかの守たちと同じジャージを着ている。ただ番号が記載されていないが。

結愛「これじゃ駄目か??」

全員「十分だぜ結愛、歓迎するしこれからもよろしくな!!信用するぜ!!」

 遂に「1時間後」が来た。クラブハウス前に停車していた重機が動き出した。どごんという大きな音を立てクラブハウスを破壊していく。何名かは涙を流していた。ただ、「元」運動部ではなかった生徒達も涙を流している。琢磨が訳を聞くと泣いてた生徒が震えながら音楽室の方を指差した。

女生徒「あれ・・・、あれ・・・、見える・・・?」

 音楽室の窓が全部割られそこから炎が噴き出ている。よく見れば他の実習室等も同様に破壊されている。他のクラスから何人もの生徒が叫びながら走ってきた。

男生徒「大変だーーーー!!」

結愛「おい、落ち着けよ、大丈夫かよ!!」

男生徒「あの理事長どうなってんだよ、体育館まで破壊しやがったぞ!!」

 すると・・・、

海斗「大変だ、皆大丈夫かー?!結愛、無事かーーー?!」

結愛「兄貴!?どうなってんだよ!?」

海斗「俺もわかんねぇよ、訳わかんねぇよ!!」

 何気に海斗もジャージを着ている、どうやら結愛同様疑われたらしい。守たちは何となく申し訳なく思った。

守「お前らの親父って・・・。」

結愛「ああ、目的を達成するならどんなことでもやるんだ、ただまさかここまで・・・。」

海斗「維持費(経費)の削減かよ・・・チィッ!!」

圭「でもあいつ一人でここまで??」

海斗「いや多分・・・。」

貝塚兄妹「黒服だ!!みんな逃げろ、あいつらはどこまでも残忍だ!!最低でも俺たち2人は味方だ、危害を加えるつもりはない、お願いだから急いで逃げてくれ!!」

 全員、校舎の外に逃げると、部室系統のあった建物のみが全焼し、各クラスの教室のある建物のみが残されていた。男女関係なく生徒は皆泣いている。そんな生徒達をよそに校舎からチャイムが鳴り響く。そして生徒指導の飛井(とびい)の怒号が響く。

飛井「早く教室に入れ、すぐに補習が始まるぞ、補習は全員参加、出席率が低いと留年もあり得るから覚悟しろ!!」

 あんな火災の悲劇があったというのに先生たちは平気なのだろうか、まだ立ち直れない生徒もいるが全員校舎へと入っていった。その日の補習は本当に夜9:00までずっと続いた、焼け跡はそのまま残っていて酷いの一言だ。ただ補習が終わった頃には結愛の衣服は元通りに戻っていた。本人曰く、その恰好でないと家に入れないのだという。

結愛「俺と兄貴がジャージ着てたの内緒にしてくれるか?親父は何故かジャージが嫌いなんだ。」

 どうやら貝塚邸は無事らしい。多分義弘の予定通りなのだろうが。

守「分かった、帰るか。」

全員、各々の家路についた。

 守の家は学校から歩いて15分程のところにあり、寄り道や買い食いをしてもすぐに帰る事ができた。隣には圭の家がある。

圭「じゃあね。」

守「うん、お疲れ。」

 二人とも家に入った。

守「母ちゃんただいまー、ずっと何も食ってないから腹ペコだよー、晩飯何ー??」

 クタクタになった守に母・真希子(まきこ)が冷たく言い放った。

真希子「何言ってんのよ、あんた。こんな手紙が来たのに用意している訳ないじゃないの。」

守「手紙・・・?」

 守は真希子から「貝塚学園高校」の文字が書かれた封筒を受け取り、中の手紙を取り出して読んだ。

守「嘘だろ・・・。」

 守は手紙をストンと落とした。

保護者様各位

貝塚学園高校理事長

貝塚財閥 代表取締役

貝塚義弘

 学校名の変更と新理事長就任のお知らせ

拝啓 春暖の候、皆様ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。さて、突然でございますが、これからは貝塚財閥で西野町高校を管理させて頂く事になり、代表取締役である私貝塚義弘(かいづかよしひろ)が務めさせて頂く形となりました。これからは我々がお子様の勉学を支えさせて頂きますのでよろしくお願い申し上げます。簡単ではございますがご挨拶とさせて頂きます。

敬具

 まさかの形式ばかりの手紙が入っており、守は鼻で笑った。ただ、もう1枚手書きの物をコピーした簡単な手紙を見つけた。それにはこうあった。

 お子様の勉学の時間を確実に確保すべく、また脳の回転を確実に速い状態で保つため、お子様には一切の食事を与えないで下さい。脳の回転は満腹時より空腹時の方が良いとされています、そして1秒でも長く勉学の時間を確保するためにご協力をお願い申し上げます。

守「マジかよ・・・。」

真希子「凄い方が理事長になったんだね、私はあんたや彼に協力するから頑張るんだよ。」

 守は諦めて入浴することにした、そして鞄に手を伸ばす。中には美味そうなお菓子が数個入っていた。どうやら結愛が家から持ち出して皆の鞄に入れてくれたようだ。「少なくて申し訳ないが食ってくれ」との一言書いたメモと一緒に。

 守はそのお菓子を噛みしめる様に食べた。部屋の窓からは圭の部屋が見える。どうやら圭も同じ状態になったらしい守は確信した。

 「結愛は信用できる」、と。

-⑤疑問-

 補習で静まり返った校舎、先日の火災(というより義弘の黒服たちによる計画的犯行)で全焼した校舎は跡形もなくなっていた。養護教諭の乃木(のぎ)が当然とも言える質問を投げかけた。

乃木「理事長先生、少しよろしいでしょうか?」

義弘「どうした。」

乃木「育ち盛りとも言える生徒達に対して一切の飲食を禁ずるのは如何なものかと思うのですが。」

義弘「君は私の考えに、いや、私に反逆するのかね。」

乃木「いや、そんなつもりは。申し訳御座いません。」

義弘「構わないよ、そう思うのも無理はない。いや、養護教諭として当然の事だ。だったら人間がどうして空腹になるのかをご存じかね。」

乃木「食べて・・・、動くからです・・・。」

義弘「いいだろう、ではどこが動くからだ?」

乃木「全身ですか?」

義弘「いや、胃袋だ。人間が食物を食し、食道を通り胃袋に入った後、消化しようと動く。その時にカロリーを消費する、逆に言えば食さなければカロリーを消費しない。」

乃木「しかし女子は1日225・・・。」

義弘「女子は1日2250㎉、そして男子は2750㎉必要だ、しかしそう言った摂取を毎日のように続けるとどうなると思うかね。」

乃木「健康な・・・。」

義弘「健康?何をとぼけたことを言っているんだ君は。摂取を続けると起こりうるのは老化だ。」

乃木「でも昼休みをなくしてまで生徒が努力して夢を追うための栄養を奪うなんて・・・。昼休みをなくす必要は無かったはずでは?」

義弘「努力?夢?何を馬鹿な事を言っているんだ。大切なのはそんなものではない、数値と結果だ。そしてその数値たる結果を何が生み出すと思う、力だ。それも経済力と権力だ。世の中を動かしているのは何よりも金と運気だということを君も知っているだろう、乃木建設のお嬢さん・・・、それでもまだ努力や夢などと馬鹿な事をほざくかね、確か君の所は我が財閥の子会社だ、それに君が前回の赴任先で何をやらかしたのか、私が知らないとでもいうのかね、私が口止めしていなければ今頃・・・。」

乃木「では昼休みのけ・・・、いや申し訳御座いません。」

義弘「そのことも兼ねていずれは諸々を話すことになるであろうが、今は言えない。私が最強になり望みを全て叶えるために。」

 乃木はずっと震えていた。かなりの圧力をかけられている様だ。どちらかと言うと「3食しっかり食べましょう」と標語を出さねばという仕事をしているのに全然義弘の言葉に反論しようとせず、一切の食事を禁ずる義弘に賛同している様だった。そのせいかやせこけた生徒が目立ち始めている。しかし制服がわりの囚人服のようなジャージで体系が分かりにくい。

 今の態勢になってから数か月、相変わらず授業と補習のみの毎日の連続に慣れてきた頃、最近は週末に企業の摸試が校内で行われるようになり、また補習にきている講師の通勤している塾でも摸試を作成していたので生徒たちは毎日のように学校に通うようになっていた。摸試の日も当然の様に食事禁止、その上1日に複数の企業が作成した摸試を受ける日もあった。授業の内容も難しくなって来た上に余復習や日々増えていく宿題、摸試の反省などでバタバタと倒れていく生徒が後を絶たず、毎日のように救急車が来ていた。しかし、教師や講師に何を吹き込まれたのか全員次の日には無理やりにでも学校に来ていた。結愛の2年1組や海斗の3年1組の生徒達は2人のお陰で何とか生き延びていた。

守「なあ、結愛の親父さんって本当にお前が来たいって言っただけでここの理事長になったんかな。」

結愛「う―ん、親父って昔から影があったからな・・・。」

圭「「蹴落としてでも最強に」って言ってたね。」

琢磨「自分がなりたがっている様な言い方もしていたな。」

守「でも陰ってどういうことだよ。」

結愛「あそこに俺達の家があるだろ。」

 結愛は浜谷商店のあった方向を指差した。貝塚邸が佇む。

結愛「あの家な、親父しか入れない場所が沢山あって俺も全部を把握してねぇんだ、下手すりゃそこに秘密があんのかもな。」

守「ふーん・・・。」

 守はそこまで深くは考えずに会話を楽しんでいた、相変わらずの日常が幕を閉じようとしている。放課後の補習が終わった後だったので21:00過ぎで真っ暗な夜道を圭と帰って行った。海斗と結愛はいつも間にか大人の前用の服装に着替えて家に入っていく。ただ、後ろにコーラを隠し持って。それを見て守と圭はクスリと笑った。

 やはり結愛はこちら側の人間で、仲間だった。

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    最終更新日 : 2025-01-21
  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   2. 「最強になるために」⑪~⑮

    -⑪謝罪と協力- 以前結愛が改造した校舎各所に元から設置された監視カメラのハッキングに光明が成功したとの連絡が入ったので海斗と結愛は深夜光明の元へ向かった、兄妹も光明も同様の可能性を示唆していたのだ。念のため、結愛が光明に持ち掛けていた。-数時間前-結愛「光明、ちょっといいか?」光明「ん?」結愛「俺も兄貴も考えてたんだけどな。」光明「うん。」結愛「理事長室や出入口付近以外から親父が出入りしている可能性ってないのかなってよ。」海斗「壁に隠し扉・・・的な。」光明「それは俺も考えてた。」 その時、用を済ませ化粧室から出てきた琢磨が教室に入ってきた。琢磨「何の話だよ。」光明「ん?光明か・・・、実はな・・・。」 光明が琢磨に先程までの会話の内容を伝えた。琢磨「確か監視カメラって結愛が改造してたよな。」光明「実はそのカメラの解析と改造に成功したんだよ、ちょっと見てくれるか?」 光明はパソコンに映っている監視カメラの映像を見せた。光明「これは以前結愛が以前改造した監視カメラの映像だ。念のため、監視側には以前と同様に同じ映像がずっと流れる様にいじくってある、証拠を見せないとな・・・。」琢磨「なぁ、俺も協力できねぇか?」光明「いいけど、お前がいいなら。」琢磨「前に結愛の事を疑っちまったから、なんつぅか・・・、謝りたいというか・・・。」結愛「それは仕方ねぇよ、必ずしも起こりうる事だと俺も海斗も思ってたからな。俺たちは嬉しくねぇが『貝塚』だからな。」琢磨「お前ら『坊ちゃま』と『お嬢様』だもんな。」結愛「やめろよ、そう呼ばれる度に吐き気がするんだ。」海斗「俺も。」守「演技が上手いんだな。」圭「それ褒めてんの?」守「少なくとも俺はそのつもりさ。それにこれは使えるかもしれないだろ。」結愛「『演技』か・・・。」海斗「確か『あいつら』って・・・、だよな?」全員「確かに・・・。」 そこにいた全員が共感していた、ただ今は作戦会議が優先だ。琢磨「一先ず俺がどれかの監視カメラの前に行くわ、そこでだが無線機を通して誰か何かを俺に指示してくれるか?」光明「あいよ。」 琢磨は光明からスコープや無線機を受け取ると一番近くの監視カメラへと向かった、最寄りのカメラまではさほど時間がかかることなく到着した。海斗がカメラの方へ向く。結愛「少し遊ぶか?

    最終更新日 : 2025-01-21
  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   2. 「最強になるために」⑯~⑳

    -⑯立入禁止部屋- 先程の様なやり取りがあった後、伊津見はしゅんとしながらまたヘッドフォンを付け捜索をし始めた。どうやら光明はあまり良い所を言わなかったようだ、煽った3人も申し訳なさそうな顔をしていた。まさに『気まずい』という言葉がぴったりだった。 トイレから戻って来た光明の表情も同じようなものだった。伊津見「何か・・・、悪かったな。」光明「俺も・・・、すまん。」結愛「というか悪いのは煽った俺達だよな、悪い。」光明「取り敢えず作戦再開だな。」伊津見「うん、また今度飯でも行こう。」光明「そうだ・・・。」伊津見「みつもん、待ってくれ!」光明「ん?」伊津見「微かだがここだけ空気の流れが違う音がしたんだよ。」琢磨「そんなのも聞こえるのか?」光明「コンコンしてみるか。」 光明はドローンで以前の様に壁をコンコンした、すると一部の壁が一瞬だが横に動いた。光明「ん?引き戸か?結愛、開けるぞ。」結愛「うん、頼む。」 光明は隠れていた引き戸を開け部屋から出るようにドローンを動かした、その先には廊下の様なものが広がっている。洋風の壁紙に赤い絨毯が敷かれた床。左右に長いものが目前に広がっていた。海斗「どっちでもいい、ゆっくりと前進してみてくれ。」 ドローンを進めていく光明、深夜だから基本真っ暗なのだが偶に電気が点灯している所を見つけたので中の様子をある程度伺えた。そして大広間っぽい場所にある階段を見つけた瞬間・・・、結愛「すまん光明、ここからさっきの場所に戻れるか?」光明は電灯を頼りに先程の場所に戻ると、結愛「やはりか・・・、ここは1階の『立入禁止部屋』だ。そこに実は扉があるんだが全く動かなかったんだよ、そういう事か・・・。」海斗「畜生・・・、親父にやられたぜ。」橘「じゃあやはり家と学校が繋がっていてここが隠し通路って訳だったんだな。」琢磨「大きく一歩前進したな。」守「でも大切なのはここからだ」圭「進もう。」 光明は慎重にドローンを動かして行った、怪しそうな場所を知るため兄妹に案内をお願いすることにした。明らかに怪しいのは他の階にある立入禁止部屋なのでそれらを捜索していく事にした。まずは2階にある部屋を探すことに。大広間にある大きな階段を上るとまた廊下が広がっていた。そこをゆっくりと進む。奥の一角に階段を見つけた。守「この階段は

    最終更新日 : 2025-01-21
  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   2. 「最強になるために」㉑~㉕

    -㉑義弘のやり方- 結愛は誰にも気づかれないようにしつつも海斗に連絡していた、やはり時には兄貴を頼りたくなるもんだという事なのだろうか。誰かに相談したそうな素振りを全く見せていなかったので皆が勝手に強い人間なんだと勘違いしてしまっていたのではなかろうか。結愛「兄貴・・・。」海斗「ん?」結愛「今話せないか?」海斗「勿論大丈夫だ。」結愛「実はよ・・・。」 結愛は最近思っていることを海斗に打ち明けた、主に先日義弘の書斎で見かけた書類や書籍類についてだった。以前もこんな事があった様な無かった様な・・・。 義弘が彼なりに教育について真剣に考えてるのではなかろうかと思い始めた、それが故にしばらくは学校でも家でも可能な限り義弘の様子を観察しようと企んだ。結愛「以前、中学受験の過去問や資料を大量に調べて親父なりにプリントにまとめていただろ?デジャヴ的なものを感じてんだよ。」海斗「確か親父の秘密の書斎・・・、だっけ?えっと・・・、そこで見かけたってやつか。」結愛「あん時さ、物凄い量のプリントを押し付けられた事を思い出してよ、少し辛かったなー・・・、なんて。」海斗「分かるわ、これからこの学校もあんな感じになるのかな。」結愛「俺嫌なんだけど、皆を巻き込んじゃってあんな事したくねぇ。」海斗「毎日毎日テストが夜遅くまでで寝る間も無かったな。」結愛「俺普通の学校生活を送りたかっただけなのに・・・。」海斗「だから取り戻そうや、俺たちの高校生活を。」結愛「ああ・・・、うん・・・。」 海斗は別に相談する事が結愛にはあるのではないかと思えて仕方なかった、しかし今はやめておこう、最強になって学校生活を取り戻すことに集中するんだ。 一方、光明は秘密の書斎に仕掛けたドローンの映像をずっと見ていた。義弘が過去問を調べ尽くしていたあの時以来動きは全くない。代り映えのない退屈な映像が続く、ビルの管理人の仕事ってこんな感じなのかなって想像した。その時校内のスピーカーから声がした、義弘だ。すると結愛が耳を押さえながら入って来た、続いて伊津見も。義弘「皆さん、深夜の学園でいかがお過ごしでしょうか、理事長の貝塚義弘です。今から私自ら大学入試に向けた特別授業を開講しようと考えています、受講希望者は2階の特別教室までお越しください。」伊津見「うるせぇな、あいつ何時だと思ってんだよ・

    最終更新日 : 2025-01-21
  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   2. 「最強になるために」㉖~㉛ 後日談

    -㉖大株主の心の広さ- 結愛は『あのチケット』を握りしめて走ってやって来た、そして乃木先生に向かって頭を下げた。結愛「乃木先生、お願いします!このチケットをお父様に渡して使わせて下さい!」乃木「お嬢様、頭を上げて下さい。その私の父ならここにおりますよ。」結愛「えっ・・・?!」幸太郎「こんにちは、娘がいつも大変お世話になっております。」 幸太郎は優しく微笑んだ、結愛はギョッとしたがすぐに冷静になった。この人が自分達、いやこの学校の救世主だと思うと待ち望んでいた人が現れたと涙が溢れた。海斗は落ち着かせなきゃと結愛と肩を組んだ。結愛「あに・・・、お兄様。」海斗「今はそんなの気にすんな、取り敢えず落ち着け。申し訳ありません、少し席を外してもよろしいでしょうか。」幸太郎「勿論、どうぞ。」 暫くして気持ちを落ち着かせた結愛を連れて海斗が戻って来た、2人の手には『あのチケット』が握りしめられている。2人とも震えていた、しかしこの学校を何とかしなきゃという正義感が強くなり震えはすぐに止まった。幸太郎「現状を知りたい、黒服さん、事件現場にご案内をお願いできますか?」羽田「かしこまりました、こちらでございます。」幸太郎「因みに黒服さん、お名前は?」羽田「羽田と申します。」幸太郎「羽田さん、今の僕には貴方が頼りです。お手伝いをお願いできませんか?」羽田「全力を尽くします。」 全員が事件現場に到着した、遺体は葬儀屋が運び出した後だった。それ以外はそのままだったので事件の悲惨さを物語っていた。即座に事件の酷さを察知した幸太郎は自ら110番通報した、同じ内容だったので警察側はすぐに通話をを切った。現状を知った瞬間、幸太郎は頭に血が上ろうとしていて冷静さを保つことが困難になっていた。咄嗟に別の所に連絡を入れ始めた、相手はあの博だった。博(電話)「もしもし、ああ幸太郎さんじゃないか、珍しいな。」幸太郎「博さん、今どこにいる?」博「ハワイにいるんだが、ただ事じゃなさそうだな。」 幸太郎は事件について彼が知っていることの全てを打ち明けた。博「わしの孫達がそこにいるんじゃないか?」結愛「じ・・・、じいちゃん、俺親父の事信用出来ねぇ、あれを使うからな。」 幸太郎はチケットを渡そうとした結愛を静止し、大事に持っておくように言い聞かせた。この行動は自分の意志で

    最終更新日 : 2025-01-21
  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   3. 「異世界ほのぼの日記」①~⑤

    3.「異世界ほのぼの日記~日本に似て便利な世界でぷらぷら生活~」佐行 院-①突然の異世界- ここは東京、現在20XX年、去年からより酷く進みだした地球温暖化により7月8月における1日の平均気温が40度を超える様になってしまった今日この頃、営業職の女子社員・吉村 光(よしむら あかり)は営業先への外回りに出ていた。日差しがまぶしい、正午となり昼休み。1日の中でも1番暑い時間帯を迎え涼を求めて多くの人が喫茶店やレストランで食事を取っていた、光もその1人になろうと店を探していた。光「お腹空いたし暑くて何もする気しないよ、何食べようかな・・・。」 街は誘惑に溢れているがどこのお店も満席でなかなか食事にありつけない。そんな中、1軒の中華屋さんを見つけた。夏の風物詩となった『冷やし中華はじめました』の看板が出ている。ちょうどそこから男性が2人出てきた。男性①「いや、美味かったな。」男性②「そっすね、これで午後からも頑張れますよ。」光「羨ましいな・・・、あたしも冷やし中華にしよう。」 ひんやりと冷たい冷やし中華、細切りの胡瓜やハム、そして錦糸卵が乗っておりトマトが彩りを加える。横に添えられた練りからしが味のアクセントとなって美味な1杯を想像し光は店内に入った、涼を得たいという同じ考えの人間たちで賑わっており店の中は常に満席で4~5人ほど待ちが生じていた。このお店は回転率がいいらしく15分ほどで席へ案内されお品書きを見ずにすぐ冷やし中華を注文した、このお店ではポン酢だれか胡麻だれを選べるらしく光は胡麻だれを選んだ。女将さんに渡されたお冷が嬉しくて、光は4杯もお代わりしてしまった。女将「そんなに慌てて沢山飲むとお腹壊して冷やし中華が食べれなくなるよ。」光「暑くて仕方無いんだもん。それよりおばちゃーん、お腹空いたよー。」女将「『お姉さん』だろ、この子にはお仕置きが必要かもね。」光「勘弁してよー。」女将「冗談だよ、もう少し待ってな。」 暫くして注文した胡麻の冷やし中華がやって来た、光は麺に胡麻だれを絡ませ啜った。啜りきったその顔は恍惚に満ち溢れていた。瑞々しくシャキシャキの胡瓜が嬉しい、光は夢中になって食べていた。そこに女将さんがやって来て餃子の乗った小皿を置いた。女将「サービスだよ、あんたの食べ方が気持ちよくてね。食べていきな。」光「ありがとう、おば

    最終更新日 : 2025-01-21
  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   3. 「異世界ほのぼの日記」⑥~⑩

    -⑥心配する必要なかったじゃん- ドーラがどうしてびっくりしているのかを光は理解出来なかった。光「どうしたんですか?」ドーラ「すみません。あの・・・、恐れ入りますが、もう働く必要無いんじゃないですか?」 どうやら身分証を提示した時に銀行残高も見えるらしく、その金額を見て驚いた様だ。ただ、光はそんなに驚くほど持ってないんだけどと思いながらドーラに登録を進める様にお願いした。思ったよりあっさりと終わってしまった。ドーラ「はい、登録が完了しました。こちらがギルドカードです。こちらには魔力により光さんの職歴やお持ちの資格などの情報が登録されています、これを職場での面接時に持っていけば大丈夫ですのでね。」光「ありがとうございます。」 光はギルドを出てゲオルの店のATMにカードを差し込んだ、「残高照会」のボタンを押すとそこには「1京円」の文字がありまた神様の仕業だなと愕然とした。しかし、働かずに過ごしていたら周りの住民に怪しまれる。街中にあるパン屋が従業員を募集していたので一先ずそこで働くことにした。 次は住む家だ、広めの土地を買える財産があるみたいだがやはり怪しまれたくないので一般家庭レベルの土地と一軒家を購入した。その事をネスタに話し、建設が終わり次第引っ越すつもりだという事も伝えた。 数日後、建設が終わったという連絡を受け、引っ越すことにした。この世界に来て間もないから特に大それた荷物がある訳ではないので荷造りにはさほど時間はかからなかった。 出発の時、玄関でネスタが光を待ち構えていた。ネスタ「寂しくなるね、ずっとここにいてくれて良かったのに。」光「いえいえ、そう言う訳にもいきませんので。」ネスタ「また遊びにおいでね。」光「お世話になりました。」 そういうと2人は抱き合い、光は新居へと向かった。 光の家はネスタの家から街を挟んで反対側にあった、特に急ぎの用事もないしパン屋での仕事も明後日からなのでゆっくりできる。なので光はのんびり歩いて行く事にした。空は青く澄んで空気が美味い。 1度ゲオルの店に寄り周りの目を気にしながらATMで支払いの金を下ろした。下ろした金を封筒に入れ、新居へと向かう。 街を抜けて数分歩いたところに新居があり、不動産屋の店主が待ち構えていた。店主「おはようございます、光さんですね?この度はこちらの物件のご購入あり

    最終更新日 : 2025-01-21
  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   3. 「異世界ほのぼの日記」⑪~⑮

    -⑪大食いが役に立つ- 店長のラリーは聞き返した、身近に自分の事を大食いと自信満々に言う人がいる訳がないとずっと思っていたからだ。確かに大食いの番組はこの世界にあったりはするがそれもやらせやはったりの塊なのだろう、1人の人間が本当にあれだけの量を食べてしまう事を信じる事が出来なかった。 しかし、目の前の新人従業員は出来ると言い張っているのだ、よしそう言うなら試してやろう。丁度売れ残りのパンがかき集めたものがあったはずだ。ラリー「光・・・、そんなに言うなら俺が作った大食いメニュー、やってみるかい?」ローレン「店長、ウチそんなの無かっただろう、あたしゃここ長いけど見たことないよ。」ウェイン「まさかあの堅くなりかけてるパンを出すのか?」ラリー「ああ・・・、ただそのままでは出さない。これも以前から考えてた新作だ。無駄になりそうな食い物を可能な限り減らす方法を探してたんだ。折角だ、試しにやってみるさ。ウェイン、すまんが手伝ってくれ。光、食えなくても別に罰はない。こっちは一応売れ残りを出すんだからな、逆にもしも食えたら給料2倍だ。約束しよう。」ウェイン「ああ・・・、やってやるさ・・・。」 給料2倍・・・、別に金に困っている訳ではないけど(光の口座には1京円入っているため)、良い響きだ、心がうずうずしてくる。それに失敗しても何も問題なし、そんなの断る理由がどこにあるのだろうか!!!光「店長・・・、今すぐ持ってきて下さい!!!」 ラリーはその声を皮切りに厨房へと駆け込んで行き調理を始めていった、売れ残ったパンを細かく刻んでいく。その作業をウェインに任せると自分は大量のホワイトソースを作って行った。 刻んだパンをバターを塗った大きなグラタン皿に盛り、鶏もも肉の切り身やベーコンをラリー特製のホワイトソースやチーズをこれでもかと言わんばかりにかける。 最後にオーブンで焼いて大きなグラタンが完成した。ラリー・ウェイン「出来たぞ!!!食えるもんなら食ってみろ!!!」 直前まで通常通り接客の仕事を行っていた光を呼び出し光の前に出来立て熱々を提供した、店も丁度午前中の営業時間を終えたところだったので店にいた全員が光を見守った。光「いっただっきまーす!!!」 光は嬉しそうな顔で食べ始めた、熱々のグラタンが口の中に運ばれていく。光「おーいしいー!!!あっ、鶏肉とベ

    最終更新日 : 2025-01-21

最新チャプター

  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   3. 「異世界ほのぼの日記」96~100 番外編

    -96 ご飯のお供②- 温かな朴葉味噌を熱々の白米に少しずつ乗せご飯を楽しむ一同、そんな中林田が懐で何かをごそごそと探し始めた。林田「次は私がご紹介させて頂いて宜しいでしょうか、ゲオルさんのお店でこれを売ってたので助かりました。」 林田は懐から小瓶を取り出すと嬉しそうに中身を自ら用意した小皿に出した、誰もが食べた事があるであろうメンマの「やわらぎ」だ。林田「そのまま食べても美味しいのですが、これを胡瓜キムチと混ぜても食感が良くてご飯にピッタリなんです。」 小皿とは別に少し大きめの器を用意し、胡瓜キムチとやわらぎを混ぜて振舞った。シャキシャキの胡瓜と柔らかなメンマがバランスよく混ざっている。メンマに和えられた辣油が味のアクセントになってご飯を誘い、それにより光と結愛はずっと箸が止まらなかった。結愛「アクセントの辣油がキムチの味を引き立てていますね、今日ご飯足りますか?」光「一応2升は用意しているんですが追加注文しないとダメかもしれませんね。」 光と結愛、そして羽田や林田のご飯のお供の時点で用意をしていた半分の1升が無くなろうとしていたので実は焦っていた。念の為、今現在もう半分の1升をお釜で炊いている状況だが無くなるのも時間の問題だろうか。林田のやわらぎ入り胡瓜キムチの出現は一同にとって大きかった、光は『瞬間移動』を利用して地下の貯蔵庫から追加の米を持って来る事にした。念の為に2升程追加を用意し、食事に戻った。 すると、家の入口の辺りから聞き覚えのある男性の声がした。男性「林田さん、林田さん?いらっしゃいますか?来ましたよー。」 その声に返事をする林田、ただ口の中には米が残っている。林田「ああ・・・、待って・・・、ましたよ・・・。裏・・・、庭に・・・、どうぞ・・・。」光「あれ?どなたか呼んだんですか?」林田「ごくん・・・、失礼しました。光さんもお会いした方ですよ。」男性「こんにちは、お久しぶりです。」 優しい笑顔で見覚えのある男性が裏庭に入って来た、この異世界で車を購入したお店の店主・珠洲田だ。珠洲田「光さん、お久しぶりですね。林田さんにご招待を頂きまして来させていただきました。私も皆さんと一緒でご飯が大好きなんです。」光「お久しぶりです、レースの映像でお見かけしましたよ。」珠洲田「これはこれはお恥ずかしい、まさか見られていたとは

  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   3. 「異世界ほのぼの日記」91~95

    -91 空からの来客- 宴が続く中、月の輝く星空から大声が響き一同を騒然とさせた。声「この私を差し置いて、皆さんだけでお楽しみとは何事ですか?」光「な・・・、何?!」 全員が飲食をやめ空を見上げた、見覚えのある1頭のコッカトリスが3人のホークマンを連れて地上へとゆっくりと舞い降りた。背には軽装の男性が2人乗っている、林田が逃げる様にして家の中へと駆けこむ。林田「ま・・・、まずい・・・。誘うの忘れていた。」 舞い降りたコッカトリスが背に乗っていた2人を降ろし人の姿へと変わる、ダンラルタ国王であるデカルトだ。横にはホークマンである甥っ子と姪っ子が3人共揃ってお出まししている。姪っ子が背から降りた男性と軽くキスを交わす。甥っ子達はウェアウルフと取り皿を持ち、焼肉を取りに行こうとしていた。デカルト「2人も乗せていたから疲れましたよ、と言うかのっちはどこですか?」ネスタ「のっち・・・?ああ、ウチの旦那ですね。さっき家の方に走って行きましたよ。」デカルト「奥さん、かしこまらないで下さい。我々はもう友達ではないですか。」林田「そう仰って下さると助かります!!」デカルト「またそうやってかしこまる、やめろと言っただろのっちー。」林田「人前だから、それにのっちはダメだって。」 2人のやり取りを数人の女性がヒヤヒヤしながら聞いていた、1国の王に何たる態度を取っているのだと言わんばかりに。その内の1人であるドーラが質問した。ドーラ「お義父さんと国王様、いつの間にそんな関係に?」デカルト「これはこれはいつぞやの受付嬢さんではありませんか?まさかのっちの娘さんだったとはね。」林田「たった今俺の息子と結婚したんだよ、だから義理の娘ね。」 横から聞き覚えのある女性が口の中で黒毛和牛をモグモグさせながら声を挟んだ、その声には光も懐かしさを感じている。女性「じゃあ私達と一緒で新婚さんって訳だ。」 声の正体は先程キスを交わした女性ホークマン・キェルダだ。光「キェルダ!!久しぶりじゃない!!」キェルダ「ついさっき新婚旅行から帰って来たのよ。」光「えらく長めの新婚旅行だったのね。」キェルダ「あんたは暫く仕事を休める位稼いだみたいじゃない。」光「流石、言ってくれるじゃん。」2人「あはは・・・。」 2人が談笑している中、バルタンの兄・ウェインとホークマンの弟

  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   3. 「異世界ほのぼの日記」86~90

    -86 超新鮮で大胆なBBQ- ガイの軽トラで1頭買いした黒毛和牛を林田家の裏庭へと運ぶと、今か今かと待つ人々が歓声を上げていた。その中には光が招待した結愛社長もいる、現場には大きなまな板と綺麗な包丁などが並べられ解体の準備がされていた。 丁度その頃、焼き肉屋の御厨板長と板前をしているウェアタイガーのヤンチが到着した。御厨「今夜はご招待頂きありがとうございます、ただ私達も召し上がって宜しいのでしょうか。」光「勿論です、お2人も楽しんで行って下さいね。」ヤンチ「さてと・・・、早速解体していきますか。」女性達「私達も是非手伝わせて貰おうかね。」 声の方向に振り向くとエプロン姿をしたネスタ林田、そしてまさかの貝塚結愛がいた。ヤンチ「お2人さん・・・、本気ですか?」ネスタ「あら、私はドワーフだよ。舐めて貰っては困るね。」 昔からドワーフの一族は身のために色々な技術を何でも習得するという伝統があった、牛肉の解体技術もその1つだ。ヤンチ「でも何で社長さんまで?」結愛「実は私も見分を広げる為にドワーフの方々から勉強させて頂いているんです、牛肉の解体もその1つです。」ネスタ「では早速やりますかね。」 鮮やかな手つきで3人が解体を進めていく。骨と骨の間に包丁を入れていき、スルッと肉が剥がされていった。結愛「さてと・・・、最初から贅沢に行きましょうか。鞍下、肩ロースです。丸々1本だからとても大きいでしょう。」光「涎が出てきちゃってるよ、早く食べたいな。」御厨「さぁ、焼肉にしていきましょうか。」 結愛から受け取った大きな塊を御厨が丁寧に肉磨きと整形をして焼肉の形へと切っていく。20kgもの塊が沢山の焼肉へと変身した。御厨「では、焼いていきましょう。ヤンチ、すまんが整形を頼む。」ヤンチ「あいよ、プロが2人もいるから解体は大丈夫そうですもん。」 御厨が炭火の網の上に肉を乗せ焼いていった、そこら中にいい香りが広がる。光「この匂いだけでビールが行けちゃいそう。」御厨「さぁ、焼けましたよ。塩と山葵でお召し上がり下さい。購入されたご本人からどうぞ。」光「塩と山葵がお肉の甘みを引き立てて美味しい!!」 光がビールを一気に煽る、何とも幸せそうだ。作業中の結愛やネスタ、そして焼き肉屋の2人にも振舞う。結愛「たまりませんね、ビールが美味しい。」光「今日

  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   3. 「異世界ほのぼの日記」81~85

    -81 集合- 魔学校長のマイヤは林田を許し、早速持ち帰った映像やマイヤの発言が証拠として使えるかを皆で確認しようと提案した。光明「まずはこちらをご覧ください。」 マイヤが義弘と思われる覆面男に催眠術を掛けられた場面だ、催眠術を掛けられマイヤが自らの手で書類を書き換えたあの場面。マイヤ「ノームを含む私達アーク・エルフの一族は催眠術に強い特殊スキルを祖先からの遺伝で持っているのですが、まさかその長たる私が・・・。」ドーラ「じいちゃん・・・、思い出したくないなら無理に思い出さなくていいよ。」マイヤ「いや、良いんだ。捜査に・・・、いやノームの仕事に協力出来るなら喜んでやるよ。」 映像内で書類を書き換えた後、マイヤがぐっすりと眠っているのが何よりの証拠だ。 次に鏡台にあったもう一つのカメラで撮影した映像を再生した。光明「これはマイヤさんが鏡台に仕掛けてあるもう一台の監視カメラの映像です、少し音が小さいので最初の映像から音声を抜粋してありますが勿論同時刻に同じ場所で撮影された物ですので問題は無いかと。」 暑さが故に義弘が覆面を取った場面を再生した。結愛「義弘が・・・、あれ程の魔力を・・・。」林田「しかし、いつの間に魔力を得て催眠術の修業を行ったのでしょうか。」マイヤ「原因はリンガルスにあると思われます、きっと短期間ではありますがリンガルスの下で修業したからだと思われます。また、無理矢理な方法で魔力を引き出したのかと。」結愛「しかし・・・、ただの魔学校の職員がどうして?」マイヤ「理事長、恐れながら申し上げます。リンガルスは大賢者なのです!!」林田・ドーラ・結愛「大賢者?!」結愛「・・・、って何ですか?」羽田「これがデジャヴってやつですか?」光明「以前にもあったんですね・・・。」 確かに以前にもあった会話だ、ただ重要なのはそこだけではない。義弘が大賢者の力を得たのはマイヤに催眠術を掛ける為だけなのだろうか。光明「そう言えば、レースの方は?」林田「テレビをつけますね。ただ・・・、爆弾処理の方が心配ですね。」男性「それなら安心して下せぇ。」林田「その声は・・・。」 林田が聞き覚えがある声に振り向くとそこには結愛や利通と共に競馬場に仕掛けられた爆弾の処理に向かったダンラルタ王国警察の爆弾処理班がいた。プニ「おやっさん、安心して下さい

  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   3. 「異世界ほのぼの日記」76~80

    -76 リンガルス- パルライは羽田からSDカードを受け取るとカメラに挿入しより強力な魔力を込め始めた。羽田「あの・・・、パルライさん?」デカルト「パルライはネクロマンサー、リッチの下で修業した魔法使いなんです。ネフェテルサ王国の警察署には今彼の師匠も来ているのですよ。」 そうこうしているうちにパルライが作業を終え、一息ついた。パルライ「よしっ・・・、終わりました。見てみましょう。」 カメラの小さい映像を3人の大人が凝視する。3人「こ・・・、これは・・・。」 映像では黒い覆面をしたリンガルスと思われる人物がパソコンで何かを編集している。デカルト「拡大出来たらな・・・。」パルライ「やってみますか。」 パルライが魔力を込め、パソコンの映像がくっきりと見えるまで拡大した。「首席入学者」の文字の下にある「梶岡浩章」の文字を消して「リラン・クァーデン」に変更していた。パルライ「確定ですね。」デカルト「待て、どこかへ向かうぞ。」 覆面男は書類を印刷してそそくさとパソコンの電源を切ると部屋を出た。羽田「この建物には魔学校長の部屋があったはずです、それと主要警備室。」パルライ「そこに行きましょう。」 3人はパルライの魔法で主要警備室に『瞬間移動』するとそこには警備員が3名いたのだが全員眠ってしまっていたので羽田が慌ててたたき起こした。羽田「しっかりしろ、警備はどうしたんだ!!」警備員「えっ・・・?痛た・・・、羽田さんじゃないですか。どうしてここに?」羽田「首席入学者が何者かによって改ざんされてんだよ、しかもただ事じゃない!!首謀者の1人が義弘なんだよ!!」警備員「何ですって?!大変じゃないですか!!ただ俺達は覆面をしていた奴が後ろから近づいてきてからどうやらずっと眠ってしまっていたらしく、記憶が無いのです。」 こっそりと『審議判定』の魔法を使用していたパルライが首を縦に振る。パルライ「本当の事を言っている様です。警備員さん、恐れ入りますが少し場所を開けて頂けませんでしょうか。」警備員「あの・・・、失礼ですがどちら様ですか?」羽田「バルファイ王国とダンラルタ王国の国王様方だ。」警備員「申し訳ございません!!どうぞ!!」パルライ「そ・・・、そんな身構えないで下さい。堅苦しいの苦手ですので。では、やりますよ。」 パルライが魔力を流

  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   3. 「異世界ほのぼの日記」71~75

    -71 捜査が続く中- 林田の『連絡』による電話に驚きを隠せない刑務所長に林田が質問した。刑務所長(電話)「都市伝説の通り・・・。」林田「今はそんな事言っている場合じゃない、お前の所に貝塚義弘がいただろ。パワハラ等で捕まった貝塚だ。」刑務所長「あいつなら逮捕された次の日に重岡とかいう投資家が保釈金を払って速攻出て行ったじゃないか、全国でニュースになっていたぜ。」 林田がただ度忘れしていたのだが、刑務所長が改めて言うには義弘の指示で保釈金を支払った重岡が車で義弘を県外の山奥に連れて行くとそこからは2人とも音信不通となったとの事で、新たな悪だくみを行っていた可能性があった。そこで結愛と光明、そして羽田を含む多くの黒服達が突然消えたと聞き、何らかの方法で追って来たかもしれない。林田「因みに結愛さんはどうやってこの世界に?それとここに来てからはどうやって?」結愛(無線)「これも数年前の話です、日本で忙しくしていた私が久々のゆったりとした休日を光明と楽しんでいた時、突然私たちの目の前に幻覚の様な竜巻が現れてそこにいた全員が吹き飛ばされたんです。そのあと目が覚めたらこの世界に。『作成』のスキルもその時知りました、それから少しの間バルファイ王国にある魔学校に通いながらこの世界の事を少しずつ調べて行ったんです。それから貝塚財閥の教育支援の一環として『転送』で持って来た財産の1部を寄付してネフェテルサ王国の孤児院を貝塚学園の小分校に、またバルファイ王国の魔学校を高等魔学校と貝塚財閥の支社にさせて頂いているのです。因みにレースの収益でダンラルタ王国に分校を建設する予定でした。」林田「なるほど、それは我々にも学園を守る義務がありますね。」 その守るべき学園に義弘の魔の手が触れようとしているかもしれない、それは流石に防がなければならない。 その頃、未だトップが⑨番車のまま遂に100周目を迎えようとしているレース場の脇にあるとある施設でバルファイ王国軍の将軍達がひっそりと1人過ごしていた国王を説得していた。バルファイ王国にあるホームストレート横には国王本人が自らの分身を忍ばせていた、分身と言えど思考等が本人とそのまま繋がっているので各々の場所に国王のオリジナルが存在している様な状態となっている。ただ分身は空の鎧に魂を魔力でくっつけているだけのもので、それが仮の姿として一

  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   3. 「異世界ほのぼの日記」66~70

    -66 一方で- 恋人たちが現場に戻って来たのはプニ達が爆弾を『処理』し終えてから十数分経過してからの事だった。2人は口の周りが不自然に明るく光り表情が少し赤くなっている、髪が少し乱れているのは言うまでもない。プニ「お前ら・・・、ううむ・・・。」 プニは仕事を再開すべきだと気持ちを押し殺した、何をしていたかだなんて正直想像もしたくない。 ただ林田警部が無線の向こうで呆れ顔になってしまっているのは確かだ、幸いケルベロスやレッドドラゴン達は気付いていないらしくその場を何としても納めなくてはと冷静に対処する事にした。 プニの無線機から林田警部の声が聞こえる、どうやら恋人たちは無線機の電源を切っていたらしい。林田(無線)「利通君・・・、そしてノーム君・・・、君らが無線機の電源を切ってまで2人きりになりたい気持ちは私も大人だから分からんでもないが・・・。」ドーラ「そんな・・・、照れるじゃないですか。」林田(無線)「ぶっ・・・。」 ドーラが林田に何をしたかはその場の全員が分からなかったが何かしらの攻撃がなされたらしい、多分ビンタに近い物だろう。取り敢えず林田は偶然を装う事にした、どう頑張ってもドーラが何かをした証拠が見つからないのだ。林田(無線)「失礼・・・。さてと、爆弾の方はどうなっているかね?」ドーラ「お父さ・・・、いや警部、1つがコインロッカーの中に見つかりました。爆弾処理班の方々によるとまだ複数個隠されているかとの事です。」林田(無線)「ノーム君・・・、まさかこの言葉を言う事になるとは思わなかったが、君にお父さんと呼ばれる筋合いは無いよ。取り敢えず見つかった爆弾はどうしたのかね?」利通「えっと・・・。」プニ「見つけた1個は俺達で処理したっす。」ケルベロス①「ただ競馬場内から爆弾の匂いがプンプンしますぜ、林田の旦那。」 相変わらずのキャラを保っているが仕事はしっかりと行っているので文句は言わないでおくことにした、別の者達には日を改めて。 一方、銃刀法違反の現行犯で逮捕した犯人をネフェテルサ王国の警察署に巡査が輸送し、それに合わせ警備本部にいた林田警部が一時的に署に戻り取り調べを行った。犯人によると自分は金で雇われただけだと言う、真犯人からは電話での指示を受けていたが非通知での着信だった為番号は知らないそうだ。そして分かった事がもう1つ、

  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   3.「異世界ほのぼの日記」61~65

    -61 昨日の敵は今日の友と言うが- 3位グループの3台は今までずっと共に走っていた為か、いつの間にか絆が生まれていた。④ドライバー「お前ら、大丈夫か?!悪かった!怪我してないか?!」⑫ドライバー「こちらこそ悪い・・・、あそこで俺が無理に妨害していなかったら・・・。⑧番車の野郎は・・・、無・・・。」⑧ドライバー「野郎じゃないわよ、失礼ね。」⑫ドライバー「そうか・・・、悪かった。怪我は無いか?」⑧ドライバー「私は大丈夫、とりあえずレースの邪魔にならない様に端に避けていましょう、奇跡的にも1台が通れる位の空間は空いてるみたいだからレースに問題は無いと思うわ。」⑫ドライバー「とにかく怪我が無かったらそれでいい、レースはまたの機会に参加すればいいさ。とりあえず端に・・・。」 どこかで会話を聞いていたのか実況のカバーサが一言。カバーサ「お2人さん、良い雰囲気ですがレース自体は一時的に予備のルートを使って続行していますのでご心配なく。」⑧ドライバー「そうなの?・・・って、アンタどこで聞いてんのよ!!」 ⑧番車のドライバーに追及されるとカバーサは慌てて胡麻化した。カバーサ「おや、1匹のコッカトリスが車番プレートを両手に持って自らコース飛んでますよ。えっと・・・、こちらは④番車のドライバーさんですか?」④ドライバー「俺は・・・、死んだ⑧番と俺を気遣ってくれた⑫番の為に・・・、それと自分達の為に完走だけでもするんだ・・・!!」⑧ドライバー「失礼ね、私まだ死んでないわよ!!」 ⑧番車のドライバーによる適格なツッコミにより一瞬会場は湧いたがレースの主催者から通達が出たのでカバーサが伝えた。カバーサ「えっと・・・、④番さん・・・、気合には皆が感動していますがお車で走っていませんので事故での失格は取り消されませんよ」④ドライバー「えっ・・・。」カバーサ「だから言ってるでしょ、あなた失格。今すぐコースから立ち退かないと私が自らピー(自粛)しますよ。」④ドライバー「は・・・、はいー・・・。」 ④番車のドライバーは諦めて地上に降り立つと人間の姿に戻ってから徒歩で戻って行った、背中にはとても哀愁を感じるが少し震えてもいた。カバーサ「まぁどう考えても距離的に無理なんですけどね、本人自ら立ち退いて下さったので良しとしましょう。あ、くれぐれも私は脅してませんので

  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   3.「異世界ほのぼの日記」56~60

    -56 レース開始直前だが- 光は出走表の場所をナルリスに聞き車券を購入しに向かっていた、まるで国民の祝日の様に老若男女が右往左往していて大混雑している。 先程1杯呑んだビールの影響か光はトイレに行きたくなったので車券売り場への道中で探すことにした。 トイレは意外過ぎるほど早く見つかり全く混雑していなかったので光はすぐに駆け込み用を済ませた。 トイレを出て車券売り場を目指す、ぷらぷらと歩いているとふんわりと優しい香りがして来たので近くを通った時少し寄ってみるかと意気込んだ。 何軒か日本に似た食べ物屋の屋台が出ている様でその内の1軒を覗いてみる事にした。光「『龍(たつ)の鱗(うろこ)』ね・・・、こんな名前の店あったかな。」 ただ一際行列が目立っており、その上光を誘った香りがその屋台からだったので光は一切迷う事無く飛び込んだ。 店の中では皆が一心不乱に丼に入った麺を啜っている。店主「いらっしゃいませ、お一人様ですか?お好きなお席へどうぞ。」 どうやらここはラーメン屋さんの屋台のようだ。他のお客さんが食べているラーメンはスープが綺麗に透き通った金色のもので、細麺。トッピングはカイワレ大根と何かを揚げているチップスらしい。(※作者が大好きなラーメンの1つです、店名は変えてますが。) カウンターにお品書きがあったのでチラリと見てみると「鯛塩ラーメン」の文字がある。光「『魚介ベースのスープで鯛の皮のチップスをトッピングした美味しいラーメンです』・・・か。」店主「お決まりですか?」光「あっ、鯛塩ラーメンをお願いします。」店主「少々お待ちください。」 屋台の隅に探していた出走表をみつけた。光「出走表頂いてもいいですか?」店主「勿論どうぞ、ラーメンが出来るまでゆっくり予想していて下さいね。」光「助かります。」 光は店の隅に行き出走表を1枚取って席に戻った、①~㉑までの車番の横にチーム名やホームストレートで行われた予選の計測タイム、スタートポジション等が書かれていた。光「確かポールポジション取った⑰ブルーボアが1番人気で、18kmのホームストレートはダントツ、ただガソリンの積載量が比較的少ない気がするな・・・。」 ピットでの給油は認められているがピットストップの回数が多いとその分逆転を許してしまう可能性が大きくなる。光「コーナリングの図を

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