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2. 「最強になるために」㉑~㉕

作者: 佐行 院
last update 最終更新日: 2025-01-21 11:32:23

-㉑義弘のやり方-

 結愛は誰にも気づかれないようにしつつも海斗に連絡していた、やはり時には兄貴を頼りたくなるもんだという事なのだろうか。誰かに相談したそうな素振りを全く見せていなかったので皆が勝手に強い人間なんだと勘違いしてしまっていたのではなかろうか。

結愛「兄貴・・・。」

海斗「ん?」

結愛「今話せないか?」

海斗「勿論大丈夫だ。」

結愛「実はよ・・・。」

 結愛は最近思っていることを海斗に打ち明けた、主に先日義弘の書斎で見かけた書類や書籍類についてだった。以前もこんな事があった様な無かった様な・・・。

 義弘が彼なりに教育について真剣に考えてるのではなかろうかと思い始めた、それが故にしばらくは学校でも家でも可能な限り義弘の様子を観察しようと企んだ。

結愛「以前、中学受験の過去問や資料を大量に調べて親父なりにプリントにまとめていただろ?デジャヴ的なものを感じてんだよ。」

海斗「確か親父の秘密の書斎・・・、だっけ?えっと・・・、そこで見かけたってやつか。」

結愛「あん時さ、物凄い量のプリントを押し付けられた事を思い出してよ、少し辛かったなー・・・、なんて。」

海斗「分かるわ、これからこの学校もあんな感じになるのかな。」

結愛「俺嫌なんだけど、皆を巻き込んじゃってあんな事したくねぇ。」

海斗「毎日毎日テストが夜遅くまでで寝る間も無かったな。」

結愛「俺普通の学校生活を送りたかっただけなのに・・・。」

海斗「だから取り戻そうや、俺たちの高校生活を。」

結愛「ああ・・・、うん・・・。」

 海斗は別に相談する事が結愛にはあるのではないかと思えて仕方なかった、しかし今はやめておこう、最強になって学校生活を取り戻すことに集中するんだ。

 一方、光明は秘密の書斎に仕掛けたドローンの映像をずっと見ていた。義弘が過去問を調べ尽くしていたあの時以来動きは全くない。代り映えのない退屈な映像が続く、ビルの管理人の仕事ってこんな感じなのかなって想像した。その時校内のスピーカーから声がした、義弘だ。すると結愛が耳を押さえながら入って来た、続いて伊津見も。

義弘「皆さん、深夜の学園でいかがお過ごしでしょうか、理事長の貝塚義弘です。今から私自ら大学入試に向けた特別授業を開講しようと考えています、受講希望者は2階の特別教室までお越しください。」

伊津見「うるせぇな、あいつ何時だと思ってんだよ・・・。耳がキンキンするぜ。」

結愛「それより嫌な予感が当たった気がするんだが。」

光明「ん?」

結愛「以前もあったんだよ、親父が自分で調べて作った中学受験の過去問や資料のプリントを使って1晩ずっと勉強させられていた事があったんだ。俺だけじゃなくて兄貴もな。夜が明けても問題を解けなきゃ決して終わらせてくれなかったし寝かせてくれなかった。あの時から、まともに飯を食ってねぇし睡眠だってとってねぇ、唯一の食事と糖分が・・・」

光明「ポテチとコーラだったって訳か。スパルタどころか虐待じゃんかよ、許せねぇ・・・。」

結愛「光明・・・。」

 その時守と圭が教室に入って来た。

圭「だからこの前コーラを隠しながら義弘と『お茶会』に?」

結愛「お茶会なんか表面上だけで実際にはなかったんだ、あの後スパルタでまた勉強さ。」

 海斗や結愛にとっての嫌な思い出がまた繰り返されようとしている、参加する奴はいるのだろうかと恐る恐る特別教室へと向かった。教室にはまだ義弘の姿は無い。生徒も誰1人いなかった。先程の結愛の話を聞いて参加したくなる訳がなく光明や結愛はその場から去った、光明は念の為に小型の隠しカメラを教室の端っこに取り付けた。

 皆が元の場所に戻ってから数分後、義弘が教室に入って来た。教卓に大量の資料を叩きつけるとため息をつき資料を各々の学習机に配布し来るはずのない生徒が来るのを待った。

 暫くの間腕を組み考え込んだあと義弘は内線電話を懐から取り出して校内放送に繋いだ。

義弘「先程放送で申し上げた特別授業は10分後に開講します、また各学年4組の生徒は強制参加とさせて頂きますので先程申し上げた特別教室にお越しください。」

伊津見「畜生・・・、俺参加しないといけねぇのかよ・・・。みつもーん、俺死にたくねぇよー。」

光明「諦めろ、それにこれはチャンスだぞ。いいかいっつん、お前は今からスパイだ。お前にこの無線機と小型マイクを仕掛けるから頼むわ。」

伊津見「みつもんに言われるとなぁ・・・。」

 伊津見は仕方なく従った、それが平和のためだ。

-㉒伊津見の経験-

 4組の伊津見は義弘による深夜の特別授業に強制参加することになり、筆記用具片手に渋々特別教室へと向かった。左耳には光明に渡された無線機、そして胸元に小型マイクを身につけスパイとして参加する。特別教室に入ると分厚い資料を配布し終えた義弘が教卓のすぐ近くに座っていた。ノートパソコンを教室に設置されたプロジェクターに接続して黒板代わりに使うのだろうか、大きなスクリーンを広げていた。伊津見達が教室に入ると義弘が歓迎の言葉をかけた。

義弘「深夜の特別授業へようこそ、ここでは私自ら過去数年分の大学入試センター試験、及び大学入学共通テストの過去問を調べ上げ関連づけた資料を一緒に見ながら学んでいくものです。『かなり充実した』内容になっているはずなので存分に学んでいって欲しいです。席は決まってませんので見やすい所に自由に座ってくださいね。」

 珍しい位に柔らかな笑顔で出迎えられた生徒たちは少しゾクゾクとした気分となっていた、日ごろのイメージと真逆だからだ。しかし各席に配布されている資料の厚さがこれから行われる授業の厳しさを物語っていた。

義弘「各席に配っているのが私自ら調べ上げ、資料と紐づけたお手製のプリントです、最初から試験を解けと言われても無理なものは無理、解けないものは解けないものです。ですので解答・解説や資料を見ながら一緒に勉強していきましょう。元々白黒表記になっている問題や資料の写真は見やすくカラー表記にしてみましたのでお役に立てて頂ければ幸いです、勿論そちらは差し上げますのでご自由にお持ち帰りください。お役に立てて頂ければ幸いです。

 私はこの授業の為に眠気覚ましのブラックガムをドカ食いしましたので、徹底的に勉強できたらと思います。それでは1教科目の国語から始めていきましょう。」

 授業が始まった。一斉に分厚い資料を開いていく。5年前のセンター試験の過去問の大問①が現れた、義弘は生徒たちに小問や問題文を読み聞かせていく。義弘の声は優しさに満ち溢れ皆聞き入っていた。

 授業が順々と進んでいく、皆重要な場所を赤ペンや蛍光ペンでチェックしていき通常の学校の授業の様に生徒たちは集中していった。義弘の解説は思った以上に分かりやすくそこにいた全員が次のクラス決めの摸試の時、ダークホースになってもおかしくない程になっていった。

 学園が朝日に照らされていく、午前7時。通常の教室で朝の補習が始まる30分前だった。義弘の授業が終わりを告げた。生徒たちの顔は充実感に満ち溢れていた。今なら大学入学共通テストも自信をもって解ける気がする、伊津見はそう思った。配布された資料は思った以上に塗りたくったり線を引いたり、そして書き加えたりでボロボロになっていた。他の生徒の中にはプリントを纏めていたホチキスが千切れプリントが落ちてしまっている者もいた。伊津見は取り敢えず光明や結愛に会い報告せねばと2人が潜入作戦を実行する教室に向かった。

結愛「おかえり、長かったな。無事か?」

伊津見「無事どころか充実感が凄すぎて未だにドキドキしてるぜ。」

結愛「資料ってあるか?」

伊津見「うん、これだ。」

 結愛は伊津見から資料を受け取ると1ページ1ページじっくりと読み込んだ、焦りの表情と共に。

結愛「すまん、ありがとう。もうすぐ補習が始まるからまた後で見せてもらえるか?」

伊津見「勿論だ。」

結愛「因みに親父はどんな表情だった?」

伊津見「とっても優しかったぜ。」

 光明は結愛の表情からただならない物を感じ取った。

光明「結愛、何かあったか?」

結愛「親父・・・、あそこまで・・・。」

光明「ん?」

結愛「あ、すまねぇ。いや、あそこまで綿密な資料を作成しているとはと思ってよ。」

光明「それがどうしたんだ?」

結愛「下手したら伊津見が親父の術にハマって、4組の奴らが次の摸試のダークホースになり兼ねねぇかもなんだ。」

光明「義弘の・・・、術?」

結愛「分かりやすい資料と優しい雰囲気の授業で生徒を取り込んで次からはスパルタでの授業を展開。その結果バッタリと倒れていく生徒が・・・。」

 先日銃殺者が出たくらいだ、義弘が十分あり得る話で生徒を地獄に落とそうとしているのが見え見えで怖くなってきた。その術に伊津見がかかろうとしている、光明と結愛は被害者が出る前に阻止せねばとゾッとしていた。

-㉓猛暑の殺人-

 暑い日が続いていた、そんな中守たちは相変わらず朝から晩まで勉強漬けの毎日を過ごしていた。義弘の指示が故に冷房は切られており、窓が閉め切られていた。ただ流石にこれにより死者が出てしまえばこれはこれで教育委員会等に訴えられてもおかしくない状況だ、義弘から教師・講師全員に通達が伝えられ冷房がやっと起動した。生徒全員ほっとしながら授業に集中し机に向かう、義弘も人の子だという事だ。

 そんな中、黒服がダンボール箱を抱え各教室にやって来た。

 守や結愛達がいる2年1組には黒服長の羽田が来た。

羽田「しゃ・・・、ゔゔん、失礼。理事長先生からお茶の支給品が来た。各自1本ずつ持つように。冷え冷えでうまいぞ、結愛お嬢様もおひとついかがでしょうか?」

結愛「お父様からですの?」

羽田「そうでございます、ご・・・、ゔゔん、申し訳ございません。お父様からでございます。」

結愛「個人的にはコーラが良かったのですが。」

羽田「ご存じの通り、ご主・・・、いやお父様は炭酸入りのソフトドリンクはあまり飲まれませんので。」

結愛「やはりお父様とは好みが合わないみたい、それにしても珍しいですわね。羽田さんがそんなに噛むなんて、何かありましたの?」

羽田「先日の侵入者の事なのですが。」

結愛「黒服さんに紛れていた方ですの?」

羽田「はい、こちらをご覧いただけますでしょうか。」

 羽田は指名手配犯のビラを結愛に見せた。

結愛「これ、書き込んでも?」

羽田「どうぞ。」

 結愛はマジックでサングラスを書き足していった。どう見ても先日ふらついていた『黒服』だ。

結愛「間違いないですわね。」

羽田「はい、かいちょ・・・、いやおじい様を狙った侵入者ですね。」

結愛「おじい様が無事で何よりですわ、それと・・・。」

羽田「はい?」

結愛「そんなに無理して言い直さなくてもよろしくてよ。」

羽田「申し訳ございません、日ごろからお父様に言われているもので。」

琢磨「羽田さんも大変ですね。」

羽田「面目ない。」

 このお茶の支給は夏の間続いた。生徒たちはこのありがたい贈り物を素直に受け取っていた。

 数日経ったある日のこと、いつもの通り生徒達がお茶を飲んでいると3組の教室から男女の悲鳴が轟いた。その3組の教室から伊津見が凄い形相で走って来て慌てて1組の教室に入った。

伊津見「大変だ、俺のクラスの野口と中山が!」

結愛「クソッ!また被害者が!」

羽田「お、お嬢様?!」

守「羽田さん、説明は後です、今は現場に!」

羽田「ああ・・・、はっ・・・。」

 結愛や守を含む1組の生徒たち、そして羽田は急いで3組の教室に走った。教室は生徒達で溢れかえっている。羽田は生徒たちを掻き分け教室の真ん中で倒れている野口と中山の元へ向かった、脈を確認する。

羽田「もう・・・既に・・・。」

 2人は亡くなっていた。口元から泡のようなものがあり、また足元には蓋の開いたお茶のペットボトルが転がっている。

羽田「どうやらお茶に毒物が仕掛けられていた様ですね、箱から無作為にお茶を取ったとすると・・・。」

結愛「無差別殺人・・・?」

羽田「その可能性は大きいですね。」

結愛「この組を担当する黒服さんは?」

羽田「確か・・・、西條(さいじょう)だったかと。」

結愛「すぐに西條さんを探してください!私たちも協力します!」

羽田「はっ!」

結愛「これ以上・・・、被害者が増えなきゃ良いのですが・・・。」

-㉔猛暑の捜査-

 一斉捜査が始まり、黒服が学校中をうろついていた。

 しばらくして黒服の1人が3組の教室に入って来た。

黒服「黒服長、よろしいでしょうか?」

羽田「三田(さんだ)か、どうした。」

三田「西條が見つかりました、ただ・・・。」

羽田「ん?」

 三田は西條を3組の教室に入れた、体中をぐるぐる巻きに縛られている。

羽田「西條、何があったんだ。」

西條「実はここにお茶を運ぼうとした時に後ろから電撃のようなものを突き付けられて気付けばこんなことに。」

三田「1階の掃除用具入れにこの状態で閉じ込められていたんです。」

羽田「という事は西條は無実・・・、因みに犯人の顔は覚えているか?」

西條「すみません、後ろから襲われたので見えてなくて・・・。」

羽田「分かった、ほどいてやるからゆっくり休め。」

西條「はっ、すみません。」

 三田は西條を連れて控室に向かった、西條はぐったりとしていてまだ少し体が重そうだった。ただ羽田や結愛の役に立てなかった事を悔いていて少し涙目になっていた、申し訳ないと言わんばかりに。

 すれ違うように結愛達が息を切らしながら教室に戻って来た。

結愛「羽田さん、西條さんは見つかりましたの?」

羽田「見つかりましたが、西條は被害者だったようです。1階の掃除用具入れにぐるぐる巻きで閉じ込められてました、犯人の顔も覚えて無い様でして。」

結愛「そうですか・・・、もしかしたら例の指名手配犯の可能性もあり得ますわね。」

羽田「取り敢えず警察を呼びます、生徒の皆さんは各組の教室に戻ってください。さぁ、お嬢様も。」

結愛「はい、お願いしますわ。」

 羽田は急いでインカムを外線に繋ぐように指示を出し110番通報した。

 30分、いや1時間以上は待ったのだが警察のパトカーは全く学園にやって来ない、静寂が辺りを包み皆息をするのがやっとの状態だった。その時、葬儀屋の寝台車が2台出入口に停車し亡くなった2人の遺体を運んでいった。以前4組の生徒が銃殺された時の様にてきぱきと作業を行い葬儀屋は去って行った。

しばらくして羽田が教室に戻って来た、警察がなかなか来ないので三田が相談をもちかけたのだ。

三田「黒服長、変ではないですか?葬儀屋はすぐに来るのに警察が全然来ないだなんて。」

羽田「海斗坊ちゃんと結愛お嬢様に相談してみよう。」

三田「ご主人様ではなく?」

羽田「うん、何か嫌な予感がしてならないんだよ。良かったら一緒に来てくれないか?」

三田「勿論です。」

 2人は海斗と結愛を探した、幸い2人とも2年1組の教室にいた。海斗のシスコンが珍しく役に立ったのだろうか、結愛を心配で海斗が様子を見に来ていた様だった。

羽田「お2人ともよろしいでしょうか。」

海斗「羽田さん・・・、警察は?」

羽田「1時間以上前に通報したのですが来ておりません。」

結愛「先程の寝台車は?」

三田「以前4組で起こった銃殺事件と同様に呼ばずともすぐに来ました。」

羽田「いくら何でも妙だと思いませんか?」

 妙だ、前回も今回もパトカーが1台も来ていない。

 結愛は羽田にインカムを借りてもう1度110番通報した。念の為にスピーカーに繋いで。

警官「110番です、どうされましたか?」

結愛「どうされましたかですって?!1時間も前に貝塚学園にと通報したのに全く警察の方がこられないのですが?!」

警官「はて、ありましたかね?」

羽田「お嬢様、よろしいでしょうか。」

 羽田は気が気でない結愛を落ち着かせるため一旦インカムでの通話を代わった。

羽田「もしもし、人が殺されてんだぞ!今すぐ貝塚学園に警官をよこせ!」

-㉕歪んだ権力-

 どう見ても羽田の方が気が気でない様な感じなのだが通話の向こうの警官は驚くほど冷静だった。

警官「分かりました、貝塚学園にす・・・ガチャ!」

羽田「ん?!」

海斗「切・・・、ら・・・、れた・・・。」

結愛「どうゆう事?」

羽田「恐れ入ります、信じたくはないのですが警察内で何かしらの権力での圧力がかけられているのかと・・・。」

結愛「ま・・・さ・・・か・・・。」

海斗「お父様ということですか?」

羽田「下手したらの話ですが・・・。」

 一方、羽田の嫌な予感が的中したらしく、警察署には義弘の姿があった。警察署長の部屋で威張って座っている。

 署長と警視庁の警視総監はとなりで正座させられていた。ずっとブルブルと震えている。

義弘「署長、私に逆らってパトカーを走らせたらどうなるか分かっておるよな?」

警視総監「当然です、貝塚社長に逆らえるものなどこの国にはおりません。謝って逆らいでもしたら末代の恥でございます。」

 警視総監の家は4人家族で暮らしている、残り30年分残っている住宅ローンを義弘が一括で支払い貝塚財閥が全権を握っている様な有り得ない状況となってしまっていた。義弘はこの権力を行使して貝塚学園からの通報は全て無視するようにと指示を出していた、警視総監がローン代を義弘に返さない限り日本の警察は義弘の思い通りとなっている。殺人が多数発生することを予測して先に手を回していたという事だ。

 結愛と海斗の2人は思った、『アレ』を使う時が来たのだと。いくら何でも殺人事件が2度も起こっているのに警察が動いていないのはやはりおかしすぎる、相当な権力という名の圧力を持ってでもないと実現しない話だ。

 しかし、誰もが不審に思わない訳がない、特に貝塚財閥に莫大な投資をしている人間は。2人は乃木先生に相談すべく彼女を探しに行こうとしていた。その時、学園の出入口に1台のミニバンが停まった。羽田達黒服が近づいて事情聴取しようとしていた。

 ミニバンの運転席が開き、長袖の作業着姿の男性が1人降りてきた。とめどなく流れる汗を首にかけたタオルでずっと拭いている。こんな暑いときに長袖なんてよく着るなとその場の全員が思った。(※今更ですが黒服にも夏用に半袖の制服があります。)

男性「暑い暑い、公恵(きみえ)に言われて来てみたけどこんなに暑いならやめておくべきだったな、でも緊急事態だからそんな訳にもいかないし・・・。」

羽田「すみません、失礼ですがどちら様でしょうか。」

男性「ああ・・・、私娘に呼ばれて来たんですがね。」

羽田「生徒さんの保護者様か何かで?」

男性「いや、ここで働いているのですが・・・、それにしても暑い暑い、中に入ってよろしいでしょうか?」

羽田「申し訳ございません、関係者かどうかを確認できない限り中にはお入りいただけません。」

 その時、校舎から女性の声がした。

女性「と・・・、父ちゃん。」

男性「おー、公恵ー、来たぞー。」

羽田「あなたは・・・、乃木先生!という事は・・・、大変失礼致しました、申し訳ございません!」

 乃木先生の父親という事は乃木建設の代表取締役社長、つまり貝塚財閥の大株主の1人、羽田さんが怖気づくのは当然のことだ。事件の事を不審に思った乃木先生が相談を持ち掛けたのだった。ただ、殺人事件の現場にパトカーが1台も無いので父親の幸太郎(こうたろう)は辺りをキョロキョロして探した。1台も無い。

幸太郎「公恵、パトカーはどこに停まっているんだい?」

乃木「1台も・・・、来てない。」

幸太郎「黒服さん、110番通報はしたんですか?」

羽田「何度もしたのですが。」

幸太郎「おかしいですね・・・。」

 幸太郎が原因を考えていた時、羽田は社長で理事長の義弘が警察に圧を掛けているのではないかという予想を伝えた、実際そうなのだが。それなら大株主の自分が動けば警察が必ず来てくれる、幸太郎はそう思った。その瞬間、息を切らしながら結愛と海斗が走って来た、手には『あのチケット』が。

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    -㉖大株主の心の広さ- 結愛は『あのチケット』を握りしめて走ってやって来た、そして乃木先生に向かって頭を下げた。結愛「乃木先生、お願いします!このチケットをお父様に渡して使わせて下さい!」乃木「お嬢様、頭を上げて下さい。その私の父ならここにおりますよ。」結愛「えっ・・・?!」幸太郎「こんにちは、娘がいつも大変お世話になっております。」 幸太郎は優しく微笑んだ、結愛はギョッとしたがすぐに冷静になった。この人が自分達、いやこの学校の救世主だと思うと待ち望んでいた人が現れたと涙が溢れた。海斗は落ち着かせなきゃと結愛と肩を組んだ。結愛「あに・・・、お兄様。」海斗「今はそんなの気にすんな、取り敢えず落ち着け。申し訳ありません、少し席を外してもよろしいでしょうか。」幸太郎「勿論、どうぞ。」 暫くして気持ちを落ち着かせた結愛を連れて海斗が戻って来た、2人の手には『あのチケット』が握りしめられている。2人とも震えていた、しかしこの学校を何とかしなきゃという正義感が強くなり震えはすぐに止まった。幸太郎「現状を知りたい、黒服さん、事件現場にご案内をお願いできますか?」羽田「かしこまりました、こちらでございます。」幸太郎「因みに黒服さん、お名前は?」羽田「羽田と申します。」幸太郎「羽田さん、今の僕には貴方が頼りです。お手伝いをお願いできませんか?」羽田「全力を尽くします。」 全員が事件現場に到着した、遺体は葬儀屋が運び出した後だった。それ以外はそのままだったので事件の悲惨さを物語っていた。即座に事件の酷さを察知した幸太郎は自ら110番通報した、同じ内容だったので警察側はすぐに通話をを切った。現状を知った瞬間、幸太郎は頭に血が上ろうとしていて冷静さを保つことが困難になっていた。咄嗟に別の所に連絡を入れ始めた、相手はあの博だった。博(電話)「もしもし、ああ幸太郎さんじゃないか、珍しいな。」幸太郎「博さん、今どこにいる?」博「ハワイにいるんだが、ただ事じゃなさそうだな。」 幸太郎は事件について彼が知っていることの全てを打ち明けた。博「わしの孫達がそこにいるんじゃないか?」結愛「じ・・・、じいちゃん、俺親父の事信用出来ねぇ、あれを使うからな。」 幸太郎はチケットを渡そうとした結愛を静止し、大事に持っておくように言い聞かせた。この行動は自分の意志で

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    -⑥心配する必要なかったじゃん- ドーラがどうしてびっくりしているのかを光は理解出来なかった。光「どうしたんですか?」ドーラ「すみません。あの・・・、恐れ入りますが、もう働く必要無いんじゃないですか?」 どうやら身分証を提示した時に銀行残高も見えるらしく、その金額を見て驚いた様だ。ただ、光はそんなに驚くほど持ってないんだけどと思いながらドーラに登録を進める様にお願いした。思ったよりあっさりと終わってしまった。ドーラ「はい、登録が完了しました。こちらがギルドカードです。こちらには魔力により光さんの職歴やお持ちの資格などの情報が登録されています、これを職場での面接時に持っていけば大丈夫ですのでね。」光「ありがとうございます。」 光はギルドを出てゲオルの店のATMにカードを差し込んだ、「残高照会」のボタンを押すとそこには「1京円」の文字がありまた神様の仕業だなと愕然とした。しかし、働かずに過ごしていたら周りの住民に怪しまれる。街中にあるパン屋が従業員を募集していたので一先ずそこで働くことにした。 次は住む家だ、広めの土地を買える財産があるみたいだがやはり怪しまれたくないので一般家庭レベルの土地と一軒家を購入した。その事をネスタに話し、建設が終わり次第引っ越すつもりだという事も伝えた。 数日後、建設が終わったという連絡を受け、引っ越すことにした。この世界に来て間もないから特に大それた荷物がある訳ではないので荷造りにはさほど時間はかからなかった。 出発の時、玄関でネスタが光を待ち構えていた。ネスタ「寂しくなるね、ずっとここにいてくれて良かったのに。」光「いえいえ、そう言う訳にもいきませんので。」ネスタ「また遊びにおいでね。」光「お世話になりました。」 そういうと2人は抱き合い、光は新居へと向かった。 光の家はネスタの家から街を挟んで反対側にあった、特に急ぎの用事もないしパン屋での仕事も明後日からなのでゆっくりできる。なので光はのんびり歩いて行く事にした。空は青く澄んで空気が美味い。 1度ゲオルの店に寄り周りの目を気にしながらATMで支払いの金を下ろした。下ろした金を封筒に入れ、新居へと向かう。 街を抜けて数分歩いたところに新居があり、不動産屋の店主が待ち構えていた。店主「おはようございます、光さんですね?この度はこちらの物件のご購入あり

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    -⑪大食いが役に立つ- 店長のラリーは聞き返した、身近に自分の事を大食いと自信満々に言う人がいる訳がないとずっと思っていたからだ。確かに大食いの番組はこの世界にあったりはするがそれもやらせやはったりの塊なのだろう、1人の人間が本当にあれだけの量を食べてしまう事を信じる事が出来なかった。 しかし、目の前の新人従業員は出来ると言い張っているのだ、よしそう言うなら試してやろう。丁度売れ残りのパンがかき集めたものがあったはずだ。ラリー「光・・・、そんなに言うなら俺が作った大食いメニュー、やってみるかい?」ローレン「店長、ウチそんなの無かっただろう、あたしゃここ長いけど見たことないよ。」ウェイン「まさかあの堅くなりかけてるパンを出すのか?」ラリー「ああ・・・、ただそのままでは出さない。これも以前から考えてた新作だ。無駄になりそうな食い物を可能な限り減らす方法を探してたんだ。折角だ、試しにやってみるさ。ウェイン、すまんが手伝ってくれ。光、食えなくても別に罰はない。こっちは一応売れ残りを出すんだからな、逆にもしも食えたら給料2倍だ。約束しよう。」ウェイン「ああ・・・、やってやるさ・・・。」 給料2倍・・・、別に金に困っている訳ではないけど(光の口座には1京円入っているため)、良い響きだ、心がうずうずしてくる。それに失敗しても何も問題なし、そんなの断る理由がどこにあるのだろうか!!!光「店長・・・、今すぐ持ってきて下さい!!!」 ラリーはその声を皮切りに厨房へと駆け込んで行き調理を始めていった、売れ残ったパンを細かく刻んでいく。その作業をウェインに任せると自分は大量のホワイトソースを作って行った。 刻んだパンをバターを塗った大きなグラタン皿に盛り、鶏もも肉の切り身やベーコンをラリー特製のホワイトソースやチーズをこれでもかと言わんばかりにかける。 最後にオーブンで焼いて大きなグラタンが完成した。ラリー・ウェイン「出来たぞ!!!食えるもんなら食ってみろ!!!」 直前まで通常通り接客の仕事を行っていた光を呼び出し光の前に出来立て熱々を提供した、店も丁度午前中の営業時間を終えたところだったので店にいた全員が光を見守った。光「いっただっきまーす!!!」 光は嬉しそうな顔で食べ始めた、熱々のグラタンが口の中に運ばれていく。光「おーいしいー!!!あっ、鶏肉とベ

    最終更新日 : 2025-01-21
  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   3. 「異世界ほのぼの日記」⑯~⑳

    -⑯林田と光の記憶- 林田は深くため息を吐き語りだした。林田「私が新人警官の頃です、その頃警察署長をしていた先輩と暴走族の摘発を行ったんです。日本のとある山で警察に協力的な2台の走り屋と共に暴走族を追い込んで逮捕した事があったんです、その2台のうち1台が赤いスポーツカーに乗った当時・・・。」光「『赤鬼』って呼ばれていたんですよね。」 林田は驚いていた、まさかと思っていた事が事実だと発覚し始めたので驚愕していた。ネスタは3人分の皿を洗っていたが手を止めて聞いていた。光「今は事情があって別姓を名乗っていますが、私は『赤鬼』と呼ばれていた走り屋、赤江 渚(あかえ なぎさ)の娘です。生まれる前に父を亡くし女手一つで育てられた私は母とよく夜の峠を攻めていました。ただ、本能のままにではなく警察署長に依頼されてでした。当時、様々な峠で違法な暴走族や走り屋の摘発に協力していた母は私を連れ2台で警官のいる場所まで犯人たちを追い込んで逮捕するまでを見届けていました。ある日、いつも通り警察署長の依頼で走っていたら車の整備不良が原因でコーナーを曲がり切れず峠から車ごと落ちて亡くなりました。母の車は無残に潰れ、母は即死だったそうです、あの車は決して裕福とは言えなかったのに必死にお金を貯めてくれた母からの最初で最後の贈り物で形見なんです。 あの日も私は母の遺志を継ぎ警察署長の依頼を受け夜の峠を攻める予定でしたが昼間に熱中症で倒れそのまま亡くなり、この世界に転生してきたんです。その時にあの車を持ってきて地下に格納しました。」(※『赤江 渚』については私の「私の秘密」をご参照ください、作者より。) 人の死に直面した時の話は涙なしに聞けないと言わんばかりに林田は涙を流しながら光の過去の話に聞き入り流れる涙を右手で拭い重い口を開いた。林田「そんな事があったんですね・・・、後ほどお母様の御仏壇に手を合わせてもよろしいでしょうか。」光「勿論、ありがとうございます。それと・・・。」林田「捜査へのご協力感謝します、ただ無理はなさらないでください。明日日時が決まればまたご連絡いたします。」 林田夫婦は渚の仏壇に手を合わせた。その後ネスタと光は家庭菜園で水やりをし、林田は携帯で先程の話をこの国の警察署長に話していた、そして光が操作に協力してくれるという事も。 電話の向こうで警察署長は涙を

    最終更新日 : 2025-01-21
  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   3. 「異世界ほのぼの日記」㉑~㉕

    -㉑苦労はしているのだろうか- 光がサンプルを見て選んでいる間に一瞬でゲオルが髪型を変えてしまったので、光は開いた口が塞がらなかった。流石リッチと言うべきなのだろうか。しかし、光には疑問が浮上した。光「リッチという事は・・・、アンデッド・・・、死んでるんですか?」 何処からどう見ても人間と変わりなく見えるので違和感を感じていた、これは光の勝手なイメージなのだがアンデッド(死者)なのでリッチも全体的に骸骨っぽい見た目と思っていたのだ。しかし、ゲオルは生きている普通の人間と変わらない見た目をしている。ゲオル「やっぱりそう思います?そうですよね、よく言われます。」 ゲオルは笑顔で答えていた、でも生きるため(?)に苦労をしていそうな感じもした。ゲオルは人気のない裏道に光を連れて行った、何をされるのだろうか。ゲオル「引かないで・・・、下さいね。」 ゲオルが魔術を解くとイメージ通りの姿をしたリッチが現れた、そして次の瞬間には元のゲオルの姿に戻っていた。ゲオル「特に満月の日苦労するんです、人間の姿を維持するの。一応魔法で膜張ってガードしているんですが満月の光を浴びるとどうしても元の姿に戻ってしまうんですよね。」光「アンデッドの方々がそうなるんですか?」 他にも身近に苦労している人もいるのだろうかと心配になってしまった。 満月と言えば狼男だろうか、これも光のイメージだが月夜の晩や丸い物を見てしまった時に凶暴な狼に変貌してしまう。 そして逆に夜の世界にしか生きることが出来ない者もいるはずだ、吸血鬼とか。その質問をゲオルにぶつけてみた。ゲオル「そうですね・・・、まあ取り敢えずお茶でも飲みながら話しますか。」 2人はカフェに移動して話すことにした、確かに男女が人気のない暗がりで話していたら怪しまれてもおかしくない。ゲオル「まずはヴァンパイア、吸血鬼ですね。最近の彼らは昼間でも普通に動けるみたいです、しかも人間の生き血を欲しがりません。オレンジやトマトを使ったジュースやチューハイが好きらしいです。確か・・・、新聞屋のナル君がそうだったかと。」光「適応しすぎでしょ・・・。今度呑みにでも誘ってみよう。」ゲオル「そして人狼・・・、ウェアウルフですね。最近は凶暴化の力が弱まっていると聞きます。それに最近は純粋な者はあまりおらず、人間とのハーフが殆どだそうですよ。

    最終更新日 : 2025-01-21
  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   3. 「異世界ほのぼの日記」㉖~㉚

    -㉖豪華な宴会と板前の過去- 貸切った大宴会場で店の女将が日本でも今まで見たことない位の笑顔を見せていた、肌はとてもつるつるで皺1つない印象で年齢を感じさせない。何か秘密があるんだろうか、接客していた女将とは別に若女将が存在しており2人が笑顔で奥から出てきた。女将「何かございまして?」光「あ・・・、いや・・・、女将さんお綺麗な方だなと思いまして。」女将「あらお上手ですこと、でも何も出ませんわよ。」 と言いながら片手に持っていた熱燗をテーブルに置く、どうやらかなり嬉しかったみたいで女将がサービスしてくれた様だ、ただどこから出てきたかは分からないが。若女将「女将、そろそろ・・・。」女将「あら失礼、ではこの辺で一旦失礼致しますわ。」若女将「あれ?また行っちゃった・・・、すみません。では鉄板の電源失礼致しますね。」 知らぬ間に女将は瞬間移動で消えてしまっていた、若女将は気付かなかったらしく首を左右に振っている。一先ず、鉄板の電源を入れ温めだした。 数分後、宴会場の外から女将、若女将、最後に板前の順番に3人が注文したコースのお肉を運んで来た。女将「お待たせいたしました、『特上焼き肉松コース』のA5ランクのサーロインでございます。」板前「1枚ずつお渡しさせて頂きますのでごゆっくりお楽しみください、味付けはシンプルにこちらの岩塩でどうぞ。」 静かで厳格な風貌ながら落ち着きがあり優しさ溢れる口調で板前が説明する、どうやらこの人はここの板長らしい。板前「板長、お待たせしました。」板長「ありがとう、良かったらお客様の前で説明して差し上げて。」板前「は、はい・・・。こ、こちらは・・・、カルビで・・・、ございます。甘く・・・、豊かな脂が・・・、ビールやご飯に・・・、ピッタリでございます。」板前「ハハハ・・・、一応合格にしておこうか。すみませんね、こいつ支店からこの本店に配属になったばかりで緊張しているみたいなんです。でも可愛い奴なんですよ。」 板長は意外と明るい人らしく気軽に声を掛けやすかった。板長「今から2枚目と3枚目のサーロインを焼いていきます。別の鉄板では、ヤンチってんですが、こいつがカルビを焼いていきますのでお好みの味付けでどうぞ。腕は確かなので美味しく焼いてくれると思いますよ。」 ヤンチが別の鉄板にカルビを丁寧に焼いて行った、お肉がゆっく

    最終更新日 : 2025-01-21
  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   3. 「異世界ほのぼの日記」㉛~㉟

    -㉛ロックフェス当日- 街の南側、銭湯のある山の麓に特設の野外ステージや音響システムなどがゲオルを中心とした街で働く魔法使いの者たちのよって設置され、街が興奮の渦に巻き込まれて行く中、光はいつも通りパン屋の仕事を夕方までこなしていた。街中の人がロックフェスを楽しめる様にエラノダが『フェスの日、街中の店は必ず夕方6時までに閉店する事』という決まりを作っているので野外ステージ以外の照明は消え、全ての店で『準備中』札がかけられていた。ただそれでも気分を盛り上げようと屋台を出している商人がいたりした、これに関してはエラノダも盛り上げ要因として容認していたので皆喜んでいた。 フェスなので競い合いをするものではないのだがバンド達の気合が故の熱気がムンムンとしていて体感温度が気温を大幅に上回っていた。 このフェスには決まりがあり各組オリジナル1曲、そしてカバー1曲の合計2曲を演奏する事になっていた。それを聞いてか焼き肉店の板長には心配事があった。 先日メンバーを組んだばかりの林田親子とヤンチのバンド、組んで間もないのにオリジナルで作詞作曲と練習を行い無事成功できるかが心配だったそうで光に相談を持ち掛けてきた。板長「私は音楽は全くなのですが、俺はヤンチの親みたいなもんなので楽器の経験があるのは勿論知っているのです、ただ作詞作曲の才があるかどうかは無知でして・・・。それに組んで間もないので練習も間に合ってないのでは・・・。」光「ヤンチさんは今まで沢山の苦悩を乗り越えた方ですよ、今回だって何とかなりますよ。」 板長の心配をよそにロックフェスが始まり、最初はパン屋の鳥獣人兄妹とナルのバンドがステージに出てきた。観客たちの興奮が最高潮に高まって来た所で1曲目の演奏が始まる。皆手に汗を握り涙が出てくる、声援が止まらない。そんな中王様3人と将軍達が変装したバンドがステージに立った。その瞬間大隊長と小隊長、そして将兵達が護衛の為フェス会場を囲もうとしていた、これではせっかくの変装の意味が無くなってしまう。そこでゲオルが全員を普段着の姿に変え一般客と何ら変わらないようにした。ステージ裏にいたエラノダは勿論知らなかったが王国軍は色々苦労したようだ、ただ共にバンドを組む3人の将軍達には伝えられたらしい。将軍「皆・・・、気を遣わせてすまない。」 そんな事もつゆ知らず、エラノダは1曲目

    最終更新日 : 2025-01-21

最新チャプター

  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   3. 「異世界ほのぼの日記」96~100 番外編

    -96 ご飯のお供②- 温かな朴葉味噌を熱々の白米に少しずつ乗せご飯を楽しむ一同、そんな中林田が懐で何かをごそごそと探し始めた。林田「次は私がご紹介させて頂いて宜しいでしょうか、ゲオルさんのお店でこれを売ってたので助かりました。」 林田は懐から小瓶を取り出すと嬉しそうに中身を自ら用意した小皿に出した、誰もが食べた事があるであろうメンマの「やわらぎ」だ。林田「そのまま食べても美味しいのですが、これを胡瓜キムチと混ぜても食感が良くてご飯にピッタリなんです。」 小皿とは別に少し大きめの器を用意し、胡瓜キムチとやわらぎを混ぜて振舞った。シャキシャキの胡瓜と柔らかなメンマがバランスよく混ざっている。メンマに和えられた辣油が味のアクセントになってご飯を誘い、それにより光と結愛はずっと箸が止まらなかった。結愛「アクセントの辣油がキムチの味を引き立てていますね、今日ご飯足りますか?」光「一応2升は用意しているんですが追加注文しないとダメかもしれませんね。」 光と結愛、そして羽田や林田のご飯のお供の時点で用意をしていた半分の1升が無くなろうとしていたので実は焦っていた。念の為、今現在もう半分の1升をお釜で炊いている状況だが無くなるのも時間の問題だろうか。林田のやわらぎ入り胡瓜キムチの出現は一同にとって大きかった、光は『瞬間移動』を利用して地下の貯蔵庫から追加の米を持って来る事にした。念の為に2升程追加を用意し、食事に戻った。 すると、家の入口の辺りから聞き覚えのある男性の声がした。男性「林田さん、林田さん?いらっしゃいますか?来ましたよー。」 その声に返事をする林田、ただ口の中には米が残っている。林田「ああ・・・、待って・・・、ましたよ・・・。裏・・・、庭に・・・、どうぞ・・・。」光「あれ?どなたか呼んだんですか?」林田「ごくん・・・、失礼しました。光さんもお会いした方ですよ。」男性「こんにちは、お久しぶりです。」 優しい笑顔で見覚えのある男性が裏庭に入って来た、この異世界で車を購入したお店の店主・珠洲田だ。珠洲田「光さん、お久しぶりですね。林田さんにご招待を頂きまして来させていただきました。私も皆さんと一緒でご飯が大好きなんです。」光「お久しぶりです、レースの映像でお見かけしましたよ。」珠洲田「これはこれはお恥ずかしい、まさか見られていたとは

  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   3. 「異世界ほのぼの日記」91~95

    -91 空からの来客- 宴が続く中、月の輝く星空から大声が響き一同を騒然とさせた。声「この私を差し置いて、皆さんだけでお楽しみとは何事ですか?」光「な・・・、何?!」 全員が飲食をやめ空を見上げた、見覚えのある1頭のコッカトリスが3人のホークマンを連れて地上へとゆっくりと舞い降りた。背には軽装の男性が2人乗っている、林田が逃げる様にして家の中へと駆けこむ。林田「ま・・・、まずい・・・。誘うの忘れていた。」 舞い降りたコッカトリスが背に乗っていた2人を降ろし人の姿へと変わる、ダンラルタ国王であるデカルトだ。横にはホークマンである甥っ子と姪っ子が3人共揃ってお出まししている。姪っ子が背から降りた男性と軽くキスを交わす。甥っ子達はウェアウルフと取り皿を持ち、焼肉を取りに行こうとしていた。デカルト「2人も乗せていたから疲れましたよ、と言うかのっちはどこですか?」ネスタ「のっち・・・?ああ、ウチの旦那ですね。さっき家の方に走って行きましたよ。」デカルト「奥さん、かしこまらないで下さい。我々はもう友達ではないですか。」林田「そう仰って下さると助かります!!」デカルト「またそうやってかしこまる、やめろと言っただろのっちー。」林田「人前だから、それにのっちはダメだって。」 2人のやり取りを数人の女性がヒヤヒヤしながら聞いていた、1国の王に何たる態度を取っているのだと言わんばかりに。その内の1人であるドーラが質問した。ドーラ「お義父さんと国王様、いつの間にそんな関係に?」デカルト「これはこれはいつぞやの受付嬢さんではありませんか?まさかのっちの娘さんだったとはね。」林田「たった今俺の息子と結婚したんだよ、だから義理の娘ね。」 横から聞き覚えのある女性が口の中で黒毛和牛をモグモグさせながら声を挟んだ、その声には光も懐かしさを感じている。女性「じゃあ私達と一緒で新婚さんって訳だ。」 声の正体は先程キスを交わした女性ホークマン・キェルダだ。光「キェルダ!!久しぶりじゃない!!」キェルダ「ついさっき新婚旅行から帰って来たのよ。」光「えらく長めの新婚旅行だったのね。」キェルダ「あんたは暫く仕事を休める位稼いだみたいじゃない。」光「流石、言ってくれるじゃん。」2人「あはは・・・。」 2人が談笑している中、バルタンの兄・ウェインとホークマンの弟

  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   3. 「異世界ほのぼの日記」86~90

    -86 超新鮮で大胆なBBQ- ガイの軽トラで1頭買いした黒毛和牛を林田家の裏庭へと運ぶと、今か今かと待つ人々が歓声を上げていた。その中には光が招待した結愛社長もいる、現場には大きなまな板と綺麗な包丁などが並べられ解体の準備がされていた。 丁度その頃、焼き肉屋の御厨板長と板前をしているウェアタイガーのヤンチが到着した。御厨「今夜はご招待頂きありがとうございます、ただ私達も召し上がって宜しいのでしょうか。」光「勿論です、お2人も楽しんで行って下さいね。」ヤンチ「さてと・・・、早速解体していきますか。」女性達「私達も是非手伝わせて貰おうかね。」 声の方向に振り向くとエプロン姿をしたネスタ林田、そしてまさかの貝塚結愛がいた。ヤンチ「お2人さん・・・、本気ですか?」ネスタ「あら、私はドワーフだよ。舐めて貰っては困るね。」 昔からドワーフの一族は身のために色々な技術を何でも習得するという伝統があった、牛肉の解体技術もその1つだ。ヤンチ「でも何で社長さんまで?」結愛「実は私も見分を広げる為にドワーフの方々から勉強させて頂いているんです、牛肉の解体もその1つです。」ネスタ「では早速やりますかね。」 鮮やかな手つきで3人が解体を進めていく。骨と骨の間に包丁を入れていき、スルッと肉が剥がされていった。結愛「さてと・・・、最初から贅沢に行きましょうか。鞍下、肩ロースです。丸々1本だからとても大きいでしょう。」光「涎が出てきちゃってるよ、早く食べたいな。」御厨「さぁ、焼肉にしていきましょうか。」 結愛から受け取った大きな塊を御厨が丁寧に肉磨きと整形をして焼肉の形へと切っていく。20kgもの塊が沢山の焼肉へと変身した。御厨「では、焼いていきましょう。ヤンチ、すまんが整形を頼む。」ヤンチ「あいよ、プロが2人もいるから解体は大丈夫そうですもん。」 御厨が炭火の網の上に肉を乗せ焼いていった、そこら中にいい香りが広がる。光「この匂いだけでビールが行けちゃいそう。」御厨「さぁ、焼けましたよ。塩と山葵でお召し上がり下さい。購入されたご本人からどうぞ。」光「塩と山葵がお肉の甘みを引き立てて美味しい!!」 光がビールを一気に煽る、何とも幸せそうだ。作業中の結愛やネスタ、そして焼き肉屋の2人にも振舞う。結愛「たまりませんね、ビールが美味しい。」光「今日

  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   3. 「異世界ほのぼの日記」81~85

    -81 集合- 魔学校長のマイヤは林田を許し、早速持ち帰った映像やマイヤの発言が証拠として使えるかを皆で確認しようと提案した。光明「まずはこちらをご覧ください。」 マイヤが義弘と思われる覆面男に催眠術を掛けられた場面だ、催眠術を掛けられマイヤが自らの手で書類を書き換えたあの場面。マイヤ「ノームを含む私達アーク・エルフの一族は催眠術に強い特殊スキルを祖先からの遺伝で持っているのですが、まさかその長たる私が・・・。」ドーラ「じいちゃん・・・、思い出したくないなら無理に思い出さなくていいよ。」マイヤ「いや、良いんだ。捜査に・・・、いやノームの仕事に協力出来るなら喜んでやるよ。」 映像内で書類を書き換えた後、マイヤがぐっすりと眠っているのが何よりの証拠だ。 次に鏡台にあったもう一つのカメラで撮影した映像を再生した。光明「これはマイヤさんが鏡台に仕掛けてあるもう一台の監視カメラの映像です、少し音が小さいので最初の映像から音声を抜粋してありますが勿論同時刻に同じ場所で撮影された物ですので問題は無いかと。」 暑さが故に義弘が覆面を取った場面を再生した。結愛「義弘が・・・、あれ程の魔力を・・・。」林田「しかし、いつの間に魔力を得て催眠術の修業を行ったのでしょうか。」マイヤ「原因はリンガルスにあると思われます、きっと短期間ではありますがリンガルスの下で修業したからだと思われます。また、無理矢理な方法で魔力を引き出したのかと。」結愛「しかし・・・、ただの魔学校の職員がどうして?」マイヤ「理事長、恐れながら申し上げます。リンガルスは大賢者なのです!!」林田・ドーラ・結愛「大賢者?!」結愛「・・・、って何ですか?」羽田「これがデジャヴってやつですか?」光明「以前にもあったんですね・・・。」 確かに以前にもあった会話だ、ただ重要なのはそこだけではない。義弘が大賢者の力を得たのはマイヤに催眠術を掛ける為だけなのだろうか。光明「そう言えば、レースの方は?」林田「テレビをつけますね。ただ・・・、爆弾処理の方が心配ですね。」男性「それなら安心して下せぇ。」林田「その声は・・・。」 林田が聞き覚えがある声に振り向くとそこには結愛や利通と共に競馬場に仕掛けられた爆弾の処理に向かったダンラルタ王国警察の爆弾処理班がいた。プニ「おやっさん、安心して下さい

  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   3. 「異世界ほのぼの日記」76~80

    -76 リンガルス- パルライは羽田からSDカードを受け取るとカメラに挿入しより強力な魔力を込め始めた。羽田「あの・・・、パルライさん?」デカルト「パルライはネクロマンサー、リッチの下で修業した魔法使いなんです。ネフェテルサ王国の警察署には今彼の師匠も来ているのですよ。」 そうこうしているうちにパルライが作業を終え、一息ついた。パルライ「よしっ・・・、終わりました。見てみましょう。」 カメラの小さい映像を3人の大人が凝視する。3人「こ・・・、これは・・・。」 映像では黒い覆面をしたリンガルスと思われる人物がパソコンで何かを編集している。デカルト「拡大出来たらな・・・。」パルライ「やってみますか。」 パルライが魔力を込め、パソコンの映像がくっきりと見えるまで拡大した。「首席入学者」の文字の下にある「梶岡浩章」の文字を消して「リラン・クァーデン」に変更していた。パルライ「確定ですね。」デカルト「待て、どこかへ向かうぞ。」 覆面男は書類を印刷してそそくさとパソコンの電源を切ると部屋を出た。羽田「この建物には魔学校長の部屋があったはずです、それと主要警備室。」パルライ「そこに行きましょう。」 3人はパルライの魔法で主要警備室に『瞬間移動』するとそこには警備員が3名いたのだが全員眠ってしまっていたので羽田が慌ててたたき起こした。羽田「しっかりしろ、警備はどうしたんだ!!」警備員「えっ・・・?痛た・・・、羽田さんじゃないですか。どうしてここに?」羽田「首席入学者が何者かによって改ざんされてんだよ、しかもただ事じゃない!!首謀者の1人が義弘なんだよ!!」警備員「何ですって?!大変じゃないですか!!ただ俺達は覆面をしていた奴が後ろから近づいてきてからどうやらずっと眠ってしまっていたらしく、記憶が無いのです。」 こっそりと『審議判定』の魔法を使用していたパルライが首を縦に振る。パルライ「本当の事を言っている様です。警備員さん、恐れ入りますが少し場所を開けて頂けませんでしょうか。」警備員「あの・・・、失礼ですがどちら様ですか?」羽田「バルファイ王国とダンラルタ王国の国王様方だ。」警備員「申し訳ございません!!どうぞ!!」パルライ「そ・・・、そんな身構えないで下さい。堅苦しいの苦手ですので。では、やりますよ。」 パルライが魔力を流

  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   3. 「異世界ほのぼの日記」71~75

    -71 捜査が続く中- 林田の『連絡』による電話に驚きを隠せない刑務所長に林田が質問した。刑務所長(電話)「都市伝説の通り・・・。」林田「今はそんな事言っている場合じゃない、お前の所に貝塚義弘がいただろ。パワハラ等で捕まった貝塚だ。」刑務所長「あいつなら逮捕された次の日に重岡とかいう投資家が保釈金を払って速攻出て行ったじゃないか、全国でニュースになっていたぜ。」 林田がただ度忘れしていたのだが、刑務所長が改めて言うには義弘の指示で保釈金を支払った重岡が車で義弘を県外の山奥に連れて行くとそこからは2人とも音信不通となったとの事で、新たな悪だくみを行っていた可能性があった。そこで結愛と光明、そして羽田を含む多くの黒服達が突然消えたと聞き、何らかの方法で追って来たかもしれない。林田「因みに結愛さんはどうやってこの世界に?それとここに来てからはどうやって?」結愛(無線)「これも数年前の話です、日本で忙しくしていた私が久々のゆったりとした休日を光明と楽しんでいた時、突然私たちの目の前に幻覚の様な竜巻が現れてそこにいた全員が吹き飛ばされたんです。そのあと目が覚めたらこの世界に。『作成』のスキルもその時知りました、それから少しの間バルファイ王国にある魔学校に通いながらこの世界の事を少しずつ調べて行ったんです。それから貝塚財閥の教育支援の一環として『転送』で持って来た財産の1部を寄付してネフェテルサ王国の孤児院を貝塚学園の小分校に、またバルファイ王国の魔学校を高等魔学校と貝塚財閥の支社にさせて頂いているのです。因みにレースの収益でダンラルタ王国に分校を建設する予定でした。」林田「なるほど、それは我々にも学園を守る義務がありますね。」 その守るべき学園に義弘の魔の手が触れようとしているかもしれない、それは流石に防がなければならない。 その頃、未だトップが⑨番車のまま遂に100周目を迎えようとしているレース場の脇にあるとある施設でバルファイ王国軍の将軍達がひっそりと1人過ごしていた国王を説得していた。バルファイ王国にあるホームストレート横には国王本人が自らの分身を忍ばせていた、分身と言えど思考等が本人とそのまま繋がっているので各々の場所に国王のオリジナルが存在している様な状態となっている。ただ分身は空の鎧に魂を魔力でくっつけているだけのもので、それが仮の姿として一

  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   3. 「異世界ほのぼの日記」66~70

    -66 一方で- 恋人たちが現場に戻って来たのはプニ達が爆弾を『処理』し終えてから十数分経過してからの事だった。2人は口の周りが不自然に明るく光り表情が少し赤くなっている、髪が少し乱れているのは言うまでもない。プニ「お前ら・・・、ううむ・・・。」 プニは仕事を再開すべきだと気持ちを押し殺した、何をしていたかだなんて正直想像もしたくない。 ただ林田警部が無線の向こうで呆れ顔になってしまっているのは確かだ、幸いケルベロスやレッドドラゴン達は気付いていないらしくその場を何としても納めなくてはと冷静に対処する事にした。 プニの無線機から林田警部の声が聞こえる、どうやら恋人たちは無線機の電源を切っていたらしい。林田(無線)「利通君・・・、そしてノーム君・・・、君らが無線機の電源を切ってまで2人きりになりたい気持ちは私も大人だから分からんでもないが・・・。」ドーラ「そんな・・・、照れるじゃないですか。」林田(無線)「ぶっ・・・。」 ドーラが林田に何をしたかはその場の全員が分からなかったが何かしらの攻撃がなされたらしい、多分ビンタに近い物だろう。取り敢えず林田は偶然を装う事にした、どう頑張ってもドーラが何かをした証拠が見つからないのだ。林田(無線)「失礼・・・。さてと、爆弾の方はどうなっているかね?」ドーラ「お父さ・・・、いや警部、1つがコインロッカーの中に見つかりました。爆弾処理班の方々によるとまだ複数個隠されているかとの事です。」林田(無線)「ノーム君・・・、まさかこの言葉を言う事になるとは思わなかったが、君にお父さんと呼ばれる筋合いは無いよ。取り敢えず見つかった爆弾はどうしたのかね?」利通「えっと・・・。」プニ「見つけた1個は俺達で処理したっす。」ケルベロス①「ただ競馬場内から爆弾の匂いがプンプンしますぜ、林田の旦那。」 相変わらずのキャラを保っているが仕事はしっかりと行っているので文句は言わないでおくことにした、別の者達には日を改めて。 一方、銃刀法違反の現行犯で逮捕した犯人をネフェテルサ王国の警察署に巡査が輸送し、それに合わせ警備本部にいた林田警部が一時的に署に戻り取り調べを行った。犯人によると自分は金で雇われただけだと言う、真犯人からは電話での指示を受けていたが非通知での着信だった為番号は知らないそうだ。そして分かった事がもう1つ、

  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   3.「異世界ほのぼの日記」61~65

    -61 昨日の敵は今日の友と言うが- 3位グループの3台は今までずっと共に走っていた為か、いつの間にか絆が生まれていた。④ドライバー「お前ら、大丈夫か?!悪かった!怪我してないか?!」⑫ドライバー「こちらこそ悪い・・・、あそこで俺が無理に妨害していなかったら・・・。⑧番車の野郎は・・・、無・・・。」⑧ドライバー「野郎じゃないわよ、失礼ね。」⑫ドライバー「そうか・・・、悪かった。怪我は無いか?」⑧ドライバー「私は大丈夫、とりあえずレースの邪魔にならない様に端に避けていましょう、奇跡的にも1台が通れる位の空間は空いてるみたいだからレースに問題は無いと思うわ。」⑫ドライバー「とにかく怪我が無かったらそれでいい、レースはまたの機会に参加すればいいさ。とりあえず端に・・・。」 どこかで会話を聞いていたのか実況のカバーサが一言。カバーサ「お2人さん、良い雰囲気ですがレース自体は一時的に予備のルートを使って続行していますのでご心配なく。」⑧ドライバー「そうなの?・・・って、アンタどこで聞いてんのよ!!」 ⑧番車のドライバーに追及されるとカバーサは慌てて胡麻化した。カバーサ「おや、1匹のコッカトリスが車番プレートを両手に持って自らコース飛んでますよ。えっと・・・、こちらは④番車のドライバーさんですか?」④ドライバー「俺は・・・、死んだ⑧番と俺を気遣ってくれた⑫番の為に・・・、それと自分達の為に完走だけでもするんだ・・・!!」⑧ドライバー「失礼ね、私まだ死んでないわよ!!」 ⑧番車のドライバーによる適格なツッコミにより一瞬会場は湧いたがレースの主催者から通達が出たのでカバーサが伝えた。カバーサ「えっと・・・、④番さん・・・、気合には皆が感動していますがお車で走っていませんので事故での失格は取り消されませんよ」④ドライバー「えっ・・・。」カバーサ「だから言ってるでしょ、あなた失格。今すぐコースから立ち退かないと私が自らピー(自粛)しますよ。」④ドライバー「は・・・、はいー・・・。」 ④番車のドライバーは諦めて地上に降り立つと人間の姿に戻ってから徒歩で戻って行った、背中にはとても哀愁を感じるが少し震えてもいた。カバーサ「まぁどう考えても距離的に無理なんですけどね、本人自ら立ち退いて下さったので良しとしましょう。あ、くれぐれも私は脅してませんので

  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   3.「異世界ほのぼの日記」56~60

    -56 レース開始直前だが- 光は出走表の場所をナルリスに聞き車券を購入しに向かっていた、まるで国民の祝日の様に老若男女が右往左往していて大混雑している。 先程1杯呑んだビールの影響か光はトイレに行きたくなったので車券売り場への道中で探すことにした。 トイレは意外過ぎるほど早く見つかり全く混雑していなかったので光はすぐに駆け込み用を済ませた。 トイレを出て車券売り場を目指す、ぷらぷらと歩いているとふんわりと優しい香りがして来たので近くを通った時少し寄ってみるかと意気込んだ。 何軒か日本に似た食べ物屋の屋台が出ている様でその内の1軒を覗いてみる事にした。光「『龍(たつ)の鱗(うろこ)』ね・・・、こんな名前の店あったかな。」 ただ一際行列が目立っており、その上光を誘った香りがその屋台からだったので光は一切迷う事無く飛び込んだ。 店の中では皆が一心不乱に丼に入った麺を啜っている。店主「いらっしゃいませ、お一人様ですか?お好きなお席へどうぞ。」 どうやらここはラーメン屋さんの屋台のようだ。他のお客さんが食べているラーメンはスープが綺麗に透き通った金色のもので、細麺。トッピングはカイワレ大根と何かを揚げているチップスらしい。(※作者が大好きなラーメンの1つです、店名は変えてますが。) カウンターにお品書きがあったのでチラリと見てみると「鯛塩ラーメン」の文字がある。光「『魚介ベースのスープで鯛の皮のチップスをトッピングした美味しいラーメンです』・・・か。」店主「お決まりですか?」光「あっ、鯛塩ラーメンをお願いします。」店主「少々お待ちください。」 屋台の隅に探していた出走表をみつけた。光「出走表頂いてもいいですか?」店主「勿論どうぞ、ラーメンが出来るまでゆっくり予想していて下さいね。」光「助かります。」 光は店の隅に行き出走表を1枚取って席に戻った、①~㉑までの車番の横にチーム名やホームストレートで行われた予選の計測タイム、スタートポジション等が書かれていた。光「確かポールポジション取った⑰ブルーボアが1番人気で、18kmのホームストレートはダントツ、ただガソリンの積載量が比較的少ない気がするな・・・。」 ピットでの給油は認められているがピットストップの回数が多いとその分逆転を許してしまう可能性が大きくなる。光「コーナリングの図を

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