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第35話

 「違うんです、この大山さんが部下をいじめて……」

 真一は苦い顔で事情を話し始めたが、心の中では不安だった。玲奈が隆司の証人となる以上、和子に信じてもらうのは難しいだろうと思っていた。

 「社長、これは全くのデタラメです!

 その時、僕は田中さんと仕事の話をしていたんです。彼女が証人になれます……」

 隆司は急いで言った。

 「田中さん、大山さんの言うことは本当ですか?」

 和子は手招きして玲奈を呼び寄せた。

 「はい……」

 玲奈はうつむき、和子の目を見ようともせず、ましてや真一の目を見ることもできなかった。

 「真一、今何か言いたいことはある?」

 和子は淡々とした目で真一を見つめた。

 「僕は……もう何も言うことはありません」

 彼はため息をつき、心の中は失望と絶望でいっぱいだった。

 真一がうなだれている姿を見て、和子は少し怒りながらも笑みを浮かべた。

 彼女は彩香とは違い、真一の性格や人柄をよく理解していた。

 真一には特に才能や能力はないかもしれないが、品行が正しく、勇気ある男で、決して変わり身の早い狡猾な人間ではない。

 たとえ玲奈が隆司の証人になったとしても、彼女の心は依然として真一を信じていた。

 それは真一に対する信頼だった。

 「田中さん、顔を上げて!」

 和子の目は再び玲奈に向けられた。

 玲奈は逆らうことなく、顔を上げて和子の目を見つめた。

 「私の目を見なさい!

 最後のチャンスをあげる。真一と大山さんのどちらが本当のことを言っているのか、答えなさい!」

 和子は玲奈の目を鋭く見つめ、その威厳に満ちた雰囲気が玲奈に強烈なプレッシャーを与えた。

 「大山さんが……」

 玲奈は口を開けて言おうとしたが、和子の鋭い視線に圧倒され、その後の言葉が出てこなかった。

 隆司は心の中でドキリとし、不吉な予感がよぎった。先ほど真一が既に何も言えないと認めたのに、和子がなぜこんな問いをするのか理解できなかった。

 「社長、真一はすでに認めました……」

 隆司は急いで言った。

 「黙って!

 私は田中さんに聞いているのであって、お前にではない!」

 和子は冷たく叱りつけた。

 隆司は思わず震え上がり、もう口を挟むことができなかった。

 「田中さん、人として自分の良心に恥じない行動をしなさい!
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