第1話

私は血だらけの手で窓を押して、必死に音を立てたけれど、そのかすかな音に両親が気づくことはなかった。

救急車のサイレンが遠ざかる中、私の体はどんどん冷たく、軽くなり、いつの間にか救急車と共に病院へと運ばれていた。

「小夏、絶対に無事でいてくれよ......」

両親は自分の傷も顧みず、走りながら小夏を手術室に送り込んだ。

手術室の扉が閉まると同時に、母は父の胸に飛び込み泣き出した。

廊下には足音が響き、母は駆け寄ってきた京介を見てさらに声を上げて泣き始めた。

「小夏は血まみれなのよ......怖くて、死んじゃうかと思ったわ......」

京介は眉をひそめ、母を慰めたあと手術室の扉を見回し、父に目を向けて尋ねた。「雪奈は？」

私の名前を聞いた途端、母の顔に険しい表情が浮かんだ。

ため息をついて、「全部雪奈のせいよ。普段は外に出さないのに、出さなければ何もなかったのに......

今日、小夏が頼んだから仕方なく連れて出かけただけよ。彼女を連れて行かなければ、小夏がこんな目に遭うこともなかったのに......」

母の言葉はどんどんヒートアップし、ついには息を荒くして倒れそうになった。

父が駆け寄り、母を支えながらしばらく京介を見つめた後、急に顔を青ざめた。

彼は母を押しのけ、血の気の失せた顔で言った。「雪奈がまだ車にいる！」

父は慌てて外へ駆け出し、京介もそれに続いて走り出した。母はその場でしばらく呆然と立ち尽くしたあと、呻くように声を上げてやっと追いかけていった。

「やれやれ......本当に災いの元ね、雪奈なんて死んじゃえばよかったのに......

私たちは小夏の怪我に気を取られて、まず小夏を連れて行ったのよ。それなのに、どうしてあの子は自分でついてこなかったのかしら......もう一度探させるなんて手間をかけさせるんだから。

ほんとにあの子は害しかないわ。前からあの子を田舎にやって放っておけばいいって言っていたのに......全部あなたたちのせいよ、私の言うことを聞いていれば......」

母は車の後部座席に座って、私のせいで無駄足を踏んだと愚痴をこぼし続け、その顔にはさも大きな迷惑を被ったかのような表情が浮かんでいた。

「いい加減にしろ」

京介が母を横目で一瞥し、険しい表情を浮かべる。

「小夏と雪奈は後部座席に座ってたんだ。小夏があんな重傷を負ったんだぞ......雪奈は......」

京介は言いかけた言葉を飲み込み、唇を引き結んだまま、両手でハンドルをぎゅっと握りしめた。手の甲の血管が今にも飛び出しそうなほどだ。

母は驚いて口を閉ざした。

車が事故現場に到着する。

京介と両親は身分を明かして警戒線を越え、無惨に大破した私たちの車のそばまで進んだ。

車の横には、無残に変形した私の遺体が転がっている。

警察が私を車内から引きずり出したばかりなのか、まだ遺体には白い布もかけられていない。

その遺体の隣には、私が息絶えた瞬間にガラス窓に残した血まみれの手形がくっきりと残っていた。

その場面に、重く垂れ込める曇天が重なり、まるでホラー映画のワンシーンのようだ。

私は俯き、思わず笑いたくなった。

よかった......小夏は生きてる。災いの元である私は死んだから、もうすべてが解決した。

それでも、不思議なことに、最後に涙がこぼれ落ちてきた。

死んだのは私なのに......どうしてこんなにも悲しいの？

「ああっ......」

母は悲鳴を上げ、後ずさりしながら地面に倒れ込んだ。

父は私のそばで頭を垂れ、顔を真っ赤にしている。彼は拳をぎゅっと握り、震えた声で「雪奈......すまない......本当にすまない」とつぶやいた。

京介は少し離れた場所から長いこと私を見つめていたが、突然、彼は私のもとへ駆け寄ってきた。

彼は片膝をついて私を抱き上げ、「雪奈......お前を病院に連れていくよ」と、そっと言った。