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第2話

私は氷室家の実の娘で、小夏は10年前に両親が引き取った養子だった。

小夏が家にやってきた日、両親の顔には喜びが溢れていた。

母は小夏の手を引きながら、「ああ、なんて可愛い福の子なの」と何度も口にし、こう約束した。

「もしこの子のおかげで家族が無事に危機を乗り越えられたなら、あなたが望むことはなんでも叶えてあげるからね」

母が嬉しそうにしている様子を見て、私もつられて笑顔になった。

ここ半年、母はずっと憂鬱そうで、毎日暗い顔をしていることが多かった。さらに、父とも頻繁に喧嘩をするようになっていた。

兄の京介は「両親の会社に問題が起きてるから、おとなしくして親を困らせないように」と私に言い、私は兄に従って、余計なことは一切口にしないようにしていた。

それでも、父はストレスに耐えきれず、とうとう入院してしまった。

母は父の看病と私たち兄妹の世話に疲れ果て、毎日家と病院と学校を行き来する日々が続き、やがて母も体調を崩して倒れてしまった。

その時、家全体がまるで崩れそうな雰囲気だった。

兄が安心して受験に集中できるよう、母は私を連れて病院へ行くようになった。

病室には老婆が一人いて、毎日私を引き留めては話し相手を求めてきたので、私は家族のことをいろいろと話してあげていた。

ある日、老婆は突然、母を引き止め、病室でこっそり何やら長いこと話し込んでいた。

「あなたの家には、災いを呼ぶ『疫病神』がいる」

老婆のその言葉が耳に入った。彼女は続けて「その者がいる限り、家庭の運は次々に破壊され、最終的には全てを失うだけでなく、家族の命まで奪われるかもしれない」と告げたのだ。

母は老婆の手をぎゅっと握りしめ、「どうかうちの家族を助けてください」と頼み込み、家族全員の運命の詳細を彼女に教えた。

老婆は「その『疫病神』とはこの子のことだ」と言い、私の運命を断ち切るためには「吉の運命を持つ女の子を見つけて引き取らねばならない」と話した。

さらに老婆は、「この家が繁栄するためには、その疫病神にはとことん冷遇し、不幸にする必要がある。彼女の暮らしが厳しいほどに、氷室家は豊かになるのだ」と語った。

母は体調が悪いにもかかわらず、近くの孤児院を巡り、数人の女の子を見つけてきた。

そして、老婆は小夏の運命を見て、「この子こそ福の神だ。彼女なら、この家を不幸から救ってくれるだろう」と断言したのだった。

その夜、両親はまだ完全に回復していない体を押して、小夏を連れて家に戻った。

その時の私は、凶星と吉星の違いなんてよくわかっていなかった。ただ、この新しい妹が家族を喜ばせてくれる存在だと知っていただけだった。

私はお気に入りの人形を持ち出して、新しい妹にプレゼントしようとした。

母は私の手にある人形をじっと見てから、私を勢いよく突き飛ばし、冷たい目で睨みつけた後、小夏の手を引いて優しく二階へと上がっていった。

私は地面に倒れ込んだまま、父が小夏の荷物を私の部屋の前に置くのを見上げた。

眉をひそめて、「ここは私の部屋だから、誰かと一緒に住むなんて嫌だ」と父に訴えた。

父は困った顔をして私を一瞥したが、それでも小夏の荷物を私の部屋へ運び入れてしまった。

その夜、私は泣いて騒いだ。なぜこんなことになってしまったのかわからなかった。

私はこの家の小さな姫で、両親や兄に大切にされていたはずなのに、どうして一晩でみんなの愛情が消えてしまったのか?

最終的に母は私に強く平手打ちをし、私の持ち物をすべて収納室に押し込んだ。

母は「これからはそこに住むのよ。騒ぐなら田舎のおじいさんの家に送るわよ」と言った。

私はおじいさんの家が嫌いだった。家は狭くて臭く、蚊やゴキブリがいたからだ。

母におじいさんの家に送られるのが怖くて、仕方なく私は収納室に住むことにした。

それから2年が経ち、父の新しい会社が成功し始め、どんどん発展していった。

母の会社も無事に上場を果たした。

母は、私が悲惨な生活を送れば送るほど、この家が繁栄すると信じ込んでいた。

そうして、最初は目つきや言葉での冷たい態度だったのが、次第に私の生活全般への虐待にまでエスカレートしていった。

冬、小夏は数万円もする厚手のダウンジャケットと高級なシルクの布団を使っている一方で、私の布団は薄っぺらいものが一枚あるだけだった。

朝、兄と小夏はパンや牛乳を食べているのに、私の朝食は固くなった饅頭が半分だけだった。

私は兄に頼んで、新しい妹を家から追い出してくれるようにお願いした。もうこんな暮らしを続けたくなかった。

けれども、兄は何も言わず、新しく買った髪飾りを小夏の頭にそっとつけてやった。

そんな過酷な日々の中で、私はついに病に倒れてしまった。

両親は冷酷にも私を病院に連れて行かず、家で三日間も高熱に苦しませた。母は父に向かって、「いっそ誰にも知られずに病死させた方がいい。そうすればきっと家はもっと繁栄して、平穏でいられるだろう」とまで言っていた。

父は私のベッドのそばでため息をつきながら座っていたが、やがて全ての窓を開け放った。冷たい空気が一気に流れ込み、私は寒さに震え、身を縮めた。必死の生への執着から、私は父の手を掴んで目を開け、彼をじっと見つめながら「お願い、助けて……」と懇願した。

しかし、父は目をそらし、何も言わないまま私にかけられていた薄い布団を引き剥がした。

もし兄が良心の呵責に耐えかねて私を病院に運んでくれなければ、あの夜、両親の望みは叶っていただろう。

一命は取り留めたものの、そのとき私は本当に死ぬべき存在なのだと思い知らされた。

両親が何度も偶然を装って命を奪おうとしたのだから、きっと私は罪深いのだろう、と。

だから、車がガードレールに突っ込んだとき、私は小夏を抱きしめ、彼女を守るために自分の体で衝撃を受け止めた。

自分が死ぬことはわかっていた。

それでも私は小夏を守った。

両親は私が死ぬことを望んでいるし、私が一番愛している兄も小夏の味方だった。

私は本当に凶星なのだろう。私が死ねば、皆が安心できる。

ただ、思いもしなかったのは、私が命がけで守った大切な存在を助けるとき、両親は私に目もくれずに彼女だけを救い出したことだった......

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