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第20話

電話をかけた瞬間、私は七年間の思い出を引き換えにする覚悟をした。

彼からどんな条件を出されても受け入れる覚悟もしていた。

だが、彼は何も聞かずにただ住所を送るようにと言った。

そして、10分も経たないうちに彼は病院に現れた。

「私はRh陰性です。手術室の患者に輸血をお願いします。できるだけ早く」

看護師が急いで血を手術室に運んで行った。

陽翔は少し青ざめた唇で、廊下の椅子に体を預けた。

「ありがとう」私は葡萄糖液を彼に手渡した。

それ以外に、何を言っていいか分からなかった。

「そんなこと、俺に言うなよ」

「言わなきゃいけない」私はうつむいて答えた。「絶対に感謝する」

陽翔は苦笑いして首を振った。

「感謝する必要ない。以前は浮気して、隠して、悪い手段で引き留めようとした。本当に、七年間付き合ってくれてありがとう」

「おかしいよな。前はいつも一緒にいると心美ちゃんがうるさいと思ってた。外に遊びに行きたくなった。でも、心美ちゃんがいなくなって初めて、自分の世界が空っぽだって気づいたんだ」

「もう一度やり直せないかな?俺、何だって変えるから……」

私は手術室を見つめた。今、一番心配している大切な二人がその中にいる。

「ごめんなさい……私、春介ともう結婚するつもりなの」

「たとえ結婚しないとしても、私たちがやり直すことはないわ。過ぎた時間はもう取り戻せない」

「私の性格も知っているでしょ。今日の件は他の方法でお返しするわ」

陽翔は両手を握りしめ、しばらく目を閉じた。

長い沈黙の後、深く息を吐き出した。

「分かった。じゃあ今日で俺たちはさっぱり終わりだな。お互い、何も借りはない」

「心美、幸せになれよ」

陽翔は去っていき、その背中だけが残った。

やがて手術室の明かりが消え、母が手術室から運び出された。

その後ろから春介が現れ、私に安心させるような微笑みを見せた。

その瞬間、身体も心も一気に緩み、私は壁に寄りかかりながら涙をこらえきれずに泣き出した。

うれし涙だった。
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