第82話

車内にはしばらく沈黙が続いた。 「由佳ちゃん、交通事故に遭ったのは、僕のせいだ。本当にごめん」山口清次は由佳の静かな顔を見つめ、その目は真っ黒だった。

「もう謝ってくれたじゃない？私たち誰もがあの変なファンたちのことを予測できなかった。だから、私はあなたを責めていないわ」由佳の顔色は変わらなかった。

　山口清次は口を開けたが、何も言えなかった。

　そうだ、彼女は昨日のことをまだ知らない。

　彼女はまだ、前回の化粧のことだと思っている。

　今の彼女の目では、携帯やパソコンの文字を読めない。

　彼女がネット上の評価や悪口を見る心配はなくなったが、山口清次の心は少しも晴れなかった。

　 「ごめん」彼はもう一度謝った。

　「いいのよ、この件はもう過ぎたことよ」

　車内には再び沈黙が訪れた。

　どれくらい時間が経ったかわからないが、由佳が尋ねた。「今、何時？」

　「2時10分」

　「どれくらい経った？おばさんはどうしてまだ来ないの？」

　「タクシーを拾うのが難しかったのか、道中で何かあったのかもしれない。もう少し待とう」山口清次は唇を噛みしめ、少し不自然な表情をした。

「そうね」

　またしばらくして、由佳が再び尋ねた。「おばさんはどうしてまだ来ないの？山口清次、もう一度おばさんに電話して、どこにいるか聞いてみて」

　「わかった」 山口清次はドアを開けて車を降り、冷たい風が顔に吹きつけた。

　彼が困っていた。

　歩美ちゃんは自分のせいであんな目に遭い、深刻な鬱病を患い、何度も自殺未遂をした。

　彼は彼女に、一生責任を持ち、離れないと約束したのだ。

　約束を破ることはできない。

　由佳にはまだ祖父母がいるし、彼女には好きな人もいる。離婚した後、彼女はもっと幸せになるかもしれない。しかし、歩美ちゃんには彼しかいないのだ。

　もし彼がまた彼女を見捨てたら、彼女はきっと死んでしまう。

　二人の中で、山口清次は由佳を裏切るしかない。

　彼は目を閉じ、車内の由佳を一瞥し、携帯電話を取り出しておばさんの番号をダイヤルした。「おばさん、書類袋を忘れたんだ。テーブルの上にあるから、タクシーで市役所に持ってきて。入り口で待ってるから、できるだけ早く」

　おばさんはテーブルの上の書類袋を見つけ、素早く返