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2. 「最強になるために」②

作者: 佐行 院
last update 最終更新日: 2025-01-21 11:30:20

-②変化、そして異様-

 春休みが過ぎて守たちは2年生になった。

圭「今年も同じクラスといいね。」

守「嗚呼・・・、そうだな。」

圭「私、やっぱり出席番号1番かな」

守「そりゃそうだろう、名字が赤城だもんな。」

 そんな何気ない会話を交わしながらゆっくりと学校へと歩を進めた。

 学校につく前に浜谷商店の跡地に向かった。お店はすっかり無くなってしまい、そこには途轍もなく大きな豪邸が建っていた。

 豪華そうな彫刻の表札の名前は「貝塚(かいづか)」。

 守は「ふーん」と思いながら学校へと足を向ける。そんな守を圭が血相を変えて呼んだ。

圭「大変!早く来て!」

 守たちは校門へと走った。

圭「学校名見て!!」

守たちは目を疑った。場所を間違えたのかとも思った。

 『私立 貝塚学園高校』

 すっかり変わってしまっている。しかし校門に立っているのは確かに守たちの1年の時の担任だった湯村(ゆむら)先生だった。

湯村「おはよう、どうした、早く入りなさい。遅刻するぞ。それとも転校でもするのか?」

 湯村先生は冗談が好きだった、ただ決して面白かった訳では無かったが。しかし先生は生徒からの人気はあった。守も圭も先生が好きだった。

湯村「ほら、早く体育館に行きなさい。全校集会の後クラスが発表されるからな、楽しみにしとけよ。」

 言われるがままに体育館へと入る。何故かステージには玉座のような椅子が3つ置かれていた。守は友人の空口琢磨(からぐち たくま)を見つけ声を掛けた。

守「おはよう、どうなってんだよこれ。」

琢磨「よう、守か。俺も何も知らなくてよ。それに何故かこんなジャージを渡されたんだが。」

 そう言えば体育館に入る直前に名前を確認された後、守も圭も灰色のジャージの入ったビニール袋を渡された事を思い出した。周りを見回すと何人かはそれに着替えている。胸元には番号が書かれていた。まるで刑務所だ。よく見たら壁に「袋に入った服に生徒は全員着替えること」とあった。ちらほらと着替えを済ませた生徒が増えてきている。

 時間が経過し先生の始業式開始の号令があったので全員集まった。ただクラスが分からないので皆まばらに散っている。

湯村「そのままでもいいから聞いてくれ。皆気付いていると思うが今日から本校は『私立 貝塚学園高校』となった。新しく理事長に就任された貝塚社長の挨拶がある。よく聞くように。理事長先生、お願いいたします。」

理事長「ありがとう。皆さん、おはようございます。この学校を買い取り今日から理事長に就任致しました貝塚財閥の貝塚義弘(かいづか よしひろ)です。どうぞよろしく。

 えー、これから私が理事長を務めるにあたり、経費削減を兼ねた改善等を施し、この学校のレベルを最大限に引き上げようと思います。それにあたり、色々と廃止していこうと思います。

 まずはじめに「修学旅行等のイベント」です。皆さんにはこれから毎日徹底的に勉学に励んで頂くために高校時代という時間を最大限に使いたいので廃止することにしました。勿論、これは経費の削減を兼ねてます。

 次は「年4回の長期休み」です。この間に思い出作りをしようと勉学がおろそかになる生徒が毎年多数存在しています。これのお陰でどれだけ平均学力が下がったか。なので廃止させて頂きます。

 続けて「昼休み」です。これも時間の最大活用もありますが、実は脳の回転は満腹時より空腹時の方が良いとされていまして、そのことを活かすために学校敷地内を「飲食禁止」とします。なので、食堂や購買でのパンの販売、自動販売機を全て廃止します。勿論持ち込みも禁止です。校内全域に監視カメラやセンサーを設置していますので隠しても無駄ですよ。

 そしてこういった「式典」も全て廃止します、時間が勿体ないですから。体育館に全員が集まるのは今日が最後だと思ってください。その上で授業時間を1コマ60分にするとお伝えしておきます。各時間における休み時間を5分としますので移動等に使ってください。

 それと大学入試共通1次試験に必要な「6教科8科目」以外の授業も廃止していきます。徹底的に大学入試対策を行っていくためです。

 最後に「部活動」も廃止します。これは近日問題になっている教員の先生方の残業問題対策のためです。時間外労働を徹底的に削減して先生方に安心してお仕事して頂く為です。それにクラブハウスの維持費もかかるし。

 さて、浮いた経費を少し使って有名進学塾の講師の先生方をお呼びし、朝の7:00の早朝補習と夜の9:00までの放課後補習を実施していきます。

 では・・・、今日はこれで解散としますが、この後始まるのはホームルームではなく補習ですのでくれぐれもご出席いただきますよう。

 これからは宿題も増加すると思われますのでご容赦下さい。

 さてと今から1時間後にクラブハウスを取り壊しますのでそれまでに私物を各々の部室から避難させておいて下さい。解散!」

 その後「クラスを発表します!!」の一言で横断幕が貼りだされた。生徒の名前の横にはジャージの胸元の番号が書かれている。

圭「守、今年も同じクラスみたいだね、ただ・・・。」

守「ん?どうした?」

 明らかに圭の様子がおかしい。

圭「出席番号1番じゃないみたいなんだ。」

 ふと横断幕に目をやると2年1組の所に守達の名前があり、名前順では1番上のはずの圭の名前の上に「貝塚結愛(かいづか ゆうあ)」の文字がある、それに自分たちのように「番号」がない。不自然すぎる。

 そんな中、急いで私物を取りに行く沢山の生徒たち。

 これから守たちは、いや、この学校はどうなっていくのだろうか。不安を胸に教室に向かった。

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    -⑬無知からの脱却- 隣国の王が共通で言っていた『一刻を争う』問題とは何なのだろうか、正直恥ずかしくて聞く勇気がない。周りを見ると国の街の全員が知っているみたいで光にとってはむしろこの事が一刻を争う問題となっていた、パン屋で仕事している時もミーシャとラリーが深刻な表情で話し合っていたので自分も早くニュースを見える環境にしなくてはと仕事が終わると一目散に家路を急いだ。因みに今日は半休だ。 家に帰るとすぐにテレビの電源を入れた、相変わらず日本のテレビ放送が流れている。光はこの世界のテレビ放送を見る為にチャンネルを再登録する事にした。光「えっと・・・、放送スキャンは・・・、これか。」 家電の操作や設定は得意な方で自分一人でやってのけてしまう事が多く、今回はその特技が生かされ助かった。 放送スキャンをやり直しても何故か日本の放送が受信されるようになっている、ただ数チャンネルほど追加されていてそれがこの世界のテレビ放送だとすぐに理解できた。見える放送局の選択肢が多いので助かる、神様のお陰だなと笑みを浮かべた。 そうこうしているうちにニュースの時間となったみたいだ。キャスター「こんにちは、この時間のニュースをお知らせいたします。」 最初は隣国の王がこの国を会合の為に訪問している事だった。映像もはっきりと残されているが撮影クルーっぽい集団は見かけなかった。まぁ、たまたまだろうと光は受け流した。 次は雨不足で野菜の不足が目立ち、市場価格が高騰傾向にあると報じられていた。確かに市場で見かけた野菜は日本にいた時より少し高かった気がする、家庭菜園を始めて正解だ。後で野菜たちの様子を水やりがてら見に行ってみよう。 最後に隣国と共通して起こっている問題なのだが最近町はずれの山々で走り屋による騒音問題があるらしい。そう言えばネスタと銭湯に行った時道路にタイヤ痕が数か所あったような・・・、ただこの辺りの人たちは農耕用の軽トラに乗っている人達がほとんどで乗用車はちらほらとしか見かけず、走り屋仕様の車は全く見かけない。別の街からわざわざ走りに来ているのだろうか、暇な人もいるんだなと光はコーヒーを啜った。きっと国王同士が会合で話し合っているのはこの事なのだろうと思っていた時、インターホンが鳴った。玄関を開けるとそこには警官らしき男性が2名立っていた。光に罪を犯した覚えはない。 

  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   3. 「異世界ほのぼの日記」⑫

    -⑫突然の訪問- 朝一、光が残っているカレーを一人前食べ保存容器に入れてからパン屋の仕事に向かっている頃、街中の様子が慌ただしくなっていた。その様子は少なくとも催し物での盛り上がりとは全くもって違っていた。市場は片付けられお店は閉店していて街の真ん中では国旗のデザインが描かれたテントが四方に張られていた、光は騒ぎの中にラリーとゲオルを見つけたので話しかけることにした。ゲオル「もうすぐご到着みたいですよ。」ラリー「早く済まさなくてはいけませんね。」光「ゲオルさん、店長、おはようございます。」ゲオル「光さん、おはようございます。」ラリー「おはよう、丁度良かった、人手を探してたんだよ。」 何かただ事では無い事が起ころうとしているのだという事は光にも理解できたが、正直言って何が何だか分からなかった。一先ず、自分に出来る事は無いかと尋ねた。ラリー「店に荷物を置いてきてあっちのテーブルの準備を手伝ってやってくれ。」 ラリーが指差したテーブルでネスタやパン屋で働く女性陣が料理の準備をしている。見回してみるとどうやら中華料理から構成されたメニューになっているらしい、それも豪華な物ではなくいわゆる『町中華』の中華料理だ。光「おはようございます、何があるんですか?」ネスタ「あっ、光ちゃん、おはよう。あたしらもさっき聞いたばっかりなんだけどね、王族の方々が街に来るみたいなんだよ。今日はこういった料理が食べたいって今朝文が来たみたいでね、初めて作る料理ばかりで大騒ぎさ。」光「でもどうやってここまで作ったんですか?」ミーシャ「文にレシピが載っていたからその通りに作ってみたんだけど、あんたこの料理知っているかね。」光「私の祖国でもちょこちょこ食べる料理ですけど。」ドーラ「助かりました、申し訳ないんですがお願いがあるんです。」光「私で良ければ。」ドーラ「料理が出来てきたのは良いんですけど、私たちが食べたことない物ばかりなので味が大丈夫なのか不安でして・・・。」 言ってしまえば試食を頼みたいとの事だった、光は今朝カレー1人前しか食べていないので丁度お腹が空いてしまっていた。鍋やフライパンには炒飯や天津飯といったご飯ものを中心に餃子や春巻きなどの天心、麻婆豆腐、青椒肉絲、そして杏仁豆腐といったラインナップ。王族は何人来るのだろうか、結構量があるので相当な人数だろ

  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   3. 「異世界ほのぼの日記」⑪

    -⑪大食いが役に立つ- 店長のラリーは聞き返した、身近に自分の事を大食いと自信満々に言う人がいる訳がないとずっと思っていたからだ。確かに大食いの番組はこの世界にあったりはするがそれもやらせやはったりの塊なのだろう、1人の人間が本当にあれだけの量を食べてしまう事を信じる事が出来なかった。 しかし、目の前の新人従業員は出来ると言い張っているのだ、よしそう言うなら試してやろう。丁度売れ残りのパンがかき集めたものがあったはずだ。ラリー「光・・・、そんなに言うなら俺が作った大食いメニュー、やってみるかい?」ローレン「店長、ウチそんなの無かっただろう、あたしゃここ長いけど見たことないよ。」ウェイン「まさかあの堅くなりかけてるパンを出すのか?」ラリー「ああ・・・、ただそのままでは出さない。これも以前から考えてた新作だ。無駄になりそうな食い物を可能な限り減らす方法を探してたんだ。折角だ、試しにやってみるさ。ウェイン、すまんが手伝ってくれ。光、食えなくても別に罰はない。こっちは一応売れ残りを出すんだからな、逆にもしも食えたら給料2倍だ。約束しよう。」ウェイン「ああ・・・、やってやるさ・・・。」 給料2倍・・・、別に金に困っている訳ではないけど(光の口座には1京円入っているため)、良い響きだ、心がうずうずしてくる。それに失敗しても何も問題なし、そんなの断る理由がどこにあるのだろうか!!!光「店長・・・、今すぐ持ってきて下さい!!!」 ラリーはその声を皮切りに厨房へと駆け込んで行き調理を始めていった、売れ残ったパンを細かく刻んでいく。その作業をウェインに任せると自分は大量のホワイトソースを作って行った。 刻んだパンをバターを塗った大きなグラタン皿に盛り、鶏もも肉の切り身やベーコンをラリー特製のホワイトソースやチーズをこれでもかと言わんばかりにかける。 最後にオーブンで焼いて大きなグラタンが完成した。ラリー・ウェイン「出来たぞ!!!食えるもんなら食ってみろ!!!」 直前まで通常通り接客の仕事を行っていた光を呼び出し光の前に出来立て熱々を提供した、店も丁度午前中の営業時間を終えたところだったので店にいた全員が光を見守った。光「いっただっきまーす!!!」 光は嬉しそうな顔で食べ始めた、熱々のグラタンが口の中に運ばれていく。光「おーいしいー!!!あっ、鶏肉とベ

  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   3. 「異世界ほのぼの日記」⑩

    -⑩異世界での初仕事- ネスタの家で光は朝8時に鳴るようにアラームを設定していた。起きれなかったら困るので設定しておいて正解だ、昨晩ネスタにやたらと飲まされたので少し2日酔い気味だ。異世界から来た新しい友人の事が嬉しかったのだろう。この世界では平均的らしいが思ったより酒が強い人達ばかりで戸惑った、因みに光は日本では強い方だったはずなのだが。 2日酔いを気にして酔い止めと胃薬を『作成』し、ゲオルの店で買っておいたペットボトルの水で流し込んだ。そこにネスタが光を起こしに来た。ネスタ「おはよう、朝ごはん出来てるよ。下に降りてきな。」光「あ・・・、おはようございます。」ネスタ「昨日は楽しかったね、今夜は楽しみにしているよ。」光「今夜・・・、何でしたっけ?」ネスタ「もう、自分が言い出した事も忘れたのかい?カレーだろ。」光「あ、ホントだ。」ネスタ「もう、あんたしっかりしなきゃだよ、今日から仕事なんだから。」 本当だ、今日からパン屋での仕事が始まるのだ。光は服を着替えネスタと朝食を取った、一汁三菜の和食。温かなおふくろの味。お出汁の効いた優しいお味噌汁が体に沁みる、それだけで白米が進む。そしてホカホカの焼き鮭が嬉しい。これぞ日本の朝ごは・・・、おっとここ日本じゃなかった。ネスタ「すまないね、今朝用事があって家まで送れそうにないんだ。」光「大丈夫です、まだ余裕がありますから。」 朝食を済ませ玄関でネスタに見送られた光はネスタに手を振って自分の家へと向かった、一目から目立たない場所に移動して。光「えっと・・・、『転送』が出来たから『瞬間移動』も『作成』出来るよね。」 光は両手を前に出しステータス画面を出した、そして『瞬間移動』スキルを『作成』して早速右手を前に出した。初めての『瞬間移動』だ。光「おお、こりゃ便利だわ。ただやっぱ人前じゃ目立つから普段使い用に車・・・、というか軽トラ買わなきゃね。」 この辺りの住民は主に軽トラに乗っている、乗用車は街の人間だけが乗るのでこの辺りではやはり目立つ。 農作物に水をあげると光は家を出た。街に移動し、大きなバケットの看板が良く見えるパン屋を目指した。 パン屋にはすぐ着いた、店長のラリーに裏にある従業員通用口、そしてスタッフルームへと案内された。スタッフルームでは個人用にロッカーが用意されており、そこに荷物を

  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   3. 「異世界ほのぼの日記」⑨

    -⑨情報を得、入浴する- ガイが光の家を通り過ぎると情報を収集する時間にした、直近の情報は新聞以外なさそうだ。今朝、ナルがお試しとして持ってきた今朝の朝刊を見ることにした。1面にはネフェテルサの王族についての情報が記されていた。ただ、『どこかの北の国』みたいにずっと「~様万歳」的な文体が続いている訳では無かった。 2面を開いてみることにした、地域の物価や農作物についての情報が事細かに書かれている。どうやらご近所さんの畑で東京ドーム2個分位の大きさのキャベツと南瓜が取れたらしい、いや収穫する前から目立つだろうと誰もが突っ込みたくなる記事だった。 そう言えばこの世界の人たちは娯楽や趣味はどうしているのだろうか、周囲を見渡せば皆ずっと街での仕事や農業をしている人たちばかりで兎に角忙しいばかりの国なのかなと疑問に思いながら3面に移った。光「3面はテレビ欄・・・、テレビ欄?!テレビあんの?!」 その時インターホンの音がした、『御用の方はこちらのボタンを押してください』の札を立て掛けておいて正解だと思いながら玄関を開ける。光「はーい。」ネスタ「おっ、本当に来たね。これも魔法の1つかい?あたしゃ初めて見たよ。」 この世界にはいわゆる呼び鈴という者が無く用があれば大抵玄関の前で名前を大きな声で叫ぶことが多いらしい、ノックをする人はちらほらしかいないそうだ。光「ネスタ・・・、さん・・・、おはようございます。」ネスタ「おはよう、新居を見に来るついでに夕飯を作りに来てやったよ。」光「そうだ夕飯・・・。」ネスタ「ん?何か作っていたのかい?」光「実はカレーを仕掛けていたんです。」ネスタ「カレーかい、あたしも大好きだよ。」光「良かったら、明日食べに来ませんか?」ネスタ「どうして明日なんだい?」 どうやらこの世界ではカレーを1晩置くと美味しくなるという知識というより概念がならしい。一先ず出来上がったばかりの物をネスタに食べさせた、一応寸胴鍋で作ってあるから心配は無いのだが念の為光は普通の1人前の量で我慢し明日まで置いておくことにした。ネスタ「そう言えばこの家、銭湯からかなり離れているね。ずっとシャワーで過ごすつもりなのかい?」 そうだ、思い出した。ネスタの家には風呂が無く、入浴はどうしているのだろうかと疑問に思っていた所だった。ネスタによるとこの国の人はシ

  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   3. 「異世界ほのぼの日記」⑧

    -⑧食料を得る- 新聞屋は光の必死な顔に少し引き気味だった、光はかなり強めに新聞屋の腕に掴んでいる。新聞屋は後ずさりしながら光に告げた。新聞屋「わ・・・、分かりました。一旦店に戻ってきます。タイムカードを押してこないといけませんので。すぐに戻って来ますからちょっと待っ・・・。」光「早く・・・・、早くしてください!!!お腹が空いて我慢できそうにありません!!!」新聞屋「やたら大きな魔力保冷庫(冷蔵庫)があったのはそういう理由だったのですね、分かりましたから手を放してください!!!」 ナルと名乗ったその新聞屋は逃げる様に光の家を出て店に急いだ。流石に大食いだからって女性1人で大鍋に並々入ったコンソメスープをすぐに平らげることは無いだろう、ただ急ぐしかない、それがナルに残る唯一の選択肢だった。 光はナルが家を出た後、一心不乱に鍋のスープを食べた。こんなに温かく優しい味のスープは久々だ。落ち着いてイングリッシュマフィンをもう1個焼こう、スープにつけたらぴったりだ。オーブントースターの電源をいれ、テーブルのスープに戻る。やはり美味しい、光は夢中になって食べた。光「美味しすぎる・・・、ナルさん・・・、本当に新聞屋さんなの?!」 鍋のスープが底を尽き、光は椅子にもたれた。その瞬間ナルが家に必死の形相で入って来た、空っぽになった鍋を見て開いた口が塞がらない。ナル「急いで何か作ります、待っててください!!!」光「は・・・、やく・・・、お・・・、腹・・・、が空い・・・、て・・・、死に・・・、そう・・・。」 ナルは急いでエプロンを締め米を研ぎ始めた、土鍋に米を流し込みつけ置きをする。その間に鍋いっぱいの水に昆布と鰹節を入れて出汁を取る、アジの干物を魚焼きグリルに入れると火をつけた。IHクッキングヒーターを見ながら声を掛ける。ナル「それにしても不思議な魔法具ですね、何の変哲のないただの板に鍋を置いていると熱くなってくるなんて見たことないですよ。普通は火属性魔法を薪に当てて火をつけるのですが・・・、これはあなたの魔力ですか?」 軽トラと同じでガスコンロ的なものを使うときにも魔力が必要らしい、やはり改めて思ったがこの世界は何をするにしても魔法が絡んでくるみたいだ。 そんなこんなでナルによる追加の朝ごはんが出来上がった、先程と打って変わって和食の朝ごはんだ。土鍋で炊

  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   3. 「異世界ほのぼの日記」⑦

    -⑦本格的な生活と光の秘密- 店主は周りを見回して光に聞いた。店主「そう言えば家財道具や家具はどうされるのですか?何なら当店で揃えさせて頂きますが。」 『作成』で作ったり日本のものを『転送』しようと思っていたから何も買っていない。光「注文しているものがもうすぐ届く予定でして、足らないものは作ってみたりしようと思います。」店主「ご自分でですか?!」 店主はかなり驚いている様だが日本にいたときはDIYにハマっていた時もあるので問題ない。 店主と別れると光は『転送』スキルを使用し日本にある自分の家具や家財道具、そして家電を新居に設置した。光「さてと・・・。」 光は屋根に登り巨大なソーラーパネルを2枚『作成』し設置した。先ずは雨の日の為に蓄電池を取り付け、家の中に配線を通した。コンセントも『作成』して設置する。電灯は可能なかぎり蠟燭の明かりに色を合わせたものを選んだ以外は日本から持ってきた家電をコンセント繋げた、一先ず日本から『転送』した大きめの業務用の冷蔵庫の電源を入れ蓄電池に電力が貯まるまでとりあえず街の中で食料を中心に買い物を行う事にした。埋め込んだソーラーパネルに合わせて屋根の色は黒に塗って蓄電池は木箱に隠す、これで目立つことはないだろう。 市場で新しく仕入れた食料を冷蔵庫に詰め込むと、元々冷蔵庫に入っていた食料の鮮度等を確かめた。明日使えば何とかなるものも含め全て大丈夫そうだ。 さあ、光の本格的な「特に何もしない異世界生活」の始まりだ。光「さて、これから本格的な異世界生活の始まりだ、やるぞー!」 次の日、今日から新居での新生活の始まりだ。光は朝イチのモーニングルーティンの1つにしている朝シャンを済ませ洗濯機を回し、IHクッキングヒーターでハムエッグを作りオーブントースターでイングリッシュマフィンを焼くことにした。香ばしい香りが部屋を包む、因みに光はパン類はカリカリサクサクと音がするまでしっかり焼く派だ。 一先ず今朝のニュースを確認する事にした、昨日家電を設置した時に調べたのだが奇跡的にテレビ放送は受信できるらしく、光は助かっていた。 光は朝のニュースを確認する事にした、ただ日本の放送を受信しているのだ、日本のニュースが当然の様に流れる。そう言えばここの人間は情報をどうやって共有しているのだろうか。新聞・・・、的なものがあるのだろうか

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