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第82話

私は意気消沈した。

彼と目を合わせることがほとんどできず、医者が何か余計な事を言い出すのではないかと心配していた。

そうなれば全て終わりだ。

私が先に口を開き「先生、彼は今日私と一緒に来たのではなく、他の女性の検診に付き添ってきたんです」と言った。

江川宏は低く落ち着いた声で「彼女のために来たわけじゃない」と言った。

「でも、あなたがここに来た事実は変わらないでしょ?」

私は原因や経緯について深く考えたくなかった。

浮気に気づいた時、誰も自分の夫がなぜ他の女性と関係を持ったのかなんてどうでもいい事だ。ただ、夫が自分を裏切ったことだけにこだわるだろう。

それが酔っ払ったせいなのか、あるいは計画的なものなのか、本質的な違いなどない。

一度ついた汚れはきれいに洗い落とせない。どんなに立派な言い訳があっても、シタ夫である事には変わりないのだ。

江川宏は何も言わず、凝視して「今日は病院に何しに来たのか、俺はまだ知らない」と言った。

「言ったわよね……」

「適当にごまかすなよ」

彼は冷たく声を荒げた。どうしてもその理由を知らなければならないようだ。

エコー検査の医者はまだその場にいて私に「夫人、どこか具合でも?」と尋ねた。

私からは何も聞き出せないと分かり、江川宏は尋ねる相手を変えて言った。「先生、私の妻は検査で何か問題でもあったんですか?」

「先生……」

私は緊張してギュッと手を握りしめ、爪が手のひらに食い込んだ。背筋が凍りそうだった。しかし、江川宏の鷹が獲物を狙うような視線の前では、何も言えなかった。

心臓がバクバクと止まらない。

医者に彼には伝えないでほしいと懇願して見つめる事しかできなかった。

離婚後、彼から遠く離れて、子供を一人で育て、良い母親になりたいだけだけだった。

安らかな日々を壊されたくなかった。

自分の子供を失うなんてなおさらだ。

子供が無事に生まれても、江川家のような家柄の人達が、自分の血が繋がった子供を手放すはずがないだろう。

お爺さんが私にどれだけ良くしてくれると言っても、それには条件がある。ひ孫を一族の中に入れたいと思うのは当然のことだ。

思いもよらず、あの日、子供のために我慢するようにと繰り返し言っていた医者が口を開いた。「うーん、少し問題がありますが、大したことではありません。子宮内膜ポリープがいくつ
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