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第16話

 「これは人体の急所だ!」

 斉藤さんは眉をひそめ、この男が中途半端な医学知識で自慢しに来たのだと思い、こんなことをすれば人を殺してしまうとは知らないと感じた。

 「若造、何を言っているんだ。膻中穴や神闕穴はどちらも急所だ。そんなところに鍼を刺すなんてとんでもない!

 ツボのことが分かっているのか?」

 斉藤さんの助手が真一に向かって怒鳴った。

 「お前みたいな半端な医学を学んだ奴が功を立てようとするんだろうが、言っておくぞ。お前みたいな奴がいるからこそ、今の東洋医学が国民に避けられるようになったんだ!」

 これには道徳的な非難まで加わった。

 真一は何か言いたかったが、すぐに和子に遮られた。

 「真一、おじいちゃんの命がかかってるの。斉藤さんが治療してるんだから、邪魔しないでくれる?」

 和子は不満そうに言った。

 昨晩、真一に命を救われたとはいえ、それが彼が林家で好き勝手できる理由にはならない。

 ましてや、祖父の命に関わることなので、真一にあれこれ指図されるのは許せなかった。

 「坊主、これ以上邪魔をするなら、すぐにでも追い出すぞ!」

 健一は怒りの目で睨みつけた。

 真一は、結局、言いかけた言葉を飲み込んだ。

 斉藤さんは真一を無視し、心を落ち着けて林さんに鍼を打ち続けた。

 昏睡状態の林さんは突然激しく震え、顔が徐々に赤くなり、血が滲み出そうなほどで、見た目は非常に恐ろしかった。

 呼吸はいつの間にか弱くなり、心拍も途切れ途切れで、ほとんど止まりかけていた。

 この様子を見て、健一と和子は医療の素人であっても、事態が非常に悪化していることを察した。

 「血液が逆流している!

 こ、こんなことが……」

 斉藤さんの顔色が変わり、手に持っていた第四鍼をどうしても刺すことができなかった。

 彼は、一旦この鍼を刺せば、逆流する気血が林さんの弱った心臓を直撃し、その場で命を奪ってしまう可能性があることを知っていた。

 「斉藤さん、どうなっているんですか……」

 健一は焦りながら尋ねた。

 「申し訳ありません、私にはもうどうしようもありません……

 私は四十年以上医者をやっているが、林さんのような怪症は見たことががありません。私には手の施しようがありません……」

 斉藤さんはため息をついた。

 「なんですって?

 あなたは……」

 健一は怒りに震え、今にも庸医と罵倒しそうだった。

 ただ、斉藤さんが国医の名手として多くの人に尊敬されていることを考え、最終的に口にしようとした言葉を飲み込んだ。

 「斉藤さん、お願いです、もう一度方法を考えてください。どうかおじいちゃんを救ってください……」

 和子は哀願した。

 「申し訳ありませんが、私には本当に手の打ちようがありません……

 林家の皆さん、どうか後のことを準備してください……」

 斉藤さんは苦い表情で頭を振った。

 「そんな……

 おじいちゃん、さっきまで元気だったのに……」

 和子の顔が青ざめ、足がもつれて床に座り込み、涙が目に溢れた。

 彼女の母親が早くに亡くなったため、父親は常に美咲母子にばかり気をかけていた。

 和子が小さかった頃から、唯一の支えであり、いつも傍にいてくれたのは祖父だった。

 今、祖父の不幸を聞いて、彼女の心の悲しみと絶望は計り知れなかった。

 真一は和子を支え起こし、言いかけては言葉を止めた。

 先ほど二度口を挟んだが、いい顔をされなかったことを思い出し、躊躇していた。

 しかし、和子の悲痛な様子を見ると、心が痛み、少しの間ためらった後、小さな声で言った。「もしかしたら、私が試してみることができるかもしれません」

 「君が?」

 みんなが驚いて、一斉に真一の方を見つめ、自分たちが聞き間違えたのかと疑問に思った。

 「はい!

 林さんの命は危険な状態ですが、全く救えないわけではありません。

 私には彼を救う方法があるかもしれません……」

 真一は勇気を出して言った。

 この言葉が出ると、その場は一瞬で静まり返り、まるで空気さえも止まったかのようだった。

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