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第275話

大人になったし、先日も率直に話をしたので、彼の今示している親切や気遣いが何を意味するのかは、当然理解していた。

しかし、どう返答すべきか分からなかった。

正直なところ、その日にも既に言うべきことは言った。

何度も拒絶すれば、かえって気まずくなり、最終的には友達としてさえも続けられなくなるかもしれなかった。

山田時雄は少し躊躇したあと、言った。「南、俺が君に負担をかけてしまってるのか?」

私は箸を握りしめながらも何も言えなかった。すると、彼は考え込むようにして続けた。「前にも言ったけど、何も答える必要はないんだ。これをただ、友達としての気遣いだと思ってくれればいい」

「将来、もし南がまた新しい恋愛を始める気になったら、その時にゆっくり進めればいい」

その言葉を聞いて、胸の奥が熱くなった。

もし私が江川宏との失敗した結婚を経験していなかったら、もしまだ若くて無鉄砲な時期だったら、この言葉を聞いて心が揺れたかもしれない。

でも、今の私は......もうそんな勇気がなかった。

心が揺れることの代償は、あまりにも大きすぎた。

私はゆっくりと箸を置き、静かに言った。「もし、その日が来なかったら?」

ここまで話が進んだら、もう彼に隠し事をするつもりはなかった。

彼が驚いた顔をしているのを見ながら、私は箸を置いた。

「先輩、もし私が江川宏と離婚していなかったら、どうする?」

「俺はずっと独身でいるだろうな」

山田時雄は無力な笑みを浮かべ、優しい照明が彼の頭上に降り注いだ。

「正直に言うと、俺が帰国を選んだのは、南と宏の仲がネットで言われてるほど良くないと聞いたからだ」

彼は私をまっすぐに見つめ、自嘲するように言った。「そういえば、俺って卑怯だよな?ずっと君たちが離婚するのを願って、自分に少しでもチャンスがあることを願ってたんだから」

「そんなことないよ。私が離婚するまでは、一度も越えちゃいけない一線を越えたことなんてなかったじゃない」

私は彼の率直さに驚き、唇を軽く噛みながら続けた。

「でも、離婚したからといって、私にはもう誰かを好きになる力が残ってないかもしれない。今のところ、先輩、あなたと来依は私にとってすごく大事で、とても良い友人だよ」

私が「とても良い友人」と言った瞬間、彼の目の中の光がわずかに消えた。

だけど、私は彼に嘘をつき
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