共有

第14話

 この時、リビングには林さん以外に、健一と美咲夫婦も座っていた。

 健一は終始冷たい目で真一を見ていた。別荘での出来事があって、真一に対する最初の印象は非常に悪かったからだ。

 それに比べて、林さんの態度は非常に友好的で、真一にお茶を出すように下僕に指示し、少しも軽視する様子はなかった。

 「おじいちゃん、彼を紹介します。こちらが真一です。昨夜、私を助けてくれたのは彼なんです……」

 和子は一部始終を詳しく説明した。

 「真一さん、本当にありがとう。孫娘の命を救ってくれて、この恩は林家一同、決して忘れない。

 昔から『水一滴の恩に泉をもって報いる』とも言う。

 どうぞ、何か欲しいものがあれば、私たち林家はできる限り満足させるから」

 林さんは和やかに笑った。

 「いいえ、何もいりません……」

 真一は首を振った。

 彼が昨夜和子を助けたのは正義感からであり、見返りを求めるつもりはなかった。

 また、先ほど市役所で和子が聡一郎にしっかりと説教を行ったことで、彼の尊厳を取り戻すのに役立った。

 すでにお互いに借りはない状態だった。

 「本当かい?

 よく考えてね。この機会を逃したら、次はないかもしれないよ……」

 林さんは手に持っていた茶碗を置き、目に一瞬、鋭い光がよぎった。

 真一が本当に見返りを求めていないのか、それとも駆け引きをしてもっと多くのものを手に入れようとしているのか、例えば林家とつながりを持とうとしているのか、彼にはわからなかった。

 「本当に何もいりません……」

 真一はまた首を振り、何か言おうとする時、突然林さんの顔に目を留めた。

 それは錯覚かもしれないが、林さんの額に灰色のオーラがかすかに漂い、頬も青紫色に見えた。

 それから、真一の頭の中に見知らぬ記憶が流れ込んできた。額が灰色に染まるのは生命の危機、頬が青紫色になるのは病が重い証拠だ。

 真一は呆然とし、その後すぐに気づいた。これは昨夜のあの秦家の先祖とやらが残した記憶のようだ。

 昨夜から今まで、その記憶は深く刻まれ、ほとんど忘れかけていた。

 しかし、その記憶は深く彼の脳裏に刻まれ、今、警告として自動的に現れたのだ。

 「真一、何をぼんやりしているの?」

 和子はすぐに彼の異変に気づき、軽く腕を押した。

 「林さん、あなたの額が灰色で、頬が青紫色になっています。死期が近いようです……」

 真一は思わず口にした。

 「何だって?」

 彼のこの言葉はまるで爆弾のように響き、和子たちを仰天させた。

 林さんはちょうどお茶を飲んでいたが、驚いてそれを吹き出してしまった。

 「おい、君、わざとだろう?父が好意から君を招いたのに、よくもそんなことが言えるな!

 まさか死にたいのか!」

 健一は怒りに満ち、一拍して立ち上がった。

 林さんも顔を曇らせ、先ほどから真一が駆け引きをしているのではないかと疑っていた。

 今となっては、彼が本当に何か企んでいるのだと思えた。

 瞬く間に、真一に対するわずかな好意も消え去った。

 「真一、どういうことなの?おじいちゃんは元気なのに、何を言っているの?」

 和子も不満そうに真一を見つめた。

 「僕……

 見間違えたのかもしれません。ごめんなさい、わざとじゃなかったんです……」

 真一は顔を真っ赤にして、急いで謝り、心の中で自分の軽率さを責めていた。さっきの発言はまるで何かに取り憑かれたかのようで、訳のわからないことを言ってしまった。

 「まあ、ただの誤解かもしれない……」

 林さんの顔色は少し和らいだが、心の中での真一の評価は最悪に近かった。

 もし和子を助けた恩がなければ、今頃はすでに真一を追い出されていただろう。

 その時、急な足音が響き、一人の執事がリビングに駆け込んできた。

 「ご報告します、林さん、国内で名医の斉藤さんがいらっしゃいました……」

 「早くお通ししなさい。」

 林さんは急いで言った。

 しばらくして、六十代から七十代の灰白の髪をした老人が、助手を伴って入ってきた。

 「斉藤さん、どうぞお座りください!」

 林さんたちは迎えに行き、敬意を込めて丁寧に挨拶した。

 この斉藤さん、斉藤文正(さいとう ふみまさ)は江城町の医療界において権威とされ、その卓越した医術と鍼灸技術はまるで神業のようだと称されていた。彼は東洋医学と西洋医学の両方に深い知識と経験を持ち、「名医」として知られていた。また、多くの人々から「鍼の王」と尊敬の念を込めて呼ばれていた。

関連チャプター

最新チャプター

DMCA.com Protection Status