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第18話

春介と一緒にウェディングドレスを選びに行く途中、病院から電話がかかってきた。

「お母さまが自宅で突然脳出血を起こし倒れ、後頭部を強打されました」

「非常に危険で、すぐに手術が必要です」

耳元に鋭い耳鳴りが響き、一瞬で周囲のすべてが消えてしまったように感じた。

恐怖、不安、泣きたい気持ち――さまざまな感情が一気に襲ってきた。

春介が隣で何か問いかけていたが、私にはもう何も聞こえなかった。

ただ、まずは冷静にならなければと思い直した。泣いている時間なんてない。

頭をクリアにして、まずは問題を解決しなければ。

病院は近くにあったので、私は春介と急いで向かった。

「当院の脳外科では能力が限られていて、患者さんの状態も思わしくありません。転院を検討した方がいいかもしれません」と、受付の医師が言った。

「急を要する状況で、転院の時間はないと思います」

春介は母の状態を確認し、私と医師に向き直った。

「この手術、できますか?」と私は彼に直接尋ねた。

「以前ならできるかもしれないけれど、今は……自信がない」

春介は少し目を逸らしながら言った。「もう長い間、手術はしていないんだ」

「春介、私が以前言ったこと、覚えてる?」

私は彼の目をじっと見つめた。「『必要なものはきっと与えられる』って」

「今がその時よ」

春介の目が一瞬光を宿し、少し考え込んだあと、彼の視線は再び確固たるものに変わった。

「私はX大病院の脳外科医の春介です。緊急事態です、私が執刀します」

彼は医師にそう告げ、全身にプロの鋭さと威厳がみなぎっていた。

母と春介は手術室へと入っていった。

私は手術室の外で焦りながら待ち続け、落ち着けず歩き回ることしかできなかった。

「必ず母は目を覚まして私の結婚式を見届けてくれる」と信じ、そして「春介なら母を救ってくれる」と信じていた。

突然、手術室の扉が開き、看護師が駆け出してきた。

「手術の具合はどうですか?」と私は急いで尋ねた。

「手術は問題ありませんでした。ただ今問題なのは、お母様がRh陰性の血液型で、病院には血液の在庫がないんです」
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