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第331話

 明日香は必死に抵抗し、力任せに響子を突き飛ばした。だが、響子はすぐさま追いかけ、屋内は瞬く間に大混乱となった。

響子は明日香の服の裾を掴み、もう一方の手に握ったナイフを彼女に向かって振り下ろした。

明日香は避けきれず、脇腹に刺された。響子はその隙を見逃さず、何度もナイフを突き刺し、明日香の抵抗は徐々に弱まっていった。

「私に挑む?あんたごときが?圭介の罠に引っかからなければ、あんたを本当の地獄に突き落としていただろう。でも今は時間がない。私が死んだら、私を裏切った奴らは全員地獄に引きずり込んでやる」響子は立ち上がり、顔に飛び散った血を拭いながら、悪魔のような冷酷な笑みを浮かべた。

彼女は手に持っていたナイフを放り投げ、それが床に音を立てて落ちた。

彼女の怒りはまだ収まらず、明日香の服を引き裂き、何度も彼女の身体を蹴りつけた。

その後、冷静にバスルームに入り、手と顔を洗い清め、部屋を出て車に乗り込んだ。

響子は一度明日香が住む階を見上げると、車をスタートさせた。

彼女は車を天集グループに向けて走らせた。

ちょうどその頃、幸樹は東辰から戻ってきていた。

彼は絶望に打ちひしがれた様子でオフィスに座っていた。

ドアが突然開き、彼は苛立って怒鳴りつけた。「言っただろ、誰とも会わないって……」

「私よ」響子が近づいてきた。

幸樹は取り繕うことをやめ、強がるのをやめた。「母さん、大変なことになったんだ。東辰が開発していた部品に、違法物質が含まれていたみたいで……」

「幸樹、怖がらないで。まずは落ち着いて。全部知っているわ」響子の目には、子供を見守る母親のような優しさが宿っていた。「聞いて、私たちはハメられたの。東辰は罠だったのよ……」

「圭介の仕業?」この時になって、幸樹もようやく気づいた。

「俺が奴を……」

「やめなさい」響子は息子を引き止めた。彼女は幸樹が圭介に敵わないことを分かっていた。

「時間がないから。今すぐ私の言う通りにして。まず天集グループの全権を私に譲る契約を作らせなさい」

幸樹はすぐに理解した。「無理だよ、母さん。全部押し付けるなんて……」

「幸樹!」響子は声を荒げた。「私がいなくなったら、あなたはもっと冷静に行動しなければならない。何事も慎重に、考えてから決断してね。それと、圭介に気をつけて。絶対に感情に流されてはいけ
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